プロローグ
ミューレ学園を卒業してから三ヶ月ほど経ったある日。
燦々と降り注ぐ真夏の太陽の下、俺達――俺とミリィ、それにアリスとクレアねぇとソフィアの五人は、ミューレの町外れにある小高い丘を訪れていた。
数年前には存在しなかった、ミューレの街と一緒に作られた人工的な丘。その頂上には石碑が建てられ、その周辺には野花が敷き詰められている。
それは、グランシェス家襲撃事件の被害者達のお墓である。
今日この場所を訪れたのは、いわゆるお盆のお墓参りだ。
この世界にある風習じゃないんだけどな。ずっと忙しくて顔を出していなかったので、こうしてみんなでお参りをしにきたのだ。
俺は石碑の前に片膝をついて瞳を閉じる。
そうして浮かべるのは、俺達のために死んでいった騎士達。そして、俺の家族と――いつか、家族になるはずだった人達のこと。
ブレイク兄さんは――本音を言えばあまり好きじゃなかった。アリスに酷いことをしようとしたし、俺のことを弟だと認めてくれなかったから。
だけどそれでも、事情は判らなくもない。リオンは自分の地位を脅かす邪魔な存在。そう言われて育ったのだから、俺を嫌っていたのは仕方のないことだ。
だからこそ、いつか和解したいって……思ってたんだけどな。
続いてキャロラインさんは――正直良く判らない。
血も繋がっていなければ、顔を見たのもほんの数回だけ。俺を離れに隔離した張本人だけど、印象は一番薄いと言えるだろう。
ただ一つ強烈に印象に残っているのは、父を救うために、凶刃の前に身を投げ出したこと。キャロラインさんは、心から父のことを愛していたのだろう。そう考えると、妾の子である俺が嫌われていたのも無理はないって思う。
そして最後にロバート父さんのこと。
父さんが俺をどう思っていたのか、今でも時々考えることがある。
父さんはキャロラインさんの要望に応え、俺を離れに隔離した。そうして、俺をいない者として扱っていた……はずだった。
だけど父さんが残したのは、お前は自慢の息子だと言う言葉。
あれは死の間際にこぼした本音だったんだろうか? それともただの感傷による言葉だったんだろうか?
判らない。
判らないから、ふとした拍子に考えることがある。父さんは本当のところ、俺をどう思ってたんだろうな……って。
俺はそんな風な想いを胸に、彼らの冥福を祈る。そうして祈りを終えた後、俺はその場から移動。少し後ろに下がって石碑の前から退いた。
入れ替わりでアリスとクレアねぇが進み出て、石碑の前に膝をついて祈り始める。それをぼんやりと眺めていると、ミリィ母さんが寄り添ってきた。
「随分と長いことお祈りしていたわね?」
「祈りって言うか……父さんは俺をどう思ってたんだろうなぁって」
「そんなの、リオンを愛していたに決まってるじゃない」
俺の問いに母さんは即答。そのあまりにも自信たっぷりな口調に、そうなのかなと思う反面、気休めなんだろうとも思ってしまう。
「父さんは、俺を離れに閉じ込めていたんだぞ?」
「大切だからこそ、遠ざけることだってあるでしょう?」
「そうだったら……良いな」
俺が本宅で生活していたら、ブレイク兄さんやキャロラインさんの嫌がらせを毎日のように受けていただろう。だから、それから護るためというのはありえない話じゃない。
でも、それが隔離された理由だとは限らない。父さんが厄介事を嫌っただけと言う可能性だって十分にあり得るのだから。
「お待たせ――って、どうかしたの?」
祈りを終えて戻ってきたアリス達が、考え込んでいた俺を見て首をかしげる。
「いや、なんでもないよ。みんなお参りが終わったなら帰ろうか」
――結局、父がどう思っていたか、真実を知る術は残されていない。それを受け入れるしかないのだろう。そんな風に結論づけて、グランシェス家のお墓参りを終えた。






