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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第三章 平和な学園生活を送ろう

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エピソード 4ー6 リズの夢

 リズの問題が解決。その後は穏やかな学園生活を――送れませんでした。

 ……いや、平和かどうかと言えば平和だった。けど、街道の整備を初めとした流通の見直しであれこれ。本当に忙しい毎日を送るハメになってしまったのだ。

 それもこれも、どこかの殿下が「どうせ街道を整備するなら、全国的にしてくれ」などと言い出したせいだ。


 結局、アルベルト殿下の要請にグランシェス伯爵が応え、全国的な街道整備の事業に着手するという形で話は進んだ。

 普通なら、殿下に直々に一大事業を任されたと、権力者達から嫉妬されるところなんだけど……今回に限っては大丈夫だろう。

 なぜなら、全国の街道整備に掛かる費用の多くをうちが出資すると申し出たからだ。

 内政チートで集まりすぎたお金を還元してるので、感謝こそされ文句を言われるいわれはない。と言うか、他の領主がマネをすれば、確実に破産するだろう。


 なんにしても、アルベルト殿下の無茶な要請にグランシェス家が応えた。そしてそんな俺のもとに、リーゼロッテ姫が養子としてやって来た。

 それにより、グランシェス家とアルベルト殿下は懇意――と、殿下の思惑通りに噂が流れてるみたいだ。

 実際、殿下はかなり有能な人物らしいので、今後も支援していくことになるだろう。この辺は俺じゃあんまり判らないので、クレアねぇの受け売りだけどな。



 ともあれ、半年ほど月日が流れて三月。

 ミューレの街は学生の卒業記念を兼ねたお祭りが行われていた。

 去年までは基本的に身内だけで行うパーティーだったんだけどな。今年からは他の領地の生徒もいるし、せっかくだから街ぐるみで行うことにしたのだ。

 まあ一番の理由は、リゼルヘイムのお祭りを見た影響だ。なのでリズのアレも、アリスの監修のもと、アレンジを加えて再現してたりする。

 それが開催されるまであと半刻――ちなみに、この世界に時計は存在しないのでだいたいの体感だけど、一刻が二時間くらいなので、半刻は一時間くらい。

 俺は見回りがてら、ミリィ母さんと露店通りを歩いていた。


「こうやってミリィ母さんと二人で出歩くなんて久しぶりだな」

「リオンはいつも忙しそうだものね」

「もうちょっとノンビリしたいんだけどな。って、ミリィ母さんも、学校の教師役で忙しかったんだろ?」

「そうねぇ。今年は忙しかったわね。でも来年からは教師も増えるし、私はリオンのお世話係に戻るつもりよ」

「お世話係って……ミリィ母さんは本来お世話される方のはずなんだけど?」

「私はそっちの方が良いのよ」

「まあ、ミリィ母さんがそう言うのなら良いけどさ」

 なんて感じでノンビリとした時間を過ごすことしばし。露店通りを歩いていると、不意にどこからともなく声を掛けられた。


「リオン様じゃないですか?」

 声の方を振り返ると、アリスブランドの洋服に身を包んだリアナがたたずんでいた。誰かと一緒かと思って周囲を見回すけど、他には誰も見当たらない。


「一人でまわってるのか?」

「アイシャと来てたんですけど、はぐれてしまったんです」

 ……アイシャか。アルベルト殿下が来た時の騒動で、俺の正体が知られちゃったんだよな。せっかくため口を聞いてくれる貴重な存在だったのに、惜しいことをした。


「そう言うリオン様はお一人でなにをしてるんですか?」

「いや、俺は……」

 母さんと一緒と言おうと思って振り返ると、その姿は何処にも残っていなかった。もしかして、気を使ってくれたのだろうか?

 俺とリアナはそう言う関係じゃないんだけどなぁ。


「リオン様?」

「あぁいや。俺は広場でのイベントまで時間を潰そうと思って」

「あぁリズ様の。凄い話題になってるみたいですね」

「アリスがかなり力を入れてたからなぁ」

 識字率が低いので、チラシや看板といった宣伝はあまりしていない。けど、各種お店なんかでは、口頭でかなり宣伝をしていた。

 ミューレの街に訪れた人間で、この一大イベントを知らない者はいないだろう。なんてことを考えていると、いつの間にかリアナの顔が近くにあった。


「……リアナ?」

「あの、リオン様。つまり、リオン様は今、お一人なんですよね?」

「そうだな。ステージが始まるまでは暇かな」

「だったら、私と、その……一緒に露店を見てまわりませんか?」

 リアナは少し頬を赤らめ、ややもすれば聞き逃しそうな声で尋ねきた。

 リアナは今年で十八歳。最初は野暮ったい田舎娘といった印象だったけど、今では貴族令嬢も顔負けの美少女に変貌している。

 あまり期待させる態度は良くないと思うんだけど……リアナは色々頑張ってくれてるからな。一緒に露店をまわるくらいは良いだろうと思ったその時、


「あ~リアナ先輩、ようやく見つけたっすよ」

 どこからともなく聞き覚えのある声が聞こえてくる。声の方を見ると、アイシャが駆けよってくるところだった。


「ア、アイシャ。――何処行ってたのよ、探したじゃない」

「なに言ってるっすか。それはこっちのセリフっすよ。急に走り出すから、探すのに苦労したんっすよ?」

「そ、そそっそうだったかな!?」

 慌てるリアナ。

 これはあれか。俺を見つけて思わず追いかけてきたと、そう言う感じかな。思わずニヤニヤしてしまいそうだけど、可哀想だから聞かなかったフリをして立ち去ろう。

 そう思ったんだけど、アイシャに気付かれてしまった。


「あれ、そこにいるのはリオくん――じゃなくて、リオン様じゃないっすか」

「リオくんで良いって言ってるのに」

「そうはいかないっす。リオン様はみんなを救ってくれた恩人っすから」

 恩があるなら、言うとおりにため口で喋ってくれて良いと思うんだけど……やっぱり難しいんだろうなぁ。

 ホント、残念なことをした。


「それで、二人がどうして一緒に……あ、もしかしてお邪魔だったっすか?」

「――そんなことないよ! ねぇそうですよね、リオン様!?」

「お、おう?」

「と言う訳だから、行きましょうアイシャ。それじゃリオン様、また今度と言うことで」

「あぁ、うん」

 リアナの勢いに押されて思わず頷いてしまう。せっかくだから、時間を潰すのに三人でって思ったんだけど……まぁ良いか。

 と言う訳で、俺はリアナに引きずられていくアイシャを見送った。


 それからしばらく、俺は仕方なく一人で露天を見て回った。

 そうして丁度良い時間となり、周囲の人も会場へと流れていく。俺もそろそろ向かおうかと踵を返した時、不意に声を掛けられた。


「ふっ、なかなか盛況のようではないか」

「みんなが頑張ってくれてるお陰です――って、でん――っ!?」

 大声で殿下と呼びそうになって慌てて口を押さえる。

 って言うか、なんでアルベルト殿下がここに? お祭りをするって連絡は入れなかったはずなのに、まさかどこからか情報を仕入れてきたのか?


「な、なぜアルベルト殿下がミューレの街にいらっしゃるんですか?」

「祭りを見に来に決まってるだろう」

 ――ぐっ。どこから情報が漏れたんだ。いや、そんな原因究明は後でも良い。今はとにかく逃げないと。


「ま、まあアルベルト殿下もせっかく来られたんですから、お祭りを存分に楽しんでください。学生の成果発表を兼ねた学園の食堂がお奨めですよ。と言うことで、俺は行くところがあるのでこれで失礼します!」

 言いながら全力で離脱に掛かる。


「――待て」

 しかし回り込まれてしまった。


「な、なんでしょう?」

「これから広場でコンサートがあるのだろう?」

 いやああああああああ、知られてるううううううううっ!? と内心で悲鳴を上げるが、俺は必死にそれを表に出さないように取り繕う。

「な、ななっなんのことでしょう?」

「リズのコンサートだ。リズの精霊魔術を使って、広場全体に声を届かせるのあろう?」

「あ、あぁ! ありましたね。確か明後日くらいじゃなかったですか!?」

「このお祭りは今日までだと記憶しているが?」

 ……………ダメだ。誤魔化せる気がしない。


「そ、そう言えば今日、今からですね。見に行かれるんですか? それなら、関係者用の席があるので、そちらへどうぞ。これ、割り符です」

 と言って割り符を差し出す。そうして流れるように逃げようと思ったのだけど、アルベルト殿下が掴んだのは割り符ではなく、俺の腕だった。

「リオン、まさか可愛い義妹のコンサートを見ないつもりではないだろうな?」

「………そんなまさか」

 結局、俺は殿下と一緒に広場に行くことになった。


 たどり着いたのは、ミューレの街の中心にある大きな広場。建物の壁を背に、大きな特設ステージが存在感を示している。

「リズはあのステージで歌うのか? 随分観客と距離が近いが……危険はないのか?」

「ステージの周囲には警備を配置しています。それにステージ上では、アリスとソフィアが伴奏を兼ねて護衛しますのでご安心を」

「ソフィア……あの少女か」

 苦虫をかみつぶしたような顔。

 幼いソフィアに手も足も出なかったのがトラウマになってるんだろう。恩恵が回復してきてるせいもあると思うけど、最近のソフィアの戦闘能力はちょっとおかしいと思う。


 まあそんな訳で、警備は万全。

 ステージ上の彼女たちを傷を付けられる人間なんていないだろう。だけど問題はそんなことじゃない。このままじゃ俺が殺される。

「あれ、弟くんじゃない。それと……アルベルト殿下!?」

 リズ達のコンサートを見に来ていたのだろう。クレアねぇが俺達を見つけ――その顔が引きつった。


「ちょっと、ちょっと。弟くん? どうしてここにアルベルト殿下がいるのよ?」

 クレアねぇは俺に顔を寄せ、小声で耳打ちしてくる。俺は自分からも顔を寄せ、クレアねぇに囁きを返す。

「それは俺が聞きたい」

「……判ってるの? このままじゃ殺されるわよ?」

「判ってるから逃げようとしてるんだよっ」

「そう。あたしは先に逃げるけど、弟くんもちゃんと逃げなさいよ?」

「……え?」

 言うが早いか、クレアねぇはアルベルト殿下に「あたしは警備の確認があるので席を離れますが、ごゆっくりお楽しみください」と言って逃げていった。

 クレアねぇズルイ!


 俺もついていけば良かったと思うけど後の祭り。

 どうにかして逃げなきゃと隙をうかがっていたその時、不意に広場の人間から一斉に歓声が上がった。――お、遅かった。


 恐る恐る目を向ければ、ステージに華やかな三人の美少女が降り立っていた。

「みなさーんっ! 今日は、わたくしのコンサートに来てくれて、ありがとーですわ! 最後まで、楽しんでいってください、ですの――っ!」

 右手を大きく振るリズが身に纏うのは、シースルーの布地を重ねたフリフリのミニスカートに、胸元を強調した露出が高いアイドル衣装。

 レーザー級の効果が刻まれているからパンチラはないはずだけど、ダークネスの紋様魔術が刻まれた服を着てる俺からはちらちら見えている。

 見せパン的なモノだとは思うけど……それくらい大胆な衣装だ。


「伴奏を務める、アリスでーすっ」

「同じく、ソフィアだよ~」

 高らかに名乗ったアリスとソフィアが身に纏うのはゴシック調の衣装。二人は背中合わせにポーズを決めると、タイミングを合わせてリュートをかき鳴らした。

 ――瞬間、会場に流れるのはなにやらアニソンっぽい伴奏。リュートからギターとかベースなんかの音が聞こえるのは……今更だろう。

 そして、


「それじゃ、みんな。いっくよ――っ」

 二人の伴奏に合わせてリズが飛び跳ねながら歌い始めた。精霊魔術で音の増幅は問題なし。その光景を見れば、日本のコンサートと変わらぬような状況。

 ただし――


「なっ、ななななっ、なぁっ!?」

 俺の横では妹の晴れ姿……いや、痴態? に、‘な’を連呼しているは、この国の第一王子。俺はコッソリと距離を取る。


「――おいリオン、これはどういうことだ!」

「どうもこうも見ての通り、リズのコンサートですよ」

「あの露出の高い恰好でコンサートだと!? 」

「アルベルト殿下。このコンサートをリズは楽しみにしていたんです。なのに大きな声を上げると、リズの邪魔になりますよっ」

「むぐっ!」

 アルベルト殿下が怯むその隙に、俺は更に距離を取った。

 そうして心の中で、『リズ、ようやく夢を叶えられたな、おめでとう』とエールを送って、いい話風に纏めつつ逃げだした。

 

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