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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第三章 平和な学園生活を送ろう

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エピソード 4ー4 大切な人達と、大切な人

 リズの自立を目指しての計画は怒濤の勢いで進んだ。そして、リズがミューレの街に滞在出来る日数も怒濤の勢いで減って行き、猶予は数日となった。

 ……比率的に考えると、普通のペースでしか計画が進んでない気がする。


 ま、まあそれはともかく、計画中のモノを発表しよう。

 まずは街の食べ物系のお店が集まる区画に、大きな地下室を二つ作る予定だ。

 その室内をアリスの精霊魔術で冷やし、あとはリズの魔術で温度を保つ。そうして各店舗が共同で使える、冷蔵庫と冷凍庫を用意した。

 これでナマモノの保存や、アイスクリームの生産などが一般にも可能になるだろう。


 次に輸送時間の短縮について。

 まずは馬車の改造。既に開発済みの馬車は、ゴムタイヤやサスペンションなどなど、揺れに対する対策をおこなっていた。

 今回はそれにくわえ、車輪を受ける軸に改造を施して摩擦係数を下げるなど、馬車を引く馬の負担を下げるための対策をおこなった。

 更には、リゼルヘイムを初めとした主要な街へと向かう街道の整備と、その中継地点の設置を急ピッチで進めている。

 全てが完了すれば、王都までの移動時間は二、三日に短縮されるだろう。


 ――とまぁ色々上げたけど、あくまで計画段階だ。

 異世界の知識がある俺やアリスは、これらの完成形が見えている。けど、他者から見れば、現状では机上の空論に過ぎない。

 だから王家の人間を納得させられるかは判らない。だけど、残りの時間で計画を実行出来るはずもなく――俺達は馬車でリゼルヘイムへと旅立つことになった。


 少し余裕を持って出発したんだけど……馬車で揺られること五日。俺達は何事もなくリゼルヘイム王都へと到着した。

 到着が遅れたら俺が責任を取るって約束を逆手にとって、道中で妨害工作が……なんて可能性も考えてたんだけど、どうやら違ったらしい。


 それはともかく、まずはリズが父である国王に事情を説明。

 謁見の機会を作って貰ってプレゼンを実行。リズの有用性を伝えて、婚約を考え直して貰う――なんて計画を立ててたんだけど……

 王城に着くなり、いきなりアルベルト殿下に呼び出しをくらった。


 そんな訳で、俺達は連れてこられた会議室で待ちぼうけを食らっている。

 ちなみにメンバーは俺とリズの二人だけだ。ソフィアやアリスも王城までは一緒だったんだけどな。さすがに同行は許可されず、別室で待機させられている。

「すみません、リオンお兄様。出来れば先に、お母様に相談したかったんですけど」

「いや、俺もいきなり連行されるのは予想してなかったから同罪だ。こういう時、クレアねぇがいてくれたら心強いんだけどなぁ……今頃、何処でなにをしてるんだか」

 クレアねぇは一ヶ月以上、グランシェス領を空けている。

 クレアねぇからの定期連絡はあるんだけどな。こっちから手紙を送ったときには別の場所に移動してるみたいで、状況を伝えられていないのだ。


 とは言え、いないのを嘆いても状況は解決しない。俺がなんとかしないとと、覚悟を決めて待つことしばし。部屋にアルベルト殿下が姿を現した。

「ご無沙汰しています殿下」

「お久しぶりです、お兄様」

 俺達は一度席を立ち、殿下に対しても儀礼を行う。それから改めて、俺達は向き直るように席に着いた。


「どうやら約束を守ったようだな」

「もちろんです。殿下との約束を違えたりはしません」

「ふん、見え透いた世辞はよせ。……そう言えば、届いた服は気に入っているぞ」

「ありがとうございます」

 言われてみれば、アルベルト殿下が来ているのはアリスブランドの洋服だ。この世界のファッションとは異なるんだけど……俺達のまわりでは普通だから気付かなかった。


「次は公式の場でも着られる服が欲しい。それに父上達の分も、だ」

「達と申しますと、何処までが対象でしょうか?」

「親兄弟全て。取り敢えずは二十着ほどだ。もちろん、全て最高級の生地で、だ」

 シルクがメインで二十着か。蚕は量産が始まってるから、数的にはなんとかなるはずだけど……図らずも、ウェルズさんの仕事を奪ってしまった形になる。

 とは言え、そっちはもうエイミーと話がついている。エイミーが卒業したら、ウェルズの洋服店でアリスブランドも取り扱って貰うことになっているのだ。

 色々と問題はあるけど、エイミーなら上手く折り合いを付けるだろう。

 それはともかく、


「二十着ですね。採寸のデータが揃えば、三ヶ月ほどで準備出来ると思います」

「長いな。二ヶ月でなんとかしろ」

「……では一ヶ月ごとに、完成した分をお送りすると言うことでいかがでしょうか? 優先順位を付けて頂ければ、その順番でお届けします」

「良いだろう。では採寸のデータの取り方をうちの侍女に伝えておけ。普通とは測り方が違うのであろう?」

「かしこまりました」

 恭しく頭を下げる。


「よし、では話は終わりだ。リズを届ける任、誠に大義であった」

「ありがとうございます――っと、お、お待ちください!」

 アルベルト殿下が立ち上がろうとするのを見て慌てて引き留める。あ、あぶねぇ。すっかり状況に流されてリズを連れて行かれるところだった。


「なんだ、まだなにか話があるのか?」

「はい、話というのは他でもありません」

 俺は前置きを一つ。現在進行中の計画についてのプレゼンを開始。リズにどれだけの可能性が秘められているかを説明した。


「……なるほどな。リズの精霊魔術は使い物にならんと聞いていたが……その様な使い方があったのか」

「はい。リーゼロッテ姫のお力があれば、莫大な利益が生まれるでしょう」

「確かにそれは素晴らしいな」

 アルベルト殿下の感心したような視線をリズへと向ける。そして、そんな視線を向けられたリズは何処か嬉しそうだ。

 その様子を見た俺は、もしかしたらこのまま説得出来るかもなんて思い始めた。だけど、アルベルト殿下は不意に冷めたような表情を浮かべる。


「――で? それがなんだというのだ?」

「え? ですから、リーゼロッテ様のお力があれば、莫大な利益が生まれると」

「それは聞いた。だから、それがどうしたのかと聞いているんだ。グランシェス領で莫大な利益が生まれたら、俺になにか得があると言うのか?」

「それは……」

 答えは否だ。


 もちろん、この王都でも魚介類が食べられるようになるとか、アイスクリームが食べられるようになるとか、街の経済が良くなるだろうなんて意味はある。

 そしてリーゼロッテ姫は、偉大な成功者としてますます人気を得るだろう。だけど、アルベルト殿下に直接の益があるかと言うとなにもない。


「……妹君の成功を喜んで頂く訳には?」

「話にならんな。それに、輸送にリズの魔術が有効というのなら、わざわざミューレの街に置く必要はない。王都で働けば良いではないか」

「ぐっ」

 図星過ぎてぐうの音しかでねぇ。

 アカネみたいな商人ならともかく、王子ならすぐには気付かないだろうとか考えてたんだけど、甘かった……


「どうやら、お前の話とやらはそれで終わりのようだな。もう少し有益な話だと期待したのだが……失望した」

 アルベルト殿下は立ち上がり、リズへと手を伸ばした。


「リズ、俺にはお前のように民に愛されるカリスマはない。だからこそ、万人に愛されるお前の存在が必要なのだ」

「……お兄様、わたくしは……」

「お前は幼き頃よりずっと、俺の力になりたいと言っていただろう? それとも、あの言葉は嘘だったのか?」

「いえ、それは……」

 リズの深紫の瞳が揺れている。

 リズは兄を慕っているが、恋愛対象とは見ていないと言っていた。助けにはなりたいけど、結婚はしたくないと、そんな風に迷っているのだろう。

 だから――


「アルベルト殿下、どうかお考え直しください」

 困っているリズを見ていられなくて、俺は思わず口を挟んだ。

「何度考えても答えは同じだ」

「アルベルト殿下」

「くどい。俺を納得させるだけの条件を提案出来ぬのなら黙っていろ。それとも、この国の第一王子たる俺に逆らうつもりか?」

「それは……」

 ――以前、第三者としてみた状況。あの時のエイミーは、それでも踏みとどまった。

 だけど、ここで食い下がれば、誇張でもなんでもなく、グランシェス領が潰されるかもしれない。大切なみんなの居場所を失うかもしれない。

 リズは助けたい。でもそのために、他の全てを犠牲にするなんて俺には出来ない。俺は、一体どうすれば――と、リズを見る。

 当人であるリズは、俺以上に苦しんでいると思ったからだ。だけど、青みがかった銀髪の彼女は――何処か達観した表情を浮かべていた。


「ありがとうございます。ですが、もう十分ですわ」

「……リズ?」

「いままでお世話になりました。どうか……お引き取りを」

 紫色の瞳に宿るのは、揺るぎのない意思。

 それを見た俺は理解してしまう。リズは俺にこれ以上の迷惑をかけないように、望まぬ結婚を受け入れようとしている。

 それが分かるから、助けてあげたいって思う。本当に、心からそう思う。

 だけど――


「リオン、お前はもう帰れ。……あぁそれと、リズが婚姻の儀に着るドレスもお前に作らせてやる。せいぜいリズを美しく着飾る努力をするんだな」

 俺は言い返せなかった。

 だって、俺の行動で危険にさらされるのは、リズと同じように大切な人――たち。リズ一人のために、天秤にかけることは出来ない。

 俺にはリズを救えないのかと、諦め掛けたその時――


「アルベルト殿下。あたしの弟くんをあまりイジメないでくれませんか?」

 ここにいるはずのない、クレアねぇの声が会議室に凛と響いた。

 

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