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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第三章 平和な学園生活を送ろう

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エピソード 3ー3 噂なんてそんなモノ

 教室を出た俺はリズを探し始めた訳だけど、派手に走り去ったから、目撃情報はそれなりにあった。

 それをたどった俺は程なく、伝説の木の下で膝を抱えるリズを見つけた。


「こんな所でなにをしてるんだ?」

 俺はそう問いかけて、リズの隣に腰を下ろした。そうして世界樹にもたれ掛かって無言で空を見上げ、リズが話し始めるのを辛抱強く待ち続ける。


「……わたくし、自分が皆さんの迷惑になってるなんて思ってもいませんでしたわ」

 しばらくしてリズがこぼしたのは、ついさっきも聞いたようなフレーズだった。

「リズはかなりお嬢様なんだろ? 平民とはどうしても考え方が違うところもあるし、誤解が生まれるのはしょうがないんじゃないかな」

「そうでしょうか?」

「実はさっき言われたんだけど――」

 俺は前置きを一つ、アカネから聞いた価値観の話をした。


「価値観の違い、ですの?」

「例えば……そうだな。食事中にフォークを落としたらリズはどうする?」

「もちろん使用人が拾うのを待ちます。それでも気付いてくれなければ、軽く手を上げて合図を送りますわ」

「だよな。自分で拾おうとは思わないよな?」

「当然ですわ。そんなマナー違反をすれば、一緒に食事をしてる方にも恥を掻かせてしまいますもの。……どうしてそんなことを聞くんですか?」

 これが貴族にとっての常識。

 もちろん、それが間違ってるとは言わない。日本でだって、フォーマルなレストランとかでは普通に存在するルールだからな。

 だけどリズはそのルールを、カジュアルな――みんなが仲良く食事をするような空間に持ち込んでいる。


「平民からしたら、自分で出来ることなのにわざわざ人を呼びつけるなんて――ってなるんだ。それが価値観の違いってこと」

「そう、なんですか?」

 人にフォークを拾わせる行為が批難される世界があるなんて、リズは想像もしてなかったんだろう。紫の瞳がまんまるになっている。

 もっとも、テーブルマナーについてはミューレ学園でも教えているから、リズが食堂でそんな行動を取っても眉をひそめる生徒はいないはずだ。

 だから一番の問題は、互いが互いのルールを知らないことだろう。……なんて、俺だって、自分がフォローしておけば大丈夫なんて思ってたから同罪だけどな。


「わたくし、本当になにも判ってなかったんですわね。みなさんに迷惑をおかけして、本当に申し訳ないですわ」

「……そっちで落ち込んでたんだ。ちょっと意外だった」

「どういう意味ですの?」

「みんなに嫌われた状態じゃ、なにかを為し遂げるなんて出来ない。そうしたら、実家に認めて貰えない――って、落ち込んでるんだと思ってた」

 俺の直球な問いかけに、何故かリズは寂しげに微笑んだ。けど、俺が理由を聞くよりも早く、リズが口を開く。


「失敗続きの日々でしたけど……みんなと一緒に頑張るのは楽しいと感じてたんです。これはきっと、一生の思い出になるって。ですが……」

「そっか……」

 楽しいと感じてたのは自分だけで、相手には迷惑がられてた――なんて知ったら、そりゃショックも受けるよな。


「まあ……あれだ。迷惑を掛けたって言うなら、謝れば良いんだ」

「それで許して貰えるでしょうか?」

「もちろん口だけじゃダメだ。でも行動を持って示せば判ってくれるはずだよ」

「行動を持って示す、ですか……」

 リズは俺の言葉を聞いて俯いてしまう。

「不安なのか? ちゃんと俺も協力するぞ?」

「不安というか……その、わたくしが結婚から逃げるのは我が儘なんでしょうか……?」

「あぁいや、悪い。そういう意味じゃないぞ」


 リズがフォーマルな考えをカジュアルな場に持ち込んでいると言うのなら、クラスのみんなはカジュアルな考えをフォーマルな場に持ち込んでいる。

 少なくとも、自分達がこうだからとリズの行動を非難するのは間違ってると思う。

 ――とは言え、本当は貴族社会においても、それは我が儘なのかもしれないけどな。

 でも、俺はそう思わない。そう、思いたくない。

 だから――


「リズや俺が反省すべきなのはみんなへの態度であって、望まぬ結婚に立ち向かう姿勢じゃないと思うよ」

「そう、でしょうか?」

「ああ。そもそも、リズは親の言うとおりに結婚して後悔しないのか?」

「それは……きっと後悔しますわ」

「だろ。だったら嫌なことは嫌って言えば良いんだよ。大丈夫、ちゃんとリズの気持ちを判ってくれる奴もいるから。大丈夫、リズは一人じゃないよ」

 少なくとも、アカネは理解してくれていた。俺の周りの人達も判ってくれている。


「……そっ、それは、その、リオさんが……」

「うん?」

「い、いえっ、なんでもないですわ! それより、わたくし、皆さんと仲直りしたいです。家に連れ帰られる前に、せめてそれだけは為し遂げたいですわ!」

 リズがなにかを誤魔化すように捲し立てる。その言葉を聞いた俺は息を呑んだ。

 家に連れ帰られる前に、せめてそれだけは? いつか迎えに来るのは判ってるけど、今の言い方は、まるで……

「いつ連れ帰られるか、もう判ってるのか……?」

「――っ、それは、その……そ、そんなはずないじゃないですか! あはっ、あははっ」

 ……嘘が下手すぎる。


「迎えはいつなんだ? それとも、自分で帰るつもりなのか?」

「いえ、ですから、まだ決まっていないと」

「嘘は良いから、いつなのか教えてくれ」

「……三ヶ月後に、お兄様が迎えに来ると手紙が届きましたの」

「そっか……」

 使いの者ではなく家族。前回のように帰って貰う訳にはいかないだろう。

 クレインさんの時みたいに、何らかの取引が出来れば良いんだけど……クレアねぇの口ぶりからして、難しいんだろうなぁ。

 そもそも、リズの実家についていまだに聞いてないし。


「なぁリズ。リズの実家って……その、何処なんだ?」

「わたくしの家は……」

 リズは言いよどむ。やっぱり家名は名乗りたくないのかな。

「ごめん、言いたくなければ、無理には言わなくて良いよ」

「……いえ、そのご迷惑でなければ聞いて下さい」

「良いのか? 無理しなくて良いんだぞ?」

「リオさんには色々と迷惑を掛けてしまいましたから、名乗るのが筋だと思うんですの。それとも……これも貴族的な考えで、迷惑だったりするんでしょうか?」

「いや、迷惑なはずないよ。良かったら教えてくれ」

 そもそも俺も貴族だしな。と言うか、名乗られて迷惑なんてケース、あるはずないじゃん。と、この瞬間までは思ってた。


 リズは背筋をただすと、豊かな胸に手のひらを押し当て――

「わたくしの名はリーゼロッテ・フォン・リゼルヘイム。リゼルヘイム王家に連なる、王位継承権十二位の娘ですわ」

 とんでもない事実を打ち明けた。

 まさか……こんなドジっ娘がリーゼロッテ姫? 穏やかな性格で見目麗しく、その歌声は大陸で一番と名高いお姫様……?

 ま、まあ、黙ってたら穏やかな性格に見えなくはないな。黙ってて騒がしく見える人間がいるかどうかはともかくとして。


「ええっと……一つずつ聞いていくぞ? リズは本当にこの国のお姫様なんだな?」

「はい。それは間違いありません」

「じゃあ、なんでお姫様がうちの学園に来たんだ? そもそも、どうしてうちの学園のことを知ってたんだ?」

「学園に来たのは最初に話した通り、自分でなにかを為し遂げたかったからですわ。そして学園のことを知ったのは、ウェルズさんが教えてくれたからですわよ」

「あぁ……」

 ウェルズさんの洋服店は、王家御用達だって言ってたもんな。でもまさか、お姫様にまで宣伝してるとは思わなかったけど。


「それで、クレインさんに頼んで、うちの生徒になったと?」

「ええ。事情を話したら快く引き受けて下さいましたわ」

「そっか……」

 王女の家出のお手伝いとか、かなり危ない橋を渡ってる気がするんだけど……まあ、クレインさんのことだから、なにか考えがあるんだろう。


「それじゃ最後の質問だ。ええっと、その……迎えに来るお兄様って言うのは?」

「アルベルト・フォン・リゼルヘイムお兄様。この国の第一王子ですわ」

 おぉう……まさかの王子様が相手かぁ。

 とは言え、だ。うちはこの国で一番勢いのあるグランシェス伯爵家。例え相手が王子様であろうと追い返してやるぜ!

 ――なんて言えるはずがないよなぁ、やっぱり。


「……やはり、迷惑ですよね」

「まさか。そんなことはないけど……予想外というかなんというか」

 そりゃ、クレアねぇが権力に頼るのは無理だって言うはずだよ。さすがに国王の家庭内事情に口出しは出来ない。


 ……いや、だからって、諦める訳じゃない。

 うちならもしかして、交渉くらいは可能かもしれない。それが無理でも、三ヶ月でなにか偉業を達成するって選択だってある。

 諦めるのはまだ早いだろう。

 でもそれは、可能性が見えてくるまでリズには秘密。水面下で動くのはクレアねぇに相談する方針で、まずは出来ることからしよう。


「こほんっ。驚きはしましたが、迷惑なんかじゃないですよ。リーゼロッテ姫様」

 俺がそう言った瞬間、リズの顔が思いっ切り不満げに歪む。って、なんでだよ。

「……すみません、俺がなにか失言をしましたか?」

「はい、凄く失礼なことを言われましたわ」

 予想外の直球ど真ん中。リズらしからぬ迷いのない指摘に驚く。けど、どんなに考えても、なにが失礼だったのか判らない。

「申し訳ありません。リーゼロッテ姫様はなにがお気に障ったんでしょう?」

「――リズですわ」

「……はい?」

「リズって呼んでくれないのなら、話を聞くつもりはありませんわ」

「……………………もしかして、敬語が失礼ってこと?」

 まさかと思って尋ねると、リズの顔がほのかに紅くなっていた。


「だ、だって……リオさんみたいに、わたくしと対等に付き合ってくれる人は初めてだったんですの。――あ、付き合うって言うのは、そういう意味じゃありませんのよ!? 勘違いしないで下さいですわ!」

「大丈夫、勘違いなんてしてないよ」

 俺は思わず苦笑いを浮かべる。


 リズが自分で言ったとおり、対等に接する同い年くらいの異性は俺が初めてなんだろう。そんな俺と一ヶ月以上ずっと一緒に行動してた。

 頼りにもされてたと思うし、好意くらいは向けられててもおかしくはないと思う。でもそれは好意であって、恋愛感情にまでは発展してないはずだ。

 そもそも、そんなイベントもなかったしな。

 と言う訳で、リズには協力するけど、フラグは立てないように気を付けよう。


「話を戻すぞ。とにかく、リズがお姫様だって言うのは驚いたけどそれだけだよ」

「そうなんですの?」

「そうだよ」

「……そうなんですの」

 なんで残念そうなんですかねぇ。

 あれか。大げさに驚かれたり敬遠されたりするのは嫌だけど、驚いて貰えないのは寂しい、見たいな感じか。――めんどくさいなっ!


「……今、こいつめんどくさいとか思いませんでしたか?」

「そんなことは言ってないぞ?」

 そしらぬ顔で言い放つ。だけど、リズは神秘的な紫の瞳で、俺の顔をじーっと覗き込んでくる。……ソフィアみたいに、心を読む恩恵とか持ってないだろうな?


「ホントに、思ってないですか?」

「そんなこと、一度も口にしてないだろ?」

「……つまり、思ってはいると?」

「こいつ、めんどくさいな」

「口に出して言いましたわよ!?」

「空耳じゃないか?」

「そんなことありませんわ、確かに言いましたわ!」

 不満げに頬を膨らませる。それが面白くて、俺は思わず吹き出してしまった。


「ちょっと、なにを笑って……あぁっ!? もしかしてからかったんですの!?」

「くくっ、ごめんごめん、ちょっとした冗談だよ。でも、リズをからかう奴なんて、今までいなかっただろうし新鮮だろ?」

「確かに新鮮ですけど、別にからかわれたい訳じゃないんですけど?」

「別に良いだろ。それにな。落ち込んでるリズなんかより、そうやって拗ねてるリズの方が可愛いぞ?」

「――かわっ!?」

「…………やま?」

「誰も合い言葉なんて言ってませんわよ!? そうじゃなくて、わたくしのことを、その、かわっ、可愛いって……」

「うん。なんか手間の掛かる妹みたいな感じで可愛いと思うぞ?」

 さらりと言ってのける。恋愛対象ではなく、友達感覚だって言うアピールだ。


 ――なんて、たぶん俺の自意識過剰だろうけどな。アリス達を悲しませないためにも、誤解を生む芽は摘んでおくべきだろう。

 ……アリス‘達’とか言ってる時点で、どうなんだって話だけど。

「妹、ですか。……えへへっ」

 ――って、なんかリズがにやけてるんですけど? ま、まぁ良いか。友達感覚で話したのが嬉しかったんだろう、たぶん。


「話を戻すぞ。リズがお姫様だって言うなら、俺にはお迎えを追い返すなんて無理だ。でも、まだ迎えが来るまで三ヶ月ほどあるんだろ?」

「えっと……はい。たぶんそれくらいはあると思いますわ」

「なら、出来ることはあるはずだろ。諦めないで、最後まで頑張ろうよ」

「そう、ですわね。……皆さんにも謝らないといけませんし」

「ああ、そうだ」

 現状じゃそれが精一杯。だけど、みんなと仲直りして協力を得られれば、俺の知識を使って、リズになんらかの成果を――って最終手段も使えるかもしれない。

 今はまだ先が見えないけど、それでも諦めるつもりはない。今はとにかく出来ることを一つずつ。と言う訳で、まずは迷惑を掛けたみんなに謝りに行くことにした。

 

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