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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第二章 内政チートで学校経営をしよう

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エピソード 3ー1 約束――ただし守るとは言ってない

「学校に通わせろって……なんでそんな話になるんだ? あんたの目的は、ソフィアを連れて帰ることなんだろ?」

 俺はパトリックの申し出に混乱する。

「言っただろう。ソフィアを連れて帰るのはいったん諦めると」

「だったら、なんで学校に通わせろなんて話になるんだよ」

「なんだ? グランシェス家の名誉に誓っていかがわしい行為はしていないのだろう?」

「確かにしてないけど……」

「ならば慌てる必要などあるまい」

 くぁぁぁ、そう言うことか。学校が怪しい施設だって暴いて、ソフィアを正々堂々連れて帰ろうって腹づもりだな。

 なんか無茶苦茶勝ち誇られてるし。やましいことがあるんだろ、判ってるんだぞ? みたいな顔で俺を見てるけど、違うからな?

 問題を起こすのが判ってる相手に編入を求められて困ってるだけだからな?


「さぁどうするのだ? 俺を学校に編入させるか? それとも、大人しくソフィアを引き渡すか? 俺としては、後者を選んでくれた方が楽なんだがな」

 め、めんどくさい。なにがめんどくさいって、どっちを選んでもろくでもない展開しか想像出来ないことだ。


 実はと言うと、よその貴族を受け入れるのは構わないと思っている。いずれ学園が大きくなれば、全国から生徒を受け入れるつもりだったからだ。

 だけど、よりにもよって横暴貴族の典型。パトリックをうちの生徒として受け入れたら問題を起こすのが目に見えてるいる。

 非常にめんどくさい展開だと言えるだろう。


 ――だけど、だ。

 ここで受け入れを断ったら、パトリックはあることないことをグランプ侯爵に吹き込むだろう。そして俺が受け入れを断ったのは事実だから、やましいことがないと証明するのが難しくなる。


 悪評をばらまかれる程度なら問題ない――って言いたいところだけど、グランプ侯爵の耳に否定の難しい悪評が入るのはまずい。

 なにしろ、うちは一方的にクレアねぇとグランプ侯爵の婚約を破棄した過去がある。当主の死という理由があるとは言え、間違いなく良い印象は抱かれていないはずだ。


 そんな相手にうちを責める口実を与えたら、パトリックを口実にして、婚約破棄の腹いせに何らかの圧力を掛けてくる可能性が否定出来ない。

 賠償金で手打ちになんてパターンなら良いけど、許して欲しければソフィアかクレアを差し出せ――なんて言われたら、正面からぶつかるしかなくなる。

 絶対に勝てないとは言わないけど、出来れば争いたくはない。だから、可能な限りグランプ侯爵が介入するような事態にはしたくない。


 と言う訳で、パトリックを受け入れても追い返してもめんどくさい。

 ただ、グランプ侯爵とやり合うのと、パトリックを生徒として受け入れるの。どっちがマシかと言えば……後者の方がマシだろう。

 ……たぶん。

 後はなんとかパトリックにソフィアを諦めさせるか、時間を稼いでグランプ侯爵と対抗する術を手に入れる。

 それが今のところ、一番マシな選択肢だと思う。


「編入を認める代わりに、一つだけ条件がある。うちの学校は身分を振りかざすのは禁止だ。もし問題を起こしたら退学して貰うからな?」

「良いだろう。その代わり、俺の他に二人ほど編入を認めて貰おう」

「……二人?」

「俺の世話係と護衛だ」

「判った。それじゃ住むところは……」

「――リオン、貴族様を平民と同じ学生寮に住まわせる訳にはいかないよ」

 不意に、今まで沈黙を守っていたアリスが口を挟んでくる。

 と言うか、貴族様って……アリスは絶対そんな風に思ってないだろ。ってことは、なにか理由があるんだろうなぁ。


「アリスはどうしたら良いと思うんだ?」

「旧グラシェスのお屋敷はどうかな?」

「――っ」

 あ、あぶねぇ。思わず吹き出すところだった。


 グランシェスの旧お屋敷。

 学生寮と違って水道やお風呂は無いけれど、高級な設備が取り入れられている。そして学生寮の足下にも及ばないけど、調度品もこの世界で流行りのモノを取りそろえている。

 この世界基準で言えば、とても立派な――ミューレに新しく作った建物と比べると最底辺のお屋敷である。

 そんな屋敷が貴族様にはふさわしいって、完全にイヤミじゃねぇか。アリス、恐ろしい子。大人しくしてるって思ってたけど、内心では怒ってたんだな。


「ふむ、伯爵家の屋敷か。俺にふさわしいじゃないか」

「い、いいのか……?」

「なんだ? 今は使っていない屋敷なのだろう? よもや、俺には貸せないなどと言うつもりではないだろうな?」

「そうは言わないけど……学校まで馬車で一時間は掛かるぞ?」

 ちなみに、ここや学生寮からは徒歩数分である。


「ふっ、平民が住むような寮に住むことに比べれば、それくらい些末なことだ。他に問題がないというのなら、俺にその屋敷を使わせるが良い!」

 他の生徒と一緒にして問題が起きる可能性が減るから、俺としては願ったり叶ったりだけど……まぁ別に良いか、本人が希望してるんだし。


「それじゃ旧屋敷を使ってくれ。編入は……一週間後くらいか? パトリックさんが部屋を使うまでに準備するように言っておくよ」

「ふっ、良い心がけだ。では俺は一度領地に帰って、入学の準備をするとしよう」

 パトリックはそう言って踵を返すと、そのまま部屋の外へ出て行った。パトリックの対処に困っておろおろしていたメイドが慌ててその後を追う。

 それを見届け、俺達は一斉にため息をついた。



「ごめん、入学を断れなかった」

 俺はみんなに向かって頭を下げる。

「……あれはしょうがないんじゃないかなぁ。話が通じるタイプじゃないみたいだし」

 謝る俺にアリスがフォローを入れてくれる。それに同調するように、ソフィアとティナとリアナがこくこくと頷いた。

「ありがとう、そう言ってくれると助かるよ」

 みんなに感謝の気持ちを伝えながら、今後のことについて思いを巡らす。

 入学は断れなかったけど、横暴なパトリックに甘い汁を吸わせるつもりはない。今回の借りはきっちり返すつもりだ。

 なんて思ってたら、ソフィアがひしっとしがみついてきた。


「ソフィア? 心配しなくても、ソフィアは俺がちゃんと護るぞ?」

「うん、それは信じてるよ。だからそっちじゃなくて、その……リオンお兄ちゃん、ソフィアのせいでごめんね」

「うん? どうしてソフィアが謝るんだ?」

「だって、あの人はソフィアが目的だから」

「あぁ、さっきも言ったけど気にしなくて良いよ。そもそもソフィアを妹にしたのだって、ソフィアを護るためだからな」

「でも……ソフィアのせいで、リオンお兄ちゃんが作った学校が無茶苦茶に……」

「いやいや、無茶苦茶にはなってないからな!?」

 いくら何でもパトリック一人で、学級崩壊とかは――ありそうな気がする。なんて不安に思ってたら、ソフィアが俺の顔をじっと覗き込んでいた。


「ごめんなさい、リオンお兄ちゃん。こうなったら、学校を無茶苦茶にさせる前にソフィアがあの人を無茶苦茶に――」

「ちょ!? 大丈夫、大丈夫だから! ホントに大丈夫だから!」

 だから、唐突にスカートの裾をまくって短剣を引き抜こうとしないでくれ! と、声には出さずに叫ぶ。

「……ホントに大丈夫?」

「大丈夫、ホントに大丈夫。なにかあったら、責任もって俺が対処するから。だからソフィアは心配しなくて良いよ」

 あぁびっくりした。あんな事があったのに、太ももに短剣を隠し持ったままとか。最近は明るくなってきたから安心してたけど、気を付けなきゃやばそうだな。

 取り敢えず俺は、ソフィアを和ませる為に頭をわしゃわしゃと撫でつける。


「うわわ、リオンお兄ちゃん、髪がくしゃくしゃになっちゃうよ」

 驚いたソフィアが身を引く。俺はそれを笑って見送り、アリスへと視線を向けた。

「アリス、悪いけどお茶会のホストを引き継いでくれるか?」

「良いけど、リオンはどうするの?」

「俺はクレアねぇと今後の対策を話し合ってくるよ。と言うことでみんな、俺はちょっと抜けるけど、引き続きお茶会を楽しんでてくれな」



 そうしてやって来たのは、クレアねぇの執務室。パトリック入学の報告を聞き終えたクレアねぇは、深い、海よりも深いため息をついた。

「ただでさえ忙しいのに、パトリックが入学するって冗談よね?」

「いや、えっと……事実、かな?」

 ジト目で睨まれた俺は明後日の方向を向く。だけど、横からクレアねぇの視線がずっと途絶えない。俺の頬を一筋の汗が流れた。


「ま、まずかったかな?」

 視線に耐えきれなくなってクレアねぇを見る。

「大なり小なり問題は起きるでしょうね。弟くんは想像できないかも知れないけど、平民と対等に話す貴族なんて、この世界であたし達くらいよ」

「それは……判ってるけど。身分は振りかざすなって言ってあるから大丈夫じゃないかな?」

「だと良いんだけどね。そもそも、ソフィアちゃんはどうするつもりなの? パトリックと一緒に勉強させて平気なの?」

「……それな。正直不安なんだよな」

 さすがにあれだけ言っておけば、ソフィアを誘拐するようなマネはしないと思うけど、授業そっちのけで言いよる可能性は否定できない。

 そうしたらソフィアが可哀想だし、状況が悪化したらパトリックが可哀想なことになるかも知れない。

 ……主に後者の意味でしゃれになってないな。


「暫くはアリスにソフィアを見守って貰うようにするよ。アリスならいざって時に武力行使も出来るし、大丈夫だと思う」

「アリス? そう言えば精霊魔術が得意だったわね」

「ああ。しかも最近は更に腕を上げてるぞ」

 ミューレの街の開発で精霊魔術を使いまくったのと、感覚共有を使って毎日、俺の精霊魔術の練習に付き合ってくれてるのが原因っぽい。

 俺も少しは上達してる自信があるけど、アリスは正直桁が違う。あれ以上凄くなったらどうなるんだろうな。ちょっと不安だ。


「……まあ、それなら大丈夫かしら、ね。それに弟くんの話を聞いた感じだと、断った方が面倒なことになってただろうし」

「それはグランプ侯爵家の分家だからって話か?」

「ええ、そうよ。グランプ侯爵家の発言力は絶大で、絶対に敵に回しちゃダメな相手だもの。ただでさえうちは、婚約をこっちの都合で破棄して良く思われてないでしょうしね」

「だよなぁ……」

 三ヶ月後に結婚を控えた状態で、いきなりこっちの都合だけで、婚約を破棄させてください――だもんな。


「こっちに非がある以上、弱みを見せたら、つけ込まれても文句を言えないわ」

「めんどくさいなぁ」

「そうよ。だから絶対に、パトリックと正面からぶつかったりしちゃダメよ?」

「判ったよ」

「ホントに判ってる? 絶対の絶対よ? 絶対に正面からぶつかって、ぼこぼことかにしちゃダメだからね? 約束よ?」

 ……あれ、なんか突っかかれって言われてるような気がしてきた。

「弟くん!?」

 はい。ごめんなさい。

 

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