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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第一章 自重しない異世界姉妹

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エピソード 4ー4 それぞれの覚悟

 

 方針を決めた俺とアリスは、アリスママ達に見送られてエルフの里を出発、特に問題も無くスフィール領へとたどり着いた。


 ちなみに俺は平民っぽい服などで軽く変装。アリスの方も髪留めは付けてある。アリスの顔は知られてないけど、ハイエルフだと知られたら違う意味で目立ちまくりだからな。


 そんな訳で、スフィールの街に着いたその日の晩。俺達は路地裏の闇夜に紛れて、スフィール家の様子をうかがっていた。

「どうだアリス。いけると思うか?」

「見張りは……門番が二人と、二人組の巡回が二グループかな? 中の様子は判らないけど、計画の実行は可能だと思うよ」

「そう、か……」

 ようやくクレアねぇを救えるかも知れない。そう聞かされても、俺の心は沈んでいた。


 俺はクレアねぇを救いたい。その気持ちに嘘はない。だけど……と俺に寄り添うアリスに視線を向ける。

 アリスは俺に全幅の信頼を置いて、クレアねぇを救う為に付き合ってくれている。その姿が、あの日のミリィと被るのだ。

 もし俺のせいでアリスを失ったら――と、エルフの里を出発してから徐々にそんな気持ちが大きくなっていた。


「なあアリス。この一週間で、俺もいくつかのテンプレートでなら精霊魔術が使えるようになった。だから、アリスが危険を冒さなくても――」

 その続きは言えなかった。アリスの細くしなやかな指先が、俺の唇を塞いだからだ。

「……あのね、私には兄がいたって話したの、覚えてる?」

「あぁ、覚えてるよ。良いお兄さんだったんだろ?」

「うん。兄は凄く優しくて、弱い私をいつも護ってくれてた。だけど私はそれに甘えてばっかりで、兄が無理をしてるのに気付かなかった。その結果、私は大切な兄を失った」

 兄の顔を思い浮かべているのだろうか? アリスは蒼い月の輝く空を見上げた。

「私はもう絶対、同じ過ちを繰り返さない。絶対、あんな風に哀しい想いはしたくないから。だから私は、リオンと一緒にクレア様を助けに行くよ」

「そっか……」

 そう、だよな……。

 俺だって、アリスが一人で行くとか言い出したら絶対に止める。大切な人を連れて行く恐怖があるのなら、置いて行かれる恐怖があって当然だ。

 それを理解してなお、巻き込みたくないから待っててくれなんて言えるはずがない。


「それにね。私自身、クレア様を助けたいと思ってるんだよ」

「そうなのか?」

 あんまり二人が絡んでる記憶が無いけどと首をかしげる。

「私ね、本当はもっと酷いところに売られる予定だったの。だけどクレア様が無理を通して私を買ってくれた。私はクレア様に救われたんだよ」

「だから、アリスもクレアねぇを助けたいって?」

「うん。クレア様に私を助けたつもりは無いかもしれないけど……私はリオンに引き合わせてくれたクレア様に凄く感謝してる。だから、私もクレア様を助けたいんだ」

「アリスが自分の意思で、クレアねぇを助けたい、か」

 そこまで言われちゃ、止める訳にはいかないな。

「判った。それじゃ一緒にクレアねぇを助けよう」

「……うん」

 アリスは穏やかに微笑んで、屋敷の方へと視線を戻す。


「次に見回りが行き過ぎたら、塀を乗り越えて侵入するよ。足場は私が作るから、リオンは遅れずついてきてね」

「了解」

 手短に答え、俺はアリスの合図を待つ。それから程なく、アリスは短い合図と共にゆっくりと屋敷に向かって歩き出した。俺は無言でその後に続く。


「さてと……お願いね」

 アリスが右手を軽く振るうと同時、三メートルくらいある壁の手前に、中頃まで土の階段が作り出された。

 やっぱりアリスの精霊魔術は凄い。

 俺もテンプレート形式で精霊魔術を練習する合間に、アリスと同じ方法を試しているんだけどなかなか上手くいかないんだよな。


「リオン?」

「っと、なんでもない」

 アリスに手を借りて、塀の上へと登り切った。その直後アリスが視線を向けるだけで、土の階段は消滅する。……今度は完全な無詠唱ですか。

「……大丈夫。周囲には誰もいないみたい。下りるよ――っと」

 アリスが塀の上から敷地の内側に飛び降りる。実に軽い身のこなし……だけど、俺はその横で思わず飛び降りるのを躊躇ってしまった。

 いやだって、壁の高さは三メートル近くあるんだぞ? 大人の体でも怖い高さなのに、少年の体には高すぎる。

「……あ、そっか。ちょっと待ってね」

 アリスは内側に階段を作り、その天辺で俺に向かって両手を伸ばした。まるで、そこに飛び込んできたら抱き留めてあげると言わんばかりに……


「いやいやいや、逆だよな? 普通は俺がアリスを受け止める場面だよな?」

 必死に訴えかけるが、アリスは苦笑い。

「早くしないと、外の見回りに見つかっちゃうよ?」

「くぅ……早く大人になりたい」

 俺は勇気を――飛び降りる為ではなく、恥ずかしさに耐える為に振り絞り、アリスの腕の中に飛び込んだ。

「っと、さすがに結構重いね。……はい、もう大丈夫だよ」

「うぅ、もうお婿にいけない」

「リオンは婿になるのが嫌で色々してたんじゃなかったっけ?」

「……そうでした」


 敷地内へと潜入を果たした俺達は、植え込みの蔭から屋敷へと視線を向ける。

「見張りは……思ったより少ないね。さすがに子供が警備を突破して侵入してくるとは思ってなかったのかな?」

「クレアねぇを移送する日時も指定してたからな。そっちを狙わせるつもりだったのかもな。でも何があるか判らないから、一応警戒は怠らないでくれよ。正直アリスの気配察知頼みだからさ」

「うん、判ってる。これからの行動だけど、予定通りで良いんだよね?」

「ああ、そのつもりだ」

 予定と言っても、まずは三階にあるソフィアの部屋にお邪魔。クレアねぇの居場所を聞き出して、その後は臨機応変という大雑把なモノだったりするのだけど。

 クレアねぇの居場所が判らないのである程度は仕方ないだろう。


「ちなみに、ソフィアちゃんは本当に味方してくれるの?」

「……ソフィアは、恩恵で相手が嘘を言ってるかどうか判るんだ。だから、事情を話せばクレアねぇの居場所は教えてくれる……と思う」

「思う、ね」

「残念ながら確証は持てないな。さすがにソフィアが関わってるとは思わないけど……」

 判断を先延ばしにしてたけど、相手がスフィール家として動いている以上、レジスだけではなくソフィアの両親が関わっているのはほぼ間違いない。

 俺としてはこっちの味方をして欲しいけど……両親の敵に回れとも言えないしなぁ。


「……確認だけど、もし騒ごうとしたらどうするの?」

 俺を気遣っているのだろう。アリスは少し躊躇いがちに聞いてくる。

 ……ダメダメだな。俺がしっかりしないとダメなのに、アリスに気遣わせてどうするんだよ。ちゃんと毅然とした態度を取らないと。

「目的はあくまでクレアねぇの奪還だ。だからもしソフィアがそれを邪魔しようとするなら、その時は……ソフィアも俺達の敵だ」

 そうなって欲しくないと願いながらも、俺はキッパリと言い放った。

 

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