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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第一章 自重しない異世界姉妹

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エピソード 4ー2 予定調和

 

 あれから一週間。俺はエルフの里にある小屋に文字通り軟禁されていた。一応すきま風なんかはほとんど無いけど、冬に突入しているので結構寒い。


「ようやく幽閉生活が終わったのに、結局監禁される運命なんだなぁ」

 俺はため息まじりに小さな窓から見える景色を眺める。

 深い森に溶け込むような集落。とは言え、建物の作りは木造でしっかりしている。物語に出てくるようなエルフの里がそこにあった。


 なのに、俺はそんな集落を見て回ることすら出来ずに監禁されて……俺の人生、半分以上が軟禁されてる気がする。

 いや、生まれて十一年足らずの間で、自由だったのが旅をした一週間とスフィール家に出向いた二日だけだから、四捨五入したら百パーセント軟禁生活だな。……なんか虚しい。

 なんて考えていたら、アリスの父親が訪ねてきた。


「少年――リオンとか言ったな? 約束は覚えているか?」

「覚えてますよ。一週間後――つまり今日、アリスが俺の処遇を決めるんですよね?」

「その通りだ。つまり、今日がお前の命日という訳だ」

「……命日って。アリスがそんな事を言うはずないじゃないですか」

「ふっ、強がっていられるのも今のうちだ」



 とまぁそんな感じで連れてこられたのはアリスのお家。木製で作られた暖かみのあるリビングで、俺はアリスに手料理を振る舞われていた。

「――なぜだああああぁぁあぁっ!?」

「見知らぬおじさんうるさいです」

「うおおおぉぉぉっ!?」

 アリスに冷たくあしらわれてゴロゴロと床を転げ回るイケメンエルフ。なんか、壮絶にエルフのイメージが壊れる。


「貴方? いいかげん黙らないと部屋から追い出すわよ?」

「はっ、すみません!」

 アリスの母――つまり奥さんの一声で、アリスパパ(名前を知らない)は大人しくなった。

 ちなみにこのアリスママ(同じく名前を知らない)は、例の族長である。

 予想外と言えば予想外だけど、アリスが自分が頼めばエルフは協力してくれると言っていたのはこれが理由だろう。

 しかしこのアリスママ、俺の事を信用してなかったはずなのに、俺が監禁されてる間もアリスの話を聞きに来たりと友好的だったんだよな。


「リオン様、何かお口に合いませんでしたか?」

「うぅん、アリスの料理は美味しいよ。アリスがこんなに料理が上手なら、もっと早く作って貰えば良かったな」

「お屋敷では作る機会が無かったですからね。良ければ、これからは私が作りますよ」

「それは嬉しいな……と言うかアリス、もう奴隷じゃなくなったんだし、そんな風にへりくだらなくてもいいんだぞ?」

「よろしいのですか?」

「うん。本当は最初からそう思ってたんだけど、マリーとかに聞かれると厄介だから、仕方なく敬語を使って貰ってたんだ。良い機会だから、普通に話してくれよ」

「そうなんですか……それじゃ、その、普通に話しても良いですか?」

「もちろん、ぜひそうしてくれ」

「それじゃ……リオン。えっと、これからよろしく、ね?」

「おう、よろしくな、アリス」

「……ふふっ、なんだかちょっぴり恥ずかしいね」

 言葉通り恥ずかしそうに両手で頬を押さえるアリスが可愛い。


「うおぉぉぉおぉっ! 甘ったるい空気っ、お父さんは許しませんよ!」

「あなた? 暫く集落の見回りに行ってきてください」

「なにを馬鹿な! 俺には、この少年にアリスが奪われないように監視すると言う使命があるのだ!」

「あ な た?」

「……はい、見回りに行ってきます」

 アリスママ強いなぁ。さすが族長……なのか?


「リオンくん、騒がしくしてごめんなさいね」

「それは構わないんですが……一つ聞いても良いですか?」

「何かしら?」

「俺の疑いは晴れたと思っていいんでしょうか?」

 一週間ぶりに再会したアリスは、変わらず俺を慕っていると言ってくれた。

 けど、ストックホルム症候群的な症状を危惧していたのなら、アリスパパのように疑うのが普通だと思う。……いや、あの反応はさすがにないと思うけど。


「実はと言うとね。私は最初から疑ってなかったのよ」

「……そうなんですか?」

「ええ、それならどうしてって思ったかしら?」

 確かに思ったけど、思惑通りに聞き返すのは悔しいな。ええっと、俺を疑ってないのに、わざわざあんな面倒なやりとりをした理由?

 逆に考えたら、あのやりとりがなければ発生した問題があるって意味だよな――と、一週間前の状況を思いだした俺は直ぐにその理由に思い至った。


「アリスのお父さんみたいな人を納得させる為、ですね?」

「正解よ。頼りがいがあるとアリスが言うだけはあるわね。これなら、安心してアリスを任せられるわ」

「……任せるって、アリスを旅に連れて行っても良いという意味ですか?」

「それもあるけど、今のはお嫁に出せるという意味よ」

「――ぶっ!?」

「お、おおおおっお母さん!?」

 アリスががたんと席を立ち、慌てた様子でアリスママへと詰め寄る。


「あら、なにを慌ててるのよ? 貴方たち付き合ってるんでしょ?」

「な、なななっなに言ってるの!? リオンはまだ十歳なんだよ!?」

「エルフがそんな年の差を気にしてどうするのよ。どうせあと数年も経てば、リオンくんだって大人じゃない。そもそも貴方達は、一緒に幸せになるって誓い合ったんでしょ?」

 ……あぁ、その話をしたのか。それで付き合ってるって誤解されたんだな。

 なんて、傍から見ていた俺は少し冷静になったのだけど、当事者のアリスは顔を真っ赤にして慌てている。


「だ、だからそれは、そういう意味じゃなかったって言ったでしょ!?」

「聞いたわよ? だから、それが残念だったのよね?」

「そんなこと言ってないよ!?」

「聞いてないわね。でも思ってたのは丸わかりよ? そもそも貴方、リオン様は優しくて頼りがいがあるとか、散々のろけてたじゃない」

「わーわーわーっ!?」

 う、うぅん。当事者を前にそう言う会話は止めて欲しいなぁ。

 どう反応して良いか判らないから困る……なんて感じで生暖かく見守っていると、話が気になる方向に変化した。


「そもそも、これからも貴方はリオンくんについて行くのでしょ? それなら、エンゲージはしておくべきだと思うわよ?」

「――お母さんっ」

 突然、アリスが慌てたように声を荒げる。そして何かを必死に伝えるかのように、銀の髪飾りに触れた。

「……もしかして貴方、教えてないの?」

「そ、そうだけど?」

「呆れた。どうして黙ってるのよ」

「えっと、それは……ね? 最初に秘密にしたら……その」

「言いづらくなった、と。仕方が無いわねぇ」

 アリスママは呆れたと言わんばかりに肩をすくめ、俺へと向き直った。


「今のやりとりでなんとなく事情を察してくれたと思うけど、アリスにはちょっとした秘密があるの。それを今から見せるわね」

「――えっ、ちょっと、お母さん!?」

「大人しくしなさい」

 アリスママは逃げようとするアリスに手を伸ばし、アリスの髪飾りを取り払った。

「これがアリスの秘密よ」

 アリスママが少し得意げに言う。髪飾りを外したからなんだって言うんだ――と、俺はアリスの変化に気が付いた。

 深く吸い込まれそうなアリスの蒼い瞳。その右目が金色に変化していたのだ。左右で虹彩の色が異なる虹彩異色症。

「……ハイエルフ」

 俺が呟くと、アリスはぴくりと身を震わせた。


「あ、あの、今まで隠しててごめんね? 最初に隠したら、どうしても言えなくなって」

「え、あぁ……うん。気にしなくて良いよ」

 と言うか、気にしないで欲しいというのが本音だ。だって、俺も同じ理由で、前世の記憶がある事実を言い出せずにいるし……

「怒って、ないの?」

「もちろん。誰だって隠し事くらいあるだろ? それに、言い出せなくなる気持ちは良く判るから。そう言うのは、機会がある時に話せば良いと思うんだ」

 いつか、自分の秘密を打ち明ける為の予防線である。


「リオン……ありがとう」

「気にしなくて良いよ。と言うか、お願いだから気にしないでくれ」

「え?」

「うぅん、なんでもない。それより、もしかして髪飾りが形見とか言ってたのは?」

「うん。髪飾りを奪われたら正体がばれるから、大切なモノだって思わせたかったの。ごめんね、嘘なんか吐いたりして」

「事情が事情だから仕方ないさ。それより、アリスがハイエルフってことは……」

 と、俺はアリスママに視線を向ける。


「私とあの人は普通のエルフよ。アリスは先祖返りなの。と言っても、ハイエルフとしての恩恵はちゃんと持っているけどね」

「……あれ? でもアリスって確か、気配察知の恩恵を持ってるんじゃなかったですか? 恩恵が二つって、在るんですか?」

「ダブルって言うのだけど、恩恵二つ持ちは存在するわよ。伝説の英雄とか、そう言ったレベルだけどね」

「へぇ……」

 伝説のハイエルフで、伝説の恩恵二つ持ち(ダブル)ってどんだけだよ。

 しかも精霊魔術が使えて、知識だって俺に負けてないぐらい在るし、俺よりよっぽどチートじゃないか。羨ましすぎる。

 こう言うのって普通、転生した主人公とかに付く能力だと思うんだけどなぁ。


「ちなみにハイエルフの恩恵って言うと、知識の転写でしたっけ?」

「知識の転写? ふぅん、人間にはそんな風に伝わってるのね」

 アリスママは面白そうにクスクスと笑う。

「と言う事は違うんですね」

「似てるけどね。本当の恩恵は感覚の共有よ」

「……感覚の共有? どういう使い方をするんですか?」

「そうね……夜の秘め事で」

「――おおおお母さん!?」

「ふふっ、慌てるってことは、そう言うことを考えてたのね」

「わーわーわーっ。ち、違う、違うからね、リオン!」

 俺は全力で聞いてないフリをした。


「冗談はともかく、感覚共有と言えば、技術の伝達が有効よ。例えば、魔術を自力で習得するのが困難なのは知ってるかしら?」

「えっと、はい。見本がなければ凄く習得が困難だって聞いてます」

「そうね。でも見本があったとしても、そこから自分で感覚を掴むのは難しいわ。習得には何年も掛かるのが普通よ。でも、もしその感覚を共有出来れば……どうかしら?」

「――魔術を、簡単に習得できる?」

「その通りよ。どう、凄いでしょ?」

 凄いなんてもんじゃない。そして、知識の転写と似てると言った理由も理解した。

 知識を身につけたとしても、それを習熟しなければあまり役には立たない。対して感覚の共有は、その習熟を補助する能力だ。

 知識自体は自分で記憶する必要があるけど、感覚的な部分を一気に掴める。特に魔術を初めとした技術面では、こっちの方が圧倒的に有用だろう。


「その感覚の共有は、誰にでも使えるんですか?」

「残念ながら制限はあるわ。感覚の共有を使えるのは、エンゲージをした相手だけ。そしてエンゲージは生涯でたった一人、唯一の相手と決めた人だけよ」

「そう、ですか……」

「貴方の置かれている状況はアリスから聞いているわ。貴方のお姉さんを助ける為にも、エンゲージしておくべきだと思わない?」

 確かに喉から手が出るほどに欲しい。もしアリスから魔術を初めとした技術を教えて貰えるなら、クレアねぇの救出が一気に現実的なものになるはずだから。

 だけど、俺は首を横に振った。


「そんなの政略結婚をさせようとした人達と同じじゃないですか。俺はアリスにも幸せになって欲しいんです。だからこっちの都合でエンゲージをしてくれなんて言えません」

 果たして、俺の答えを聞いたアリスママは微かな微笑みを浮かべた。

「本当に驚いたわ。相手への気遣いといい、しっかりした考え方といい、貴方本当に見た目通りの年齢なの? アリスも子供の時からしっかりしていたけど、貴方はそれ以上ね」

「あはは……」

 俺は通算三十年ほど生きている。エルフといえど、俺と同じ頃は十一歳くらいな訳で、そりゃ俺の方がしっかりしてるよねって……まぁ今は言えないけどな。


「リオンくんの意思は判ったわ。でも、アリスはどうかしら?」

「私は……。ねぇリオン。私がエルフの里に行こうと提案したのを覚えてる? 私が魔術を使えるようになるだけだと厳しいけど、他に考えがあるって言ったよね?」

「あぁ、言ってたな。もしかして……?」

「そうだよ。私は最初から、リオンとエンゲージするつもりだったの」

「それは……でも、いいのか? 唯一と決めた相手って言うのは……その、そういう意味じゃないのか?」

 結婚的なと言うニュアンスを込めて聞くと、アリスの顔がみるみる赤く染まった。


「そ、それは、平気。別にエンゲージした人と必ず結婚する訳じゃないから」

「――でも、ほとんど結婚もするわよね~」

「お母さん!?」

「なによ、事実でしょ?」

「そ、それはそうだけど、別にいま言わなくて良いじゃない!」

 真っ赤になって反論するアリスが可愛い。最近まで気にしないようにしてたけど……アリスは俺に好意を抱いてくれてるよな?

 もしそうなら嬉しいけど……俺はまだ十歳。ホントに俺が思ってるような意味での好意を向けられてるのかちょっと自信が持てない。


「と、とにかく結婚と同義じゃないんだよ。ホントにホントだよ。似てるけど違うの。それは確かに、そういう意味が無いと言えば嘘になるんだけど――じゃなくて! とにかく、別に意識しなくて良いからね!?」

 意識しなくて良いと、意識しまくりの様子で捲し立てる。

 今にも逃げ出しそうな程に顔を赤らめながら、それでも必死に訴えかけてくるアリスはやっぱり可愛い。

 そんな風に思うってことは、俺も意識してきてるのかなぁ。

 アリスとは同じ目的を持っているし、なにより一緒にいて凄く楽しいし……って、いやいやいや、落ち着け俺。

 雰囲気に流されてどうする。これはあくまでエンゲージの話。それっぽく聞こえるけど、告白をされた訳じゃない。純粋にエンゲージが嫌かどうかを考えよう。

 …………まあ、エンゲージがパートナーを選ぶモノだって言うのなら断る理由なんて何処にもないよな。むしろそれが自然な形だとすら思える。


「……確認だけど、アリスは無理してる訳じゃないんだよな?」

「それはもちろん。クレア様を救いたいって想いもあるけど、エンゲージを結ぼうって思ったのは、相手がリオンだからだよ」

「……判った。それじゃエンゲージをしよう。いや、そうじゃないな」

 俺は咳払いを一つ。席を立ってアリスの前へと移動する。そうして片膝をつき、アリスの繊細な手の甲にそっと唇を押しつけた。

 それは、アリスを全力で護るという意思表示。俺はゆっくりとアリスの顔を見上げる。

「今はまだ小さな子供だけど、直ぐにアリスを護れるようになってみせる。だからアリス、俺とエンゲージしてくれ」

「……………はい」

 頬を朱色に染めてはにかむ。この時のアリスを、俺は一生忘れないだろう。――等と状況に酔って、後で恥ずかしさに転げ回るのは、また別の話である。

 

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