表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第八章 俺も異世界姉妹も自重しない!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

237/242

閑話 リアナのヴァレンタインデー

 二月十四日。恋する乙女達が、大好きな男の子にお菓子を贈って告白をする聖なる日。ヴァレンタインデーと呼ばれる行事は――製菓会社が仕掛けたものではない。

 なぜなら、リゼルヘイムにおけるヴァレンタインデーを作ったのはアリス。つまりは、シスターズがリオンに愛を囁くために作られた記念日なのだ。


 そして、そんな記念日。早朝からお屋敷の台所では戦争が勃発していた。

 ――と言っても、リオンを慕うシスターズは、通常では信じられないほどに仲が良い。なので別に、リオンにお菓子を贈るのは私よ! みたいな感じで戦争が勃発している訳ではない。

 戦争になっていると言ったのは、それぞれが鬼気迫る勢いでお菓子作りをしているからだ。


 アリスブランドの創設者であり、ソフィアにお菓子作りを教えたアリスに、パティシエールとして名前を轟かせるソフィア。更にはクッキーだけを作り続けたティナと、シスターズの面々は、お菓子を作るのが得意な女の子が多い。

 そんな彼女達が、リオンにお菓子を美味しく頂いてもらったり、あわよくば自分も美味しく頂いてもらったりするのは、ある意味では必然。それを邪魔しようとする女の子は、シスターズにはいない。けれど、それは決して、羨ましいと思わないという意味ではない。

 自分も同じように褒めてもらいたい。そのためには努力が必要――と言うことで、シスターズはときに嫉妬をしながらも協力し合い、至高のお菓子作りをしていた。


 そしてリアナもまた、お菓子を作る乙女の一人として厨房にいた。そうして一生懸命にお菓子作りをしていると、手が空いたのかティナが話しかけてきた。


「リアナはなにを作ってるの?」

あたし(・・・)はマフィンを作ってるの」

 リアナがチョイスしたのは、比較的日持ちのするレシピ。ソフィアやアリスがとんでもなく力を入れて作っているケーキは、日が経てば明らかに味が落ちる。

 つまりは、今日食べてもらうのを前提として、最高のお菓子を作っている。であれば、リオンが自分のお菓子を食べてくれるのは二日目以降。そう考えてのチョイスである。


「そういうティナはクッキーだよね……って、どうしたの?」

 リアナは小首をかしげた。ティナが不思議そうにリアナを見ていたからだ。

「どうしたって言うか……リアナって、自分のことをあたしって言ってたっけ?」

「あぁ、そのことか。今までは私って言ってたよ」

「だよね。なにか心境の変化でもあったの?」

「心境というか、環境の変化、かな」

 リアナは生地を作りながら、イタズラっぽく笑う。


「ほら、あたしが主役の新作が明日から始まるでしょ? それにあわせて、あたしも自分の呼び方を変えてるんだよ~」

「つまり、新作でのリアナは、自分のことをあたしって言ってるの?」

「うん、そうだよ。他にも少しだけ設定が違ってたりするけど……っと、これで良し」

 リアナは生地を混ぜあわせるのを終えて、生地をマフィンの型に流し込んでいく。そうして、あらかじめ温めておいたオーブンに入れた。


「うん、後は数十分焼いたら完成、だね」

 リアナはやりとげたと笑顔を浮かべて、ハンカチで顔に浮かんだ汗を拭いた。


「それで、ティナはいつものクッキーだよね。もう完成したの?」

「うぅん。あたしはアリスさんやソフィアちゃんと一緒に、午後のティータイムに併せて、焼きたてを贈るつもりだから」

「さすがティナだね」

 アリスもソフィアも、お願いすればいくらでもお菓子の作り方を教えてくれるし、一緒にプレゼントしたいって言えば喜んで受けてくれるだろう。

 けれど、アリスもソフィアもこの世界でトップを争う腕前。リアナはとてもじゃないけど、そんな二人と一緒にお菓子を出す勇気はない。


 けれど、ティナは違う。勇気があるという意味ではなく、二人に匹敵するという意味。

 ティナが作れるお菓子はクッキーだけ。ただひたすらにクッキーだけを練習することで、クッキーの腕前だけは、ソフィアやアリスに匹敵する実力を手に入れたのだ。


「うぅん……あたしも。なにか一つくらい、極めたら良かったかなぁ」

「心配しなくても、リオン様はお菓子の腕を評価してくれることはあっても、下手だからって愛情を疑うような真似はしないよ」

「それは、分かってるけど……でも、リオン様にはお礼をしたいから」

 リアナが呟くと、なぜかティナが笑い始めた。


「……え、なに? あたしがなにか可笑しなことを言った?」

「可笑しな……って言うか、おかしいでしょ。お礼って……もう、私達はハーレム入りが決まっているんだよ。そこはお礼じゃなくて、愛を届けたい、でしょ?」

「そ、それは……そう、だけどぉ……」

 わりと、ガツガツ行くシスターズの中で、控えめなリアナは真っ赤になった。リアナがリオンに想いを寄せているのは明らか。だけど……「今回はお礼なの」とリアナははにかんだ。


「お礼って……なんのお礼?」

「うん。実は……ね。リオン様は命の恩人なの」

「恩人って……学生時代のこと?」

「それもだけど、もっと別のこと。もうずいぶんと前だけど、あたし達がミューレ学園に来る少し前に、インフルエンザが大流行したことがあったでしょ?」

「……うん、良く覚えてるよ」

「あの頃はインフルエンザなんて知らなくて、みんなから死を招く伝染病だって恐れられてた。そして、感染した人は、他の人に移さないように……って」

 今でこそ、感染しても死ぬ人は格段に少なくなったけれど、あの頃は老若男女関係なく多くの人が亡くなった。それを防ぐために、感染者を隔離、場合によっては焼き殺していた。


「もしかして、リアナは?」

「うん。あのとき、あたしもインフルエンザに感染してたの」

 だから、リアナがいまこうして生きているのは、リオンがインフルエンザ対策を領民に知らせてくれたから。リオンはリアナの命の恩人なのだ。


 だけど、実はリアナは最初、インフルエンザ対策を教えてくれたのがリオンだと知らなくて、いままでリオンにちゃんとお礼をすることが出来ずにいたのだ。

 だからこの機会にお礼をしようと、リアナはお菓子作りを頑張っている。


「そっか……リアナも一緒だったんだ」

「一緒ってことは……ティナも?」

「私の場合はミシェルお姉ちゃんだけどね」

「ミシェルさん……そうなんだ」

 ティナの年の離れた姉で、リオンの母親と同じ年頃なのだが……最近、リアナ達の後輩と結婚した。いまだに若々しいから、見た目的にはまったく違和感のない夫婦なのだけれど。


「みんな、リオン様に救われたんだね」

 リアナはシスターズのみんなのことを思い出しながら、しみじみと呟いた。

 アリス、クレア、ソフィア、リズ、ティナ、リアナ、シロ、マヤ、ヴィオラ、オリヴィアと、リオンのもとに集う全員が、口を揃えてリオンが恩人だという。

 もっとも、リアナがリオンに惹かれたのは、それだけが理由じゃない。ミューレ学園に通っていた頃から、リアナは何度も何度も、リオンに助けられていた。

 懐かしいなぁ……と、学生時代を思い出したリアナは呟いた。


「……つまりリアナは、リオン様にお礼をしたいから、マフィンを焼いているってこと?」

「うんうん、そうだよ」

 リアナが頷くと、なぜかティアは意地の悪そうな笑みを浮かべた。


「リアナって本当に素直じゃないよね。素直に、リオン様が大好きだから、あたしと一緒にお菓子も食べてって言えば良いのに」

「ちちちっ違うよ!?」

 思いが伝われば良いな……くらいは思っているリアナだが、さすがに自分がメインで、セットでお菓子なんて発想はない。だけど、もしも……なんて考えて真っ赤になる。


「なら、リオン様のこと、なんとも思ってないの?」

「それは……えっと、そんなことは、ないけど。でも、今回は本当にお礼が目的なの」


 今でこそ、グランシェス伯爵領の内政に携わるリアナだが、最初はなんの知識も力もない、ただの村娘だった。

 そんなリアナがグランシェス家にやって来たのは、飢饉で村がピンチだったから。食糧支援と引き換えに、若い子供を求めているという要請に応じてやって来た。

 リアナは、慰み者にされる覚悟だった。村や妹を救うために犠牲になるつもりだった。

 だけど、リオンに与えられたのは制服。

 転生者であるリオンや、その妹であるアリス。そして、そんな二人の影響を受けたクレアとソフィア、とんでもない能力を秘めた人達と出会い、様々な知識を与えられた。

 いまのリアナがいるのは、リオン達のおかげ。

 ――だから、これからもずっと、リオンの側に。

 そんな想いを胸に、リアナはマフィンが焼き上がるのを見つめた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新作】(タイトルクリックで作品ページに飛びます)
三度目の人質皇女はうつむかない。敵国王子と紡ぐ、愛と反逆のレコンキスタ

klp6jzq5g74k5ceb3da3aycplvoe_14ct_15o_dw

2018年 7月、8月の緋色の雨の新刊三冊です。
画像をクリックで、緋色の雨のツイッター、該当のツイートに飛びます。
新着情報を呟いたりもします。よろしければ、リツイートやフォローをしていただけると嬉しいです。

異世界姉妹のスピンオフ(書籍化)
無知で無力な村娘は、転生領主のもとで成り上がる

書籍『俺の異世界姉妹が自重しない!』の公式ページ
1~3巻好評発売中!
画像をクリックorタップで飛びます。
l7knhvs32ege41jw3gv0l9nudqel_9gi_lo_9g_3

以下、投稿作品など。タイトルをクリックorタップで飛びます。

無自覚で最強の吸血姫が、人里に紛れ込んだ結果――

ヤンデレ女神の箱庭 ~この異世界で“も”、ヤンデレに死ぬほど愛される~
精霊のパラドックス 完結

青い鳥症候群 完結

ファンアート 活動報告

小説家になろう 勝手にランキング
こちらも、気が向いたらで良いのでクリックorタップをお願いします。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ