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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第一章 自重しない異世界姉妹

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エピソード 3ー8 黒幕


 俺達は賊をやり過ごす為に、屋敷の一室に身を隠していた。部屋の外からは、廊下を駆け抜けるような足音が聞こえる。

 そいつらから逃れる為に息をひそめていると、押し殺していた様々な悲しみが襲い掛かってくる。

 父にキャロラインさん。それに屋敷で生活する人々。決して親しい間柄ではなかったけど、死んで欲しいと願うようなことは一度だってなかった。

 なのに、キャロラインさんは死に、父もその後を追った。使用人の遺体は見ていないけど、騎士の遺体はそこかしこに転がっている。

 どうしてこんな事になったんだろう……


「――リオン様」

 ふと気付けば、アリスが俺の顔を覗き込んでいた。

「リオン様、大丈夫ですか? 凄く辛そうなお顔ですよ?」

「平気だ、とは言えないけどな。大丈夫、悲しむのはここから逃げてからにするよ」

「……強いんですね」

「強くなんか無いよ。弱いから必死なんだ」

 俺が弱かったから、紗弥を悲しませた。俺が弱かったから、ミリィを、クレアねぇを、みんなを護れなかった。そして今も弱いから、何かを失うことに怯えてる。


「……やっぱり強いですよ。そうやって自分で全部抱え込もうとするところ、私の兄にそっくりです」

「アリスのお兄さんか。どんな人か気になるな」

「それじゃ、ここから無事に逃げられたら話してあげます」

「そっか……楽しみにしてるよ」

 それフラグっぽいと思ったけど、口にする事はなかった。もし口にしてしまえば、それが現実になってしまいそうな気がしたから。


「……っと、賊は通り過ぎたようですね」

「やっとか。周囲にはもういなさそうか?」

「ええ、もう近くに気配はありません」

 俺の問いに、アリスが明確な答えをくれる。

 アリスは気配察知の恩恵を持っているそうで、かなり正確に周囲の状況を把握している。お陰でここに来るまでにも何度も助けられた。

 アリスがいなければ、俺達はとっくに捕まっていただろう。


「よし、それじゃ急いで隠し扉のところまで向かおう」

 俺は念のためにとドアをそっと開けて外の様子をうかがう。アリスの言ったとおり、周辺に人はいない。

 俺達は慎重に――だけど可能な限り急いで、隠し扉のある二階廊下の突き当たりを目指した。


 その後、何度か賊と鉢合わせしそうになったけど、アリスのお陰で見つかることもなく、俺達は隠し扉がある場所へとたどり着いた。

「隠し扉は……これか」

 壁を調べて開け方を確認。どうやら簡単に開けることが出来そうだ。これで、この屋敷から逃げることが出来る。

 そう思って壁に手を伸ばした瞬間、廊下の向こうから男の叫び声が響いた。


「今のは……」

「ブレイク様の声ですね。場所は……曲がり角の向こうです。どうやら賊に捕まっているみたいですね」

「ブレイク、か……」

 父は先に逃がしたって言ってたけど、まだ屋敷に残ってたんだな。


「……どうしますか? わざわざ捕まえている以上、目的は尋問でしょうから、直ぐに殺したりはしないと思いますが……」

「そうだな……」

 尋問を受けてるって事は、当然そこには敵がいる訳で……

 アリスの尊厳を奪おうとしたブレイクの為に危険を冒すのは、底抜けのお人好しか、救いようのないバカくらいだろう。

 ――だから、俺は自分がバカなんだろうなと思ってため息をついた。


「アリス、悪いけど先に逃げてくれ。俺は、ブレイクを助けに行く」

「……呆れました」

「そう言わないでくれ。これ以上家族が死ぬのは耐えられないんだ。あんなのでも、俺にとっては兄だからな」

「そういう意味じゃありません。私はリオン様の奴隷なんですよ? リオン様をおいて逃げたりしたら、契約の刻印による痛みで動けなくなるに決まってるじゃないですか」

「――あっ」

 そう言えば、奴隷には主人の逆らえないように契約の刻印が刻まれてるんだっけ。最近はアリスが奴隷であることすら意識してなかったから、完全に記憶から抜け落ちてた。


「……忘れていたんですか?」

「いや、その、ごめん」

「まぁ良いですけどね。どのみち、私はリオン様についていくつもりですから。さっき呆れたのは、私を置いてこうとしたからです」

「……どうして、どうしてだよ? アリスにとってブレイクは……」

 自分を襲おうとした相手でしかない。なのにどうしてと問いかける俺に、アリスは苦笑いを浮かべる。

「彼は嫌いです」

「だったら、どうして」

「だって彼を見捨てたら、リオン様はずっと後悔するでしょ? そうしたら、あたしが幸せになれないじゃないですか。だから、助けに行くんですよ」

 考えたのは一瞬、直ぐにその意味を理解する。


「俺が後悔したら、アリスが幸せになれないのか?」

「……だって、一緒に幸せになろうって言ってくれたじゃないですか? それとも、嘘だったんですか?」

「いや、そんな事はないけど……」

 戸惑う俺に、アリスは今まで見たことのないような微笑みを浮かべた。

 それを見た瞬間、俺は顔が赤くなるのを自覚する。だけど、今は見とれてる場合じゃない。まずはブレイクを助けるのが先だと、その感情を隅に追いやった。



 そうして声が聞こえた方へと向かい、曲がり角の端から様子をうかがう。そこには騎士が一人。壁際に追い詰められたブレイクに剣を突きつけていた。

 幸いにして相手は一人。今ならこっちに気付いてないし、不意打ちで倒せそうだ。

「今から不意打ちを仕掛ける。アリスはいざって時の為に準備をしててくれ」

 俺は小声でアリスと最低限のやりとりを交わし、曲がり角の向こうへ。足音を押さえて賊の背後へと歩み寄る。

 その瞬間、俺を視界に収めたブレイクが目を見開き――俺を指差した。

「あいつだ、あいつがお前の探しているリオンだ!」

「ちょっ!?」

 あのバカッ!? 不意打ちの邪魔をするばかりか、俺を売りやがった! やっぱり助けに来るんじゃなかったと後悔するが後の祭り。

「リオン様、ようやく見つけましたよ」

 賊はゆっくりと振り返る。その声を聞いた瞬間、俺は別の意味で凍りついた。顔こそ覆面で隠していたが、その声に聞き覚えがあったからだ。


「……お前は、レジス?」

「ほう……良く声だけで判りましたな」

 レジスはそう言って覆面を取り払った。その顔は間違いなくレジス――スフィール家の執事だった。

「どうしてお前がここに居る!」

「貴方をお迎えに来たからです」

「俺を迎えにだって? なにが目的なんだ!」

「それは……」

「――おい、目的の相手は見つかったんだろ! なら、俺を解放しろ!」

 レジスの言葉を遮り、ブレイクが声を荒げる。

「おや、これは失礼しました。確かにもう貴方に用はありませんな。貴方の望み通り、解放して差し上げましょう」

「お、おぉそうか! なら、俺は立ち去るとしよう!」

 ブレイクはレジスの拘束から逃れ、嘲るように俺を見た。

「どうやってあの部屋から逃げたかは知らんが、残念だったなっ! やはり最後に笑うのはこの俺! 下賤なやからは、ここで惨めに殺されるのがお似合いだ!」

 ブレイクが傲慢に笑う。――そんな彼の背後、レジスが冷たい笑みを浮かべていた。


「……まさか、止めろ!」

 レジスの思惑に気付いて声を荒げる。だけどそれとほぼ同時、レジスは剣を一閃。ブレイクの首を斬り飛ばした。

 声もなく崩れ落ちる。それが俺の兄――ブレイクの最期だった。


「……なんで、なんで殺したんだ!?」

「彼が生きていたら困るからですな」

「……どういう意味だよ?」

「それはこの場では話せません。大人しく我々についてきて下さいますかな」

「俺は殺さないのか?」

「ええ、貴方には生きたまま、我々と共に来て頂かないと困りますので」

「……断るって言ったら?」

「力尽くで従って頂きましょうっ!」

 レジスが答えた瞬間、一気に距離をつめてくる。

 ――早いっ。不意打ちを予想していてもなお、反応できるぎりぎりの速度。

 俺はレジスの一撃を、かろうじて持っていた剣で受け流した。だけど、その威力に剣を持って行かれそうになる。


「ほう、素晴らしい反応速度ですな! だが惜しいっ。その体では力が足りますまい!」

「――ぐっ!」

 続けざまに放たれた一撃を打ち払い、返す刀を受け止める。だけど、レジスの言うとおり体格差は明らかで、俺は剣をはじき飛ばされてしまう。

 そして気付いた時には目前に剣の切っ先があった。


「終わり、ですな。大人しく我らに同行して頂きましょう」

「……どうして俺を必要とする? 誰の命令だ?」

「わたくしからはなにも申し上げられません。ですが、悪いようにはしないとだけ言わせて頂きましょう」

「……悪いようにはしない、だって?」

 俺はレジスの背後に視線を向ける。そこには、ブレイクの遺体があった。

 そして俺の脳裏には、父やキャロラインさんを初めとした、グランシェス家の人々の無残な姿が焼き付いている。レジスの言葉を信用なんて出来るはずがない。


 俺は素早く意識を集中。周囲の魔力素子(マナ)を右腕に集めて魔力へと変換していく。直ぐに魔力を帯びた右腕が淡く蒼い光りを纏う。

「――それはまさかっ! その年で魔術まで使うというのですか!?」

 レジスが反射的に飛び下がる。俺はそれに合わせて右腕を――振るうことなく、後ろに飛び下がった。

 俺がアリスに教えて貰ったのは魔力の制御だけ。肝心の魔術は何一つ教えて貰ってないからな。今のは、距離を取る為のハッタリだ。


「アリス!」

「――はいっ!」

 俺の思惑を察したアリスが、天井と床に一つずつ油壺を叩き付ける。壺は難なく砕け、一つは廊下に広がり、もう一つはレジスへと降りかかった。

「ぬっ、これはっ!」

 即座に飛び下がるレジス。それとほぼ同時、アリスは持っていたランタンの炎を油の広がる廊下へと落とす。それは即座に燃え移り、廊下を火の海へと変えた。


 火の海――と大げさに言ったけど、実際には腰の高さ程度の炎でしかない。けど、レジスは油を被っている。

 急いで飛び越えれば、炎は燃え移らないかも知れない。けど、もし燃え移ったら――その考えがレジスを躊躇わせる。

 そうしてレジスが迷った僅かな隙、俺達は即座に身を翻して逃亡。そのまま隠し通路へと飛び込み、階段を使って二階から一気に地下へ。

 屋敷の外へと逃げ出す事に成功した。


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