エピソード 2ー2 理不尽な客観的評価
結婚式の準備や、ザッカニア帝国に届ける深井戸対策のあれこれ。そんなあれこれに追われるある日、セルジオに相談に乗って欲しいと頼まれた。
――という訳で、セルジオを連れてやって来たのは足湯メイドカフェ『アリス』。メイドな店員さんと化したリズに案内されて、VIPルームへとやって来た。
「ご注文はお決まりですか?」
「僕はパフェとクリームソーダを頂きます」
リズの問いかけに対して、セルジオが即答する。なんか、どこかで聞いたような組み合わせだけど……最初から決めていたのだろうか?
「リオンお兄様、ご注文はなんにいたしますか?」
おっと、人のことを気にしてる場合じゃないな。いつものセットは……アカネと来たときに食べたばっかりだしな。たまには違うものを食べたいなぁ……
「なあ、リズのお勧めとかあるか?」
「そうですわねぇ……リオンお兄様限定のスペシャルセット。可愛い姫メイドの義妹と足湯に浸かりながら食す、デラックスパフェとホットミルクティーなんていかがですか?」
「……それは、リズが仕事をさぼってパフェを食べたいだけじゃないのか?」
「まあ、酷いですわ。わたくしは、リオンお兄様と一緒に、デザートを食べたいって思っただけですのに」
「はいはい、そういうことにしておくよ。でも、今日はセルジオと話があるから、一緒にパフェを食べるのはまた今度な。と言うことで、今日はいつものセットにしておくよ」
「む~約束、ですわよ」
リズは可愛らしく唇を尖らせたあと、「少々お待ちくださいですわ」と立ち去っていった。
「さて……さっそくだけど、話って言うのは……なんだよ?」
セルジオに視線を戻すと、物凄くなにか言いたげな顔で見られていた。
「ナチュラルにイチャついて、本気で爆発してくださいっ」
「またそれかよ……言っておくけど、俺はアリスとクレアねぇとソフィアの三人と結婚するんだ。リズとは別にそういう関係じゃないからな?」
「もはや、どこから突っ込めば良いか分からないレベルで殺意が湧いたので、本気で爆発してください。マジで、羨ましすぎなんですよ!」
「まぁ……否定はしないけどな。でも、色々と苦労もあるんだぞ?」
「ぎりぎりぎり……」
擬音で怒りを表されてしまった。なんか逆効果そうだから、素直に受け流しておこう。
まあ……セルジオの気持ちも分かる――と言うか、半分以上はわざとだ。種族間のしがらみから、みんなの目をそらさせるために、あえて怒りのぶつけ先となった。
あれから、ついついセルジオを煽るクセがついてしまったのだ。
「まあ……冗談はともかく」
「いえ、僕は本気で爆発して欲しいんだけど」
「……相談があったんじゃないのか?」
話がループしそうだったので、相談がないなら帰るぞと釘を刺す。
「そ、そうでした、すみません。実は、リオン様に爆発して欲しいのと、無関係ではないと言いますか、なんと言いますか。それで少し頭に血が上っていたようです」
「……ええっと、どういう意味だ?」
セルジオが、俺の境遇を羨ましがるのは今に始まったことじゃないけど、本気で爆発して欲しいので、どうしたら良いですか? とか、相談されても困るぞ。
「えっと、その前に確認したいんですが……リオン様って巨乳派ですよね」
「……ええっと、真面目な話なんだよな?」
「もちろん、大真面目な話ですよ!」
「そ、そうか……」
巨乳派か貧乳派かって会話が、真面目な話とは思えない……って、どこぞの侯爵様達も、大真面目に議論していたな、そう言えば。
「そうだな……本音を言えばどっちでもないつもりだ。強いて言えば……美乳派かな」
「嘘です!」
「えぇ? 嘘と言われても……事実だぞ?」
「でも、アリスさんスレンダーなのにむちゃくちゃ胸が大きいですし、クレア様はスタイル抜群で胸も大きいですし、ソフィア様はロリ巨乳体型ですよね?」
「まぁ……そうだけど」
その辺りは事実なので、素直に頷いておく。
「更に言えば、シスターズ。リオン様の妾候補の皆さんですが、オリヴィア様だってスタイルは良いですし、リーゼロッテ様はむっちりとした体格。それに、ティナさんやリアナさんだって大きい部類じゃないですか」
「いやまぁそうだけど……マヤちゃんやシロちゃん、それにヴィオラは大きくないだろ?」
「あれだけ子供なら当然じゃないですか――というか、現時点では小さいですが、将来が楽しみなほどあるじゃないですか」
「ま、まあ……そうかもな」
「そして極めつけ、唯一貧乳だったエイミーさんだけが、シスターズから離脱しているじゃないですか!」
「おぉ……たしかに」
そんな風に理路整然に言われると、俺が巨乳好きに聞こえるなぁと思った。
「どうです、反論の余地はないでしょう?」
「いや、反論の余地もなにも、ただの偶然だから」
「そんな言い訳が通用すると思っているんですか?」
「言い訳じゃないんだけどなぁ……」
巨乳だからアリス達を選んだわけじゃない。選んだ相手が巨乳だっただけである。
その辺りを語り出すと長くなるので割愛。俺はセルジオに、「取り敢えず、俺が巨乳好きかどうかがなんだって言うんだ?」と尋ねた。
「もし、リオンさんが貧乳でもいけるというのなら、折り入ってお願いがあります」
「……ええっと、なんか、前フリがすっごく嫌な感じだけど……取り敢えずは、そのお願いを言ってみてくれ。聞くかどうかはそれから考えるから」
「分かりました。では、単刀直入にお願いします。理由を聞かずに、アカネさんをシスターズに……いえ、リオンさんの妾にしてあげてください」
「…………………………はあ?」
なぜそんな話にと、俺は首をかしげる。アカネと言えばつい先日、セルジオに思いを寄せていると打ち明けてくれたばかりである。
それなのに、そのセルジオが、俺にアカネを妾にしろって……なんだろう。アカネの想いに気付いて、迷惑だから他の男とくっつけようとか……いや、まさかなぁ。
「一応聞いておくけど……アカネが嫌いとか、そういう感じなのか?」
「なにを言うんですか! 彼女は素晴らしい商人ですし、尊敬しています! それに、女性としても気遣いが出来て、優しくて、その……とても魅力的です。それなのに、嫌いだなんて、そんなことあるはずないじゃないですか――っ!」
「お、おう……」
物凄い勢いで詰め寄られて俺はタジタジである。
と言うか、この反応……
「なあ……もしかして、だけど」
「言わないでください!」
「いや、でも、セルジオはアカネが好きなんだろ?」
「――っ、どうして言っちゃうんですか!?」
「どうしてもなにも、バレバレの反応だったし」
「うぐ」
反応がわかりやすすぎる。けど、だからこそ分からない。セルジオがアカネを好きなら、なんで俺とアカネをくっつけようとなんてするんだ?
相手がリアナとかティナなら、俺を好きなのは周知の事実だから、俺に幸せにしてやって欲しい――なんて言うのもまぁ、理解は出来なくもない。
けど、アカネはもう長い付き合いなのに、シスターズにだって入ってない。頭角を現し始めた当時は、女として俺に取り入ったなんて噂もあったけど……うぅん、分からないな。
「なあ、なんで俺とアカネをくっつけようなんて思ったんだ?」
「だから、リオンさんは巨乳好きでしょ?」
「いや、だから違うし。と言うか、アカネは貧乳じゃないか」
俺が巨乳好きなら、ますます貧乳のアカネを妾にする理由がない。
なお、実際は巨乳好きではないので、アカネが貧乳だから選ばなかったわけではない。ただ単純に、アカネとは男女の関係ではなく、友人のような関係でいたいだけの話だ。
なんてことを考えていたら、セルジオがなにやら思い詰めたような面持ちで俺を見た。
「リオンさんは、ここ数日、アカネさんに会いましたか?」
「少し前には会ったけど、ここ数日はあってないな。なにかあったのか?」
「在ったと言うか、盛ったというか……」
「……はい?」
「ですから、アカネさんの胸が日に日に膨らんでいるんです」
「……ええっと」
それはたぶん、高性能な寄せてあげてのブラや胸パットの効果だと思うんだけど、もし自然に育っていると思っているのなら、俺からバラすわけにはいかない。
どう答えればいいかと言葉を濁した。
「たとえ成長期だったとしても、あんなに急激に育つはずがありません。恐らくは、自然な感じで胸を大きく見せるパットかなにかを開発したのでしょう」
「あぁ、うん。そうだろうな」
気付いてたのなら安心だとホッと一息、俺は同意する。だけど、そんな俺の反応に対し、セルジオは表情を険しくした。
「ここまで言っても分からないんですか? リオンさんは、みんなから――アカネさんから、巨乳好きだと思われているんですよ?」
「だから、俺は別に巨乳好きじゃ……って、アカネから?」
待て待て、ちょっと待てと、俺は状況を確認する。アカネは、セルジオが巨乳好きだと思った結果、胸を盛る研究を開始した。それは、アカネがセルジオに惹かれているからだ。
だけど、俺が巨乳好きだと思っているセルジオは、アカネの行動が俺を振り向かせるためだと思って、俺に受け入れて欲しいと言いに来た。
その理由は、セルジオがアカネに惹かれていて、幸せになって欲しいと思っているから。
……なんと言うすれ違い。
お前ら両思いだよっ、さっさとくっついちゃえよ! ――って言えば話は早いんだけど、こういうケースは、本人達が自分で気付くまで見守るのがセオリーなんだよな。
「お前ら両思いだよっ、さっさとくっついちゃえよっ!」
まあ、俺はそんなセオリーにはこだわらないので、さっさとバラしちゃうのだけど。
「……は? な、なにを言っているんですか?」
「だからさ。アカネが巨乳好きだと思ってる相手に振り向いて欲しいから、胸を盛ってるのはセルジオの予想通りだけど、その相手が俺だって言うのは間違いだって話だよ」
「……い、意味が分からないんですが?」
「ふむ。なら、さっきのセリフをそっくりそのまま返そう。ここまで言っても分からないのか? セルジオはアカネから、巨乳好きだと思われているんだ」
俺がそういった瞬間、セルジオの目がかつてないほどに見開かれた。
「そ、それは、まさか……」
「さぁな。その先は、自分でたしかめるべきだと思うぞ」
セルジオの誤解は正したけれど、アカネの想いを勝手にバラすほど無粋じゃない。いや、さっき両思いだとか言っちゃった気もするけど、確認は本人にしてもらおう。
アカネはもちろん、セルジオも今ではミューレの街になくてはならない人物となりつつある。二人がくっつけば、俺としても喜ばしい。
――なんて考えていたのだけど、なぜかジト目で睨まれた。
「……なんだ?」
「いえ、その……一つお聞きしたいんですが、アカネさんは、なぜ僕が巨乳好きだと思ったのかなと思いまして。……なにか、知りませんか?」
「あぁ……それは、たぶん……」
「……たぶん?」
「セルジオにアリスやソフィアと婚約してると教えたとき、むちゃくちゃ羨ましがってたって話をしたから……じゃない、かな……?」
言って、さり気なく視線を逸らす。
直後、言いようのない沈黙がその場を支配した。
「…………お、思いっきり、リオンさんのせいじゃないですか!? どうしてくれるんですかっ、よりにもよって貧乳のアカネさんに、僕が巨乳好きだと思われたじゃないですか!」
「さらっと毒を吐いたな」
たしかにアカネは貧乳だけれど。
「と言うか、セルジオが羨ましがったのは事実だろ?」
「いやまぁ……そうですけど。別に、巨乳だから羨ましがったわけじゃないですよ。と言うか、あれだけの美少女が相手なら、誰だって羨ましがるでしょう?」
「そうだろうけど。と言うか、俺だってそれは同じだ。別に巨乳だから婚約したわけじゃなくて、アリス達だから婚約したんだぞ?」
俺の苦労をちょっとは味わえと笑ってやる。
「……なるほど。たしかに、理不尽ですね。リオンさんの気持ちがよく分かりましたよ」
「だろ?」
「でも、それとこれとは話が別です。アカネさんの誤解が解けるように協力してください!」
「それはもちろん」
「ホントですね!? 嘘だったら、リオンさんが実は貧乳好きだって噂を流しますからね!」
「ちゃんと協力するからそれだけは止めてくれ」
アリス達は信じないと思うけど、色々面倒なことになるに決まってる。
俺としても、アカネには幸せになって欲しいし、セルジオにもまぁ……幸せになって欲しいと思わなくもない。と言うことで、俺はアカネの誤解を解くことを約束した。
今年最後の投稿です。
年明けの一日には、無自覚吸血姫の最新話。それに異世界ヤンデレの閑話をアップいたします。そしてそれと同時に活動報告にて、来年の予定をお知らせもいたします。よろしければご覧ください。
今年一年、ありがとうございました。皆さんよいお年を。
来年もよろしくお願いいたします。






