エピソード 1ー2 希望の谷
結婚式の準備はティナに依頼したけれど、他にもやることはたくさん残っている。
まずは、イヌミミ族と人間の関係。前回のあれこれでかなり関係が改善されたとは言え、わだかまりが完全になくなったとは言いがたい。
特に、シロちゃんの件が心配だ。時間をつくって、様子を見る必要があるだろう。
そして他にも、鉄道馬車用のレールを設置作業に、医療技術のあれこれ。アルミニウム生成の研究に、植林の進捗状況の確認などもしなくてはいけない。
と言うことで、それらを任せているアカネを、足湯メイドカフェ『アリス』に呼び出した。
「……にーさん、そんなに足湯でメイドさんにちやほやされたいなら、自分の屋敷でちやほやしてもらったらえぇんと違うの?」
「屋敷じゃ、シロちゃんが働いてないからダメだ」
メイドカフェはメイドさんにおさわり禁止で、シロちゃんをモフれない。けれど、グランシェスのお屋敷ではシロちゃんがいない。
イヌミミ足湯メイドカフェを楽しむには『アリス』に来るしかないのである。
「わふぅ、リオンお兄さん、ボクのこと呼んだ?」
ちょうど注文を取りに来ていたのだろう。入り口が開きっぱなしだったvipルームの入り口に、シロちゃんが顔を出した。天然のイヌミミに可愛らしいメイド服。ここでしか見られない、至高のイヌミミメイドである。
「シロちゃん、今日も元気そうだな。学校でみんなと仲良く出来てるか?」
「うん、リオンお兄さん達のおかげで、みんなボクに良くしてくれるよ!」
「そかそか、それは良かった」
「えへへ、ありがとうね。……それで、ご注文は決まった?」
「えっと……そうだな、アカネは?」
俺は、向かいの席に座るアカネに問いかける。
「うちは、パフェとクリームソーダで」
「アカネお姉ちゃんは、パフェとクリームソーダだね。じゃあ、リオンお兄さんは?」
「俺はショートケーキとミルクティーそれに、シロちゃんモフモフセットで」
「リオンお兄さんはショートケーキとミルクティーだね」
「あと、シロちゃんモフモフセット」
スルーされたので言い直すと、シロちゃんがぷくぅっと頬を膨らませた。
「もぅ~ダメだよ、リオンお兄さん。お店でおさわりは禁止なんだからね? リオンお兄さんがそういうこというと、そういうサービスがあるって誤解しちゃう人がいるかもでしょ?」
「……すまん」
まだ十歳にも満たないシロちゃんに諭され、俺はわりと本気で謝った。けれど――そのシロちゃんが、周囲を見回し、俺の耳元に口を寄せる。
「その代わり、お屋敷でなら一杯、ボクのこともフモフしてくれて良いから。ボクも、リオンお兄さんにモフモフされるの、大好きだから、ね?」
耳元で言われてぞくりときた。
「えへへ、それじゃ、注文を承りました~」
シロちゃんは元気に微笑んで、オーダーはいりまーすと厨房へと向かって行った。その姿を見送って、正面に視線を戻すと……アカネが、なにか言いたげな顔をしていた。
「どうかしたのか?」
「いや、なんちゅうか……シロちゃんが罪作りなんか、にーさんがあれなんか。と言うか、アリスさん達に報告するべきか否か……と」
「アリスに言うのは止めてくれ。羨ましいって恨み言を言われる」
「……そっちか。まあ、考えてみたらそうなんやろうね」
なぜか呆れられてしまった。
「それで、うちを呼び出したんはアルミニウムの件か? それやったら申し訳ないけど、研究の進捗は芳しくないよ」
「あぁうん。その辺りも含めて、こっちから良いニュースを持ってきた」
「……もしかして、またなにか革命を起こすつもりなんか? 経済に影響を及ぼすような時は、事前に教えて欲しいんやけど?」
なんかつい最近も聞いたようなセリフに、俺は思わず苦笑いを浮かべる。
「そう思ったから、事前に伝えに来たんだぞ?」
「はは……経済に影響を及ぼす革命なのは確実なんか。相変わらずやねぇ。それで、今度はどんなとんでもない技術を発明したん?」
「俺は伝えに来ただけで、発明したのはアリスだぞ?」
「にーさんたちは、四人纏めていつもやらかしてるからねぇ……」
なんか、セット扱いされてしまった。……あんまり否定できない気がするけど。
「発明した技術って言うのは、スイッチでオンオフ出来る紋様魔術だ」
「え、それはほんまなん?」
「ああ、アリスが言うには、多少は大きくなるけど可能らしい」
「それはまた……とんでもない技術やね」
アカネは商会長をしているだけあって、すぐさまオンオフできる紋様魔術の有用性に気付いたらしい。目を大きく見開いている。
だけど、驚くのはこれからだ。
「実はもう一つあって、紋様魔術を複数人で起動することも可能になりそうなんだ」
「それは……もしかして、出力があがるちゅーことか?」
「うん、そういうこと」
紋様魔術のメリットは、魔術を使えない人間でも起動できること。
そしてデメリットは、所持すると勝手に持ち主の魔力を消費して起動してしまうことと、出力が低くて効果が弱いこと。
だけど、スイッチがあればオンオフは自在だし、出力があがれば魔術師と同じような高出力――とまではいかずとも、いままでよりはぐっと使用の幅が広がる。
例えば、ホールに集めた人達から魔力を少しずつ集めて、高出力の紋様魔術を起動する、なんてことも可能になる。
工場に大きな紋様魔術を設置して、作業員達の魔力を集めて電撃の魔法を起動。ボーキサイトからアルミニウムを取り出すのに一役――なんてことも夢ではない。
他にも水道やポンプ、部屋の明かりなどなど、身近なところでも使い道はいくらでもある。
しかも、公害を発生せず、人々が自然界にある魔力素子から無意識下で変換する魔力を使うだけのクリーンなエネルギー。
地球で人類が電気を手に入れたとき以上の革命が起きるだろう。
「はぁ……それにしても、うちが生まれた頃は、飢饉やなんやって大変やったのに……いつの間にかとんでもない世界になってきたなぁ」
「悪い方向には進んでないだろ?」
「まぁ、な。せやけど、子供の頃の自分にいまの状況を教えても、絶対信じへんと思うわ」
「そうだろうなぁ」
俺にとっては、不便だったこの世界が、地球の技術に少し近づいたと言うだけの話。だけど、この世界に生まれ落ちて二十年と掛からずに、ここまで来るとは思っていなかった。
アリスやクレアねぇやソフィア。シスターズのみんなが自重しなかったせいだと思う。
「……なんやいや、自分だけ一般人、みたいなこと考えてなかったか?」
「ん、俺は普通の転生者だぞ?」
「よう言うわ」
呆れられてしまった。たしかに俺もやらかした記憶はあるけど、アリスやクレアねぇやソフィアの方が何十倍もやらかしてると思うんだけどな。
それはともかく――
「アリスの研究している紋様魔術が完成すれば、各種研究なんかもはかどると思うんだ」
アルミニウムの生成はもちろん、医療技術の研究設備も整う。いままでは不可能だったことが、出来るような環境が増えていくだろう。
「つまり……いまは無理して研究を進めるより、紋様魔術が完成したときの後を考えて準備した方が良い……ちゅうことか?」
「話が早くて助かるよ。特に医療技術の研究所と、ボーキサイトの製錬施設は、大型の紋様魔術を取り入れて建て替えることになると思う。……後ついでに、俺のお屋敷も」
ぼそっと付け加えたのに、はぁ? と言う顔をされてしまった。
「なんやいま、お屋敷を建て直す、いわへんかったか?」
「建て直すとは言ってないぞ。子供達が育つための屋敷を新しく建てるって言っただけだ」
「似たようなものやん。……いやまぁ、お金は余ってるんやろうし、別に文句を言うつもりはあらへんけど……もしかして、家族だけの屋敷を作るつもりなん?」
「うん。使用人には住んでもらうつもりだけどな。今は職場と家が一緒という状況だから、分けようかなぁとは思ってる」
これからは、アリスだけではなく、クレアねぇやソフィアともイチャつく予定である。そうなると、シスターズの前で……というのはさすがに申し訳ないと思うのだ。
という訳で、家族が住む屋敷を建てると伝えたのだが……
「うん、まぁ……にーさんがそう思うのは自由やけどね。実際にはそうならへんのと違うかなぁって、思うんやけど……まぁええか」
なんだか、デジャブを感じる言い回しである。
だけどまぁ……子供達のために自重をするつもりはない。どんな手段を使っても、家族がのんびり、幸せに暮らせる屋敷は完成させてみせる。
「それで、にーさんの話は以上なんか?」
「そうだな……あぁそう言えば、鉄道馬車の進捗はどうなってるんだ?」
「レールはおおむね敷き終わってるよ。にーさんがいつ結婚式を挙げるつもりなんかしらへんけど、その頃までには完成してるんとちゃうかなぁ」
「そっか、それはちょうど良いな」
王都とグランプ侯爵領方面の鉄道馬車が開通すれば、式への参加者を呼ぶハードルが下がる。貴族を中心とした、必要な人達を中心に呼ぶつもりだったけど……今までに関わった人達を呼ぶのも良いかもしれない。
――と、今度こそ俺の話は終わったのだけれど、アカネがそうしたら今度はこっちの番やねと切り出した。なにやら、かしこまった態度で、アカネにしては珍しい。
俺は、なにかあったのか? と首を傾げた。
「いや、特に問題が発生したとか、そういう話やないんよ。ただちょっと、たまには世間話をしてもええんとちゃうかなぁと思うて」
改まった態度で世間話って、明らかに不自然だ。
なんか話しにくい内容なんだろうか? よく分からないけど……アカネには散々世話になっているからな。それとなく会話を合わせて話を聞いてみよう。
「世間話……って、例えば?」
「え? そ、そうやね。例えば……フルフラット侯爵とグランプ侯爵は、ツルペタ幼女派とロリ巨乳派なんやよね?」
「……ま、まぁ……そうだけど?」
「じゃあ、例えば……一般的には、どっちの派閥が強いと思う?」
「はぁ……?」
どうしよう。アカネがなにを言いたいのかまったく分からない。
いや、本当にただの世間話で、ツルペタ幼女とロリ巨乳について議論したいだけかもしれないけど……って、そんな馬鹿な。からかわれているのだろうか?
なんて思ったりもしたんだけど、アカネはどこか必死な面持ちだ。
「……よく分からないけど、どっちが強いかは微妙なところじゃないか? つまり、五分五分くらいだと思うんだけど」
「そうか……」
なにやらがっかりしている。マジでよく分からないけど、俺の答えはアカネが望んでいる物とは違うみたいだ。
「なぁ、アカネはなにが知りたかったんだ?」
「それは、その……。~~~っ。そんなん、恥ずかしくて言われへんわ」
ア、アカネが、両方の手のひらを頬に当てて身もだえた――だと!? なんだ、なにが起きてる。明日は異世界転移者でも降ってくるのか?
ん~なんか知らないけど、俺に相談したいって感じなのかなぁ? 珍しく乙女なことを考えると……まさか、恋の悩みとか、そういう感じ、か?
うぅん……
「そう言えば、トレバーがイヌミミ族に執心だったな」
あくまで世間話の体を為して、心当たりの名前を口にしてみるが――
「あぁ、トレバーなぁ。イヌミミ族の女性と仲良くしてるみたいやよ」
アカネは特に取り乱すことなく、普通の態度で答えた。……って、
「はああああああああああああああ!? トレバーが、イヌミミ族の女性と仲良く!? マジ!?」
「マジみたいやよ。ほら、トレバーがナンパして、イヌミミ族の女性にボコボコにされたやろ? あの相手と仲良くなったみたいやよ」
「ほほう……」
詳しく聞くと、価値観の違いを知って、自分がやらかしたと知ったイヌミミ族の女性が、謝罪のためにトレバーを訪ねた。それが切っ掛けで、二人は仲良くなったらしい。
なにそれ、聞いてないんだけど! と言うか、イヌミミ族の女性と仲良くなんて、いつでもモフり放題じゃないか、羨ましい。
……いや、今はそれは問題じゃない。問題なのは、アカネがその話を、とくに動揺することもなく話したと言うこと。
俺とアカネに共通する相手と言えば、他には……
「そう言えば、セルジオは頑張って――」
みなまで言うことは出来なかった。アカネが水の入ったコップをひっくり返したからだ。と言うか、顔が目に見えて赤くなっている。
「きゅ、きゅうに、なに言い出すの!? そんな話されたら、うち、驚いてしまうやん」
……なに、この乙女。アカネって、こんなキャラだっけ?
かなり意外だけど、この反応は間違いない。アカネにも春が来たと言うことで、その相手はセルジオと言うことだろう。
「はぁ……まさか、アカネがなぁ」
「みなまで言わんといて。うちかて、似合わへん言うのは分かってるから」
「いや、別にそんなことは言わないぞ。意外だとは思うけど、乙女でも良いんじゃないか」
意外だとは思うけど――と、心の中でもう一度繰り返す。
「はぁ……恥ずかしいわぁ」
「それで、そんな恥ずかしい思いまでして俺にその話を振ったのは、セルジオと結婚したいとか、そういう話なのか?」
「け、結婚!? そ、そんなん、気が早すぎるわ! なんてこと言うんよ!?」
「そ、そうか。すまん」
……なんと言うか、凄く調子が狂う。俺は自分のペースを取り戻すために咳払いを一つ。
「それじゃ、俺になにを聞きたいんだ?」
「それは、その……な? セルジオがごにょごにょ」
アカネは自分の身体を抱きしめて、恥ずかしそうに呟いた――が、肝心の部分が聞こえない。俺は「すまん、聞こえなかったからもう一回言ってくれ」と促した。
「あぁもうっ! せやから、セルジオが好きなのは貧乳と巨乳、どっちやと思う? って聞いてるんよ!」
「あぁ……」
自分の身体を抱きしめているのではなく、貧乳を腕で隠していたのか。なんと言うか……恋する乙女はここまで変わるんだな。
……いや、アリス達で十分理解していたつもりなんだけど。みんな積極的な方向に代わってたから、こんな風に変わるのを見るのは初めてかもしれない。
「それで、どうなん?」
「……え?」
「せやから、セルジオはどっちなんって」
「あぁ……どうかなぁ。直接そういう話をしたことはないからなぁ。セルジオの好みは知らないんだけど、でも………………いや、なんでもない」
「ちょ、そんな風に言われたら、気になるやん」
「……そうだよな、すまん」
思い出しながらしゃべっていたので、思わず余計なことを口にしてしまった。
「……気になるから教えてぇな」
少し思い詰めたような表情。俺が飲み込んだセリフが、アカネにとって良くない内容だとバレているのだろう。こうなったら、隠せば隠すほどアカネが思い詰める。
そう思ったから、俺はさっさと口にすることにした。
「別に大した話じゃないんだけどな。セルジオと出会ったときに、同行してたアリスやソフィアを婚約者だって紹介したら、むちゃくちゃ羨ましそうだったなぁって」
なお、アリスはスレンダーな巨乳で、ソフィアはロリ体型の巨乳である。もちろん、アカネはそれを知っているので、テーブルの上にバタリと倒れ伏した。
「おまたせ~、アカネお姉ちゃんのパフェとクリームソーダ。それにリオンお兄さんのショートケーキと、ミルクティーだよ! ……って、アカネお姉ちゃん、どうかしたの?」
部屋にやって来たシロちゃんが、生ける屍と化したアカネを見て可愛らしく首を傾げる。銀髪がふわりと揺れ、ついでふわふわの尻尾も揺れる。
凄く……モフりたい。ここはvipルームだし、他の客に見られることもない。頼み込めばモフれそうな気はするけど……さすがに、アカネをこの状況にはしておけない。
今まで世話になったアカネが心配――と言うのももちろんあるけど、アカネがこんな調子では、流通やら研究やらが滞りそうだからな。
とは言え、アカネの乙女な悩みをシロちゃんに教えるのはあれなので、俺は大丈夫だから気にしないでくれと、シロちゃんに下がってもらった。
「アカネ、ショックなのは分かるけど……たぶん大丈夫だぞ?」
「そんな安っぽい慰めで、うちが立ち直れるとでも思うん?」
「いや、慰めとかじゃなくてさ。俺の周囲の子は巨乳が多いけど、別に貧乳でも可愛さは損なわれないと思うんだよ」
「……のろけかいな」
「いや、そうじゃなくて。アリスやソフィアが貧乳だったとしても、セルジオは羨ましがったんじゃないかって話だ」
「……その根拠は?」
「根拠? ええっと……あぁ、そうだ。セルジオと出会ったとき、俺達はローブを羽織っていたんだ。だから、巨乳かどうかは分からなかったと思うぞ?」
嘘である。アリスもソフィアも、ゆったりとしたローブの上からでも分かるくらいの豊かな胸の持ち主である。ローブが紋様魔術の刻まれた高級品であることまで見抜いたセルジオが、アリス達の体型に気付いていなかったとは考えにくい。
とは言え、貧乳だったとしても――というのは本心だ。惚気るつもりはないけど、彼女達の胸があと5センチ小さくとも、歴史が変わっていたりはしなかっただろう。
そもそも、服を着てる状態なら、胸のサイズをごまかす方法くらいいくらでも……
「あ、そうだ」
俺は前世の世界にあった、貧乳の強い味方を思い出した。そんな俺の態度から、希望を見いだしたのだろう。アカネが起き上がり、テーブルに手を突いて身を乗り出してきた。
「なんやの? なにを思いついたん!?」
ずずいと迫り来る。アリスがその体勢を取った場合、俺の視界にどどんと胸が映るのだけど、アカネの場合はお腹までがストンと……いや、なんでもない。
「俺の前世の世界でも、胸を大きくしたいという女の子は多くてな。大きく見せるという技術は凄く発展していたんだ」
実際にはその逆もしかりで、胸を小さく見せるブラなんかも存在していたわけだが……さすがに、今のアカネにそれを言う勇気はない。
「大きく見せる技術やって?」
「ああ、大きく見せる技術だ」
実際に大きくする豊胸手術はさすがに無理だから口にはしない。
と言うか、アカネに教えたらその研究に没頭して、ミューレの街の流通が崩壊しそうだから、間違っても口には出来ない。
「大きく見せるって……布をブラにつめるとか、そういうことやろ? その程度じゃ、ぱっとみは分からんでも、ちょっと動いてるところとか見られたらまるバレやろ?」
「いや、技術が発展してたっていっただろ。アカネくらいの胸のサイズでも、頑張ればキャミソールで胸の谷間を見せるくらいは可能だぞ?」
「……なん、やて!?」
事実である。Aカップくらいの女の子が、胸パットとワイヤー入りの寄せてあげるブラを併用して、脇のお肉を持ってくれば、Cカップくらいの谷間が完成する。
もっとも、ワイヤー入りのブラでぎゅうっと締め付けることで、身体にブラの痕がくっきり残ってしまうので、常用するのはお勧めしない。
ちなみに、俺がそれに詳しいのは、アリスの前世――紗弥が貧乳だったからである。
その紗弥はこの世界では巨乳だし、シスターズもほとんど巨乳なので、そっち方面の開発はしていないみたいだけど、アリスならたぶん詳しく知っているだろう。
――という話をアカネに伝えた。
「お、おぉ……うちに、うちにも希望が! 谷間が出来る希望があるんかっ!」
アカネが感激のあまり、一筋の涙をこぼす。……そこまで切羽詰まっていたか。
本音を言えば、セルジオはアカネと同じ商売人で、ミューレの街の流通を取り仕切るまで成り上がったアカネを尊敬している節がある。
もしセルジオが巨乳派だったとしても、アカネを憎からず思ってるとは思うんだけど……まあ、完全に恋する乙女状態だからな。アカネには胸パットで自信を得てもらおう。
凄くどうでも良いことですが、サブタイトルは『希望の谷』ではなく『希望の谷 』となっております。






