エピローグ
自分とアリスのために開催された誕生パーティーの会場。俺はクラスメイトとおしゃべりしているシロちゃんを遠目に眺めていた。
結果的に言えば、シロちゃんは元気を取り戻し、無事にコンサートを終えた。
シロちゃんの周りに人が集まったとは言え、それはシロちゃんの人脈が目当てな人間がほとんど。相手の嘘を見抜けるシロちゃんなら、そのことに気づいているだろう。
だけど、それでも、みんなと仲良くする切っ掛けが出来て嬉しいと、シロちゃんはみんなに積極的に話しかけている。まだまだ困難はこれからだけど、シロちゃんなら大丈夫だろう。
「リオン。十七歳の誕生日、おめでとう」
「ありがとう。アリスも……誕生日おめでとう」
俺は十七歳だけど、アリスは八歳年上。なんとなく言い淀んだら、ほっぺたをむにょんと引っ張られた。
「ちょっとリオン? エルフは人間と年の取り方が違うんだからね?」
「いやまぁ、それはよく分かってるよ」
出会った頃は、年上のお姉さんという感じだったけど、まったく外見が変わってないから、今では俺の方が年上っぽくなってきた。
「あ、そうだ。これ、アリスにプレゼント」
以前、アカネに注文した品物。布に包まれたそれを懐から取りだし、アリスの白く繊細な手のひらの上に乗せた。
「……私に? 開けてみてもいい?」
俺の目を見て問いかける。そんなアリスに対して頷く。
アリスは少し頬を染め、壊れ物を扱うように布を取り払った。そうして手のひらの上に残ったのは、小さな銀の髪飾り。
「これは……髪飾り?」
「そうだよ。これくらい小さい方が似合うと思って」
出会った頃のアリスは奴隷服で、その後はエルフの民族衣装を着ていたので、大きな髪飾りを付けていても違和感がなかった。だけど最近は、日本の女の子が着ていたような洋服を着ているから、これくらい小さな髪飾りの方が似合うと思ったのだ。
そう思ってのプレゼントだけど――アリスは少し困り顔。
「どうかしたのか?」
「えっと……その、凄く綺麗だと思うんだけど、こんなに小さいと、紋様魔術を刻めないかなって。……あ、紋様魔術は別のなにかに刻めば良いよねっ」
妥協案を示すアリスに対し、俺はやんわりと首を横に振った。たしかにそれで解決はするけど、そんな手間をかけさせるために小さな髪飾りを選んだ訳じゃないから。
「その髪飾りは、俺の決意表明みたいなものなんだ。だから、紋様魔術は刻まなくて良いよ」
「えっと……どういうこと?」
「アリスのお母さんに約束しただろ。アリスのことを護るって。だから、瞳の色をカムフラージュする紋様魔術は……もう、必要ないよ」
「リオン……良いの?」
「もう、あちこちで知られはじめてるしな。それに……もしアリスを狙うやつが現れても、俺がアリスを護るよ」
なんてかっこを付けてみたけれど、俺よりアリスの方が圧倒的に強い。
けど、いまのは俺の意思表示みたいなもので……そんな俺の思いが伝わったのか、アリスが自分の髪飾りを取り払った。
アリスの右目にかかっていた紋様魔術が解け、蒼から金へと瞳の色が変化する。アリスの綺麗な虹彩異色症があらわになった。
「ねぇリオン。この髪飾り、リオンが付けてくれる?」
「あぁ、もちろんだ」
俺はアリスから髪飾りを受け取り、桜色の髪にパチリと止めた。そのあいだじっとしていたアリスは一歩、二歩と下がり、手を後ろに組んで前屈みに。
「どう、かな? 似合ってる?」
上目遣いに、俺を見上げた。
「もちろん、凄く似合ってるよ」
「えへへ、ありがとう。惚れ直した?」
「ばーか、ずっと惚れてるよ」
たぶん、この世界で出会ったときから、ずっと。なんて、恥ずかしいから言わないけどさ。なんて思っていると、アリスが腕の中に飛び込んできた。
「……アリス?」
「えへへ、リオン。……私、幸せだよ」
「あぁ……俺もだ」
前世では全てを失ったけど、今は大切な人達が側にいる。もちろん、問題は山積みだけど、みんなと一緒なら、きっと解決していけるだろう。
「あのね、リオン。私からもプレゼントがあるんだよ。喜んでくれるかな?」
「なにか知らないけど、喜ばないはずないだろ」
「えへへ、だったら嬉しいな。実はね、少し前から……来てないの」
「来てないって……え、それってまさか?」
「うん。リオンの赤ちゃん、だよ」
「そ、そっか。こういう場合はなんて言うんだ? おめでとう? それとも、ありがとう?」
どっちにしても、凄く嬉しい。
俺はアリスに、いつか俺がさきに死んでも寂しくならないようにするって約束していたから。アリスの血を引く子供なら、きっと長生きしてくれるだろう。
でも、それだけじゃなくて、俺自身が予想していたよりずっと嬉しかった。
これからも、俺達には色々な問題が立ち塞がると思う。だけど、アリス達と一緒なら、どんな困難にでも立ち向かえるだろう。
なんて思っていたら、どーんと誰かが俺とアリスに側面からぶつかってきた。続いて、反対側からもぶつかってくる。何事かと見ると、ソフィアとクレアねぇが抱きついていた。
「二人とも、急にどうしたんだ?」
「どうしたのじゃないでしょ? 二人だけでイチャついちゃって」
「ソフィア達も仲間に入れてよ~」
クレアねぇとソフィアがギューッとしがみついてくる。別に仲間はずれになんてするつもりはなかったんだけど……心配させちゃったかな。
「大丈夫だ、俺達はずっと一緒だぞ?」
俺が答えた瞬間、クレアとソフィア、それにアリスまでもが嬉しそうに微笑んだ。そんな三人の笑顔を見ながら、俺はふと思い出した。
そういや、まだ結婚式を挙げてなかったな――と。
アリスとの間に子を授かったリオン。前世で叶わなかった願いを叶えたと言えると思いますが……もう少しだけ続きます。いままで先延ばしにしてきた、他のシスターズとの関係をどうするかなどのお話。具体的にはあと19回ほどの連載です。
最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
また、今回のキャラ紹介は抜きで、八章が完結後にあれこれ書いていきたいと思います。
それと、実際に書くかはまだ未定ですが――
とある村で普通の女の子として生をうけた彼女はある日、このままでは自分の妹が、口減らしに売られてしまうことを知り、なんとかそれを回避しようと努力を重ねる。
けれど、なんの知識もない彼女に、現状を打開する力はなかった。
だから、少女はその身を差し出し、妹の身代わりになったのだが――
少女を買い取ったのは、幼くして領主となった少年で、少女は自分が慰み者にされるのだと覚悟を決めるが……少年から与えられたのは、あらたに設立された学園の制服だった。
――これは、無力で無知だった少女が貴族に知識を与えられ、やがては村を救う救世主へと成り上がっていく。そんな物語である。
って言うのをちょっと考えています。
ここまで読んでくださった方ならピンと来るかもしれませんが、恐らくは予想通りです。ただ、それゆえに色々と問題もあって、今のところは実際に書くかは未定です。
他の新作や、異世界ヤンデレ、それに無自覚吸血鬼も書く予定なので、その合間に書けたらと思っています。
その他には、閑話的なお話はときどき書くと思いますが……その辺りは、完結してからあらためてと言うことで。ひとまずは異世界姉妹の物語を、最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです。
また、本日は異世界姉妹3巻の発売日です。
もう本屋さんに並んでいるはずなので、お手にとっていただけると嬉しいです!






