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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第七章 イヌミミ族との共存

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閑話 とある領地での出来事

 今日は閑話で、リオンとアリスの日常? です。

 本編は予定通り、明日にアップします。

 今から少し遡ったある日。俺とアリスの二人はお忍びで、とある領地に新しく作られた町の視察に訪れていた。

 まだ、町と呼ぶには少し小さい。けれど、ミューレの街をモデルとした新しい町と言うだけあって、なかなかに人は賑わっている。


「ねぇねぇ、リオン。あっちにメイドカフェがあるみたいだよ」

「足湯メイドカフェか!?」

 くわっ! っと視線を向ける。通りの向こう側、カフェらしいお店の前にミニスカメイドさんが呼び込みをしていた。


「ミューレの街で大人気! あの姉妹ハーレム伯爵が足繁く通っていると有名な、メイドカフェでーす。お嬢様、ご主人様の気分に浸れますよ~」

 ――ぶはっ。

 二重の意味で吹いたわ。まさか、こんな遠く離れた地にまで、姉妹ハーレム伯爵の名が広まっているなんて――と言うか、足繁く通ってるって。

 まあ……わりと通ってるけどさ。


「ニヤニヤ」

「そこ、ニヤニヤ言わない」

 俺の隣に寄り添っていたアリスにツッコミを入れる。


「そこのご主人様、お嬢様、メイドカフェいかがですか~?」

 視線を向けていたので、興味があると思われてしまったのだろう。メイドの女の子。赤髪を左右で結んだ、素朴な感じの女の子が駆け寄ってきた。


「えっと……いかがですか?」

「んっと……メイドカフェ、なのか?」

「はい。お客さんに、ご主人様、お嬢様の気分を味わって頂けるお店です」

「あぁ……うん」

 それは知ってるとは、まぁ……言わないでおこう。それよりも、


「足湯はないのか?」

「足湯……ですか? えっと……すみません」

 ないらしい。と言うか、この反応は、ミューレの街にあるメイドカフェには足湯があると知らないみたいだ。……まあ、温泉はどこにでも出るわけじゃないしな。なんて内心で思いながら、わりとどこでもあっさりと温泉を掘ってしまうアリスに視線を向けた。

 俺がなにを考えているのか分かったのだろう。さすがに今から掘ったりはしないよ? なんて言われてしまった。さすがの俺も、そんな無茶は言わないって。


「……あの、ダメですか? 今日は私、一人もお客さんを連れて行けてなくて。このままだと店長に怒られてしまうんです」

「……はい?」

 なにそれ、どういうこと? と、俺とアリスは顔を見合わせる。

 そうして詳しい話を聞くと、なにやらノルマが存在するらしい。そしてそのノルマを達成できないと、お給金を下げられたりするらしい。


 わりとドン引きだけど……まあよその領地だし、そういうこともあるのだろう。と言うか、女の子も納得ずくで働いているようなので、下手に口出しはしない方が良いのかもしれない。

 そんな風に思った俺とアリスは、取り敢えず普通の客としてお店に行くことにした。


「わぁ……ご主人様、お嬢様、ありがとうございます! お店までご案内いたしますね!」


 ぱぁっと顔を輝かせるメイドの後について、メイドカフェに入る。足湯メイドカフェアリスには叶わないけれど、その内装はさすがに整っていた。

 ただし――


「う、うぅん……」

「これは……なんとも言えないね」

 俺がパフェとミルクティー。アリスがケーキとカフェオレを注文したのだけれど……一口食べた直後の感想がそれだった。

 不味くはない。不味くはないのだけど……なんと言うか、美味しくない。ミューレ学園の卒業生が作っているのかと思ったけど、そういう訳ではなさそうだ。


「……あの、いかがですか?」

 下がったはずの、赤毛メイドが戻ってきた。

「えっと……うん、なんと言うか、斬新な味だな」

「へぇ……そうなんですね」

「そうなんですねって……」

「――まさか、食べたことないの?」

「えっと……その、私のお給金じゃ、とてもじゃないけど食べるなんて出来なくて」


 俺の後を継いでアリスが尋ねる。少しだけ不機嫌そうに聞こえるのは……気のせいじゃないだろう。仮にも、足湯メイドカフェアリスのオーナー。

 パフェの味も知らない店員に接客させていることに怒っているのだと思う。


 取り敢えず、それは店長が悪いのであって、メイドが悪いわけではない。なので落ち着けアリスとなだめすかしておいた。

 だけど――


「私、ちょっと報告に行ってくる」

 アリス的には許せなかったようだ。この街にある領主の館へ報告に行ってしまった。


「えっと……あの?」

 メイドさんがこわごわと俺の顔色をうかがっている。理由は分からずとも、アリスを怒らせてしまったと感じているのだろう。


「取り敢えず、キミは悪くないから気にしなくて良いよ」

「そう、なんですか?」

「うんうん、大丈夫だ」

「そうですか、安心しました。それで、お嬢様はどれくらいで帰ってくるんですか?」

「え? ん~、四半刻くらいじゃないかな?」

 どうするつもりかは知らないけど、往復だけでもそこそこの時間は掛かる。わりとすぐに戻ってくるとしても、それくらいは掛かるだろう。


「つまり、ご主人様はしばらくここにいらっしゃるんですか?」

「まあ、そうなるな。もし席を占領されるのが迷惑だって言うのなら……」

「い、いえ、そうではなくて。もしよろしければ、その……vipルームはいかがですか?」

「vipルーム?」

 足湯メイドカフェアリスで、俺が愛用している部屋。完全個室になっていて、のんびりと足湯を楽しみながら飲食できる空間となっている。

 足湯はないと言っていたので期待は出来ないけど……


「どんな部屋なんだ?」

「えっと……パーティションで仕切られた部屋ですよ」

「……はい?」

 それのどこがvipルームなんだよって思っていたのだけど――

「vipルームは、ミューレの街で姉妹ハーレム伯爵様が使用しているのと同じシステムを採用しているんです」

「同じシステム?」

 問い返すと、赤毛のメイドは身体をもじもじとさせた。そして――


「その……お金を払っていただければ、私がご奉仕させていただきます」

「――ぶっ!?」

 思いっきり咳き込んだ。それ、vipルームじゃねぇよ! って言うか、メイドカフェですらねぇ、完全にいかがわしいお店だよ!


 なんてツッコミが喉元までこみ上げるが、まずは一番突っ込むべきことを突っ込む。


「リオン・グランシェスは、vipルームでそんなことしてねぇよ!」


 酷い風評被害である。

 今までにも、アカネとの会議や、リズとの会話。そのほかアリス達とときどき利用していたけど、まさかそんな噂が広がっていたとは。


「これは、なんの騒ぎだ?」

 俺の声が大きかったせいだろう。店の奥から、恰幅の良さそうなおじさんがやって来た。


「て、店長。ごめんなさい、ごめんなさい」

 店長がよほど恐いのだろう。赤毛のメイドがペコペコと頭を下げ始める。申し訳なくなった俺は、vipルームのことを知らなくて、誘われて驚いてしまっただけだと答えた。


「そうですか……お客さん、お詫びにvipルームの代金を半分にさせて頂きましょう」

「いや、それは結構だ」

「ご心配頂かずとも、代金を引くメイドに被らせますのでご安心を」

 いやいや、そういう問題じゃないだろうって言うか、メイドに被らせるとか鬼畜か。赤毛のメイド、泣きそうになってるじゃないか。


「本当に必要ない。と言うか、店員を不当に扱うのは感心しないぞ」

 もちろん、この世界は地球とは違う。そして、ミューレの街は豊かになってきたけど、地方はまだまだ貧困に喘いでいる地方もある。

 ミューレの街のような雇用を出来なくても仕方がないとは思う。

 だけど、だけど――だ。


 ミューレの街を模して作った街のメイドカフェで、リオン・グランシェスがまるでそうしているような風に、あれこれ言われるのは許せんっ。

 なんて内心で怒っていると、店長の顔つきが変わった。


「……お客さん、もしやうちにケチをつけに来たんですか? うちは、ミューレ学園の出身者監修で営業している、由緒正しいメイドカフェです。それにケチをつけるのなら、覚悟は出来ているのでしょうね?」

「……ほう、覚悟か。どんな覚悟が必要だっているんだ?」

「それはもちろん、リオン様にたてつくという覚悟です。今や経済の中心となるあの方にたてつこうモノなら、この国で商売は出来ないでしょう」

「……なるほど」


 取り敢えず、パフェの味や経営体制から考えて、ミューレ学園の出身者が監修しているなんて絶対にありえない。

 他領で細かいことを言うつもりはないけど、ミューレの生徒を騙るのは許せない。このおっさんをどうしてくれよう……と思っていたら、いつの間にか店長の後ろにアリスがいた。


「あれ、えらく早かったな」

「うん、ちょうどそこで領主さんに会ったから」

 言われてみれば、アリスの後ろに渋いおじさんがいる。この街の領主さんである。


「こ、これは領主様! 今日はこのようなところに、どういったご用件でしょうか?」

「私はアリス様に呼ばれてきたのだが……その前に、店主よ。先ほどの口の利き方はなんだ」

「は? 口の利き方、ですか?」

「そうだ。そこのお方に対する口の利き方のことだ」

「えっと……この男のことですか?」

「馬鹿者っ! そのお方をどなたと心得る。恐れ多くも姉妹ハーレム伯爵、リオン・グランシェス伯爵にあらせられるぞ!」

「誰が姉妹ハーレム伯爵だよっ」

 思わずツッコミを入れてしまう。その瞬間、この街の領主が「も、申し訳ありません」と頭を下げてしまった。

 それにより、俺がリオン・グランシェスであることが証明されてしまったわけだ。


「――リオン・グランシェス……様?」

 店主が信じられないといった面持ちで俺を見る。そして、先ほどの自分の発言を思い出したのだろう。その顔が青ざめ、冷や汗が吹き出した。

 そして――


「も、申し訳ありませんでした――っ!」

 見事な土下座である。



 その後、店長には、二度とミューレ学園の生徒に監修させているなんて騙らないと約束させ、ついでに赤毛のメイドをミューレ学園に受け入れる約束をした。

 後は……後日、ミューレ学園の卒業生を、このメイドカフェに派遣すると約束した。

 もちろん、vipルームのお仕事はさせない――と言うか、廃止である。誰だよ、メイドカフェアリスで、俺がそんないかがわしいことをしてるって噂をしたやつ。

 

 

 異世界姉妹と同じ世界の、異なる時代。妹が欲しい、自称普通の女の子――『リスティア・グランシェス』が繰り広げる、勘違い系スローライフ。

 『無自覚で最強の吸血姫が、人里に紛れ込んだ結果――』の第一章が、この閑話が投稿されたのと同時に完結いたしました! ぜひ一度ご覧ください!

 作者名、もしくは下のタイトルから飛ぶことが出来ます。

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