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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第七章 イヌミミ族との共存

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エピソード 2ー5 ちょっぴり歪んだ愛情

 今日はクレアねぇの誕生日。夕食時にみんなでクレアねぇを祝うことになってるんだけど、俺は先んじてクレアねぇのいる執務室を訪ねた。

 だけど、ノックをしても返事がない。


「クレアねぇ? ……入るぞ?」

 執務室で仕事中のはずなので、声をかけて扉を開く。そして視界に飛び込んできたのは、システムデスクに広がる銀色。クレアねぇが机に突っ伏していた。

 倒れているのかと焦るけど、すぐに可愛らしい寝息が聞こえてくることに気がついた。どうやら、机に身を預けて眠っているらしい。

 ……まったく、驚かすなよ。


 俺は背後に回り込み、華奢な背中に上着を掛ける。そうして椅子を持ってきて、クレアねぇの正面に腰掛けた。

 クレアねぇは、組んだ腕に顔を乗っけて眠っている。横顔が見えるけど、よく眠っているのか、俺の視線に気づく様子はない。

 まわりにちゃんと優秀な人材が揃ってるのに、クレアねぇはなんでも自分で頑張ろうとしすぎなんだよな。もう少し俺達を頼ってくれれば良いのに――と、俺は纏めかけだった書類を、クレアねぇの代わりに処理していく。

 そうして黙々と作業を進めていると、おもむろにクレアねぇがもぞもぞと動き始めた。


「……うぅん、弟、くん?」

「おはよ、クレアねぇ」

「どうして……あたしの部屋に? 夜這いに、来たのかしら?」

「寝ぼけてるのか? ここは執務室だぞ?」

「……執務、室? ……あたし、寝ちゃってた?」

「ぐっすりな。可愛らしい寝顔だったぞ?」

「そう、なんだ……そう……~~~っ」

 がばっと起き上がったクレアねぇは、机から手鏡を出して後ろを振り返ると、なにやらわたわたと身だしなみのチェックを始める。

 クレアねぇが慌てるとか、なんだか新鮮な光景だ。なんて思いながら見守っていると、身だしなみチェックを終えたクレアねぇが、くるりとこちらを向いた。


「――コホン、いらっしゃい、弟くん。あたしになにか用かしら?」

 凛としたたたずまい。まるで、あたしには隙なんてないわよとでも言いたげな態度だけど、

「取り繕っても遅いと思うぞ?」

「……弟くんのイジワル」

 少し恥ずかしげに頬を染め、上目遣いでにらんでくるクレアねぇが可愛すぎる。もう少しイジワルしたい気分だけど……やり過ぎたら仕返しが怖いから自重しておこう。


「クレアねぇに会いに来たのは、誰よりも早く、クレアねぇにおめでとうを言うためだよ。ということで――十八歳の誕生日、おめでとう」

 俺はそう言って、あらかじめ用意していた包みを手渡す。

「……これは?」

「もちろん、誕生日プレゼントだよ」

「開けても……良いのかしら?」

 クレアねぇが宝物に触れるように、そうっと包みを解いていく。そうして中から取りだしたのは、金細工のブローチ。去年の暮れ、アカネ経由で注文した一品だ。

 最初は告白するときに渡すつもりで作ってもらってたんだけどな。婚約のあれこれで予定が狂って、いままで保管していたのだ。


「……凄く綺麗な金細工ね。もしかして、紋様魔術も刻んであるのかしら?」

「いや、刻んでないよ」

「そう、なの?」

 貴族のあいだでは最近、使用者を護る紋様魔術を刻んだ品を大切な人に贈るのがはやっているそうで、俺のプレゼントもそう言った類の品だと思ったのだろう。

 そうじゃないと聞かされて、クレアねぇは少しだけ残念そうだ。

 だけど――


「俺はクレアねぇを護りたいからこそ、紋様魔術を刻んでいないブローチを送ったんだ」

「え、どういうこと?」

「俺達の服はすべてアリスブランドの最高級品で、複数の紋様魔術が刻まれてるだろ?」

 紋様魔術とは、人間が体内に宿している魔力を消費して発動する。

 そして体内に宿る魔力は、人が無意識に大気中から魔力素子(マナ)を取り込んで精製したもの。なので、一般的に体内に宿る魔力量はしれている。

 よって、一般人が常時発動できるのは多くて三つくらい。紋様魔術が刻まれている品を複数所持すると、魔力不足に陥って体調不良を起こしてしまう。

 もしクレアねぇに紋様魔術の刻まれたブローチをプレゼントしたら、ほかに必要な魔紋様魔術があっても、ブローチを優先してしまうだろう。

 だから、俺はブローチに紋様魔術を刻まなかったのだ。どんなときでも、クレアねぇが気兼ねなくブローチをつけていられるように。


「そっか……そういう理由だったんだ」

 クレアねぇは呟いて、金細工のブローチを自分の胸の上あたりにつける。胸元できらりと光る金のブローチは、銀髪のクレアねぇによく似合っている。

「ありがとうね、弟くん。凄く、すっごく嬉しいわ」

 本当に嬉しそうに微笑んでくれる。

 今までだって誕生日プレゼントは贈ってるんだけどな。クレアねぇは毎回こんな風に喜んでくれるから、こっちまで嬉しくなる。


「でも、こんなステキな誕生日プレゼントをもらっちゃったら、弟くんの誕生日になにをプレゼントするか迷うわね。弟くんはなにが欲しい?」

「クレアねぇのくれるモノならなんだって――とかは、口が裂けても言わないからな? クレアねぇの考えるプレゼントとか、まるで信用できないんだから」

 言質を取られてなるものかと、俺はきっぱりと断言しておく。とたん、クレアねぇが不満気に唇をとがらせた。

「あたしのセンスが信用できないって言うの? 弟くん失礼よ?」

「……俺に初めて贈った誕生日プレゼントがなにか、思い出してから言ってくれ」

 あれは忘れもしない、九歳の誕生日のことだ。

 あれこれ学びたいといった俺に対し、この子から性的なことを含めて学ぶと良いわと、奴隷の女の子をプレゼントした。そんなクレアねぇのセンスを信用とかマジで無理だ。だというのに、クレアねぇはなにがダメか分からないとばかりに小首をかしげる。


「アリスのこと、凄く気に入ってるでしょ?」

「いや、まぁ……気に入ってるよ? むしろ、運命の再会だったよ?」

「でしょ? それなのに、なにがそんなに信用できないのよ?」

「だーかーらー、その発想が信用できないんだって」

 たしかに、アリスの件はファインプレーだ。あの日クレアねぇがアリスを買ってきてくれなければ、俺達の運命は大きく変わっていただろう。

 でも、それはあくまで結果論。

 誕生日プレゼントに、この子から性的なこととか学ぶと良いわ――なんて言って、奴隷の少女を弟にプレゼントする姉が信用できるか! という話である。

 なんでも良いとか迂闊に言ったら、一体なにをプレゼントされることやら。


「一応言っておくけど、プレゼントはあたし――なんて言わないわよ?」

「そう、なのか?」

 正直、絶対言うと思ってたので意外だ。

「だってあたしは、もう弟くんのモノだもの」

「……そういう意味ね」

 油断させてから、不意打ちで口説きにかかるのは本気でやめて欲しい。なんと言うか……ドキドキして落ち着かなくなる。


「ちなみに、もし俺がなんでも良いって言ったら、なにをプレゼントするつもりなんだ?」

 誘惑に負けて聞いてみた。

「え? そうねぇ……いまは分からないわ」

「それは意外だな。クレアねぇはそう言うの、前もって決めてるものだと思ってた」

「あら、もちろん決めてるわよ?」

「え? でも、いま分からないって」

「弟くんは、あたしが一生懸命考えて贈ったものならなんだって喜んでくれるでしょ? だから、弟くんの誕生日が近くなったら、弟くんが欲しがってるものを考えるつもり」

「な、なるほど……」

 たしかにそれは俺に対する完璧な解答だと思う。

 思うけど……どうしてだろう? 誕生日になったら、弟くんが欲しがってるのは、新しい妹よね。分かってるわ――とか言われそうな気がしてならない。


「あ、あれ? あたし、いま良いこと言ったと思うんだけど、どうして弟くんは、そんな疑いの眼差しでお姉ちゃんを見てるのかしら?」

「クレアねぇの普段の行いのせいだと思う」

「よく分からないけど……弟くんが困った顔をするから、誕生日までに無難なプレゼントを考えておくわね」

「そうしてくれ。それより、書類整理をしてて思ったんだけど……」

「もしかして、見ちゃったの?」

「まぁな。仕事中に寝ちゃうくらい根を詰めてたのも、それが原因なんだろ?」

 そう言って俺が指し示したのは、建築現場の監督からの報告書。そこには、イヌミミ族を雇い入れたことによって発生した、いくつかの懸念事項が書かれている。


 と言っても、現場でトラブルが発生している訳じゃない。イヌミミ族の身体能力は非常に高く、力仕事においては人間よりも遥かに働いてくれている。

 それ自体は良いことなんだけど、労働力に見合った賃金を支払うと、現場を指揮する人間なんかよりも給料が高くなるので、人間から不満が噴出する。

 だけど、人間と同じ賃金にした場合、圧倒的にイヌミミ族を雇った方が得になり、みなが人間ではなくイヌミミ族を雇おうとするだろう――と言った懸念事項だ。


「相談してくれれば良かったのに」

「だって弟くん、こう言ったケースは予想してなかったでしょ? 対策だって考えてないでしょうし、俺の考えが甘かったせいで――とか言って、落ち込むに決まってるもの」

「まぁ……それは否定しないよ」

 人手不足の現状なら、雇用問題は起きないと考えていた。

 だからこれは不測の事態。クレアねぇは俺に心配をかけないように、一人でこの問題に対処しようと無理をしていたのだろう。

 それを理解した俺は上半身を乗り出し――クレアねぇの柔らかほっぺを引っ張った。


「……なにひゅるのよ?」

「それはこっちのセリフだ。たしかに問題が起きてると知ればショックを受けるよ?」

「でしょ? だから――」

「――だけど、その程度のショックなんかより、クレアねぇに無理させる方が嫌に決まってるだろ? 分かってくれ――と言うか、分かれ」

 もしクレアねぇが無理をして、それで病気で倒れたりしたら、俺は間違いなくマジ泣きする。前世では妹を病で亡くすという悲しみを負ったのに、今世では姉を――なんて笑えない。


「ありがとう、弟くん。それじゃお言葉に甘えて、相談しても良いかしら?」

「もちろんだ」

「それじゃお言葉に甘えて。婚約したはずの弟くんが、いつまで経ってもあたしに手を出してくれないんだけど、弟くんはどうするべきだと思う?」

「いやいや、俺が相談に乗ると言ったのはそういう内容じゃないぞ?」


 と言うか、今のセリフ。

 弟くんは(あたしが)どうするべきだと思う? ってニュアンスじゃなくて、弟くんはどうするべきだと(弟くんは)思う? って、ストレートに聞かれてる気がする。


「そんな期待に満ちた顔を向けられても、弟くんは、クレアねぇに手を出すべきだと思うぞ? なんて言わないからな?」

 ……今はまだ。

「……弟くんのイジワル」


 拗ねられてしまった。

 可哀想だとは思うけど、俺にも色々計画というものがあるので我慢してもらいたい。


「話を戻すけど、対策について、少し考えたんだ」

「え、ホントに? こう言うのって、どっちかを選んでも、絶対に問題が出るはずよ?」

「まぁな」

 いわゆる二律背反の問題であり、どこに焦点を当てるかで答えの変わる問題でもある。だから、AかBかの二択を選ばず、Cという折衷案に逃げる。

 ようするに――


「イヌミミ族の身体能力が二倍と仮定して、報酬は1.5倍程度にするんだ」

「……ええっと、それで不満が出なくなるの?」

「なくなる――とはいかないだろうな。でも、不満を抑える程度は可能だと思う」

 身体能力が二倍なのに給料が1.5倍なら、人間よりもイヌミミ族を雇う方がお得。そして、イヌミミ族は損をしている――と思われるかも知れない。

 だけど、建築の手伝いは力仕事だけじゃない。身体能力が二倍の一人よりも、普通な二人の方が効率の良い場合だってある。

 なので、イヌミミ族だけを雇っても、作業に無駄が出て結果的に損をする。だけど人間だけを雇っても、力仕事の面で損をする。

 そうして、両方をまんべんなく雇ってもらおうという算段だ。


「そっか……選択の余地を残すのね」

「そういうこと。詳細については煮詰める必要があると思うけどな」

 とは言え、まずは試してみないことには始まらない。また問題が起きれば、そのときになって対策を取るしかないだろう。

「……そう、ね。後でどのくらいの割合が良いかとか、考え得る問題点なんかをティナ達と話し合っておくわ」

「うん。よろしくな、クレアねぇ」

「もちろん、可愛い弟くんのためだもの。お姉ちゃんは頑張るわよ。だから、ね? 弟くんに、一つお願いして良いかしら?」

「えっちぃお願いじゃなければ良いけど……なんだよ?」

「……婚約した訳だし、そろそろ手を出しても良いと思うのだけど?」

 不満げな表情。どうやら話を蒸し返したいらしい。


「実はさ、最近気がついたんだ」

「……気がついたって、なにに?」

「生娘のくせに、エッチなお姉さんぶるクレアねぇが可愛いって」

「ちょ、弟くん!? なななっなに言ってるのよ?」

 真っ赤になって動揺しまくりのクレアねぇ。普段はお姉さんぶっているのに、こういう風に動揺するところが可愛いと思うのだ。

 ソフィアとか「なら、試してみる? お に い ちゃん」とか、普通に切り返してきそうだもんな。なんて、ソフィアはソフィアで、また違うギャップがあって可愛いんだけどさ。


「普段はちょっとエッチなお姉さんぶってるクレアねぇが、実は経験も知識もないって、なんか強がってる感じがして可愛いなぁって」

「いや、あの? あたしも一応、ミシェル達から教育は受けてるのよ?」

「そうは言っても、話を聞いてるだけだろ?」

 アリスはもちろん、アリスの追体験をしているソフィアとも比べるまでもない。


「そういう訳だから、クレアねぇはしばらくは変わらないでくれ」

「え、それはその……私はしばらくお預け……ってこと?」

「ギャップ萌って良いよね?」

「……お、弟くんの性癖が歪んでるわ」

「クレアねぇにだけは言われたくないぞ?」

 性教育のためとか言って、弟に奴隷の娘をプレゼントした上、ソフィアへの入れ知恵もしている。色んな意味で、クレアねぇが俺達の原点だ。

 俺の性癖が歪んでることは否定しないけど、クレアねぇにだけは言われたくない。


「あ、あのね、弟くん。お姉ちゃんは今日で十八歳なのよ? だから、ね。そろそろ色々と、その……分かるでしょ?」

「あっはっは、分かるからこそ、いままで通りでって言ってるんじゃないか。あらためて誕生日おめでとう。これからも、変わらないクレアねぇでいてくれよな」

「弟くんのイジワル――っ!」

 拗ねるクレアねぇはやっぱり可愛くて、ヴィオラの気持ちが少しだけ分かった気がした。

 

 

 この二週間、検査結果待ちのストレスで作業が遅れ気味だったんですが、良性だったので復活しました。

 という訳で、異世界姉妹頑張って書きつつ、ヤンデレ女神は少し後で、新作の「無自覚で最強の吸血鬼は、妹のためなら自重しない!(仮題)」を今月中に連載する予定です!

 今後ともよろしくお願いいたします!!

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