エピソード 2ー4 お小遣い
レジック村からミューレのお屋敷に舞い戻った翌日。
リビングでアリスとおしゃべりをしている、珍しい女の子を見かけた。ブラウンの髪と瞳の少女。ウェルズ洋服店の娘、エイミーである。
「久しぶりだな。ミューレの街に来るなんて珍しいじゃないか」
「あ、リオン様! こんにちは、年始のお祭り以来ですね」
「そうだな、元気してたか?」
「もちろん、私は元気ですよ」
「そっか、それなら良かった。それで今日はどうしたんだ?」
「アリスさんに呼ばれて、イヌミミ族の服を制作するお手伝いに来たんです」
「ほう、そうなのか」
初耳だったのでアリスを見る。
「うん。アリスブランドで独占って言うのもあれだしね。それに、色んな種類があった方が、イヌミミ族のみんなも喜ぶと思って。ほかにも、何カ所かの洋服店に依頼してあるよ」
「あぁ……そっか、そうだな」
約六百人分の洋服。身近だって言う理由でアリスに頼んでいたけど、たしかに洋服店にとってはチャンスとなるような話。一カ所に独占は良くなかったな。
「ありがと、アリス。助かったよ」
「えへへ、どういたしまして、だよ」
ちょっと照れくさそうに微笑む。アリスが頭を撫でて欲しそうに突き出してきたので、俺はそのサラサラの髪を軽く撫でつけた。
なんか俺がシロちゃんをモフるようになってから、みんなに頭を撫でることを所望される機会が増えた気がする。なんだかんだ言って、羨ましかったりするんだろうか?
それはともかく、いまはエイミーの方だ。ウェルズ洋服店で働いていて、いつも王都にいるから、こうしてゆっくり話すのは久しぶりだ。
「ウェルズ洋服店はどんな感じだ?」
「おかげさまで、店をたたまずに済みました。いまは需要も取り戻して、城からの注文も入ってます。これも全部、リオン様やアリスさん達のおかげです、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる。本当に、俺達に感謝しているのだろう。
俺達は知識を伝授しただけだし、そもそもウェルズ洋服店を窮地に立たせたのは俺達。もしエイミーが申し訳なく思ってるようなら、これっぽっちも気にする必要はない。
――と言ったんだけど、そんなことはありませんと力説されてしまったので、感謝の言葉を受け取っておくことにした。
「それで、実は、その……こ、これをリオン様に!」
布の包みを押しつけられる。なにやら中身を見て欲しそうにしていたので包装を解くと、中には男性用の洋服が収められていた。
「……これは?」
「私が作った、ウェルズ洋服店の最新作です」
「それを俺にくれるのか?」
「はいっ。リオン様、再来月が誕生日ですよね? そのときはこれそうにないので、一足先に誕生日プレゼントです。私だと思って着てくれると嬉しいです!」
「エ、エイミーと思って?」
誕生日プレゼント、それもエイミーが作った洋服となると凄く嬉しいけど……服をエイミーと思って着るのはかなり恥ずかしい気がする。
と言うか、全身を包む服を自分と思って欲しいって、なにげに大胆な発言だよな。そう思ってエイミーを見ると、少し寂しげな微笑みを浮かべていた。
「……どうかしたのか?」
「えっと……その。……じ、実は私、今度結婚することになったんです」
予想外のことを言われ、一瞬戸惑ってしまう。だけど、一呼吸置いてそれを理解した。
「そう、か。確認だけど、嫌々とかじゃないんだな?」
「相手はウェルズ洋服店の次に大きな洋服店の次男で、入り婿としてきてくれるんです。そろそろ後継ぎも必要ですし……その、嫌々では、ないです」
少し言いよどみつつも、エイミーがそんな風に答えた。
エイミーもシスターズの一員で、俺の妾になりたいと言ったこともある。だからもしかしたら、俺に引き留めて欲しいのかもしれない。
だけど……俺は誰かを妾にするつもりはない。だから、それでも俺の側にいたいと言ってくれたリアナ達は受け入れるけど、自分から引き留めたりはしない。
自分から引き留める資格なんてないと思っている。
なにより、エイミーの一番の目的は、ウェルズ洋服店を大きくすることで、ずっとリゼルヘイム王都で頑張っていた。
だから――
「エイミー、おめでとう。心から祝福するよ」
俺は笑顔を浮かべ、突き放すようにお祝いの言葉を告げた。
もし相手の嘘を見抜く恩恵を持つアーニャがいれば、俺の言葉は嘘だと断じただろう。
だけど、心を見通すソフィアなら、俺の言葉は真実だと答えたはずだ。けど、ここにはアーニャもソフィアもいなくて、アリスは無言で見守ってくれている。
果たして、エイミーは悲しげに「ありがとうございます」と微笑んだ。その表情があまりにも痛々しくて、俺は拳をぎゅっと握りしめる。
直後、慰めるように、俺の頬が撫でつけられた。
だけど、実際に撫でつけられている訳じゃない。見れば、アリスが自らの頬を優しく撫でつけていた。どうやら、感覚共有を使って、こっそりと俺を慰めてくれているらしい。
アリスが一緒にいてくれる。それを確認して勇気を得た俺は、ありがとうと声には出さずに呟き、エイミーへと視線を戻した。
「誕生日プレゼント、ありがとうな。大切に着させてもらうよ」
大切にするのは本当。だけど、出来るだけ未練にならないように告げる。
そんな俺の気遣いに気づいたのかどうか、エイミーは「ありがとうございます」と先ほどと同じセリフを、だけど先ほどよりは少しだけ明るい感じで言った。
それから、今度はもう一つの包みをアリスへと手渡す。
「私にもくれるの?」
「はい。アリスさんも、リオン様と同じ六月十八日ですよね?」
そうなんだよな。実は俺とアリスの誕生日は同じ日なのだ。最初に聞いたときは驚いたけど、前世の兄妹だったことを考えると、運命的ななにかを感じる。
「という訳で、アリスさんにも少し早めの誕生日プレゼントです」
「ありがとう、でも、よく知ってたね?」
「全員の誕生日をティナさんに教えてもらったんです。実はクレア様やソフィアちゃん、シスターズのみんなにも渡したんですよ」
「そうなんだ。それじゃエイミーの誕生日はアリスブランドの最新作をプレゼントするね」
「わぁ、ありがとうございます!」
アリスとエイミーが笑い合っている。そのやりとりを聞いていて思ったのは、ソフィアが十二月十二日で、クレアねぇが四月二十四日生まれだと言うこと。
今日は四月の十七日なので、来週はクレアねぇの誕生日である。いつも忙しくてちゃんと祝えてないから、たまにはちゃんと祝っても良いなぁ。
それと、エイミーへのお返しは……ふむ、どうするかな。
こういう場合は形のあるものじゃない方が良い気がする。けど、外敵から守る意味では、形あるもの――それこそ、グランシェス家の紋章入りとかの方が良いだろう。
そう、だな。俺個人のプレゼントではなく、俺達からという形で、紋様魔術を刻んだお守りかなにかをプレゼントしよう。
それからしばらくして、エイミーはイヌミミ族の服のデザインをするからと、王都へと帰って行った。ずいぶんと急な話だけど……俺は気をつけてなと送り出した。
その後、アリスと昼食を食べようと食堂へ向かうと、途中でシロちゃんに出くわした。
「あっ、リオンお兄さんにアリスお姉ちゃん。もしかしてこれから昼ご飯なの?」
「そうだけど……シロちゃんは、学校じゃないのか?」
「今日はお昼までだよ」
「あぁそうなのか」
ミューレの街には曜日が存在している。
にもかかわらず、今日の授業がお昼までであるのを知らなかったのは、俺が曜日の感覚がなくなるほどだらだら過ごしているから、ではない。
ミューレ学園はちゃんと、休日や午前中授業が存在している。けど、ミューレ学園は農業等々、休みを固定に出来ない科目も多いので、休みはその月によって違う。
なので、俺は今日がお昼までと知らなかっただけである。
「お兄さん、ボクもお昼ご飯を一緒しても良い?」
「もちろん良いよ」
問うまでもないことだけど、一応はアリスにも視線で問いかけておく。もちろんその答えは、かまわない、だった。
という訳で、俺達は揃って食堂へ。アリスが隣で、シロちゃんとは向かい合わせに席に着き、思い思いのメニューを注文する。
「えへへ。おっひる、おっひる、お兄さん達と、おっひる、ごは~ん」
な、なにこの無邪気で可愛い生き物。楽しげに身体が揺れるのにあわせて、ふわふわのイヌミミが揺れてるんですけど。俺に今すぐモフれと言ってるのか?
「こ~ら、食事の席だよ?」
誘惑に負けて手を伸ばしかけると、隣に座るアリスにそれとなくたしなめられた。
たしかにその通りだ。仕方ない、あとで隙を見てモフるとして、いまはシロちゃんの日常について聞いておくことにしよう。
「シロちゃん、学校は楽しいか?」
「うん、凄く楽しいよっ! それに、マヤお姉ちゃんがお友達になってくれたの!」
「そっか、それは良かったな」
なんて、実際に見に行ったから知ってるんだけどさ。
それよりも……マヤお姉ちゃん?
本科は十二歳からで、マヤちゃんは来年の二月に十二歳。つまりは今学期末にぎりぎり十二歳になるので、同級生の中ではかなり遅くに生まれているはずなんだけど……
そう言えば、シロちゃんの年齢を聞いた記憶がない。
「シロちゃんって何歳なんだ?」
「ボク? ボクはいま六歳だよ?」
「……マジですか」
実は十一歳くらいで、誰も気づかずに本科に入学させちゃったという可能性は考えたけど、まさかの半分――って、いやいやいや。いくらなんでも、六歳で十代の見た目はありえない。
「もしかして、イヌミミ族の成長は人間より早いのか?」
「えっと……そう言えば聞いたことがあるよ。人間は大人になるまで時間が掛かるって」
「なるほど……」
人間も、前世の人間と比べて成人までの成長速度が二割ほど早い。過酷な環境が、子供の成長を早めているのだろう。そう思って聞いてみると、イヌミミ族は成人まで人間の倍くらいの速度で成人し、寿命は1.5倍くらいあることが分かった。
しかし……六歳だったのか。そんないたいけな女の子を、モフられ依存症にしてしまうとか、俺も業が深いかも知れない。……いや、十二歳なら良いという話でもないけど。
なんてことを考えていると、注文していたお昼が運ばれてきた。
俺がピッツァで、アリスがパスタ。そしてシロちゃんはサンドウィッチ。それぞれに、飲み物とレタスやタマネギのサラダがついている。
……って、タマネギ?
「いただきまーす」
「ちょっ、シロちゃんそのサラダ食べちゃダメだっ」
サラダにフォークを突き刺したシロちゃんに待ったをかける。よほどお腹がすいていたのだろう。待てをされたワンコのように、シロちゃんは寂しげな瞳で俺を見た。
「お昼ご飯、食べちゃ、ダメなの?」
「いや、お昼を食べるのは良いんだけど、そのサラダはダメだろ?」
「そう、なの?」
「だってそれ、タマネギだぞ?」
イヌに食べさせちゃダメな食べ物筆頭である。だけどシロちゃんは小首をかしげる。
「ボク、タマネギは大好きだよ?」
「いやいや、いくらタマネギが好物でも、イヌにタマネギは……って、え? 大好きって、いつも食べてるのか?」
「うんうん、食べてるよ?」
「そうなのか……」
そう言えば、ソフィアがイヌミミ族は、人間と同じ食べ物で大丈夫だっていってたな。すっかり忘れていた。
「リオンお兄さん、やっぱり食べちゃダメ?」
「よし、食べて良いぞ」
「わふぅ~」
シロちゃんはイヌミミで喜びを表現。頂きますとサラダの口に運んだ。心配でもぐもぐと食べるシロちゃんを観察するけど……シロちゃんは美味しそうに食べている。
もしタマネギがダメでも、すぐに症状は出ないはずだけど……食べ慣れてるのは事実っぽいし、本当に大丈夫なんだろう。と言うことで、俺も自分の分を食べることにした。
「リオン、リオン」
アリスにちょんちょんとつつかれる。それで察した俺は、ピッツアの乗っているお皿を差し出す。するとアリスはピッツアを半分取り分け、代わりにパスタを半分くれた。
「ありがとね、リオン」
「どういたしまして、だ」
良くある食事の光景。だったら最初から半分ずつにしてもらえよとか言われそうだけど、こうやって交換し合うのも誰かと一緒に食べる醍醐味だと思う。
なんて思っていたら、シロちゃんが食事をやめて、こちらをじーっと見ていた。
「……シロちゃんも交換するか?」
問いかけると、イヌミミがピコピコと動いた。という訳で、シロちゃんとも交換。三人でお昼の団らんを楽しんだ。
「ところで、マヤちゃんはどうしたんだ?」
昼食後の雑談のおり、ふと疑問に思ってシロちゃんに尋ねる。
「マヤお姉ちゃんは、友達とカフェに食べに行くって言ってたよ?」
「シロちゃんはどうして一緒しなかったんだ? 街に興味があるって言ってただろ?」
「ボクは、その……お小遣いがないから、カフェに行くのはちょっと」
それを聞いた瞬間、俺は思わず自分をぶん殴ってやりたくなった。
シロちゃん達はいままで森に隠れ住むような生活を送っていた。支援はしてるので衣食住に困ることはないはずだけど、街で遊ぶようなお金を持っているはずがない。
「よし、シロちゃんにお小遣いをあげよう」
「ふぇ? ただでさえお世話になりっぱなしなのに、そんなのもらえないよ」
「でも、みんなと遊ぶのは大切だぞ?」
シロちゃんの場合、イヌミミ族で唯一の本科生だ。シロちゃんの行動が、人間からはイヌミミ族の基準のように写るだろう。だから可能な限り、人付き合いは良くしてもらいたい。
そういう意味では、お小遣いと言うより必要経費だ。だから決して、シロちゃんを甘やかしたいとか、メイドカフェに誘導して、バイトをしたいと思わせたいなんて思惑はない。
ないったらないのだ。
「ボクもね、みんなと遊びたいよ。だから、バイトをしたいなって思って。今日はその許可をもらいたくて、お屋敷に来たんだよ」
「――アリスっ!」
「シロちゃん用のイヌミミメイドカフェの制服だねっ。今日中に作っておくよっ!」
「よし、それじゃ――」
「シフトの調整は任せてっ。指導員も気心の知れてる人の方が良いと思うから、リズちゃんに頼んでおくねっ!」
「――よし、完璧だ! ということでシロちゃん! キミは今日から足湯メイドカフェで、イヌミミメイドとして活躍してくれ!」
「ふえぇぇ?」
足湯メイドカフェ『アリス』のメイドになれたことが嬉しいのだろう。シロちゃんは目を白黒させている。……いや、戸惑っているだけかも知れないけど。
「ええっと……よく分からないけど、ボクをカフェの店員として働かせてくれるの?」
「うん。どうしても嫌だったら、ほかのお仕事でも、その、良いけど……?」
出来ればカフェで働いて欲しい。念願の足湯イヌミミメイドというのもそうだけど、カフェ『アリス』なら、まわりは全員俺達の味方。シロちゃんがいじめられることは絶対にない。
そんな俺の思いが通じたのかどうか、シロちゃんは「ボク、そこで働きたい」と可愛らしい笑顔で答えてくれた。
「よし、それじゃ決まりだな。詳細はあとで決めるとして……お小遣いの話に戻そう」
「え? ボクはバイトをするから、お小遣いは必要ないよ?」
「いや、バイトをしても基本は月末の支払い。今月遊ぶお金がないだろ? だから、今月分だけは、俺からのお小遣いとして受け取ってくれ。それで、明日でもみんなと遊んでおいで」
やっぱり、スタートダッシュは大事だ。
最初に付き合いが悪いとか思われたら、その印象はずっと引きずったりするからな。
「うぅんっと……リオンお兄さんがそう言うなら」
「うんうん。ということで――」
メイドを呼ぼうと手元のベルを鳴らす。
「おまたせだよ、リオンお兄ちゃん」
――と、何故かソフィアがやってきた。そしてソフィアは、ベルの音を聞いてやってきたメイドに、自分が対応するから大丈夫だよと伝える。
「ということで、どうしたの?」
「いや、それはこっちのセリフだぞ。どうしてソフィアが?」
「ちょうど、通りかかったんだよぉ。お昼なら、ソフィアが作ってあげようと思って」
ソフィアが自分で対応するとメイドに言った意味を理解する。たしかにソフィアはミューレの街でも間違いなくトップクラスの料理の腕前だ。
そんなソフィアにお昼を作ってもらえるのは歓迎だけど――
「残念ながら、昼食は食べたあとなんだ」
「そうなの? それじゃあ、なんの用?」
「実は――」
と、俺はシロちゃんにお小遣いをあげようとしている理由を伝えた。
「そういうことなら、ソフィアが出しておくよ」
ソフィアはそう言って、可愛らしい刺繍の入った布の袋――お財布を取り出した。
「んじゃ、あとで渡すから立て替えておいてくれるか?」
「別に返さなくても良いけど……いくらくらい?」
「そうだなぁ……取りあえず、金貨を百枚ほどあれば――いてぇっ!?」
横からアリスに頭をはたかれた。俺はなにをするんだと、抗議の視線を向ける。
「気持ちは分かるけど、いくらなんでも多すぎだよ。金貨百枚って、私がアリスブランドから得てる、年間の報酬と同じくらいだよ?」
「それは……たしかに多すぎだな」
アリスはあまり報酬を取っていないはずだけど、それでも日本の感覚で言えば、社長クラスの年収を得ているはずだ。そう考えると、多すぎな気がする。
「じゃあ一ヶ月分で、金貨八枚くらいかな?」
「そうだね、それくらいなら良いんじゃないかな?」
「……二人とも、一般的な人たちの年収は、金貨で二、三枚だよ?」
なにやらあきれ顔のソフィアに突っ込まれた。どうやら、多すぎると言いたいらしい。
「ソフィアはどれくらいが良いと思う?」
「そうだねぇ……銀貨で三十枚くらいなら良いんじゃないかな?」
銀貨が百枚で、金貨一枚分だから……まあそんなものか。考えてみれば、上級騎士であるアーニャの月収が金貨一枚だしな。
「シロちゃん、それで良いかな?」
「えっと……ボクはまだ貨幣についてよく分かってないし、リオンお兄さんがそれで良いって言うなら大丈夫だよ」
イヌミミ族は森の中で暮らしていたから、金銭感覚がないのだろう。なので、こっちで決めてしまうことにする。
「なら三十枚で。ソフィア、頼む」
「うん……って、ごめん。ソフィア、金貨しか持ってないや」
ソフィアがお財布の中身を机の上に出すが、十数枚すべてが金貨だった。
「ありゃ、じゃあもう金貨で良いんじゃないか?」
「そうだね」
という訳で、ソフィアがシロちゃんに金貨を一枚手渡した。
ちなみに、羽振りの良い貴族の子供でも、お小遣いはせいぜい銀貨で数十枚。平民の子供なら、たとえ裕福な家でも百分の一、つまりは銅貨で数十枚くらい。
ようするに、金貨一枚あれば二、三年くらい、毎日カフェに通えるという事実を理解していても、それが多すぎると理解している人間は、この場にはただの一人もいなかった。
そして、その事実を知ったシロちゃんが慌てふためき、
「これからバイトをしようっていう、いたいけな子の金銭感覚を崩壊させてどうするの!?」
俺達がクレアねぇに説教を食らうのは……また別の話である。
 






