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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第七章 イヌミミ族との共存

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エピソード 2ー3 レジック村再び

 数日経ったある日。俺はイヌミミ族の労働者十名とサリア、それにソフィアを連れて街道を北上していた。

 向かうはリゼルヘイム――ではなく、その手前。イヌミミ族をレール設置の作業現場へ送り届けて、そのあとサリアをレジック村へと送り届ける予定だ。

 そんな訳で、街道のど真ん中にある作業現場へと到着したのだけど――


「リオン様、久しぶりだね」

「そう、だな……」

 カリーナを前に、俺は言葉を失っていた。

 俺の政策が甘かったせいで悪人に舐められ、アヤシ村の人々が――カリーナの家族が皆殺しにされた。あれから、まだ半年も経っていない。

 覚悟は決めていたけど……正直、なにを話せば良いか分からない。


「そんな顔をしないでおくれ、リオン様」

「いや、カリーナは聞いてないかもだけど、あの事件は俺の甘さが招いた結果なんだ」

 俺はカリーナに恨まれることを覚悟で、その事実を伝えた。それは、上に立つものとしては間違った判断なのかもしれない。

 でも俺は、カリーナの代わりにアヤシ村を見てくると約束した。だから嘘はつけないと、その事実を口にしたのだけど――


「その話なら聞いてるよ」

 帰ってきたのは、予想だにしない言葉だった。たとえ俺が望んだとしても、俺が不利になるような証言を、伝令がすると思っていなかったからだ。

「どうして知ってるんだって顔をしているね。教えてくれたのは、クレアリディル様だよ」

「クレアねぇが?」

「そうだよ。あれからすぐに、直々にあたいのところに来て『あたしは教えるべきじゃないと思うのだけど、弟くんはきっと話してしまうから』って、教えてくれたんだよ」

「そう、だったのか……」


 あれからすぐってことは、婚約の前ってことだよな。

 ホントに、クレアねぇは相変わらずだ。俺が必死に走って到着した目的地で、飲み物とタオルを持って、お疲れ様って出迎えてくれる感じ。クレアねぇの手のひらの上な感じが凄い。

 ――なんて、クレアねぇに出迎えられるのを、嫌と思ったことはない。むしろ心地よいと感じているんだけどさ。


「ともかく、事情を聞いているのなら話は早い。俺に出来ることがあるのなら言ってくれ。可能な限り便宜を図るつもりだ」

「必要ないよ。あたいは言っただろ、恨んでなんてないって」

「でも……」

「それにね。向こうで作業してる女の子がいるだろ?」

 カリーナがちらりと視線を向ける。その視線をたどれば、たしかに俺より少し下くらいの女の子がいる。その子は大人達に指示を出し、レール設置の作業を進めていた。


「……あの子がどうかしたのか?」

「ミューレ学園の卒業生で、いまはあたいの妹分をしてるんだ。そして、リオン様の言う甘さで救われた人間でもあるんだよ」

「それって……もしかして?」

「ああ。彼女は飢饉のおり、食べ物を盗んじまってね。犯罪奴隷に落とされていたんだよ」

 そこまで聞いて、おおよその事情を理解する。

 従来の対応に照らし合わせば、犯罪奴隷として、悲惨な一生を送るはずだった。それが俺の政策によって、情状酌量でやりなおす機会を得たのだろう。


 俺の判断で失われた命もあるけど、逆に救われた命もある。

 失われたのはなんの罪もない人間で、救われたのはやむにやまれぬ事情で罪を犯した人間。そう考えると難しい問題ではある……けど、目の前で、かつて罪を犯した女の子が、心を入れ替えてがんばっているのは事実。

 俺は、少しだけ救われた気がした。


「……ありがとう、カリーナ」

「お礼を言われることじゃないよ。それでもリオン様がお礼を言いたいって言うなら、あたいじゃなくて、クレアリディル様にするべきなんじゃないかい?」

「そっか、そうだな」

 クレアねぇが事前に上手く話してくれていなければ、こんな風に許されたりはしなかっただろう。だから、帰ったらクレアねぇにも感謝をしよう。

 そんなことを考えていると、カリーナが俺の後方にいるイヌミミ族に視線を向けた。


「話は変わるけど、向こうに控えているのが例の応援要員なのかい?」

「ああ、紹介がまだだったな。レールの設置を手伝ってくれるイヌミミ族だ。人間より身体能力が高いから、力仕事は得意だぞ」

「なるほど、それは頼もしいね。あたいが好きに使って良いのかい?」

「もちろん、好きに使ってくれてかまわない。ただ、既に聞いてると思うけど……」

 イヌミミ族が微妙な立場だと言うことは既に伝令を通じて伝えている。その上で、任せても良いかと視線で問いかけると、心配ないよと言う答えが返ってきた。


「あたいは種族なんて気にしないからね。重要なのは、どれだけがんばってるかだよ」

「なら安心だ」

 カリーナなら信用できる。なにしろ、自分の故郷が滅ぼされてなお、その原因となった政策で立ち直った女の子を、自分の妹分だと言い切ったんだからな。

 だから、俺はイヌミミ族をカリーナに預け、レジック村へと向かうことにした。



 そんな訳で翌日のお昼前、俺達はレジック村へと到着。馬車から降りると、村長であるカイルさんが出迎えてくれた。


「ようこそおいでくださいました、リオン様。それにソフィア様と……そちらの方は?」

 カイルさんは、俺とソフィアに続いて降りてきたサリアを見て首をかしげた。

「彼女はエルフ族のサリアだよ」

「おぉ……では、サリア様が植林について教えてくださるのですね」

「そういうことだ。でもって、こっちは村長のカイルさん。リアナのお父さんだよ」

「噂は聞いているわ。よろしくね、村長さん」

 サリアは人当たりの良さそうな微笑みを浮かべて会釈した。


「こちらこそよろしくお願いします、サリア様。このたびは、このような田舎までお越し頂き、ありがとうございます」

「田舎って言う意味なら、エルフの里の方が田舎よ。だから、そんな風に卑下することはないわ。それに敬称もいらない。私のことはサリアで良いわよ」

「それは……ええっと」

 反応に困ったのだろう。カイルさんは助けを求めるように俺を見た。

 でも気持ちは分かる。エルフという種族は気位が高いというイメージみたいだからな。こんな反応をされるのは予想外だったんだろう。


「サリアは、人間の暮らしに興味があって手伝いを引き受けてくれたんだ。だから、心配しなくても大丈夫だと思うぞ」

「ええ、リオンの言う通りよ」

「そう、ですか。ではサリアさん、これからよろしくお願いします」

 カイルさんは少し安堵するように表情を和らげた。

 イヌミミ族ほどではないけど、エルフと人間のあいだにも多少の溝はあるからなぁ。エルフと聞いて、少し心配してたのかも知れない。

 そういう意味でも、来てくれたのがサリアで良かった。もし他の、高慢なエルフが来てたら、大変なことになってただろうしな。


 ただ――と、俺はサリアに視線を向ける。

 サリアは少しだけ苦笑いを浮かべている。気さくな性格みたいだから、俺と同じで敬語じゃない方が楽だと思うタイプ。カイルさんに、対等に話してもらいたかったんだろう。

 だけど――


「徐々に慣れてもらうしかないと思うぞ」

 俺はサリアにそんなアドバイスを送った。

 以前の俺なら、カイルさんに気さくに話してあげてくださいって言ったと思う。

 けど、俺はリゼルヘイムの王妃であるイザベラ様に同じようなことを言われ、同じような反応を返してしまった過去があるので、そんなセリフは口が裂けても言えない。

 目上と思っている相手と気さくに話すには、それなりの信頼が必要なのだ。そんな俺の考えが伝わったのだろう。サリアは再び苦笑いを浮かべる。

「そうみたいね。まあ、長い目で見ることにするわ」

「それが良いと思うぞ」

 サリアと笑いあう。それに対してカイルさんが困惑気味だったので、こっちの話だから気にしなくて良いよと伝える。


「よく分かりませんが、新たな植林予定地へと案内してもよろしいでしょうか?」

「いや、俺はボーキサイトが埋蔵されてる方を見に行くよ」

「なにか用事ですか?」

「ああ。ボーキサイトを少し持って帰ろうと思ってな。だから案内はサリアだけで良い。ということでサリア」

「なにかしら?」

「しばらくこの村で植林について指導してもらうつもりだけど、なにか希望はあるか?」

「そうね……ときどきで良いから、パフェを食べたいんだけど」

「パフェか……」

 ミューレの街から一日以内の距離だから、生クリーム等を運ぶことは可能だけど、さすがにパフェそのものを運ぶのは無理がある。

 いや、出来なくはないと思うけど……たぶん、味は落ちるだろう。


「難しいの?」

「いや……そうだな。パフェを作れるメイドを一人、この村に派遣するよ」

 どのみち、こっちでも技術を学び取る必要があるし、定期的な報告も欲しい。そういう諸々を担当できるメイドを派遣することにした。

「そこまで甘えて良いの?」

「頼んでるのはこっちだから気にしなくて良いよ。それに急げば一日の距離だからな。時間があるときは遊びに来てくれてかまわないぞ」

「ありがとう。じゃあその言葉に甘えることにするわ」

 嬉しそうな表情。サリアもスイーツの虜になっているみたいだな。この世界は砂糖自体高級品だから、パフェが人気なのは無理もないけれど。


「それで、ほかに欲しいものはないか?」

「ええっと……そうね。植林の技術を教え終わった後の話だけど、ミューレの街へ行っても良いかな?」

「もちろんかまわないけど……観光か?」

「そうじゃなくて。あの街に住んでみたいなぁって思って」

「住むって……里に帰らなくて良いのか?」

「たまには帰ると思うけどね。私は昔から街で暮らしたいと思ってたからね」

「そういうことなら歓迎するよ」

 リーベルさんが泣きそうだけど……本人の意思なら尊重するべきだろう。それにサリアがミューレの街に住んでくれるのなら、教師をお願いできるかも知れないからな。


「ありがとう。それじゃここでのお仕事が終わったら、ミューレの街に行くね。と言うことで、私からの要望は以上よ」

「分かった。それじゃ俺は採掘場に行くから、なにかあれば来てくれ」

 俺はサリアと別れ、ソフィアと採掘場へと向かうことにした。



 ちなみに採掘場と言っても、壁に穴を掘っている訳じゃない。露天掘りで、しかも掘り始めたところなので、荒野に少し穴が空いているだけだ。

 その穴がある場所に、俺とソフィアはやってきていた。

「というか……今日のソフィアは妙に大人しいな?」

「リオンお兄ちゃんがお仕事をしてたから、邪魔をしないように大人しくしてただけだよ?」

「そっか、偉い偉い」

 よしよしと頭を撫でる。ホント、ソフィアの髪はふわふわで触り心地が良い。


「それで、リオンお兄ちゃんはどうして採掘場に?」

「あぁうん。ボーキサイトからアルミを作ろうと思って」

 例の雇用問題に対する対策の一つだ。

 今後のグランシェス領では、イヌミミ族が様々な分野で活躍していくだろう。そうして優秀な人材が増えれば、わりが食う人間が出てこないとも限らない。

 それは自然の摂理だけど、イヌミミ族が来たせいで――と、なることだけは避けたい。だからここで一つ、新たな技術革命を起こそうと思うのだ。


「でもお兄ちゃん、ボーキサイトって、精製が大変なんでしょ?」

「そうだな。この世界の技術じゃ当分は無理だと思う」

 ボーキサイトからアルミニウムを取り出すには電気分解が必要になる。

 アリスやリズならあるいはと言ったところだけど、ほかの人間にはまず無理。グランシェス領で独占する形にはしたくないので、どうするか考え中だったんだけど……実は一つ良いアイディアを思いついたのだ。

 それは、アリスの作る紋様魔術で電気を発生させ、電気分解をするという手法。


 もちろん、普通の紋様魔術じゃ圧倒的に出力が足りない。だけど多人数で起動するような大規模な紋様魔術を作れば、アルミを精製することだって不可能じゃないと思うのだ。

 で、アリスに聞いたところ、理論上は可能だって返事が返ってきた。なので今回は、実験用のボーキサイトを取りに来たのだ。


 ついでに言えば、大規模な紋様魔術は色々と応用が利く。例えば、人間を集めて動力代わりに使うと言うことが可能になる――かもしれない。

 今はまだ構想段階だけど、雇用問題に対する対策になる可能性は十分にあるだろう。


「という訳だから、いまからちょっと採掘する」

 アリスが試作した防塵の紋様魔術が刻まれたブレスレットを一つソフィアに手渡し、もう一つは自分で装着した。

 ちなみに、ミュウに試作したブレスレットを使ってもらったところ、アレルギー症状が治まったので、防塵としての効果があるのは確認済みだ。


「採掘するのは良いけど……アルミニュウムって軽い金属なんだよね? なにを作るの?」

「特に考えてない」

「…………お兄ちゃん」

 むおおお、愛らしいソフィアに呆れ眼で見られるとか、ショックで死んでしまう。俺は慌てて誤解だと訴えた。


「たしかになにを作るかは考えてないけど、色んなものに使えるのは事実だから。それに、今回の目的は、レジック村に産業を作り出すことだからな」

 調査の結果、レジック村の付近にも植林に適した土地があったので、ボーキサイトを発掘しなくても問題がないと言えばない。だけど、せっかく目の前に資源が埋まっているのだ。それを使わない手はない。だから、使い道は後回しで考えていなかったんだけど……

「そっかぁ……」

 新しい材質と聞いて楽しみにしていたんだろう。ソフィアは少し残念そうだ。

 うぅん、アルミの用途か。軽くて丈夫だから、ゆくゆくは電車とか馬車のパーツなんかにも使えると思うけど……あぁ、そうだ。あれがあるじゃないか。


「アルミは軽くて錆びにくくて、なおかつ熱伝導率が高いから、フライパンやお鍋が使いやすくなると思うぞ?」

「……え、そうなの?」

 いくら料理好きで、ミューレ学園の卒業生とは言え、さすがに意味は分からないかな? なんて思ったんだけど、いきなり手を握られた。

「リオンお兄ちゃん!」

「う、うん?」

「お礼になんでもするから、ソフィアにフライパンとお鍋作って!」

「ええっと……ちゃんと加工しないと危険だから、すぐにとは行かないと思うけど。でもまぁ、アリスなら安全なアルミ鍋を作れるかな」

「やったぁ、お兄ちゃん大好き! それじゃボーキサイトの発掘、ソフィアも手伝うね!」

「お、おう……ってこら、防塵のブレスレットをちゃんとつけてからだぞっ」

「はーいっ」

 ソフィアの勢いに押されつつ、俺はソフィアと作業を分担してボーキサイトを採掘し、麻袋に詰めたボーキサイトを馬車へと運び込んだ。

 

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