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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第七章 イヌミミ族との共存

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エピソード 1ー7 新しい街の形

 翌朝、ゆさゆさと揺すられて目覚めると、ゴシックドレスを身にまとうソフィアが、俺の腰の上に跨がっていた。他の人に見られたら、絶対に誤解されそうな体勢である。


「……ソフィアは一体なにをしてるんだ?」

「リオンお兄ちゃんを起こすついでに誘惑?」

「……ついでにそんなことをするんじゃありません」

「じゃあ、全力で誘惑したら良いの?」

「そういう問題じゃないな。と言うか、誰か来たら誤解されるからおりなさい」

「誤解って……なに?」

 ソフィアが不思議そうに小首をかしげる。


 ふわふわの金髪セミロングを揺らす姿は無邪気で可愛いけど……騙されないからな。キミ、アリスや他のみんなから教育受けまくってるでしょ。しかも、相手の――つまりは俺の心も読めるのに、分かってないとかあり得ない。

 ――と、そんな風に考えていたのも読んでいたのだろう。


「えへへ、バレちゃった」

 ソフィアはぺろっと舌を出す。あぁもう、可愛いなぁ。こんな無邪気な子が実は、あれこれ凄い知識とか……うん。いまこの体勢であれこれ考えるのはやめよう。

 俺は下半身が起きる前に上半身を起こし、ソフィアを対面で抱っこするような体勢に。そのまま脇の下に手を入れて、ソフィアを持ち上げた。


「わわわっ、リオンお兄ちゃん?」

「ほら、俺も起きるから、どいたどいた」

 そうしてぐるっと上半身を回し、ソフィアをベッドの横に――ぽいっと捨てた。結構な勢いで投げたんだけど、身体能力の高いソフィアはクルリと回って絨毯の上に着地。

「ふえぇっ、お兄ちゃんに捨てられたあぁぁぁぁぁっ」

 人聞きの悪いことをのたまう。


「こらこら、俺がソフィアを捨てるはずないだろ?」

「でもいま捨てたよぉ」

「捨てたけど、捨てたりしないよ。と言うか、今日はやけに甘えただなぁ」

 俺はベッドから降り立って、よしよしとソフィアの頭を撫でつける。するとソフィアは、気持ちよさそうにその身を預けてきた。

「ホントに甘えただな。どうかしたのか?」

「ん~、ほら、最近は一緒にいる時間が減っちゃってたから」

「そっか……そうかもな」

 最近は別行動していることも多かったし、一緒でもみんなと旅をしてたりと、穏やかな時間を過ごす時間は減っている。


「そうだな。それじゃ、今日は一緒に朝ご飯を食べようか」

「ホント?」

「うんうん。ホントだよ。と言うことで、着替えるから外で待っててくれるか?」

「着替えるの、手伝ってあげようか?」

「いりません」

「じゃあ、今度ソフィアの着替えを手伝わせてあげるから」

「いりません」

「えぇ、リオンお兄ちゃんってば、ソフィアの着替えに興味ないの? 最近は、アリスお姉ちゃんやクレアお姉ちゃんにだって負けないくらい成長してるんだよ?」

 そう言ってぎゅっと抱きついてくる。そんなソフィアは今年で十三歳。前世の世界で言うと十五、六歳くらいになるんだけど……身長的には小学生サイズのまま。

 俺のあごより下に、ソフィアの頭がある感じ。背は伸びてないはずなんだけど……と、抱きつくソフィアの胸が、俺のお腹に押しつけられていることに気がついた。

 ……なるほど、胸の話か。


「ソフィアの成長は気になるけど、着替えるから出て行こうな?」

「えぇぇぇ、どうして? ソフィアのお着替えを手伝えるんだよ?」

「だってソフィア、俺がソフィアの着替えを手伝いたいって言ったらどうするよ?」

「え、そんなの歓迎するに決まってる……あっ」

 ソフィアが慌てて口元をその細い指で隠す。けど、遅すぎである。


「という訳で、俺がソフィアの着替えに興味があったとしても、俺がソフィアに着替えを手伝ってもらう必要はないのだよ。だから、大人しく外で待ってような?」

「お兄ちゃんのイジワル――っ!」

 拗ねるソフィアを部屋の外にぽいっと放りだした。

 しかし……可愛いか可愛くないかで言ったら凄く可愛いけど、なんだか凄く間違った方向に成長してる気がする。

 まあ……今更、なんだけどさ。



 身だしなみを整えた俺は、ソフィアと一緒に食堂へと向かった。最初は拗ねていたソフィアだけど、一緒にご飯を食べるうちにご機嫌になった。ちょろい。

「ちょろくないよぉ。リオンお兄ちゃんと一緒が楽しいからだよ?」

「うんうん、ソフィアは可愛いなぁ」

 よしよしと頭を撫でる。ふわふわの髪の手触りが心地よくて、やみつきになりそうだ。イヌミミ族のモフモフとは、また違った心地よさがある。


「ところで、ソフィアは料理の研究をしてたんだよな。イヌミミ族の食生活はどうだった?」

 ちなみに俺の記憶にあった、犬に食べさせたらダメな食材は事前に教えてある。その辺のことも踏まえて、色々と研究してもらっていたのだけど……

「イヌミミ族は、お兄ちゃんの言ってたような食材も平気みたいだよ」

「……そうなのか?」

「うんうん。お兄ちゃんが出かけてるあいだ、イヌミミ族の仮設住宅に通ってたんだけど、基本的には人間と同じようなものを食べてるみたい」

「ふむ……じゃあ、甘いものとか、香辛料は?」

 ミューレの街には普通にあるけど、ザッカニア帝国にはあまりない食べ物を例にあげる。

「注意して少しだけ食べてもらったけど、体調的には問題ないみたい。ただ、好み的には薄味の方が好きみたいだね~」

「なるほど……」

 考えてみれば、イヌミミや尻尾があるとはいえ、基本は人間と同じ。身体能力も高いって話だし、心配する必要はないのかもな。


「あ、それとね。シロちゃんに料理を教えて欲しいって言われたから、教えてあげてるの。別にかまわないよね?」

「それはもちろんかまわないけど、シロちゃんは料理も出来るのか?」

「それがね、シロちゃん凄いんだよ! 教えたこと、どんどん吸収しちゃうの。それでソフィアも楽しくなって、色々教える約束しちゃった。えへへ」

「へぇ、ソフィアがそこまで言うなんて凄いな」

 将来的に、イヌミミ族の学校の教師とか、ありかもしれない。なんて思っていたら、ちょうど噂のシロちゃんが食堂に姿を現した。


「シロちゃん、ちょうど良かった。……って」

 もふもふの尻尾と耳がしゅんと垂れている。それどころか、いつもは愛らしい顔も、どこか悲しげに歪んでいた。それを見た俺は席を立ち、シロちゃんのもとへ駆け寄った。

「シロちゃん、どうしたんだ?」

「……リオンお兄さん」

 その声にも元気がない。見るからに落ち込んでいる。というか、そのつぶらなブラウンの瞳に、うっすらと涙が浮かんでいた。

 俺はシロちゃんから話を聞くべく、膝をついて目線を合わせ、その顔を覗き込んだ。


「シロちゃん、なにがあったんだ?」

「……なんでもないよ」

「そんな顔して、なんでもないはずがないだろ? 俺がなんとかしてあげるから、良かったら話してくれないか?」

「……本当?」

「うんうん。本当だよ」

「……あのね。ボクね、もっと人間と仲良くしたいの。だけど……ダメだって」

「誰に、誰にそんなことを言われたんだ?」


 まさか、よりにもよってこの屋敷の中で、イヌミミ族であることを理由にイジメられてるのか? そんなことないと信じたいけど……もしそうなら許せない。

 シロちゃんを泣かせるなんて、相応の罰が必要だ。犯人を見つけたらぶん殴ろう。そう思って、シロちゃんに問いかける。

 だけど、シロちゃんの口からこぼれ落ちた名前は「アオイお姉ちゃん」だった。


 アオイ――イヌミミ族の代表であり、シロちゃんにとってお姉ちゃんのような存在。そのアオイが、シロちゃんにそんなことを言うなんて……意味が分からない。

「ええっと……どうしてそんな風に言われたのか覚えてるか?」

「……あのね。ボクがここに来るときは馬車で送り迎えをしてもらってるでしょ?」

「うん、そうだな」

 人間とイヌミミ族のあいだで問題が起きないように、原則として両者が交わらないようにしている。だからシロちゃんがお屋敷に来るときは、馬車で送り迎えをさせているのだ。


「でもね。ボクは人間とも仲良くしたい。だから、ミューレの街を見てみたいって言ったの。だけどアオイお姉ちゃんが、それは禁止されてるからダメだって」

「…………………………………………」

 シロちゃんを泣かせた人間の正体に気づいた俺は思わず沈黙。おもむろに拳を握りしめ、自分の頬を殴っておく。……痛い。


 俺はイヌミミ族を護るために、人間から隔離して生活をさせていた。そしてその甲斐あって、種族間での問題は今のところ発生していない。

 だけど……思い出したのは、離れに閉じ込められていた頃の生活。


 父が俺のことを陰から見守ってくれていたと、知ったいまなら分かる。俺が離れに閉じ込められていたのは、兄のブレイクや正妻のキャロラインさんから俺を護るためだった。

 それはきっと正しいことだったのだろう。もし俺が本宅で生活していたら、確実に兄やキャロラインさんにイジメられていただろうから。

 だけど……正しいからそれで良いかと言えばそうとは限らない。少なくとも俺は、それでも兄やキャロラインさんと家族になりたいと思っていた。


 そんな過去を思い出した俺は、あらためてシロちゃんを見る。

 たしかにいまのシロちゃんは、以前よりずっと安全な環境にいる。だけど、その銀の毛並みに覆われたイヌミミは、悲しげに項垂れている。

 こんな状況で、シロちゃんが幸せなんて言えるはずがない。それに俺がモフりたいのは、こんなに寂しげなイヌミミなんかじゃない。ピコピコと嬉しそうに揺れるイヌミミなのだ。

 だから――と、俺はシロちゃんのブラウンの瞳を覗き込んだ。


「……シロちゃん。人間はシロちゃんに優しい人ばっかりじゃない。嫌な思いをすることだってあると思う。それでも、みんなと関わりたいって思うか?」

「うん。ボクは、みんなと仲良くしたい。そう思ったから、リオンお兄さん達とも仲良くなれた。だから、もっといろんな人と友達になりたいの」

「そう、か。シロちゃんの気持ちは良く分かったよ」

 離れに閉じ込められいた俺は、外の世界で自由に生きたいと願った。いまのシロちゃんは、あのときの俺ときっと同じ気持ちでいる。

 だとしたら……俺のやることは決まっている。まずはイヌミミ族のみんなに意見を聞き、そしてみんなが同じ気持ちを抱いてくれるのなら……人間とのあいだにある垣根を取り払おう。


「ソフィア、悪いけどクレアねぇを呼んできてくれないか?」

「そういうと思って、さっきメイドにお願いしたから、すぐに来ると思うよ」

 ソフィアが笑顔で答える。

「それはナイス判断、だけど……どうしてそんなに嬉しそうなんだ?」

「そんなの、リオンお兄ちゃんが、リオンお兄ちゃんだからに決まってるよぉ~」

 意味が分からない……こともない。人間とイヌミミ族を分けて生活させると俺が会議で言ったとき、みんなは少し意味ありげな表情を浮かべていた。

 きっと、あのときから、ソフィア達はこうなることを予想していたのだろう。


「……こうなるって分かってるなら、言ってくれれば良かったのに」

「リオンお兄ちゃんが選ぶことだよ。どっちが正しいかなんて、誰にも分からないもの」

「まあ……そうだな」

 どちらが正しいかは分からない。だけど、だからこそ、グランシェス家当主である俺が判断して決めること。それは分かるんだけど……

 俺が悩んだ末に出す結果まで予想できているなら、やっぱり教えて欲しいと思う今日この頃。――なんてため息をついていると、ほどなくクレアねぇが姿を現した。



「クレアねぇ、ちょうど良かった。実はイヌミミ族の扱いについてなんだけど……」

「イヌミミ族は賛成しているわ。いつでも交流を持たせることは可能よ」

「……やっぱりクレアねぇも分かってたんだな」

「当然よ。だってあたしは弟くんのお姉ちゃんで、婚約者なのよ?」

「説得力があるような、ないような……」

 とは言え、事実として予想が当たってるのだから反論の余地はない。いまはクレアねぇが頼もしいことに感謝しよう。


「それで、具体的にはどんな感じだ?」

「人員の再配置ならすぐにでも。学校の方も、希望者は新学期から通わせられるわよ」

「さすがはクレアねぇ。それじゃさっそく――」

「――ちょっと待って」

 俺のセリフに被せるように、クレアねぇが制止の声を上げた。


「人間とイヌミミ族を共存させれば様々な問題が解決するわ。技術のある人間に、力の強いイヌミミ族が協力すれば、建築だって一気に進むでしょうね。だけど……」

「うん、分かってる。不安要素がいくつもあるのはちゃんと分かってる」

 人間とイヌミミ族のあいだで軋轢が発生すれば、最悪はザッカニア帝国で起きていたような迫害が、ミューレの街でも起きるかもしれない。


 もちろん、俺はそんなことを許すつもりはない。

 だけど、迫害などと言った問題は、禁止したら消えるというものでもない。もしかしたら、結果的にシロちゃん達を悲しませるかもしれないし、最悪はミューレの街に住む人間を罰することになるかもしれない。

 だけど――


「ミューレは、俺達が幸せになるために造った街だ。だから、その街に住むみんなを信じたい。みんなが仲良く暮らせるように、人間とイヌミミ族のあいだにある壁を取り除こう」

 檻の中の安全な暮らしではなく、自由な暮らしをイヌミミ族に。そんな想いで、俺は新たな政策を開始した。

 

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