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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第七章 イヌミミ族との共存

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エピソード 1ー4 アリスとの未来

 アリスと俺、そして互いの母親がいる状況下。俺はアリスの母親に、アリスとの結婚を許して欲しいと頭を下げた。そんな俺を見つめるのは、フィリスティアさんの穏やかな青い瞳。

 わずかな沈黙のあと、静かに口を開く。

「その返事をする前に、少し確認させてもらっても良いかしら?」

「ええ、なんでも聞いてください」

「なら聞かせてもらうけど、エルフは人間と比べてとても長寿よ。だいたい三、四百年。里で一番長生きのリーベルさんは五百年ほど生きている。それはあなたも理解しているわね?」

 なんの話かを理解し、俺は唇をかんだ。だけど、アリスと付き合っていく上で、絶対に逃げられない話だからと覚悟を決めて頷く。


「アリスも同じくらい――うぅん。先祖返りでハイエルフとして生を受けた娘はもっと長生きかもしれない。でも、あなたは長くても百年が限界でしょ? それを理解してる?」

「……理解はしてるつもりです」

 両親を幼い頃に亡くし、妹にも先立たれた。そうして一人っきりで過ごした最後の日々。あんな生活が何百年も続くかもしれないと言うこと。避けられるなら避けるべき未来だろう。

 ……だけど、俺達は一度、前世で死に別れている。

 アリスは俺がいないと思っていたこの世界で、それでも幸せになろうと頑張っていた。そんなアリスだから、俺が死んでもきっと大丈夫だって信じられる。

 だから――と視線を向けると、アリスは小さな微笑みを浮かべてくれた。アリスは俺のことを信頼してくれている。それが分かって嬉しくなる。


「いつか死に別れるとしても、いま離れる理由にはなりません。それに、時間はまだあります。だからそれまでに、アリスが泣かなくてすむような環境を作ります」

「……泣かなくてすむ環境って、たとえば?」

「大前提として、平和な領地ですね。そして俺がいなくなっても寂しくならないくらい、アリスにとって大切な人が増えるようにします」

「大切な人というのは?」

「それは……友人や、その……子供とか」

 おそらくは、誘導されていたのだろう。俺が子供と口にした瞬間、フィリスティアさんは満面の笑みを浮かべた。


「たしかに子供がいれば寂しくないわね。それで、いつ生まれてくるのかしら?」

「ええっと、いや、その……いまはまだ予定はないというか、なんというか……」

「ならすぐに予定を立てなさい。私だって早く孫の顔が見たいのよ?」

「……善処します」

 将来孤独になるアリスを心配するような話だったはずなのに、最後の一言が早く孫が見たい。なんか……そっちが本命だった気がする。

 なんだろう、なんだか蟻地獄にはまったような気分だ。とか思っていたら、隣に座っているミリィ母さんに、がしっと腕を捕まれた。


「――私も孫が見たいわ!」

「ミ、ミリィ母さんまで……」

 この世界での生みの親にして、最初に味方になってくれた人。ミリィ母さんが背中を押してくれたからこそ、すべてが動き出したとも言える。

 そんなミリィ母さんに孫を見たいと言われたら……いやでも、俺はまだ十六歳……って、この世界基準で言えば、そろそろ子供がいてもおかしくないんだけど……ぐぬぬ。


「そう言えば、あなたは前回も同行していたわね。もしかして?」

 フィリスティアさんが、ミリィ母さんに向かって尋ねる。

「申し遅れました。私はミリィ。リオンの母親で、今日はお付きのメイドとして同行しています。以後お見知りおきを」

「あらあら、あなたがリオンくんのお母様なのね。私はアリスティアの母で、この里の族長でもあるフィリスティアよ。これからよろしくね、ミリィさん」

「はい、こちらこそよろしくお願いします、フィリスティアさん」

 実に平和的なやりとり。母親同士の関係は良好そうだ――と、安心することは出来なかった。なんというか、二人が結託して、孫を作れと迫ってきそうで。

 なんか既に、意味深な視線が交差してるし。俺は助けてくれと、向かいに座るアリスに視線を向ける。アリスは、少し熱っぽい表情で俺を見つめていた。


「……リオン」

「う、うん?」

「私も……私も、リオンの赤ちゃんが欲しい。ダメ、かな?」

「うぐぅ……」

 思わず机に突っ伏した。いや、赤ちゃんをねだるアリスが可愛かったからではなく、まさかアリスまでそんなことを言い出すと思っていなくて驚いたからだ。

 断じて、ちょっと流されそうになった訳じゃない。ないったらないのだ! と、机に手をついて、再び上半身を起こす。


「と、取りあえず、今すぐには無理です。でも、必ずアリスが笑って過ごせる環境を作って見せます。だから、結婚を認めてください!」

 赤ちゃん云々はともかく、そっちはごまかされたら困ると、俺はがばっと頭を下げる。

 そして永遠にも感じられるような一瞬が過ぎ――

「だ、そうよ。どうするの、あなた?」

 フィリスティアさんはそんなことをのたまった。その言葉の意味に驚いて顔を上げると、フィリスティアさんは俺の少し上――正確には背後を見ていた。

 それに気づいた俺は慌てて振り返る。そこには――複雑そうな表情で拳を握りしめるハーヴェルさんの姿があった。


「アリスの……いえ、ハーヴェルさん。いつからこそにいたんですか?」

 以前アリスのお父さんと呼んで、お前にお父さんと言われる筋合いはないと言われたことを思い出し、ハーヴェルさんと呼びなおした。

 直後、緑色の瞳が不機嫌そうに細められる。

「お前にハーヴェルさんなどと呼ばれたくない」

「……すみません」

 俺は前世でも、今世でも父を早くに亡くしている。出来れば仲良くしたいんだけど……それは叶わぬ願いなのかな? なんて、ため息をついた。

 ハーヴェルさんはそんな俺を無視する形で、アリスへと視線を向ける。


「お前は、本当にこの男と結婚するつもりなのか?」

「うん。私はリオンが好きだから」

「そう、か。はぁぁぁぁぁぁあぁぁ……」

 海よりも深そうなため息。長い沈黙の後、ハーヴェルさんはぽつりと呟いた。


「リオン。お前にハーヴェルさんなどと呼ばれるのは耐えられん。だから、俺のことはアリスのお父さんと呼べ」――と。


「ええっと……それって?」

 そもそも、お前にお父さんと呼ばれる筋合いはないと言い出したのはハーヴェルさんだ。

 それなのに、アリスのお父さんと呼べって……もしかして? そう思ってハーヴェルさんを見るけど、不機嫌そうに視線を逸らされてしまう。

「勘違いするなよ。アリスの父親という意味であって、断じてお前のお義父さんという意味ではないからな!」

「そう、ですか……」

 勘違いなんてしない。するはずがない。かたくなに俺を拒絶していたハーヴェルさんが、俺をアリスの相手として、少しだけ認めてくれた。それを勘違いなんてしない。


「……ありがとうございます、アリスのお父さん」

「ふん。なんのことか分からんな」

 そう言ってまんざらでもなさそうな表情で明後日の方向を向く。いつもは残念なイケメンエルフだったけど、いまは凄くかっこよく見えた。


「ちなみに、私のことはお義母さんで良いわよ?」

「ええっと……じゃあ、その……フィリスティアお義母さんで」

 照れながらフィリスティアさんを呼ぶと、満面の笑みで頷かれた。なんか、くすぐったいけど……でも、アリスの両親に認めてもらえて良かった――と、俺は安堵の息を吐く。


「それじゃあ、新しい家族との語らい――と言いたいところだけど、サリアの件が途中だったわね。取りあえず、エルフが狙われる可能性は下がったとみて良いのかしら?」

「ええ。皆無とはいかないと思いますが、格段に危険は減ったと思います」

「そう……良かったわ。改めて、リオンくんにお礼を言うわね。って、なによ?」

 フィリスティアお義母さんが小首をかしげる。その視線の先はアリス。見れば、なにやらアリスがふくれっ面をしている。なんか、こういう表情って普段見ないから珍しい。


「むうぅぅ、リオンくんにお礼を言うわねって、私もがんばったんだよ?」

「はいはい。それじゃアリスもお疲れ様、ありがとね」

「誠意が感じられないよ!?」

 なにかと思ったら、お母さんに褒めてもらえなくて拗ねてたのか。

 そんなアリスも新鮮で可愛いけど……いつまで経ってもお母さんっ子だなぁ。なんて、自分のことは棚上げして二人のやりとりを見守る。

 ……懐かしいな。小さい頃の紗弥も、同じように母親に甘えてたっけ。


「ところでリオンくん。貴方の目的は、植林に詳しいエルフのスカウトと、リーベルさんに謝罪させることであってるかしら?」

「植林の方はぜひ。謝罪の方は、もうどっちでもかまいません。なんか、俺のまわりの子はみんな気にしてないみたいなんで」

「そうはいかないわ。リオンくんが約束を守ってくれたのに、こっちだけ約束を反故にすることなんて出来ないわ」

「まぁ……そういうことなら」

 俺としても、謝ってもらった方がすっきりするのは事実だしな。

「それじゃ植林を頼む相手は後で探すとして、さっそくリーベルさんを呼びつけましょう」

 

 

 先日投稿したヤンデレ女神と同じようなシーンなのに、ノリが違いすぎて緋色は戸惑いまくりです……w

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