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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第一章 自重しない異世界姉妹
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プロローグ

 異世界姉妹の姉妹作品となる『無知で無力な村娘は、転生領主のもとで成り上がる』と『無自覚で最強の吸血姫が、人里に紛れ込んだ結果――』もよろしくお願いいたします。

 右上の作者名クリックから飛べます。

 とある病院の最上階にある一人部屋。ベッドサイドモニターや点滴を初めとした医療機器に囲まれたベッドに、儚げな少女が横たわっている。

 彼女の名は雨宮(あまみや) 紗弥(さや)

 もし学校に通っていれば、来年で高校生になるはずの女の子だ。


「……裕弥(ゆうや)兄さん。今まで側にいてくれて、ありがとうね」

「こ~ら、そんな風に終わったみたいに言うなよ、縁起でもない」

 ベッドサイドの椅子に座る俺は紗弥の頬をつつき、その流れで目元に掛かった髪を払いのけていく。紗弥はそれをくすぐったそうに受け入れた。

「ホントに感謝してるんだよ? 兄さんが毎日欠かさずお見舞いに来てくれて、私は凄く、すっごく嬉しかったの」

「そんなの、家族なんだから当たり前だろ」


 両親はもうずっと前に亡くなっていて、それから俺達はずっと二人っきり。だから紗弥が両親と同じ病に冒されていると知り、俺は最期まで紗弥の側に居ようと誓った。

 それは俺の心からの望みで、負担に思った事なんてただの一度だってない。

 だから――


「ホントはダメだって……判ってたのにね。残り僅かな命だからって、兄さんの優しさに甘えてた。兄さんの負担になってるって……知ってたのに」

 紗弥の言葉に言い表せないほどの驚きを抱いた。


「なに、を……なにを言ってるんだ? 負担になんて思うはず無いだろ?」

「優しいね。でも私、知ってるんだよ? 兄さんは来年で卒業だったのに、高校を辞めたでしょ? それって、お見舞いの時間を作る為、だよね?」

「それは……」

 俺が学校を辞めたのは事実だけど、それは紗弥には言えない別の事情があるから。なんだけど……俺はそれを言えなくて言葉につまる。


「ずっと二人で生きてきたんだもん。隠したって判るよ。兄さんが最近辛そうにしてるのも、ため息の数が増えてきたのも、ぜぇーんぶ、気づいてるんだからね?」

「た、確かに最近そういう風に見えたかも知れないけど、それは紗弥の面倒を見るのが負担だとか、そんな理由じゃないって」

「なら、どういう理由なの?」

「それは……」


 ここで理由を言わなければ、紗弥の懸念を認めるも同然だ。そう判っていながら口にする事は出来なかった。それほどまでに、口に出したくない秘密だったから。

 それに事情を話さなくても、紗弥なら直ぐに判ってくれる。誤解は後から解けば良いと思ってた。


 だけど――

 そうして黙り込む俺を見て、紗弥は弱々しい――けれど優しげな微笑みを浮かべる。


「兄さん。迷惑、掛けて……ごめん、ね。だけど、もうこれで終わり……だから。これからは、自分の為に生きて、ね……」

「……紗弥? おい、紗弥?」

 紗弥の様子がおかしい。そう思った俺は慌ててベッドサイドモニターに視線を向ける。そこに示された数字の詳細は判らない。だけど――

「……アラーム解除中?」

 モニターの片隅に表示されたメッセージに眉をひそめる。


「お医者様に無理を言って、解除して……貰った、の。兄さんとの、最期のお別れは、静かに、したかった……から」

「――っ」

 その意味を理解した俺は、慌ててタッチパネルのアラーム設定に指を伸ばす。そうして設定を元に戻した瞬間、不安を煽るような警告音が鳴り響いた。

「……私の分まで、自由に生き、て……幸せに……なって、ね……」


 その言葉を最期に、紗弥は永遠の眠りについた。俺に負担を掛け続けていたのだと誤解したまま――俺には決して叶えられない願いだけを残して。



 それから一週間。紗弥のお葬式や身辺整理を終えた俺は、先日まで紗弥が入院していた病室に戻っていた。今度はお見舞いではなく、俺自身が入院する為に。


 ――そう、入院だ。

 両親の患った病は遺伝的なモノだったのだろう。紗弥のお見舞いに通うかたわら、念の為にと検査して貰った俺は、紗弥と同じ症状を抱えているという事実を知った。

 治療方法の確立されていない未知の病で治る見込みはない。だけど症状が悪化している紗弥よりは確実に長く生きられる。それらを知った俺は、その事実をひた隠しにした。

 自分より先に死んでしまう紗弥を悲しませたくなかったからだ。


 だけどその結果、紗弥は俺に負担を掛けていたと誤解したまま死んでしまった。

 叶うなら、あの日に戻って紗弥に言ってやりたい。

 俺が辛そうにしてたのは、お前と同じ病を患っているからで、お前を負担に思った事なんて一度だってない――と。

 でも、その機会は永遠に失われた。どれだけ願っても、あの瞬間には戻れない。


 だから俺は、今の自分になにが出来るかを考えた。そうして思いだしたのは、紗弥が最期に紡いだささやかな願い。俺はそれを叶えてやりたいと思う。

 だけど――


「私の分まで自由に生きて、幸せになってね――か」


 ベッドに寝そべった俺は、かつて紗弥が眺めていたのと同じ窓の景色を眺める。

 大きな窓の向こうに広がる街並みはさながら箱庭のように見える。そしてそれが、今の俺にとって唯一見ることの出来る世界。

 自由に生きて幸せを掴むには小さすぎる世界だ。


「……そもそも、紗弥がいないのに」

 幼いときに両親を亡くして以来、紗弥と二人で生きてきた。

 両親が残してくれた保険金のお陰で生活費の心配はせずにすんだけど、小さな子供二人での生活は苦労の連続だった。だから俺にとって紗弥は半身も同然で、そんな紗弥が居ないのに幸せになんてなれるはずがない。

 だから――と、俺は一つの決断を下した。


 それは、嘘を重ねること。

 残された時間で様々な知識を集め、まるで自分が体験したかのようなレベルにまで突き詰める。そうして、いつかあの世で紗弥と再会した時に、こんなにも様々な体験が出来て幸せな人生だったよって嘘を吐く。


 後から考えてみればお粗末な、突っ込みどころしかないような計画だ。だけどその頃の俺には、他に選択肢なんてなくて――

 俺は病室で過ごした最期の一年間、ただひたすらに知識を集め続けた。

 

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