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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第七章 イヌミミ族との共存

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エピソード 1ー3 リオンの覚悟

 サリアを送り届けることになり、俺とサリアはさっそくエルフの里へと向かった。

 なお、同行者はアリスとミリィ母さん。それに護衛であるエルザ達。

 クレアねぇとソフィアはお留守番である。


 ……と言っても、俺が置いてきたわけではない。

 俺としては、リーベルさんにはクレアねぇやソフィアに謝ってもらうつもりだった。けど、クレアねぇはイヌミミ族のあれこれ優先で、ソフィアはエリーゼさんのお見舞い優先。

 なんだか、どうでも良さそうだった。


 なので、サリアを送り届け、植林の手伝いをしてくれる協力者を得るのが今回の目的。

 個人的には、もう一つ重要な目的があるけど……なんて考えているうちにエルフの里がある森の入り口にたどり着いた。

 三度目の正直。

 さすがに今回は包囲されないだろうと思っていたのだけど……やっぱり包囲されていた。


「……今度はなんなんですか?」

 若い――かどうかは分からないけど、少なくとも見た目は若いエルフの男達。その中に見覚えのあるエルフ。アリスの父、ハーヴェルさんが混じっているのを見つけてため息をついた。

「貴様なんぞに娘は渡さん!」

 びしっと指を指して叫ぶ。そのセリフを聞いて、なんとなく理解した。

「もしかして、フィリスティアさんから聞きましたか?」

「あいつを説得したようだが、俺はそうはいかんぞ! 貴様なんぞにアリスを渡すものか!」


「――そうだ、そうだ! アリスティアさんは俺と結婚するんだ!」

「いや、俺だ!」

「ふざけるなっ! 俺はアリスティアが生まれたときから目をつけていたんだぞ!」


 アリスパパの叫びに続く、他の若いエルフ達。もしかして……みんなアリスのファンなんだろうか? と言うか、一人ヤバイ奴が混じっている。

 生まれたときから目をつけていたって……いや、エルフの寿命を考えると年の差が数十歳はざらだと思うので……生まれたときから目をつけているのも普通、なのか……な?

 ――なんて思っていたら、いきなりアリスに腕を引かれた。


「なんだ、どうした――って、んっ!? ちょ、アリス、なにを――むぐぅ」

 触れあうようなキスの後、大胆に唇を奪われる。アリスのそんな突然の行動に驚いたのは一瞬。俺はアリスの腰を抱きしめ、その行為を受け入れていく。


 数十秒か、数分か。俺達はどちらともなく唇を離した。だけどアリスの腕は、俺の首に絡められたまま。アリスはその状態のままで、置いてきぼりのエルフ達へと視線を向けた。

 彼らはあまりと言えばあまりの光景に、目を見開いて硬直している。そんな彼らに向かって、アリスは少しだけ頬を染めて言い放つ。


「ごめんね。私はもう、身も心もリオンのモノだから」――と。


 アリスの表情と言葉からなにを感じ取ったのか、膝から崩れ落ちるエルフ達。地面に手をつき、マジ泣きしているエルフまでいる――と言うか、アリスのお父さんである。

 ちなみに、同行している身内は、みんな慣れっこのような反応だ。サリアだけは、驚いてるみたいだけどな。

 取りあえず――


「アリス、容赦なさすぎ」

「だって、事実だし」

「いやまぁ……そうかもだけどさ」

 モノ扱いする言い回しってあんまり好きじゃないんだけどな。まあ、アリス自身が言ってる分には別に良いかもだけど……取りあえず、俺が相手の立場でも泣く。

 その思惑を理解した上で、受け入れて荷担した、俺のセリフじゃないかもだけど、な。


「――そこまでよ!」

 不意に凛とした声が響き渡った。見れば、フィリスティアが駈けよってくるところだった。彼女はそのまま俺とエルフ達のあいだに割って入り――

「貴方達、また問題を起こして……なにこれ、どういう状況」

 号泣しているエルフ達を見て、怪訝な表情を浮かべた。


「ア、アリスが、アリスがその男に穢されて……っ」

「ア、アリスティアさんが、俺のアリスティアさんが……うわあああっ」

「大人の、大人の階段を……ううっ」

「失礼だなぁ。リオンに身も心も捧げただけなのに」

「うおおおおおぉぉぉぉおぉぉ」

 ハーヴェルさん達が獣のような慟哭をこぼす。それで事情を理解したのだろう、フィリスティアさんがため息をついた。


「なにかと思えば……あなた。アリスが決めたことなのよ?」

「しかし、しかしだなぁっ!」

「あ な た?」

「うく……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 男泣きしながら走り去っていく。見た目イケメンのエルフ。気持ちはよく分かる。俺だってミリィ母さんが彼氏とか連れて来たら、たぶん同じようになる。


「貴方達も、うちの娘はリオンくんにベタ惚れなのよ。無駄なことはやめて、新しい相手を見つけなさい。……まぁうちの娘より器量のある子はそうそういないでしょうけど」

 フィリスティアさんが、他のエルフ達に向かって言い放つ。……その言い分には全面的に同意だけど、どっちかって言うとトドメ差してますよ?

 なんて思っているうちに、フィリスティアさんは彼らを解散させた。そうして、あらためて俺達の方へと視線を向ける。


「いつものことながら、ごめんなさいね」

「いえ、まぁ……気持ちは分からなくもないので」

「そう言ってくれると助かるわ。ホント、いつまで経っても娘離れが出来ない父親で困るわ」

「あはは……」

 俺も親離れできていないから耳が痛いと苦笑い――していると、フィリスティアさんは俺の後ろにいるサリアに気づき、大きく目を見開いた。


「サリア、無事だったのね!」

「ご心配をおかけしました。リオン達が助けてくれたのでなんとか無事です」

「それなら良かったわ。リーベルさんが心配してるから、取りあえず顔を見せてあげなさい」

「分かりました。それじゃ……リオン、アリス、また後でね」

 サリアは俺達に声をかけ、里の方へと向かって小走りに駆けていった。それを見届け、フィリスティアさんは再び俺へと視線を向ける。


「サリアを救ってくれてありがとう、リオンくん。一族の長として、あなたに感謝します」

「いえ、俺にも原因があったみたいですから。こちらこそ、迷惑をかけてすみません」

「原因って、なにかしら……っと、こんなところで話すことじゃないわね。まずは場所を移しましょうか」

 ――という訳で、例によって例のごとく、エルザには馬車を連れて近くの村で待機してもらうことに。俺は残りのみんなを連れてエルフの里へと移動した。



 やってきたのはアリスの実家。

 俺の向かいがアリスで、隣はミリィ母さん。そして斜め向かいがフィリスティアさんと言う位置関係で、リビングの席に着いている。

 なんと言うか……彼女の家に親付きで挨拶に来たみたいでなんか緊張する。いや、考えすぎなのかもしれないけどさ。


「さっそくだけど、なにがあったか聞いても良いかしら?」

「もちろんです。実は――」

 俺はサリアが、誰にどうして攫われたのかを説明していく。

 そもそもの発端が、グランシェス家の技術の源がアリスであるという噂を流したことも含めて話したので、恨まれることすら覚悟していたんだけど……

「なるほど、そんなことがあったのね」

 話を聞き終えたフィリスティアさんは穏やかなままだった。


「怒らないんですか? アリスやサリアが危険な目に遭ったのは俺のせいだと思うんですが」

 母親としても、族長としても怒るところだと思うんだけど……と思っていたら、フィリスティアさんは、自分の着ている服をつまんで見せた。

 エルフの民族衣装だけど――よく見ると、生地や縫い目が、明らかに俺の知っている民族衣装と比べて優れている。まるで、アリスブランドのような――


「まさか?」

「ええ、アリスブランドで作ってもらったのよ。でもって、アリスブランドの洋服って、アリスが作らせているのでしょ?」

「え、えぇ、まぁ……」

 正確には前世の記憶をもとに再現したが正解だけど、な。それはともかく、アリスママの言いたいことをなんとなく理解した。


「つまり、噂を流すまでもなく、どのみちアリスは重要人物になっていたから同じだと?」

「そうじゃない? 私はアリスチートという言葉まで耳にしているのだけど」

「なるほど……」

 アリスチート。それはアリスの規格外な能力の俗称。

 最初に言い出したのは俺だけど、いまでは一般にまで広く知れ渡っている。だから、もとからアリスや他のエルフが狙われる可能性があったと言えば、その通りかも知れない。

 だけど……どのみち危険なんだから、ついでにほかの危険を押しつけてもかまわないという考え方はちょっと出来そうにない。いや、効率的なのは分かるんだけどさ。

 なんて思っていたら、フィリスティアさんはクスクスと笑った。


「心配しなくても、森には結界を張ったから、もう同じようなことは起きないはずよ」

「でも、アリスは……」

 森ではなく、人里にいる。そして俺と同じ、もしくはそれ以上に、重要人物として狙われる危険をはらんでいる。


「アリスは、あなたが護ってくれれば良いのよ」

「俺が、ですか?」

「そうよ。貴方は……娘を護ってくれるのでしょ?」

 一転して、真剣なまなざしを向けてくる。アリスと同じ青い瞳に込められた意思を理解し、俺は生唾を飲み込んだ。

 けど、迷うことはない。俺は椅子に座り直して姿勢をただす。

「はい、アリスのことは俺が必ず護ります」

「……本当に?」

「はい、本当です。だから……だから、アリスとの結婚を許してください」

 覚悟をもって想いを告げ、深々と頭を下げた。

 

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