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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第六章 海の向こうの大陸で――

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エピソード 4ー3 将軍様の無謀な試み

本日、緋色と仲良くしてくださっている神埼 黒音さんの作品であり、緋色の愛読している作品、魔王様、リトライ! が、モンスター文庫より発売です。


ちなみに、ヤンデレ女神の箱庭を緋色が書き始めたのも、神埼さんとの会話が切っ掛けだったりします。活動報告に詳細を書いているので、良ければご覧くださいっ。

 捕らわれていた奴隷の娘達は全部で十名ほど。それぞれ簡単な事情聴取を終え、取りあえずはオリヴィアの屋敷で保護することになった。

 強硬派の連中に証拠隠滅的な意味で狙われる可能性を考えて、念のためだ。


 ちなみに、奴隷を縛る紋様魔術を刻まれていたら、みんなを屋敷から連れ出すだけでも一苦労だったんだけど……ヴィオラに魔術を封じる紋様が刻まれていただけで、行動を縛るたぐいの紋様は誰にも刻まれていなかった。


 理由は……おそらく、奴隷を縛る紋様魔術は主人に傷をつけることが出来なくなるから。

 つまり、早い話が……その、ライナス教皇の目的が女の子を傷つけることではなく、女の子に傷つけられることだったからだろう。


 そんな知りたくなかった事実はともかく、女の子達をオリヴィアの屋敷に預けた後、俺達は再び皇宮へと舞い戻った。


「リオン伯爵、ご苦労だった。どうやら、娘達が監禁されていたのは事実だったようだな」

「ええ。エルフ族の娘が不当に奴隷にされたのは間違いありませんし、そのほかの奴隷についても色々と証拠が挙がっています」

「そう、か……して、その証拠というのは?」

「ええ。これをご覧ください」

 俺は近衛騎士から預かっていた、ヴィオラをはめるための計画書を差し出した。


「なるほど。たしかにライナス教皇がかかわっているようだな――と、待て。この差出人は間違いないのか!?」

「私では確認できませんが、近衛騎士が言うには、刻印は本物であると」

「うぅむ。これは確認せねばなるまい。誰か――」


 皇帝陛下が近衛兵に命令して高官達を招集。その前で事実を究明すべく、差出人とされる人物を呼び出した。ほどなく――


「お呼びですかな、皇帝陛下」

 軍部のトップ。ケント将軍が、部下の騎士を二十名ほど引き連れて姿を現した。

「ああ。おぬしを呼んだのは他でもない。ライナス教皇の屋敷を捜査した結果、おぬしがライナス教皇に荷担したという物的証拠が見つかったのだ。その真偽を問いたい」


 ――そう。ライナス教皇に書状を送ったのはケント将軍。つまり、彼がヴィオラの両親を騙して借金を負わせた張本人と言うこと。


 本音を言えば、ちょっと信じられなかった。

 彼はライナス教皇と同じ強硬派の人間で、繋がっていてもおかしくはない。だけど、ライナス教皇の屋敷を捜索しろと進言したのはケント将軍だ。


 それなのに、その屋敷からケント将軍が悪事に荷担したという物証が見つかる。

 自分につながる証拠がないと思い込んでいたという可能性はあるけど、いくらなんでもお粗末すぎる。だからこそ――


「たしかに、ライナス教皇に協力しましたよ。聖女としての片鱗を見せる娘を奴隷にしたいと相談されましたので」

 ケント将軍があっさりと罪を告白する。俺はその展開をほんの少しだけ予想していた。だから俺は、無言で二人のやりとりを聞きながら、隣で跪くソフィアを引き寄せた。


「――では事実だという申すのか? 軍部のトップであるおぬしが、一市民を騙して借金を負わせ、その娘を奴隷にしてライナス教皇に売ったというのか?」

「その通りです」

 ケント将軍が再び肯定し、高官達が騒然となった。


「……愚かな。このたびの一件、許す訳にはいかん。ケント将軍。おぬしの地位を剥奪。沙汰が下るまで、自宅で謹慎とする」

「そんなことをして無事で済むと思っているのですか、皇帝陛下」

「……貴様、なにを考えている?」


 皇帝陛下が険しい表情を浮かべた。

 先ほどの捜索には、穏健派に所属する近衛騎士の多くが駆り出された。もちろん皇帝陛下のもとにはまだ近衛騎士が残ってはいるが少数だ。

 それに対して、ケント将軍は二十名ほどの部下を連れている。


「……まさか、反乱を起こすつもりなのか?」

 皇帝陛下の問いかけにオリヴィアがびくりと身をすくめ、近衛騎士達が険しい表情を浮かべる。だけど――ケント将軍は失笑を漏らした。


「そのようなことはいたしません。私はこう見えても、帝国を愛しておりますから」

「では、なんだというのだ?」

「簡単なことです。私から将軍の地位を剥奪すれば、軍部に混乱が起きる。リゼルヘイムとの戦争が始まるいま、そのような愚策は選べないでしょう?」

「……リゼルヘイムとの戦争だと? 貴様、なにを言って――っ」

 皇帝陛下の瞳が驚きに見開かれる。そして恐る恐るといった仕草で俺を見る。


「……そう言えばリオン伯爵。リーゼロッテ姫を連れてこられるのではなかったのか?」

「その予定でしたが、急いで城に来てほしいとの連絡をいただいたので」

「……そのような連絡、我は出していないぞ。まさか――っ」

「皇帝陛下の予想どおり、私が出しました。彼をリーゼロッテ姫から引き離すためにね。そろそろ我が部下が、リーゼロッテ姫殺害の報告を持ち帰るころでしょう」


 それを聞いてすべての謎が解けた。至急と呼び出されたのに、謁見に一日待たされた理由。それは手紙を出したのが皇帝陛下ではなかったから。


 そして、ケント将軍がライナス教皇の屋敷を捜索するように進言したのは、リズを襲撃するための時間稼ぎをしたかったから。


 すべてはケント将軍の思い描いた計画通りだったのだ。――ここまでは。


「リオン伯爵、すべては聞いての通りだ。すぐに救出部隊を向かわせるが……もしかしたら間に合わないかもしれない。出来れば戦争は避けたいところだが……」

「リズが殺されていたら……戦争は避けられないでしょうね。彼女は親兄弟や国民に溺愛されていますから」

「そう、か……」


 国王陛下に王妃様。そしてアルベルト殿下にノエル姫殿下。果ては民にまで溺愛されるどじっ娘。そんな彼女が殺されたとなれば、相応の贖罪を求めることになるだろう。

 そして、財政難のザッカニア帝国はそれに応じることが出来ない。強硬派の連中も、これ幸いと戦争を訴えるだろう。そうすれば、確実に戦争が始まる。

 でもそれは――


「リズが本当に殺されていたら、ですけどね」

「リオン伯爵は、リーゼロッテ姫が無事だと申すのか?」

「アリスを同行させていますからね。天地がひっくり返っても元気だと思いますよ」

「――はっ、暢気なことだな。たしかに護衛が数名同行しているのは確認しているが、しょせんは少数。我が精鋭の部隊にはかなうまい」

 ケント将軍が割って入る。あざけるような口調なのは……俺が現実を見ていないと思っているからだろう。


「部隊ねぇ……一応聞いておくけど、何人くらいなんだ?」

「ふっふっふ。聞いて驚け。念には念を入れて、分隊を二つ。二十名をほどを向かわせた。だから、姫が無事など、万が一にもあり得ぬわ!」


 ケント将軍が高らかに叫ぶ。その瞬間、吹き出した者がいる。ちなみに、俺でもソフィアでもない。皇帝陛下の斜め後ろに控えていたオリヴィアである。


「オリヴィア姫、なにがおかしいのですかな?」

「あなたがあまりにも愚かだからです。たった二十名で、アリスさんをどうにか出来ると思っているのですか? 彼女ならその十倍いたとしても瞬殺でしょう」

 いや、さすがに二百人は無理だと思うぞ?

 ……たぶん、きっと、瞬殺は。


「――はっ、なにを言い出すかと思えば世迷い言ですか。……そう言えば、あなたの騎士は彼らに敗北したそうですね。実に情けないことだ」

「ええ。あたくしの自慢の騎士、十名が数秒で殲滅されましたわ」


 ケント将軍は挑発したつもりだったんだろう。

 けど、オリヴィアはすがすがしいまでにあっさりと答えた。その態度に不気味さを感じたのだろう。ケント将軍が少しだけいぶかるような表情を浮かべる。


 ――直後、低い地響きが発生、足下が少しだけ揺れた。


 それに皆がおやと反応をする。けど、それは一瞬だけですぐに収まった。なので皆はそれ以上は気にせず、再び話を再開する。


「十名が瞬殺ですか。それが事実なら、なかなかの驚異ですな。しかし、それもリオン伯爵の力でしょう。彼がここにいる以上、なんの脅威にもならない」

「分かっていませんね。たしかにリオン様や、そこにいるソフィアさんも驚異的な戦闘力の持ち主ですが……それはアリスさんも代わらない。リオン様が命令を下せば、我がザッカニア帝国は一夜にして滅びるでしょう」

「なにを馬鹿な――」


 ケント将軍は最後まで言えなかった。再び地響きが発生。今度は収まることなく、遠くでなにかが崩れるような音が鳴り響いたからだ。


 そして、その音はいつまで経っても鳴り止まない。一体何事かと皆が騒然となり――ほどなく、一人の兵士が謁見の間に飛び込んできた。


「ご報告いたしますっ! 城壁が突如として崩壊を始めました!」

「城壁が崩れただと? 一体なにが原因だ!?」

「分かりませんっ、ただ地鳴りがあり、その直後に城壁が崩れ始めたようです」


 原因不明で城壁が崩れ、いまもなお崩れ続けている。その報告を聞き、俺は思わずソフィアへと視線を向けた。


「……どう思う?」

「ソフィアなら、やる」

「そ、そうですか……」


 もちろん、ソフィアには城壁を破壊するなんて出来ない。だからいまのやるというのは、仲間に危害を加えられたら、報復をするという意味だろう。

 そして……俺はその言葉を否定する根拠を持ち合わせていない。


 さすがに城壁を破壊する方法なんて思いつかないけど……なんて思っていたら、もう一人。今度は騎士が飛び込んできた。

 そして彼は、ケント将軍の前に片膝をつく。


「お前は……襲撃部隊の監視役だったな。王女暗殺の報告に参ったのか?」

「そ、それが、襲撃の任を受けた二十人は壊滅いたしました!」

「な、なんだと!? それで、暗殺自体は成功したのか?」

「い、いえ、リーゼロッテ姫を始めとした対象は無傷です」

「馬鹿なっ!?」

 信じられないとケント将軍が叫ぶ。


 俺はほっと息を吐く。アリスなら大丈夫とは思ってたけど、やっぱり心のどこかでは心配していたようだ。


「申し訳ありません。任務は失敗です」

「愚か者め! たった数名の護衛を相手に、なんたる失態だ!」

「そ、それが、その、なんと申しますか……」

「なんだ、はっきりと言え」

「同行していたエルフの娘の一撃で、味方は全滅いたしました」

「い、一撃だと? ただの一撃で、どうやって包囲している人間が全滅するのだ!?」

「それはなんと申しますか……常識の通じない相手でして。い、いえ、それよりも、いまはそれどころではないのです!」

「暗殺に失敗するよりも問題などあるものか! このままでは我らは終わりなのだぞ!?」

「い、いえ、それが……私は先ほどまで、そのエルフの娘に捕らわれておりまして。城の前でリーゼロッテ姫からの伝言を託され、解放されたのです」

「…………は? と、捕らわれていただと? いやそれより、伝言とはどのようなモノだ?」


 ケント将軍の顔に、わずかな期待が宿る。

 おそらくはリズが襲撃された事実に怒り狂い、ザッカニア帝国に宣戦布告することを期待しているのだろう。

 そして――それはある意味で、ケント将軍の期待通りだった。騎士は緊張した面持ちで、預かった伝言を口にする。


「リーゼロッテ姫の言葉を伝えます。『リオンお兄様をすぐに返しなさい。でなければ、今すぐこの城をぶちこわしますわよ? まずは城壁からです』とのことです」


 ……どうやら、アリスだけではなくリズもお冠のようだ。

 この国……大丈夫かな? なんて、場違いな心配をしてしまう。その直後、収まらぬ振動に揺れていたザッカニアの旗が――バサリと落ちた。

 

 

 毎回宣伝していますが、今回も宣伝させてください。

 ヤンデレ女神の箱庭、連載中です!

 昨日、一章のエピソード4に突入しました。まもなく一章が完結するので、纏め読みが好きな人もそろそろ読みどきですよっ。

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