エピソード 4ー2 悪事の証拠
なにはともあれ、俺達はライナス教皇の悪事を暴くため、彼の屋敷の捜索に向かった。
メンバーは俺とソフィアに、近衛騎士が十数名だ。
強硬派の子飼いによる証拠の隠滅や、俺達の抹殺なんて可能性も考えたんだけど……アーニャ曰く、選出されたメンバーの大半が穏健派の近衛騎士だそうだ。
強硬派のメンバーも混じっているが、それは証拠がねつ造されないかを見張るためのメンバーで、こちらに対する悪意はないとソフィアが保証してくれた。
しかし……なんなんだろうなぁ。ケント将軍がリゼルヘイムを攻めるべきだと言っているのはあくまでも国のためで、自国で悪事を働いていた教皇が許せない――とか?
可能性は十分にあるけど、なんとなく納得できないのも事実。
本当はソフィアに心を読んでもらうのが一番なんだけど……彼はソフィアに近づこうとはしなかった。ソフィアの恩恵を知られてしまった以上、こちらから近づく訳にはいかないし、協力してくれている相手に、怪しいから心を読ませろという訳にもいかない。
考えすぎなのかもしれないけど……やっぱり少し気になる。
「リオン伯爵様、屋敷の包囲が完了しました。これでいつでも突入できます」
近衛騎士の報告を聞き、俺は我に返る。
ケント将軍の思惑は分からないけど、誘拐されたエルフの救出は俺達の目的であることに間違いはない。いまはこっちに集中するべきだろう。
ソフィアと残っている近衛騎士達を引き連れ、俺は屋敷に突入した。
「こ、これは何事ですか!?」
「――静まれ! 皇帝陛下の名の下、いまよりこの屋敷の強制捜査を行う!」
「きょ、強制捜査ですと? 一体どのような理由でフェルミナル教のトップが住む屋敷を捜査するというのですか!」
執事かなにかなのだろう。初老の男が近衛騎士の隊長にくってかかる。
実際問題、相手はこの国最大の宗教団体のトップで、政治に対しても発言力を有している。そんな相手の家宅を強制的に捜査してなにも出なければ大問題だろう。
だけど――ソフィアが何気ない仕草で歩み寄り、執事の腕に触れた。
「この執事さんも共犯だよ。さっき、使用人の一人に証拠となり得る書類の処分を命令してた。その書類は……執務室の隠し棚にあるんだって」
恩恵を全力で使うソフィアの前では杞憂でしかない。
「――なぜそれをっ!?」
執事はとぼけることも忘れて声を荒げた。その事実に気づいたのか、慌てて口をつぐむも後の祭りだ。もはや、ソフィアの言葉を疑う近衛騎士はいない。
「おまえ達、今すぐ執務室を制圧し、証拠の書類を集めろ」
「「――はっ!」」
命令を受けた近衛騎士が走っていく。それを見届けた隊長はソフィアの前に跪いた。
「――ソフィア様。他の協力者もお教えいただけませんか?」
……なんか、ソフィアに対する態度がやたら丁寧である。そしてその幼女を見上げる視線には畏敬の念が込められている。
なんか……新しい宗教が生まれる瞬間を目撃したような気がしないでもない。けれど、ソフィアはまるで気にした様子もなく「そうだねぇ……」と執事をちらり。
「事実を知って黙認していたのは全部で……二名。その執事さんと、護衛官の隊長だけだね」
「思ったよりも少ないですね。その人数で、他の人間に隠し通せるものでしょうか?」
「隠し部屋に奴隷がいることを知ってる人間はもう少しいるみたいだよ。だけど、その人達は正規のルートで手に入れた奴隷だと思ってたみたい」
「……教皇殿が隠し部屋に奴隷を閉じ込めていて、不審に思われないものでしょうか?」
「上に立つ人はストレスがたまるからね。それを発散する方法として黙認されていたみたい」
「ストレスの発散、ですか?」
「世の中にはいろんな性癖の人がいるからね」
「……な、なるほど」
奴隷を隠し部屋に監禁と聞いた時点から俺は予想していた。
そしてそれは、おそらく隊長も同じだろう。それなのに若干動揺しているのは……可愛らしい幼女の口から、性癖という言葉を聞いたからだろう。なんか、少し顔が赤いし。
もう少し自重して欲しいなぁ……とソフィアを見ると、えへっと舌を出されてしまった。うん、可愛いから赦そう。
「それじゃリオンお兄ちゃん、サリアさんを助けにいこう」
「おっと……そうだった。捕まってるのは地下の隠し部屋だっけ?」
俺達の主目的はライナス教皇の悪事を暴くことではなく、エルフの里から連れ去られたサリアさんを救出すること。という訳で、俺とソフィアと隊長は地下室を目指すことにした。
そんな訳で、俺達は一階の部屋にある隠し扉から地下一階へと続く階段を下りる。そこには小さなフロアがあり、その端になんの変哲もない扉が存在していた。
俺達はその扉をゆっくりと押し開く。
そこには――なにやらピンク系の色彩で纏められた部屋があった。ベッドやら怪しい器具やらが存在する……いわゆるプレイルームである。
なにをプレイするかは……ノーコメントだ。
「みんなが閉じ込められてるのはその奥だよ」
ソフィアが部屋の奥へと進む。俺と隊長は慌ててその後に続いた。
そしてたどり着いた部屋の奥、備え付けの扉を開くと――そこには牢屋がいくつも並んでおり、その中に女の子が閉じ込められていた。
俺はそんな中の一つへと近づいた。
「……あ、貴方達は誰ですか?」
ソフィアと同じくらいの年頃の少女が、少し怯えた様子で尋ねてくる。
栗色の髪の少女は、質素なワンピースを身につけている。身なりは普通だけど……その緑色の瞳には、疲労が色濃くにじんでいる。
「心配しなくていい。俺はキミを助けに来たんだ」
「……助けに、ですか? では、他の皆さんを救ってあげてください」
「それはもちろんだけど……キミは?」
「わたくしは……その、親の借金の肩代わりに買われたので、逃げる訳にはいかないんです」
「ふむ。キミはフェルミナル教の信者なのか?」
「ええ。そうですが……?」
「それなら、たぶん心配しなくて大丈夫だ」
「……どういうことでしょう?」
「実は――」
と、俺はライナス教皇は、狙った娘の親を騙して借金を背負わせ、娘を奴隷として手に入れていた疑いがあることを話した。
「そ、それは事実なのですか!?」
「いま証拠を捜索中だけど……間違いないよ」
ソフィアが心を読んで得た情報だし、実際に女の子達が捕らわれていた。ここまで来て誤情報ということはないだろう。
それを聞いた女の子はぺたんと座り込んだ。
「そんな……それじゃ、私はいままでなんのために……」
絶望しているのだろう。恩人だと思って従っていたら、実は自分をはめた相手だった。そんな彼女を渦巻く感情がどれほどのものか。心から同情するけど、かける言葉がない。
そう思って沈黙を守っていると、少女は心の内を吐露し始めた。
「フェルミナル教の教皇で、親の借金を肩代わりしてくださった優しい方だからと思って、いままでどんな命令にも従っていたのに……」
「……辛かったんだな」
「はい。凄く、凄く嫌でした。でも、何度も何度も無理矢理にさせられるうちに、いつしか受け入れ始めている自分に気がついて、それが凄く嫌で!」
「そう、か……」
なんと言うか……凄く酷い話だ。
話を聞いてあげるべきなのか、それとも遮る方が良いのか。どうするのが少女のためになるのか、そんなことを考えながら相づちを打つ。
「だけど……自分の本心はごまかせなかった。私はいつのまにか、尊い存在であるはずの教皇様を鞭で叩くことに、悦びを覚えてしまっていたんですっ!」
「……そう、か……って、うん?」
心を無にして相づちを打っていた俺は、その言葉を聞いて小首をかしげる。
「わたくしはフェルミナル教の敬虔な信者のはずなのに、なのにこんなっ、許されません!」
「ええっと……鞭で、叩かされてたのか? 叩かれてた訳じゃなくて?」
「はい。ライナス様はその……マゾだそうで」
「マ、マゾ?」
「それで教皇という立場にいる自分が、迫害を受けているイヌミミ族や、借金の形に売られた奴隷の娘なんかに、踏まれたり叩かれたり蔑まれたりするのがたまらない、と」
「そ、そっかぁ……」
ま、まあ、上に立つ人のストレスは半端ないって言うからな。
大陸で一番大きいフェルミナル教のトップともなれば、そういう性癖を持っていてもおかしくは……ないのかなぁ。
な、なんにしても、陵辱されたとかじゃなくて良かった……のか? 敬虔なシスターがエスっ気に目覚めたのを、良かったと言っていいのかは分からないけど。
……って、あれ?
「もしかして、数週間ほど前にイヌミミ族の女の子を逃がさなかったか?」
「……シロちゃんのことですか? どうしてあなたがご存じなんですか?」
「あぁ、やっぱりキミが逃がしてくれたのか」
この子が、シロちゃんがお礼をしたいと探していた白魔術師の女の子。という訳で、俺はシロちゃんを保護して森に送り届けたという話をした。
「そうですか……彼女は無事に逃げられたんですね。ありがとうございます」
「いや、こっちこそありがとう、だ」
この子のおかげでシロちゃんに出会えた訳で、シロちゃんに出会えなければ、イヌミミ族の説得も難航していたかもしれないからな。
「――お兄ちゃん、サリアさんがいたよ」
「お、そうか。すぐに行くよ」
答えて足を運ぼうとする。
「あ、ちょっと待ってください」
――寸前、女の子に呼び止められた。
「どうかしたのか?」
「えっと……お名前を伺ってもよろしいですか?」
「あぁ、俺はリオンだよ」
「リオン様ですね。わたくしはヴィオラと申します。それで……わたくしはこの後どうなるんでしょうか?」
「んっと……借金は帳消しになると思う。だから、キミは自由の身だと思うよ」
「でしたら、その……シロちゃんに会うことは可能でしょうか?」
「シロちゃんか……リゼルヘイムに引っ越したんだよな」
「リゼルヘイムに……ですか?」
「話せば長くなるんだけど……そうだな。別に問題ないよ。事情聴取が終わったら、俺に会えるように話を通しておくよ。詳しい話はそのときにでも」
「分かりました。よろしくお願いします」
ヴィオラがぺこりと頭を下げる。もう他に質問がないことを確認して、俺はソフィアのもとへと移動した。
「お待たせ、ソフィア」
「あ、お兄ちゃん。この人がサリアさんだよ」
言われて牢屋の中を見ると、エルフの少女が閉じ込められていた。緑色の瞳に髪。おとなしそうな雰囲気のお姉さんである。
もっとも、エルフの年齢は見た目で判断できないけどな。
「サリアよ。事情はソフィアさんから聞かせてもらったわ。助けに来てくれてありがとう」
「キミが無事で良かったよ。里のみんなが心配してたからな」
特にキミのおじいさんが――とは、声には出さずに呟く。けど、サリアは祖父の溺愛っぷりを知っているのだろう。「あぁ……」と苦笑いを浮かべた。
「それで、私はどうしたら良いのかしら?」
「あぁ……えっと、証言が必要かもしれないから、もう少しだけ付き合ってくれ。その後は、俺達と一緒に帰る感じで良いか? 数週間ほど後になっちゃうけど」
「ええ、もちろんそれでかまわないわ。よろしくね。ええっと……」
「リオンだよ。リオン・グランシェス」
「そう、あなたがあのアリスティアの想い人ね」
「……え、よく知ってるな」
「それはもう。アリスのお母さんから」
「なるほど……」
それから他の娘達も保護していく。
その中に、アヤシ村に住んでいた娘も捕らわれていた。
賊達は皆殺しにしたと思い込んでいたようだけど……話を聞くに、賊のリーダーであり、ザッカニア帝国の工作員であったミゲルが、内密に引き渡していたようだ。
彼は早々に自殺をして、話を聞けずじまいだったからな。
「――リオン伯爵様、使用人が処分しようとしていた書類を押収しました」
先ほど執務室へと向かった近衛騎士が戻ってきた。
「なにか証拠になるような書類はあったか?」
「ええ。こちらをご覧ください」
一枚の書類を手渡される。そこに記されていたのは、ヴィオラの親を騙して借金を負わせるための計画。受取人はライナス教皇。そして差出人は――
「……この計画書は本物か?」
「刻印から見て、おそらくは本物かと」
「そっか……ありがとう」
ある意味では予想どおりの――だけど、予想外の名前に少し驚く。
だけど、これでエルフとの約束は果たしたし、ミュウの無事も確認した。あとは城に戻って、ザッカニア帝国との同盟を締結するだけ。この証拠は、その助けになるだろう。
こうして、ソフィア教が……生まれたとか生まれなかったとか。
三度目の宣伝になりますが『ヤンデレ女神の箱庭』異世界姉妹と同時連載中です。
こっちは新連載なので、現在は毎日更新をしてます。
そしてこの五日で頂いた感想は、
『クラウディアあざと可愛い』『ぞくぞくする』『ヤンデレタイム』『クラウディア、殺されそう』『ご主人様のエッチって言われたい』『ヤンデレ特有のドロドロした感じがなく安心して読めました』
こんな感じですね。
はっきり言って、緋色は頑張りました。なにを頑張ったかというと、R-15のガイドラインを十回くらい確認して、規約を守りつつエロく書くことを頑張りました(ぉぃ
そのおかげで、エロ可愛いとか、まさかなろうで**シチュを見るとはとか、どすけべぇなどの感想を頂き――その裏では、純真な少年少女のものとおぼしきブックマークが数十件吹き飛びました(ほろり
そんなヤンデレ女神の箱庭は――ちょうど一章の折り返しを迎えました!
ヤンデレによる狂宴、これから盛り上がっていきます。
異世界姉妹はエロさが足りないと思ってるそこの貴方も、ぜひご覧くださいな!
リンクは作者名か、↓のタイトルもしくは『http://ncode.syosetu.com/n1110eb/』からどうぞっ。
ちなみに……ローズは、ヤンデレをこじらせたソフィアがモデルです。






