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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第六章 海の向こうの大陸で――

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エピソード 3ー9 モフ取られ

 後書きに詳細を書きますが、本日新作をアップしています。

 アオイやシロ。それにオリヴィアをミューレの街へ招待してから数日後。俺はクレアねぇに執務室へと呼び出された。

 そうして顔を出すと、そこには既にクレアねぇのほかに、アオイとシロが待機していた。


「二人もクレアねぇに呼び出されたのか?」

「ああ。移民についての詳細を話すためだそうだよ」

 俺の問いにアオイが答える。その内容が意味するところは……

「そっか。ミューレの街への移民を決意してくれたんだな?」

「みんなの説得は村に帰ってからだけどね。これなら自信を持ってみんなを説得できるよ」

「それは良かった」

 自信を持って説得できるってことは当然、アオイはこの街を気に入ってくれたってことだからな。足湯メイドカフェにイヌミミの店員を加える日も近い。


「それでね、弟くん。これからザッカニア帝国に戻って、移民の支援と、移民が終わった後の、ザッカニアとの交渉をお願いしたいのだけど」

「それはもちろん。ここまで来たら最後まで引き受けるよ。と言うか、オリヴィアさんも、ちゃんと責任を持って送り届けないとな」

「ありがとう。それじゃ早速で悪いんだけど、いまからみんなを連れて――」

「――待ってクレアお姉ちゃん!」

 不意に声を上げたのはシロちゃんだ。可愛らしいイヌミミのぼくっ娘は、なにやら覚悟を秘めた目でクレアねぇを見つめている。

 と言うかクレアお姉ちゃんって……またずいぶん仲良くなったんだな。


「シロちゃん、どうかしたの?」

「あのね。ボク達はずっと森で窮屈な暮らしをしていたから、クレアお姉ちゃんやリオンお兄さんには凄く感謝してるの。だから、ボクはこの街に残ってお手伝いしたいなって」

「気持ちは嬉しいけど……シロちゃんは、里に帰らなくて大丈夫なの?」

 クレアねぇが問いかけたのは、シロちゃんではなくアオイ。その視線を受けたアオイは「どうせこっちに戻ってくるんだしね。里にはあたいが帰るから問題ないよ」と答えた。

「ん~そういうことなら、残ってもらおうかしら。家を建設するにあたって、色々とイヌミミ族の意見を聞きたいし、逆にイヌミミ族にもあたし達の習慣を知って欲しいしね」

 ――とまぁ、そんな感じでシロちゃんの残留が決定した。


「弟くんもそれで良いかしら?」

「俺は大丈夫だけど……シロちゃんは大丈夫なのか?」

「あら、なんの話?」

「いや、シロちゃんがなんか、モフられるのが大好きみたいでさ」

 シロちゃんを送り届けてから森で再会するまで一週間程度。それであの様子だ。今度は一ヶ月くらいはかかるだろうし、ちょっと心配――なんて思ったんだけど、シロちゃんは大丈夫だよとこともなげに答えた。


「そうなのか?」

「うん。だってクレアお姉ちゃんは、リオンお兄さんと同じくらい。……うぅん。リオンお兄ちゃんよりモフるのが上手なんだよ!」

「なん、だ、と……」

 信じられない思いで、絞り出すような声で呟く。だけど――

「繊細で、すっごく気持ちいいの」

 シロちゃんは凄く無邪気に微笑む。そこに嘘なんて見えない。つまりは、シロちゃんは本気で、俺よりクレアねぇの方がモフるのが上手だと思っていると言うこと。

 それは、つまり一種の寝取られ――いや、

「クレアねぇにモフ取られた……」

 俺は絨毯に崩れ落ちた。



 ――失意のまま、俺はザッカニア帝国へと舞い戻った。

 いやまあ、あれから既に数週間。さすがに立ち直っているけどな。そもそも、シロちゃんはあの後、『あのあの。リオンお兄さんのちょっと強引なモフモフも凄く気持ちいいよ!』と言ってくれたので、クレアねぇに負けたことは気にしてない。

 気にしてないったら、気にしてないのだ。

 それはともかく――


 ヴェークの街外れにある港。俺は船に乗り込むアリスを見送りに来ていた。

 あれから数週間でイヌミミ族の移民は迅速に進み、最後のイヌミミ族を乗せた船が出発しようとしているのだ。

 もちろん色々問題はあったけど、移民の話を聞いた強硬派の人間が動いているという情報もある。だから邪魔をされないうちにと、とにかく早さを優先したのだ。

 そんな訳で、アリスに気をつけてなと声をかける。


「ありがとう。イヌミミ族のみんなをリゼルヘイムの大陸に送り届けたら、リズちゃんを連れて戻ってくるね」

「ああ、待ってるよ」

 イヌミミ族の移民を終えたら、次はザッカニア帝国との同盟。という訳で、リズ――リゼルヘイムのお姫様であるリーゼロッテが帝都で調印式を行うことになっている。

 リズは今頃、スフィール領の港へと向かっているはずだ。なのでイヌミミ族の輸送を終えたアリスが、その足でリズを連れてくる予定である。

「それじゃ、行ってきます!」

 アリスが勢いよく船に乗り込み、ほどなく船が出航。俺はその船が遠ざかるのを見送った。


 ……さて、と。これでイヌミミ族の移民は終了だけど……奴隷として売られたイヌミミ族の買い戻しや、エルフの娘に、シロちゃんを助けてくれたという女の子の捜索も残っている。

 もちろんアカネが調べてくれているし、俺も移民を行っている合間に調べてるんだけど、いまだそれらしい情報は入っていない。

 アリスが戻ってくるまで、もう少し調べてみようか――なんて思っていると、俺と一緒に残ったソフィアが「リオンお兄ちゃ――んっ」と駆け寄ってきた。


「ソフィア、どうかした――っておいぃっ!」

 いつぞやのシロちゃんのように、ソフィアは減速するそぶりを見せずに突っ込んでくる。俺は慌てて精霊魔術でソフィアの減速――避けられた!?

「ちょ、ソフィア!?」

 寸前まで船を見送っていたので、すぐ後ろは海。間違っても避ける訳にはいかない。俺は覚悟を決めてソフィアを受け止め――あれ?

 想像していたような衝撃は一切なかった。一体なにをどうやったのか、ソフィアはほぼゼロ距離になってから減速。俺の腕の中にふわりと収まった。


「えへへ、驚いた?」

「……割とマジで焦ったからやめて頂きたい」

 ぶっちゃけ、ソフィアと一緒に海に落ちる覚悟までさせられたレベルで。

「でも、ソフィアにドキドキしたでしょ?」

「ドキドキはしたけどなんか違う」

「違わないよぉ。アリスお姉ちゃんが言ってたんだけどね。人間は恋と恐怖のドキドキを、その状況でしか区別できない――って」

「……またアリスか」

 ちなみに、いわゆる吊り橋効果である。

 今回で言えば、海に落ちるかもという恐怖でドキドキしたのは予測できるけど、いま現在ドキドキしているのが、さっきの恐怖を引きずっているのか、それともソフィアに抱きつかれてドキドキしているのか、俺の無意識は判別できないという意味だ。

 意識的に考えれば……両方だろうけどな。


「それはともかく、そんなに走って、俺になにか用か?」

「うん。さっき皇宮から手紙が届いて、急いで顔を出して欲しいって」

「……急いで?」

「うん。なんか急いでるんだって。伝令の人は、事情までは知らなかったみたいだけど」

「よく分からないけど……そういう事情なら行ってみるか」

 アリス達が戻ってくるのは夕方。待っていては出発が一日遅れる。という訳で、エルザに伝言を頼み、俺とソフィアは一足先に馬車でザッカニア帝都へと向かうことにした。



 ――そうしてたどり着いたのは、三日後の夕暮れ前――なんだけど、皇帝陛下への謁見が許されたのは、翌日の昼前だった。

「すみません、リオン様。お待たせするようなことになって」

 謁見の間へと続く廊下を歩きながら、オリヴィアが申し訳なさげに言った。

 至急と言ったわりには……なんて思わなくもないけど、なんらかの事情があるんだろう。それくらいで怒ったりはしないと謝罪を受け入れる。


「そう言えば、アリスお姉ちゃん達は、今日の午後に到着するんだよね?」

「そうだな。翌朝に出発してたら、それくらいじゃないかな」

 俺の隣、オリヴィアとは反対側を歩いていたソフィアの問いに答えた。

「リーゼロッテ姫もお越しになるんですよね。どのような方なんですか?」

「あぁ……ミューレの街にいたんだけど、オリヴィアは会ってなかったか。そうだなぁ……穏やかな性格で優しくて、歌声の綺麗なお姫様……かな」

 すっごいどじっ娘だけど――とは声に出さずに付け加えた。


「歌姫の名声はこの大陸にも届いています。いまからお目にかかるのが楽しみです」

「そ、そうか……」

 あれだ。オリヴィアの幻想を打ち破らないように、リズのどじっ娘は全力で隠そう。もっとも、本性を知られたら知られたで、愛すべきどじっ娘であると親しまれるかもしれないけど。

 なんて考えているうちに謁見の間へとたどり着いた。



「ご報告の通り、ザッカニア帝国にあだなすイヌミミ族を、この大陸から一掃いたしました」

 ザッカニア帝国の大きな旗が飾られた謁見の間にて、俺は今回の顛末について話し終えた。

 一掃――とは言ったけど、実際に行ったのはイヌミミ族すべての移民。強硬派が言った本来の意味からは掛け離れている。

 だけど……既に皇帝陛下が根回しをしていたのだろう。ざわめいたのは約半数ほどで、おそらくは穏健派であろう者達は平然としている。

 そうして、俺の話を聞き終えた皇帝陛下は厳かに口を開いた。


「リオン伯爵よ、我が国が長年抱えていた問題をよくぞ解決してくれた。これでリゼルヘイムが弱小国だという疑いは晴れた」

 皇帝陛下がきっぱりと断言する。

 だけど――

「お待ちください、皇帝陛下!」

 不意に割って入る声があった。声の主は――フェルミナル教のローブを身にまとった中年男性。前回謁見する前に会った、フェルミナル教の教皇――ライナスである。

 彼は俺達の隣にて、皇帝陛下に向かってひざまずいた。


「イヌミミ族を一掃するという話は、そもそもリゼルヘイムの武力を証明するための手段。全員を移民させる手際は評価に価しますが、武力を証明した訳ではありますまい」

「そうだな。しかし、一掃すれば認めるというのは他ならぬケント将軍が提唱し、皆がその考えに同意した。教皇殿も聞いていたはずだ」

「それは……そうですが。まさか、そのような手段を執るとは夢にも思わず。その……」

「ライナス教皇殿。この件は我々全員が承認した結果だ。異を唱えることは許さぬ」

「……くっ。か、かしこまりました」

 ぎりぎりと歯ぎしりが聞こえてきそうな態度。だけど建前上とは言え、強硬派の中でも有力な教皇が首を縦に振った。

 他に文句を言う者もいないようだし、これならことはスムーズに運ぶだろう。そう思ったそのとき――ソフィアがおもむろに立ち上がった。


「……ソフィア?」

 皇帝陛下との謁見中なのに、いきなり立ち上がるなんてなにを考えているんだ。

 そう思って止めようとする。だけどそれより一瞬だけ早く、ソフィアは隣で跪いている教皇の腕を掴み――柔術の要領で床にたたきつけた。


 ………………って、いやいやいやいや! なななっなにしてるの!? ここは隣国の謁見の間で、投げ飛ばした相手はこの大陸で一番大きい宗教団体のトップなんだぞ!?

 なんて内心で慌てるけど、驚きすぎて声が出ない。そしてそれは他の者達にとっても同じなのだろう。謁見の間が凍り付いている。

 そして――

 教皇が投げ飛ばされた衝撃か、その光景に驚いた誰かが引っかけたのか、謁見の間に飾られていたザッカニア帝国の旗がバサリと揺れた。


 

 本日19時過ぎに新作をアップしています。

『ヤンデレ女神の箱庭 ~この異世界で“も”、ヤンデレに死ぬほど愛される~』

 ヤンデレに死ぬほど愛される体質の主人公が、ヤンデレの女神様に見初められ、ヤンデレに特化した世界に転生。ヤンデレじゃない女の子とのスローライフを目指す物語です。


 舞台はステータスやスキルがあるゲームのような世界で、R-15相当のエロ表現があります。また、グロ表現などは極力排除していますが、ヤンデレに死ぬほど愛される展開が多くあります。

 作者名をタップから飛ぶことが出来ますので、よろしければご覧ください。

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