エピソード 3ー6 戦闘民族
本日は俺の異世界姉妹が自重しない! 2 の発売日です! 本屋さんによっては既に並んでるみたいですが発売日です!
本屋さんで見かけたら、ぜひぜひカラー口絵を見てください。色々ヤバイですけど、特に、涙目ソフィアの破壊力がとんでもないことになってます!
(確認は本屋さんのご迷惑にならない範囲でお願いします&周囲に人がいないかのご確認をお忘れなく……w)
*6/02追記
精霊のパラドックス、完結いたしました。
良ければ読んでみてください!
ザッカニア帝国にある森の片隅に、イヌミミ族の住む村がある。
身体能力は優れていると言うことだけど……技術的な面ではあまり発展していないのだろう。原始的な藁屋が立ち並んでいる。
俺とソフィアとオリヴィアは、そんな藁屋の中でも比較的大きくてしっかりした建物、寄り合い場に案内された。
目的はもちろん、イヌミミ族の行く末について話し合うため。なので長老的な人物が出てくることを想像したんだけど――対面に座っているのはアオイ一人だけ。
「代表は遅れてくるのか?」
「あたいがイヌミミ族の中で一番強い戦士だよ」
「……ふむ?」
どういう意味だろうと首をひねる。横にいたオリヴィアが「イヌミミ族は一番強い戦士が、皆を纏めることになっているんです」と教えてくれた。
「……それはつまり、アオイを説得できれば、全員を説得できるも同然と言うことか?」
アオイに向かって問いかける。
「あたいの決定に無条件で従う訳じゃないけどね。あたいが納得できる内容であれば、みんなを説得するくらいはするつもりだよ」
「なるほど」
予想外ではあったけど、俺にとって悪い展開じゃない。変化を恐れる集団を説得することを考えたら、変化を恐れず突き進みそうなイメージのアオイを説得する方が楽そうだ。
「それで、イヌミミ族との共存を望んでいるとか言う話だったね。どういうことか、詳しい話をしてくれるかい?」
「ああ、そうだな。俺は……アオイ。キミ達イヌミミ族を、自分の領地へ迎えたいと思っている。だからうちの領地に移民しないか?」
「自分の領地、だって? あんたは何者なんだ? そっちの嬢ちゃんが姫様だって言うのは聞いたけど、あんたの方が態度がでかいよね?」
「むぐ……」
オリヴィアとソフィアに笑われた。
礼儀正しくしようと気を使うつもりは……あるんだけどな。つもりだけで、実行できていないとか言われると……あれだけど。
ともかくと、俺は咳払いを一つ。
「俺はリオン・グランシェス。リゼルヘイムに領地を持つ伯爵だ」
「……伯爵?」
アオイは銀色の髪を揺らして首をかしげた。
「あっと……伯爵って言うのは、貴族の地位を表す名称で……」
「いや、さすがにその程度のことは知ってるよ。ただ、その伯爵があたい達を受け入れようという理由が分からなくてね」
「なるほど。その理由はいくつかあるけど……そうだな。一番の理由は足湯イヌミミ――いや、リゼルヘイムは現在技術革命が起きて、どこも人材が不足しているんだ」
「はっ、だからあたしらを奴隷のように働かせようって言うのか?」
「まさか。無茶をさせるつもりはないし、働きに応じた対価は渡すよ。だから、給料だって働き次第では人間よりも良くなると思うぞ」
藁屋から想像するに、あまり技術力は高くないだろう。だから、最初はその系統の仕事は不利だと思う。けど、身体能力は人間より優れてるって話だからな。
仕事次第では十分に稼ぐことが出来るだろうと考えている。
「……分からないね。それが事実なら、どうしてあたいらにその話を持ってくるのさ? 同じ人間を雇えば良いじゃないか」
「理由は二つある」
「聞かせてもらおうじゃないか」
「まず一つ目。こっちの都合なんだけど――ザッカニアと同盟を組む条件として、イヌミミ族をなんとかして見せろって言われたんだ」
この件はザッカニアも関わっているという意味を込めて、俺は隣にいるオリヴィアにちらりと視線を向けた。
「……つまり、あたいらと戦うのは得策じゃないから、搦め手を考えたってことか?」
「いや、これ幸いとイヌミミ族を引き抜こうと思った」
「……はあ?」
意味が分からないという表情をされた。モフモフなイヌミミ族が欲しい。これほど明確な理由はほかにないと思うんだけどなぁ。
「知ってると思うから隠さないけど、ザッカニア帝国民の多くはイヌミミ族を疎ましく思ってる。けど、彼女はそうじゃない。イヌミミ族との争いは望んでないんだ」
「じゃあ……その姫様との取引で、イヌミミ族を受け入れることにしたのか?」
「そういうこと。それが二つ目の理由にもつながるんだけど……さっきアオイが、どうしてイヌミミ族を雇おうとするか分からないって言っただろ? でも、俺に言わせたら逆だよ」
「……逆?」
「ああ。目の前に優れたモフモフが――いや、労働力が余ってるのに、それを雇わない手なんてない。それこそ、俺にしたら分からないよ」
「本気で言ってるのか? あたいらは人間とは違う。イヌミミ族なんだよ?」
「モフモフしてて可愛いし、身体能力も優れてる。たしかに人間とは違うな」
「……はぁ、あんたの基準はよく分からないね」
アオイはため息を一つ。……なんか、理解を得られたと言うより、諦められた気がする。
「ええっと……アオイ的には、グランシェス領に引っ越しするのは反対か?」
「……いや。本音を言うとね。ザッカニア帝国の人間が、時々あたいらの仲間を攫いに森までやってくるんだ。出来るだけの対策はとっているけど……それでも限度はある。ここでの生活は限界なんだよ。あんたの申し出は渡りに船だね」
「――だったら」
今すぐミューレの街へ引っ越ししようという俺のセリフは、アオイが突き出した手のひらによって遮られた。
「だけどそれは、あんたの言っていることが事実なら、だよ」
「まあ……そうだよな。こっちは証明するための努力は惜しまないつもりだけど……どうやったら信じてくれる?」
「あたい達は基本、自分より強い相手に従うのがルールなんだ。だから、あたい達をリゼルヘイムに連れて行きたいって言うなら、まずはあたいに強さを証明してみせな」
「強さ、ねぇ……それを証明したら、信じてくれるってことか?」
「それは、また別の話だよ。まあ……前向きには考えるけどね」
「ふむ……」
イヌミミ族の身体能力がどれほど優れているかは分からない。けど、シロちゃんのあの突進力を考えるに、人と一線を画していると考えて良いだろう。
村で一番の戦士って話だし、普通に戦って勝てる気がしない。精霊魔術込みならなんとかなるかもしれないけど……それじゃ力の証明になるか怪しいな。
なんて思っていたら、ソフィアがすくっと立ち上がった。
「……ソフィア?」
「リオンお兄ちゃん。強さの証明なら、ソフィアにまかせて」
「いや、ここは俺が格好をつけるところだと思うんだけど?」
「でもリオンお兄ちゃん、近接戦闘じゃソフィアに勝てないでしょ?」
「がふ……」
いや、事実なんだけどさ。事実だからこそ、ソフィアに指摘されるとショックというか、なんというか……今度から近接戦闘の訓練を増やそう。
「という訳でアオイさん。その強さの証明、ソフィアが相手でも良いかな?」
「あんたは?」
「ソフィアは、リオンお兄ちゃんの婚約者だよ」
「……ふぅん?」
アオイはソフィアの全身をゆっくりと眺め「なかなか楽しめそうじゃないか」と笑った。
「そういうアオイさんもね」
対するソフィアもいつになく楽しげだ。……なんだろう。戦闘民族同士、なにか感じることがあったりするんだろうか……?
――村の広場。多くのイヌミミ族が見守る中で、ソフィアとアオイが相対していた。
ちなみに、村人達には勝負をする理由を話してある。
なので、この戦いでソフィアが負ければ説得が難しくなる反面、ソフィアが強さを証明できれば、アオイが移民をする方向で話を進めてくれるそうだ。
強い者に従うというイヌミミ族の考え方。今後を考えると少しやっかいだけど……今回に限って言えば分かりやすくて良い。
という訳で、俺は観戦者に混じり、オリヴィアと一緒に二人の戦いを見守ることにした。
「……リオン様。ソフィアさんは大丈夫なんですか?」
「アーニャを一蹴したのはオリヴィアさんも見ていたでしょ?」
「それはもちろん見ていましたが……うちの騎士団ですら、イヌミミ族の戦士と正面から戦うのは不可能だと言っています。その部族のリーダーともなれば……」
「相当強いでしょうね」
「それが分かっていながら、どうしてソフィアさんにまかせたんですか?」
「本人が言ってたでしょ、俺より強いって」
「……それ、本当のことだったんですか?」
オリヴィアが目を丸くする。屋敷での活躍を見ていたはずなんだけどな。
「近接戦なら確実に勝てないですね。なんでもありで戦っても……勝てないかもですね」
近接戦闘に加えて精霊魔術を使えば、手数やスピードには対抗できるかもしれない。だけど接近していた場合、ソフィアに思考を読まれて生半可な攻撃は通じない。
俺がソフィアに勝つには、距離を保ちつつ精霊魔術を打ち続けたときくらいだろう。そしてそんな状況、よほど地形に恵まれていなければあり得ない。
「それじゃ……ソフィアさんなら、アオイさんに勝てるんですか?」
「それはやってみないと分かりません。だけど……俺はソフィアを信じてますから」
俺達がそんな風に話しているあいだに、二人の戦闘は開始されようとしていた。
「――まずは小手調べだ。あたいから行くよっ!」
アオイが叫ぶのと同時にソフィアに襲いかかる。
――速い! 一挙動で数メートルを詰める縮地のような動き。瞬きをする程度の一瞬で、アオイは距離を詰め、手甲を装備した右腕を振るう。
だけど――ソフィアは既にその場に存在していない。
「……いまの動きに反応した? いや……」
アオイは少し警戒しながらも、逃げるソフィアに追い打ちをかける。
アオイは身体能力をいかした接近戦が得意なのだろう。防具で守られた手足を目にもとまらぬ速度で振り回している。それは格闘技と言うよりも、まさに野生の獣のような動き。
だけど――ソフィアには当たらない。すべて、紙一重で回避し続けている。
「はっ、あんた妙な能力を持っているね。あたいの攻撃予知してるみたいじゃないか!」
「そういうアオイさんこそ、ソフィアの対応を見て攻撃を変化させてるねっ。一体、どういう反応速度をしてるの、かな!?」
「その攻撃を回避してるあんたも、似たようなもの――だろっ!」
アオイは回し蹴りを放ち、ソフィアが同時に身をかがめる。俺がそう認識したときには、アオイの足はかかと落としの要領で振り下ろされている。
慣性を無視したような、俺には理解も反応も出来ないような一撃。なのに、ソフィアには当たらない。野性的なアオイの攻撃に対し、ソフィアはよどみのない動きで回避を続ける。
「ほらほらどうした! 避けるだけじゃあたいには勝てないよ!」
「アオイさんこそ、がんばって攻撃を続けないと、手を止めたらやられちゃうよ!」
「言うじゃないかっ!」
アオイがさらに加速。残像を残すほどの速度でソフィアの背後に回り込む。けれど、ソフィアはそれと同時に振り返っている。
アオイの方が早く動けたとしても、回り込むより振り返る方が早い。振り返ったソフィアはアオイの攻撃を――受け止めようとして目を見開いた。
アオイが攻撃のそぶりだけを見せて、さらに回り込んだからだ。
そして――
「はあああああああっ!」
今度こそ、ソフィアの背後をとったアオイが右腕を振るう。
反応がおくれたソフィアは、身体をひねりながらガード。だけど無理な体勢で受け止めたからか、数メートルほど吹き飛ばされてしまった。
「――ソフィア!」
かろうじて受け身をとり、草むらの上に膝をつく。そんなソフィアに駆け寄ろうと思った俺は……その表情を見て足を止めた。
俺やエルザ達との戦闘訓練においても、ほとんど攻撃を受けなかったソフィア。そのソフィアがアオイの重い一撃を受け――嬉しそうに笑っていたのだ。
「えへへっ、アオイさんは凄いなぁ」
「……凄いだって? いまの一撃、わざと吹き飛ばされて威力を相殺したんだろ? しかも吹き飛ばされる瞬間、短剣であたいの腕を狙ってたね?」
「それも届かなかったじゃない。思考を読まれるのなら、ソフィアの反応速度より速く動けば良い。……実際にやってのけたのはアオイさんが初めてだよ」
……なんか、二人の会話が人外過ぎて困る。
ソフィアがアオイの一撃を相殺していたのも驚きだけど、ソフィアの思考を上回る動きとか、普通出来るモノじゃない――と言うか、出来なかった。
そもそも、なぜ二人とも楽しげに笑っているのか。見た目は純情可憐な幼女が、まるで戦闘民族のように笑っている。なんと言うか……ありだなっ!
「……あの、リオン様。戦いを止めなくて良いんですか?」
オリヴィアが不安げに尋ね来る。俺はその意味が分からなくて首をかしげた。
「ええっと、どうしてですか?」
「どうしてって……だって、ソフィアさんがあんなに吹き飛ばされて。しかも、二人ともどう見ても本気ですよ?」
「ですね、楽しそうでなによりです」
「いえ、あの……楽しそうとかではなくて、怪我とか、そう言う……」
「それは大丈夫ですよ」
ソフィアが使っている短剣は鋼鉄製だけど、布を巻いてあるし、その辺の手加減は心得ている。アオイの方だって、あれだけの技量なら手加減くらい出来るはずだ。
「……なんとなくですが。リオン様とソフィアさんが仲良しな理由、分かった気がします」
「ええっと……ありがとうございます?」
「いえ、あんまり褒めてません」
よく分からないけど……ソフィアとアオイの戦いは、その後しばらく続いた。
最後にもう一度、
涙目ソフィアがヤバイですよ――っ!!
 






