エピソード 3ー3 交渉の準備
異世界姉妹二巻の表紙などを活動報告に上げています。
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オリヴィアの別宅にある一室。周囲を沈黙が支配していた。ソフィアが短剣の一振りで、青銅の剣を真っ二つに切り裂いたからだ。
……って、いやいやいや! いくら鋼の短剣とは言え、青銅の剣を切断するとかあり得ないだろ!? なに、どうやったらそんなこと出来るの!?
なんて思っていたのはアーニャ達も同じなのか、口をぱくぱくさせて驚いている。
「リオンお兄ちゃん、これで良かったんだよね?」
「お、おおおう。ありがとうな、ソフィア」
……そ、そうだ。なにはともあれ、技術の高さが戦争において優位に働く証明になった。製鉄技術というより、ソフィアの剣技の証明な気がしないでもないけど!
「ど、どうだ? 技術力の差があれば、ここまでのことが出来るんだぞ?」
「……たしかに驚いた。まさかただの剣で、ここまでの差があるとは思っていなかった」
「そ、そうだろ」
なんたって俺も思ってなかったからな! とは口に出さない。俺は内心の動揺を必死に隠し、ソフィアによくやってくれたと頭を撫でつける。そうして、触り慣れたふわふわの髪を撫でることで自分の平常心を取り戻し、俺は改めて席に座り直した。
「さて、オリヴィアさん。俺達が和平を持ちかけているのが、戦争に負けることを恐れているからじゃないと分かって頂けましたか?」
「……ええ。同盟を求めるのが、弱気な理由でないのは理解しました。ですが、それならばなおさら、そこまで下手に出る意図が分かりませんが」
「そもそも下手に出てる訳じゃありませんよ」
「どういうことでしょう?」
「そうですね……グランシェス家が、学園を経営しているのはご存じですか?」
「たしか……そこに通えば、誰でも技術を習得することが出来るのですよね?」
「そうです。あらゆる技術を学ぶことが出来ます」
「……そんなことをして、リオン様になんの得があるのですか?」
「ミューレ学園を作ったときも、同じことを聞かれました。ですが、技術を放出したからこそ、今のリゼルヘイムがある。それと同じことをしようとしているだけです」
いわゆるWin-Winの関係。
だけどWin-Winの考え方をぶっちゃけると、どこかで敗者が出ている可能性が高い。今までで言えば、ザッカニア帝国がそれに当てはまるだろう。グランシェス家がリゼルヘイム全域と手を取り合った結果、隣国であるザッカニアが貿易摩擦に陥ったんだからな。
だから今度は、ザッカニアとリゼルヘイムでWin-Winの関係を結ぶ。
もちろん、その先には、他の国の敗北が待っているのかもしれない。けど俺の目的は、自分達が幸せに暮らせる環境を整えることだから、さすがにそこまでは責任を持てない。
――とまぁ、そういった俺の話を聞き終えたオリヴィアは、最後にアーニャをちらり。あらためて俺へと視線を向けた。
「途方もない話ですが、貴方が本気で言っていることは理解しました。ぜひ、お父様――ザッカニア皇帝にお目通りしてほしいのですが、受けていただけないでしょうか?」
「ザッカニア皇帝? それは願ってもない申し出ですけど……」
ザッカニアは穏健派と強硬派に分かれているとのこと。うちの領民をさらう等々、今までの行動を考えると、国は強硬派よりな気がするんだけど……大丈夫なんだろうか?
「もちろん、皆さんの身の安全はあたくしの名誉に誓って保証します。それに、お父様はあたくしと同じ、穏健派の人間なんですよ」
「そうなんですか? それにしては、国ぐるみでリゼルヘイムにちょっかいをかけているみたいですが……?」
「それは……申し訳ありません。我が国は軍部の発言力が強く、皇帝とはいえ、彼らの総意を翻すまでには至らないのです」
「なるほど……」
ザッカニア帝国は、隣国やイヌミミ族との小競り合いが絶えないという。それゆえ、軍部が強い発言力を持っているのだろう。
そして、その発言力を維持するために戦争を求める。古来からよくある話な気がする。
そうなると、最終的には軍部を納得させる必要が出てくるだろう。けど……なんにしても、皇帝がリゼルヘイムとの友好を望んでいるのなら会わない手はない。
俺はオリヴィアの要請に快く応じた。
皇帝との謁見がすぐに可能かどうか、オリヴィアの使いが早馬で確かめてくれるとのことで、俺達は今度こそ、普通の食事で歓迎されることとなった。
そうして昼食をいただき、連絡待ちをしているとメイドのミュウがやってきた。
「みなさん、食後の紅茶はいかがですか?」
「ありがとう、いただくよ。それとキミの話も聞きたいから、少し時間をもらえるか?」
「えっと……はい、大丈夫です」
ミュウは少し離れた場所にいたほかのメイドに確認、少し緊張した面持ちで頷いた。表情が硬いのは……話の内容を想像してのことだろう。
なので俺は、出来るだけミュウが緊張しないように続ける。
「それじゃ、向かいの席に座ってくれ。立ったままじゃ俺が話しにくいからさ」
遠慮するであろうことを予想して先手を打つ。ミュウは少し迷った末に、そうおっしゃるのでしたらと向かいの席へと腰を下ろした。
「さて、まずは確認だけど、キミはグランシェス家の使いを騙る人間に拐かされた後、オリヴィアさんに保護された――と、そう聞いているけど間違いはないか?」
「はい、間違いありません」
「病弱だって聞いてたけど?」
「事実です。ただ、理由は分かりませんが、この大陸に連れてこられてからの一年は、ずっと身体の調子が良いんです。最初は……精神的にきつかったですけど」
「つまり、今は幸せだってことか?」
「え? ええっと……そう、ですね。オリヴィア様はもちろん、皆さんよくしてくださいますから。幸せかと問われれば幸せだと思います」
戸惑った様子ながらも、幸せだと答える。その言葉に嘘はないと俺は思った。だから、
「そっか。それなら良いんだ」
俺は話を打ち切ることにした。
「……え? あの、リオン様。話って、それだけ……ですか?」
「ほかになにかあるのか?」
「いえ、そういう訳ではないんですが……私がどんな情報を漏らしたとか、そういう話を聞かれるのかなと」
「ミュウが予科の授業しか受けていないのは知っているし、もし情報をしゃべっていたとしても問題ないよ。もちろん、しゃべらせるために脅されたとかなら問題だけど……オリヴィアさんは優しいんだろ?」
「はい、それはもう」
どのみちザッカニアにも教えるつもりだし、そうじゃなくても隠すつもりなら、情報の管理にもっと気を遣う。今回確認したのは、ミュウの現在が幸せか否か、それだけだ。
「あぁでも、もし故郷に帰りたいとかなら協力するけど……?」
「そう、ですね……お父さんやお母さんが心配していると思うので、出来れば無事は伝えたいと思います。でも私は許されるなら、このままオリヴィア様のメイドでいたいと思います」
「……そっか。なら、両親に連絡できるように協力するよ。だからキミは、このままオリヴィアさんのメイドでいると良い」
「リオン様……ありがとうございます」
ミュウを拐かした者は許せないけど、それとこれは別問題。オリヴィアは本当にミュウによくしてくれたようだ。あらためて、オリヴィアには感謝しないとな。
ともかく、これで拐かされた生徒の件は解決した。まだエルフの件が残っているけど、そっちは後でオリヴィアに確認しよう。
――と、そんな風に考えていると、廊下の方が急に騒がしくなった。その直後、どんと扉が開き、誰かが部屋に飛び込んでくる――って、
「……セルジオ? どうしてここに?」
「リオンさん無事ですか――って、相変わらずハーレムを形成してるんですね」
「……はい?」
唐突になんだと自分の状況を再確認。左右にはアリスとソフィア、そして向かいにはメイドのミュウが座っている。女の子に囲まれていると見えなくもないだろう。
……いや、実際に囲まれてはいるけどさ。
「とりあえず、誤解だぞ?」
「たとえ誤解だろうがなんだろうが、僕はリオンさんが妬ましいです」
「そんなこと言われてもなぁ。と言うか、セルジオがどうしてここに?」
「僕がイヌミミ族の件でゼニス商会を放逐された話はしましたよね? その後、オリヴィア様に拾っていただいたんです」
「……どういうつながりが?」
「ほら、イヌミミ族を保護しようとしている人がいると教えたじゃないですか」
「あーあーあー、そういうことね」
つまりは、オリヴィアはリゼルヘイムと友好を望んでいる人物であり、イヌミミ族とも友好を望んでいる人物でもあると言うこと。
「……あれ? でも俺が取引云々の話をしたとき、今は力になれそうにないっていったよな?」
「ええ。まずはオリヴィア様に報告をしてからと思っていたので。それで許可をもらって迎えに行ったら、既にこの屋敷に招かれたと聞いて焦りましたよ」
「焦ったってなんで?」
「刺客らしき連中を、屋敷に招いて罠にかけるという話は聞いていましたから。でも、貴方達が刺客とは思えない。だからたぶん、強硬派の連中にハメられたんだろうと思って」
「あぁ、それで心配して飛んできてくれたのか」
「ええ。でも無事と言うことは、誤解されずにすんだんですね」
「いやまぁ、誤解はされて襲われたけどな」
「……はい?」
「だから、騎士十人くらいに襲われた。アリスとソフィアが打ち倒したけど」
「……………………なんの冗談ですか?」
「残念ながら冗談じゃないぞ?」
「エルフのアリスさんはまだ分かりますが……ソフィアちゃんって、普通の子供ですよね?」
信じられない――と言うよりは、理解できないといった面持ち。かよわい幼女な見た目のソフィアが強いとか、やっぱり想像できないよなぁ。
という訳で俺は証人を召喚する。
「ミュウは見てたよな?」
「はい、学園の魔女――ソフィア様が、アーニャさんを一蹴していました」
「アーニャさんを一蹴!? い、一体なにがあったんですか……?」
「実は――」
ミュウの説明を聞き、セルジオは信じられないとソフィアを見る。その表情に若干の恐れを感じたので、ソフィアは大丈夫かなと心配したんだけど……
「リオンお兄ちゃんを護るための力を認められて、悲しんだりしないよ?」
とのこと。両親に恐れられたときの反応から考えると、凄い成長っぷりである。ソフィアが順調に成長しているようで俺は嬉しい。
ともあれ、細かい問題は解決。その後はセルジオを加えて、世間話に花を咲かせる。そうして時間をつぶしていると、皇宮からの使いが帰ってきた。
どうやら皇帝にとっても重要な案件と捉えてくれているようで、すぐに謁見が可能とのこと。俺達はオリヴィアに連れられて、皇宮へ向かうことにした。
繰り返しになりますが、異世界姉妹二巻の表紙などを活動報告に上げています。
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