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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第六章 海の向こうの大陸で――

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エピソード 2ー9 続、交渉相手の正体は――

 穏健派に接触するつもりでやってきた屋敷の食堂。

 俺達は熱烈な歓迎を受けていた。具体的には、騎士風の格好をした連中が十人ほど。抜き身の剣を構えて、出入り口を封鎖するように並んでいる。

 そんな中、一人の女性が一歩前に進み出た。

 後ろで纏めた茶色の髪に、気の強そうなブラウンの瞳を持つ女騎士。あのときは暗くてハッキリと確認できなかったけど……おそらくはアーニャと名乗った女性だろう。


「俺達を騙したのか?」

「なんとでも言え。私はお嬢様に仇なす敵を排除するのみだ」

「……そうか」

 主のために自らの手を穢すこともいとわない。非常に判りやすい答えだ。

 そして、相手がそういう考えであれば、こちらも迷わずにすむ。全員を圧倒的な力で無力化し、リゼルヘイムと敵対することが得策ではないと思い知らす。


「ソフィア、前衛を頼んでも良いか?」

 俺とアリスには武器がない。精霊魔術で対抗することになるので、敵に張り付かれるのは好ましくない。という意味で聞いたんだけど――

「前衛? 別に一人で倒しちゃってもかまわないよね?」

 返ってきたのは想像以上に頼もしい返事だった。なんというか……普通なら敗北フラグっぽいセリフなんだけど、ソフィアだからなぁ。

 アーニャの構えは隙がないけど、ほかの連中はそこそこ隙が見える。魔術師や精霊魔術師がいないとも限らないけど……ソフィアなら本当に一人で殲滅してしまいそうだ。


「あとで交渉するつもりだから、出来るだけ無傷で頼むな……?」

「手足の腱を切るくらいなら無傷の部類に――」

「――入りません」

 速攻でツッコミを入れる。なんというか、ソフィアの中での無傷という定義がおかしい。


「言っておくが、抵抗はしない方が良い。投降すれば命だけは奪わないと約束しよう」

 俺達の声が聞こえたのか、アーニャがそんなことを言ってくる。その心遣いはありがたいけど……命だけ保証されてもな。

 今の状態であれば大抵のことに対処する自信はある。けれど一度捕まってしまえば、奴隷刻印を刻まれるなどの取り返しのつかない事態もあり得る。ここで投降はありえない。

 俺は気持ちだけ受け取っておくよと答えた。


「この人数に包囲されて勝てると思っているのか?」

「アーニャだっけ? あんたこそ、十人やそこらで俺達に勝てると思っているのか?」

「――はっ、なよなよとしたガキが、口だけは達者だな」

 俺の軽い挑発に、アーニャの後ろに控えていた騎士風の若い男が食いついた。

 全員を無力化するにしろ、ここから脱出するにしろ、相手が冷静さを失ってくれていた方が助かる――と言うことで、俺はその男を標的にする。


「なよなよとしたガキ、ねぇ。たしかに俺はガキだけど、その俺の力量すら分からないあんたは……なんなんだろうな?」

「……なにが言いたい?」

「分からないのか? なよなよとしたガキより弱いお前はなんなんだって聞いてるんだよ」

「……貴様っ!」

 挑発に乗せられた男が詰め寄ってくる。

 実際のところ、彼が本当に俺よりも弱いかは分からない。だけど……挑発に乗って我を失った時点で結末は決まっていた。……いや、その前から決まっていたかもしれないけど。

 ともあれ、掴み掛かろうと迫り来る男の腕をいなし、足払いを一つ。

「――かはっ!?」

 地面に叩き付けられた男の顎先をかすめるように蹴り飛ばし、その意識を刈り取った。


 ――一瞬の静寂。連中は事態を理解して激高するが――遅い。

「……アリス」

 俺が呟くのとほぼ同時、青白い光りを纏ったアリスが右腕を振るう。そうして放たれたのは、十ほどの青白い光りを帯びた空気の塊。それが全ての敵に襲い掛かる。

 不意を突かれた彼等はその一撃を食らい、為す術もなく吹き飛ばされた。

 だけど――

「無詠唱の精霊魔術!? しかし、まだだっ」

 気合いで魔術を回避したアーニャが反撃に転じる。その直前、重心を落としたソフィアが地を這うように飛び出していた。


「――くっ!?」

 アーニャが必死に剣を振るう。しかしソフィアは慌てることなくその一撃を短剣で受け流し、逆手に持ったもう一刀の柄でアーニャの手の甲を殴る。

 アーニャはたまらずうめき声を上げ、剣を取り落とした。が、それでもアーニャは素手でソフィアに掴み掛かろうとする。

 刹那――

 ソフィアは輪郭がぶれるほどの速度でアーニャの背後へと回り込み、彼女の膝裏を蹴り飛ばした。そうして崩れ落ちるアーニャの首筋に短剣を突きつけた。


「……全員動かないで。じゃないと、このお姉さんを……殺すよ?」

 ソフィアはアリスの攻撃を受けてなお意識があった連中を牽制。周囲を警戒しつつも、アーニャへと視線を向ける。

「さて、命が惜しければソフィアの質問に答えて。どうしてソフィア達を……あれ?」

 おもむろにソフィアが小首をかしげる。

「……ソフィア? どうかしたのか?」

「え? あ、うん。この人達、もしかしたら……」

「――アーニャを殺さないでっ!」

 不意に少女の声が割って入る。誰だと思って声の聞こえた方向に視線を向けると、入り口にいかにもお嬢様といった姿の少女が立っていた。


「オリヴィア様、どうして出てきたのですか!?」

「貴方達がピンチだからに決まっているわ!」

「私達はどうなってもかまいません。だから、すぐに逃げて下さい!」

「ふざけないで! 貴方達を見捨てて逃げられるはずがないでしょ!?」

「オリヴィア様! どうか、どうか聞き分けて下さい!」

 ……な、なんだろう。なんか俺達の方が悪者みたいになってるぞ。


「そこの貴方!」

「お、俺?」

 オリヴィアと呼ばれていた少女にびしっと指差され、俺は訳も分からずたじろいでしまう。

「あたくしは黒魔術が使えます」

「……ふむ」

 唐突な宣言だけど、ハッタリではない可能性は高い。黒魔術は貴族のたしなみ的な感じで使える人間は結構いる。聞いたことはないけど、クレインさんとかも使えるんじゃないかな。

 とは言え、それは使えると言うだけの話。無詠唱が使える俺の敵ではない。


「それで? 使われたくなければ降伏しろとでも言うつもりか?」

「いえ……残念ですが、あたくしの力量では、この状況をひっくり返すことは出来ないでしょう。だから……あたくしが抵抗せず捕まる代わりに、あたくしの騎士達を逃がすと約束してください。貴方の目的はどうせ、あたくしの首なのでしょう?」

「へ? い、いや……」

「――嫌!? まさか、皆殺しにするつもりなの? もし騎士達を殺すというのなら、あたくしは今から全力で逃げるわよ!?」

「いやいやいや、そうじゃなくて! 取り敢えず無益な殺生なんてするつもりないから!」

「そう、なの?」

「――騙されてはいけません、オリヴィア様! 無益な殺生をしないとは、必要なら、なんのためらいもなく殺すという意味に決まっています!」

「はっ、そ、そうよね! 騙されないわよ!?」

 うがああああああああああっ。なんだろう、このデジャヴは。なんだか良く判らないけど非常にめんどくさい。誰かなんとかしてくれと周囲に助けを求めると、ソフィアと目が合った。


「リオンお兄ちゃん。さっきの話の続きだけど」

「え、このタイミングでさっきの話を今するのか? 俺的にはそれどころじゃないんだけど」

 俺がソフィアを見たのは、現状をなんとかして欲しいからであって、さっきの話の続きを催促した訳じゃない。というか、この状況をスルー出来るソフィアは凄すぎである。


「あああああああぁぁぁぁぁぁぁあっ!」

 不意に食堂に響き渡った素っ頓狂な声。今度はなんだと振り向くと、部屋の隅で怯えていたはずのメイドが、ソフィアを指差していた。

「短剣二刀で敵を殲滅する、天使みたいな見た目の金髪幼女! 貴方はもしや学園の魔女様じゃないですか!?」

 学園の魔女とか懐かしい響きだな。でもどうしてソフィアのことを知ってるんだと思ったら、メイドの指先が俺へと移った。


「と言うことは、それに振り回される貴方は、姉妹ハーレム伯爵様!」

「――どういう認識の仕方だよ!?」

 思わず突っ込んでしまった。手もとにハリセンがないのが非常に残念でならない。と言うか、ソフィアの二つ名を知ってるって、もしかして学園の関係者――

「まさか、君はミュウちゃん?」

 俺はティナから聞かされた名前――ミューレ学園の予科を卒業した後、かどわかされて行方不明になっていた女の子の名前を口にした。

 果たして――メイド少女はこくりと頷いた。


「貴方、ミュウと知り合いなの?」

「あぁ、そうだよ。だから……悪いな」

 俺はオリヴィアに向かって歩き出す。

「な、なにがよ? というか、どうして近づいてくるのよ!?」

 オリヴィアが怯えるように一歩後ずさる。俺はそのあいだに残りの距離をつめきった。

「俺はあんた達と敵対するつもりはなかった。むしろ、仲良くしようと思ってたんだ」

「だ、だったら、どうしてそんな恐い顔で近寄ってくるのよ!?」


 オリヴィアはさらに一歩後ずさるが、そこは部屋の隅。飾られていたザッカニア帝国の旗に背中を押しつけるような形で逃げ場を失った。

 そんなオリヴィアの顔の横に、俺はどんと腕をついた。

「さっきのが過去形だから、だよ」

 相手がリゼルヘイムと戦争を望んでいる強硬派だとしても、説得して仲間に引き入れるというスタンスは変わっていない。けど、それとこれとは話が別だ。

 ザッカニアには、エルフや生徒を攫い、アヤシ村の者達を皆殺しにした連中がいる。


「あんたらがミュウを攫った犯人なら許すことは出来ない。潔く罪を認めるのなら――」

「まままっ、待って下さいリオン様、それは誤解です!」

「そんなに心配しなくても、ちゃんと助けるから大丈夫……って、誤解?」

 予想外の言葉を聞いて、俺は慌ててミュウの方へと視線を向ける。

「オリヴィア様は私を救って下さったんです。誘拐犯じゃありませんっ!」

「……え? そうなのか――って、あれ?」

 正面に視線を戻すと、そこにいたはずのオリヴィアがいない。いったいどこへと焦ったのは一瞬、背後に飾ってあった旗を巻き込んで、足下に崩れ落ちていることに気が付いた。


「……ええっと、大丈夫か?」

「はぅぅ……殿方に、殿方に壁ドンをされるなんて……もうお嫁にいけません」

 ……なんかぶつぶつと呟いているのが聞こえた。凄くめんどくさそうだ。

 なにはともあれ、オリヴィアは話が出来そうにない。アーニャか、もしくはミュウに事情を聞くか――と視線を巡らすと、またもやソフィアと目が合った。


「そういえば、さっきなにか言いかけてたな。なんだったんだ?」

「うん。あのね、この人達だけど……穏健派の人みたいだよ?」

「…………………………はい?」

「だから、ソフィア達が探していた、友好関係を結ぼうとしていた相手」

「……マジで?」

「うん。アーニャさんの心を、接触状態で読んだから間違いないよ」

「そう、か……」


 ソフィアが心を読んだのなら間違いないだろう。正直、もう少し早く教えて欲しかったと言いたいところだけど……絶妙なタイミングで邪魔が入ったからなぁ。

 それより問題は、オリヴィアが仲良くすべき穏健派の貴族で、アーニャ達はその部下ということ――と、俺はゆっくりと周囲を見回した。

 アリスの精霊魔術――正確には、それを喰らって吹き飛んだ男達による被害だけど、食堂のテーブルなどはぐちゃぐちゃ。その男達も大半が気絶をしているし、アーニャは進行形でソフィアに短剣を突きつけられて拘束されている。

 そして極めつけ、彼等のご主人様は、俺の足下で半泣きになっている。

 一体どうしたものか――と、俺は深いため息をついた。

 

 

 ちなみに忘れてる人がほとんどだと思うので書いておきます。

 アヤシ村で自害したミゲルが、ソフィアの恩恵を知って、お前も~的なこと言ってましたよね。あの伏線が最近回収されてます。作中での答え合わせは次回ですが。

 次話は5日を予定しています。

 ところで、書籍発売記念のSSを今回も書こうかなと思うんですが、なにか希望とかありますか? 必ずしもご期待に添えるとは限りませんが、希望頂けたら書くかもしれません。

 なお、なろうで公開するので、二章にこだわらなくても大丈夫です。

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