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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第一章 自重しない異世界姉妹

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エピソード 3ー3 姉妹は恋愛対象ですよね? Part2

 

 クレアねぇが遊びに来るのは数日に一度程度。待っていればそのうち遊びに来るだろうと思っていたのだけど――その機会は直ぐに訪れた。

 翌日。朝食を食べ終えて、自室でのんびりとした時間を過ごしていると、クレアねぇが急に部屋に飛び込んできたのだ。

 ……なんか、前もこんな事なかったか?

「クレアねぇ、今度はどうしたんだ?」

「どうしたもこうしたも、弟くんがブレイク兄さんと口論したってホントなの!?」

「え、なんで知ってるんだ?」

「だって、ブレイク兄さんが朝食の席で言ってたわよ」

 ……マジかよ。言うかも知れないとは思ってたけど、ホントに言うとは。昨日のうちに父に話しておいて良かった。

 いや、安心するのはまだ早いな。


「それを聞いたキャロラインさんの反応は?」

「最初は怒ってたけど、お父様が取りなしてたわ。その後は二人で話があるって、あたし達は追い出されたの」

「なるほど、ちゃんと約束は守ってくれてる感じか。後はキャロラインさん次第だな」

「その言い方、弟くんが何かしたのよね? と言うか、そもそも昨日何があったの? あんなに不機嫌そうなブレイク兄さん、初めて見たわよ?」

「そんなに怒ってた?」

「と言うか、弟くんが一方的に難癖付けて襲い掛かってきたけど、実力で返り討ちにしたとか、言いたい放題だったわよ?」

「……まぁ難癖付けた結果、殴り飛ばされたのは事実だけどなぁ」

「えっ、ホントに殴られたの? 大丈夫?」

 クレアねぇはプラチナブロンドの髪を揺らしながら身を乗り出し、俺に傷がないかあちこち触り始める。


「クレアねぇ、くすぐったい。上手く受け流したから平気だよ」

 顔を殴られた時に受け流したのは本当。その後に蹴りまくられたところはアザだらけな訳だけど、例によって心配を掛けたくないので強がっておく。

「それなら良いけど……ホントに何があったの?」

 実は――と前置きを一つ。俺は昨日アリスが連れ去られそうになった件と、父に安全を保証して欲しいと交渉した件を話した。


「そっか、そんなことがあったのね」

「うん、それでキャロラインさんの反応次第なんだけど、大丈夫だと思うか?」

「ん~、問題ないと思うわよ。お母様は弟くんをかなり警戒してるもの」

「警戒って、もしかしてインフルエンザの件で?」

「そうそう。あれで弟くんを次期当主に押す声も上がっちゃったのよね。だから跡目争いをしないって明言するなら、その程度の条件は呑んでくれるはずよ」

「そっか。それなら一安心かなぁ」

「そう思うけど……随分と、アリスを大切にしてるのね」

「それはまぁ、色々教えて貰ってるしな」

 クレアねぇのお陰でと言う感謝の意味を込めて答えると、何故かクレアねぇは悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「色々……ねぇ。それは、性的な知識も含まれてるのかしら」

「ちょっ、なにを言い出すんだ!?」

「なにって……あたしをリード出来るように勉強して貰うって言ったでしょ?」

 リード? なんの話だっけ……って、思いだした。好きでもない年上に奪われるくらいなら、弟くんに云々って言ってたあれか。


「本気で言ってたのかよ……」

「さすがに冗談であんな事は言わないわよ?」

「……どっちかって言うと、冗談で言われてた方が良かったなぁ」

 と言うかクレアねぇって、本気で異性として俺を好きなんだろうか? ……いや、なんかどんな答えを聞いてもショックを受けそうだから聞かないけど。


「でも、そっかぁ。性的な意味じゃなくて色々教えて貰ってるって事は、アリスは弟くんの望み通り、色々知ってたみたいね」

「おかげさまでな。と言うか、言わなかったっけ?」

「なんとなくそうかなとは思ってたけどね。いつもマリーがいるから、ちゃんと聞くのは今が初めてよ」

「あぁそっか。そう言えば、二人で会うのは久しぶりだな」

「……二人っきり?」

 クレアねぇはたった今気付いたとばかりにポッと頬を染め、ほんの少しだけ俺から離れて座り直した。

 ……って、なんだよ、その乙女チックな反応は。弟相手に意識しないでくれよ。さっきの会話も相まって、こっちまで反応に困るじゃないか!

 ――とか言いたいけど、言いたいけど! 言ったら取り返しのつかない事になりそうな気がするから自重! 俺は気付かないフリをして話を進める。


「アリスはホントに色々知ってるよ。魔術の知識もあるし、植物ならなんでも知ってるんじゃないかってくらい詳しいし、周辺諸国のこともよく調べてる」

「……魔術? あの子、魔術が使えるの?」

「今は奴隷契約の刻印で封じられてるらしいけどな。知識はあるから――」

 俺は右腕を胸の前に持ち上げて、体内に取り込んだマナを魔力へと変換していく。

 ちなみにマナというのは、大気中に漂っている目に見えない存在だそうで、俺は素粒子かなんかだと思っている。魔力の源となる粒子なので魔力素子(マナ)と言ったところだろう。

 それを体内に取り込み、魔力へと変換していく。


「腕に青白い光りが収束してるわね。それが魔術?」

「これは魔術に必要な魔力を作っただけだよ。本当はこの魔力を使って、目的の魔術を行使するんだけど……そっちは魔術を封印されてる状態では教えられないってさ」

 一応、魔術師のサポート無しで覚える方法もあるんだけど、そっちは難易度が高いとのことで、試してみても無理だったので断念した。


「それ……覚えた意味あるの?」

「あるさ。いつか魔術を習う時に、基礎が出来てるかどうかは大きいだろ? 剣術の前段階に体を鍛えるのと同じ理由だよ」

「……まあ、弟くんが満足してるならいいんだけどね」

「それはもちろん大満足だ。アリスは俺の知りたかったことは、ほとんど識ってるんじゃないかな?」

「弟くんがそこまで言うなんて相当ね。伝説に伝え聞くハイエルフだったりして」

「ハイエルフ?」

「エルフの上位種と言われている種族よ。知識の転写を可能とする恩恵を持っていて、親から子へと代々知識を引き継いでいるからとても物知りなの」

「へぇ……確かにそれなら、アリスがハイエルフだって可能性はあるな」

「……一応言っておくけど冗談よ?」

「え、そうなのか?」

「さすがに有り得ないわ。歴史上でも数人しかいない伝説上の種族だし、もし実在するなら左右の瞳の色が違ってるはずだもの」

「そっかぁ」

 あれだけの知識、そう言う理由ならあり得ると思ったんだけどな。でも、アリスの瞳は左右とも深い青色だし……やっぱり気のせいなのかな。


「――と言うか、弟くんっ!」

 いきなりクレアねぇがずずずいっと迫ってきた。

「な、なに?」

「今気付いたんだけどね? アリスを助けた時の演技、あたしのお見合いの席でもやってくれないかしら!?」

「……なにを言うかと思えば、キャロラインさんに殺されるから嫌だよ」

 お見合いの席にちょっと待ったーっ! とか言いながら飛び込んで、クレアねぇは毎晩俺の慰み者になってるんだと暴露する自分を想像して泣きたくなった。

 まぁ縁談がぶっつぶれるのは間違いないだろうけどな。俺の人生と一緒に。


「うぅん。やっぱりダメかぁ……名案だと思ったのに」

「無茶言うな。と言うか、そんなにやばそうなのか?」

「相手は侯爵様よ。お母様も凄く乗り気だし、今回は逃げられないと思う」

「そうなると、やっぱり交換条件となりうる利権を手に入れるしかないかなぁ」

「……交換条件ってなに? 今度はなにを企んでるの?」

「俺達が政略結婚させられるのって、その方がグランシェス家に有益だからだろ? だから、もっと有益なモノと引き替えにすれば、自由を得られると思うんだ」

「……もしかして弟くん。あたしの結婚を何とかしようとしてくれてるの?」

「色々考えてるんだけどさ」

「そう、なんだ。弟くん、あたしの心配もしてくれてるのね。……そっかぁ」

 クレアねぇは少し意外そうに。だけどそれ以上に嬉しそうに呟いている。両手の指を胸の前でくっつける仕草がなんだか可愛いけど――


「なんでそんなに驚いてるんだよ。心配するに決まってるだろ?」

「ふふっ、そっか、そうなんだ。決まってるんだぁ」

「ク、クレアねぇ? おぉい、かえってこーい」

 恐る恐る呼びかけてみるが反応がない。やばい、もしかして期待させすぎた? あんまり期待させると、ダメだった時に悲しませてしまう。

「あ、あのな、クレアねぇ。確かに計画は練ってるけど、今はまだ難航してるんだ。だから、喜んでくれるのは嬉しいけど、まだ判らないというかなんというか」

「……計画?」

 あ、やっと帰ってきてくれた。


「そうそう、計画。なんかの利権を手に入れようかなって、色々考えてるんだけどさ。資金とか流通ルートとかがないと、一から始めるのは時間が掛かりすぎるんだよな」

 最初はプリン等のお菓子を安価で作れる環境を整えて、それを各地で売り出すなんて考えていた訳だけど……ぶっちゃけ、現状ならお菓子を作るまでもない。サトウキビ畑を作って、砂糖を量産するだけでもかなりの収入を期待できるはずだ。

 問題は、そこまでこぎ着ける為の人材と資金。

「誰か協力者が必要なのね?」

「そうなんだけど、誰か宛はあるか?」

「そうねぇ。グランプ様なら事業にも意欲的みたいだし、弟くんが話せば興味を持ってくれるとは思うけど……」

 知らない名前だったので誰それと尋ねると、あたしのお見合い相手の侯爵様よと言う答えが返ってきた。意味ないじゃん。


「そんな相手に借りを作ったら、縁談を断れなくなるだろ」

「判ってるけど……そうなると、他に宛てはないわよ?」

「まぁそうだよなぁ。俺だって、外の知り合いなんてスフィール家だけだし……待てよ。スフィール家に話を持ちかけるのはありか?」

「……なにを言ってるの? それじゃ、弟くんが縁談を断れなくなるでしょ?」

「いや、クレアねぇの縁組みとは違って次男と次女だから、交渉次第では可能だと思う」

 スフィール家を継ぐのはソフィアの兄のはずだし、極論で言えば、俺とソフィアは養子縁組とかでも良いはずだ。


「可能だと思う……って、それで無理ならどうするのよ?」

「まぁその時は……ソフィアが相手なら良いかなって」

「その様子だとソフィアちゃんを気に入ったの? 昨日会ってきたのよね?」

「良い子だし外見も可愛い。政略結婚の相手と考えれば優良物件じゃないかな。ただ、少し幼く感じるせいか、妹みたいに思っちゃうんだよなぁ」

「妹みたいなら恋愛対象でしょ?」

 ブルータス、お前もか――って、クレアねぇは初めからそんなこと言ってたな。


 本音を言えば、少し迷っているのも事実だ。と言うか、スフィール家から帰る途中の時点では、ソフィアと結婚するのもありかなぁと考えていた。

 ただ、俺は父から聞かされた話が気になっている。

 父は妹のように思っている相手と結婚したものの、異性として愛せなかった。その結果、ほかの女性に惹かれて今に至る。

 ようするに、俺も父と同じ道をたどるかも――と、不安なのだ。


 伯爵の地位を継ぐのなら、相手次第では父と同じ道を歩んでも上手くいくだろう。だけど俺の場合はスフィール家に婿入りするので、寵姫なんかを持つ訳にはいかない。

 別に寵姫や妾なんかが欲しい訳じゃないけど、もしいつまで経っても、ソフィアを妹のようにしか思えなかったらと思うと、な。


「弟くん? どうかしたの?」

「あぁごめん、大丈夫だよ。ともかくその線で一度考えてみよう。また近々遊びに行くと思うから、その時に話してみるよ」

「……スフィール家のソフィアちゃん、か。……そうね、そう考えると悪くないわね」

 ぽつりと呟く。そんなクレアねぇを見て、俺は嫌な予感を覚えた。だって、前に奴隷としてアリスを連れてくるのを思いついた時と同じ感じなのだ。

「クレアねぇ、今度はなにを企んでるんだ?」

「失礼ねぇ。別になにも企んでなんてないわよ?」

 嘘くせぇ……けど、まぁ良いか。アリスの件だって驚きはしたけど、結果的には助かったし。今回も大丈夫だろう……たぶん。

 

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