エピソード 2ー6 別れ道
クレア「おおおっおと、弟くん、たた大変よ、大変!」
リオン「クレアねぇがそこまで取り乱すのはたしかに異常事態だけど……どうかしたのか?」
クレア「どうしたもこうしたも、実は先日、作者の誕生日だったのよ」
リオン「……作者の誕生日? それは別にどうでも良くないか?」
クレア「たしかに作者の誕生日はどうでも良いけど、それがどうでも良くなくなったから大変なのよ!」
リオン「……意味が分からないんだけど?」
クレア「作者が誕生日プレゼントとして、異世界姉妹のファンアートをもらったのよ!!」
リオン「ファン、アート? それはレベルが上がったときとかに鳴り響く?」
クレア「それはファンファーレ。じゃなくて、ファンアートよ、ソフィアちゃんのイラストよ!」
リオン「え……クレアねぇ、寝ぼけてるのか?」
クレア「夢でもないから、良いから見てみなさいっ!!」
と言うことで、ファンアートを頂いてしまいました。
活動報告にて最近の近況とあわせてアップしてありますので良ければご覧ください。
ある麗らかな昼下がり。俺は荷台で黄昏れていた。
あれからセルジオが一言も口を利いてくれない――訳ではない。アレは彼なりのお茶目だったようで……いや、結構本気で怒っていた気もするが、その日のうちには口を利いてくれた。
では、なぜ憂鬱なのか。それは――
「ボク達の住む森が見えてきたよっ!」
幌から顔を出したシロちゃんが、前方を指差して叫ぶ。
――シロちゃんとのお別れが迫っているからだ。
あの素敵なモフモフが味わえなくなると思うと……凄く寂しい。それは他のみんなも同じなのだろう。シロちゃんのモフモフに魅せられたみんなは、心なしか寂しそうにしている。
本当はこのまま一緒に連れて行きたいけど、この国の人里でイヌミミ族が生きるのは難しい。リゼルヘイムでなら守れると思うけど……それがシロちゃんの幸せとは思えない。
それこそ拾った犬じゃないんだ。帰りたいと願っているシロちゃんの意向を無視する訳にはいかない。故郷を見てはしゃいでいる。それがシロちゃんの答えだと思うから。
俺はシロちゃんを後ろから抱きしめ、これが最後だと優しくモフモフした。
「……リオンお兄さん、どうかしたの?」
「なんでもないよ。もうすぐ、シロちゃんの故郷だなって思って」
「うんっ。リオンお兄ちゃん達のおかげだよ!」
「俺達は大したことをしてないよ」
「うぅん、そんなことないよ。里のお姉ちゃん達に頼んでお礼をして貰うからねっ!」
シロちゃんの言葉を聞き、俺達は顔を見合わせる。シロちゃんは俺達が里に立ち寄ると思い込んでいる。それに気づいたからだ。
「……あれ? ボク、なにか変なことを言ったかな?」
「いや、そんなことはないよ。ただ俺達には目的があるんだ。だからシロちゃんを森の側までは送るけど、里まで送ることは出来ないんだ」
「……そう、なの? 里まで来てくれないの?」
「うん、ごめんな?」
それらの言葉に嘘はない。だから、嘘を見抜く能力――恐らくは恩恵を持っているシロちゃんは、それが本音だと思っただろう。けど、本当はそれだけが理由じゃない。
ハッキリ言って、この国の人間はイヌミミ族を迫害している。いくらシロちゃんを救ったとは言え、人間である俺達の来訪をイヌミミ族が歓迎するとは思えない。
だから、俺達がイヌミミ族の里に遊びに行くなんて無理な話なのだ。
だけど……と、俺はシロちゃんの横顔を覗き込む。
俺達ともうすぐお別れだと気付いたからだろう。その横顔はさっきまでと打って変わって寂しげに見える。シロちゃんも、俺達との別れを惜しんでくれているみたいだ。
それが分かって、俺は少しだけ嬉しくなった。ということで、俺はシロちゃんのイヌミミを思いっ切りモフる。
「わ、わふぅっ!? お、お兄さん、ちょっと強すぎ。――く、くすぐったいよぉ」
「それじゃ、私もお別れの挨拶にモフろうかな」
「ソフィアもモフモフする~」
アリスとソフィアが続き、昨日一日で虜になったミリィ母さんとエルザが控えめに続く。森に着くまでの残り時間、シロちゃんは思いっ切りモフモフされた。
そうしてたどり着いた森の入り口。俺達はシロちゃんと向き合っていた。
グランプ侯爵領の森を考えると、幼女一人で行かせるのは心配なんだけど、この森はそういった危険はないとのこと。これ以上の同行はシロちゃんのためにもならない。
と言うことで、俺達は代わる代わるシロちゃんとの別れを惜しんでいた。そんな中、シロちゃんが何処か寂しげに俺を見上げきた。
「……本当に、立ち寄ってはくれないの?」
「ごめんな。俺達は目的があるから、行かなくっちゃいけないんだ」
「じゃ、じゃあ、それが終わったら里に遊びに来てくれる?」
「それは……」
立ち寄れない本当の理由を考えれば断るしかない。そう思った俺の思考を断ち切るように、シロちゃんは捲し立てる。
「リオンお兄ちゃん達が良い人だってことは、ちゃんと村のみんなに話しておくからっ、だから、だから、ずっと待ってるから、いつかまた遊びに来て欲しいの!」
「……シロちゃん」
恩恵の力が思ったより強力だったのか、はたまた状況から推測したのか、シロちゃんは俺達が立ち寄ろうとしない本当の理由に気付いていたらしい。
だからこそ、断られるのが怖いんだろう。シロちゃんは何処か不安げに俺を見上げている。
「……分かったよ」
俺はシロちゃんの頭を――耳ではなく、頭を優しく撫でつける。
「……リオンお兄さん?」
「俺もこのままシロちゃんと別れるのは寂しいからな。今は無理だけど、用事が全部終わったら、イヌミミ族の里に遊びに来るよ」
「ホントに? ホントに里に……ボクに会いに来てくれる?」
「あぁ約束する」
「じゃあそのときは、ボクを、その……また思いっ切りモフモフしてくれる?」
少し恥ずかしそうに、けれど甘えた様子で俺を見上げる。一瞬、義妹にしてくれる? とか言われるかと思ったけど、さすがにそんなことはなかったな。
……というか、ちょっとモフり過ぎた気がしないでもない。シロちゃんがモフモフなしで生きられない体になってたらどうしよう。
ま、まあ良いか。そのときは思う存分モフるということで。「今度あったらまたモフモフするよ」と、俺はシロちゃんと約束した。
――シロちゃんと別れてから丸一日が過ぎた夕暮れ前。俺達は帝都へと到着した。
リゼルヘイムにとっては海の向こうにある、ザッカニア帝国の帝都。来る前は結構楽しみにしてたんだけど……実際に目にしても感動はあまりなかった。
なんと言っても、街並みがあまり綺麗じゃない。ヴェークの港町でも思っていたことだけど、上下水道などなど、インフラまわりがリゼルヘイムより遅れているのだ。
リゼルヘイムの各地はミューレの街の影響を受けつつあるので、当然と言えば当然なんだけどな。最近はそれに慣れつつあるので、帝都が見劣りするように感じる。
……なんて、一番の理由は、至高のモフモフ――シロちゃんとお別れしたことだろう。俺だけじゃなくて、みんなも少し沈んでいる。
とはいえ、帝都の人口はかなり多そうだ。リゼルヘイム王都の1.5倍。もしかしたら、倍くらいはあるかもしれない。帝都の大通りは、行き交う人々であふれていた。
「……アリス」
俺は隣にいたアリスに目配せをする。それだけで理解してくれたのだろう。アリスはこくりと頷いて周囲を見回し――遠くにある屋台に視線を定めた。
「ソフィアちゃん、向こうに屋台があるよ」
しょんぼりしていたソフィアだけど、アリスの言葉に興味を惹かれたのか「屋台?」と呟いて顔を上げた。
「……本当だ、なんの屋台だろう?」
「見に行ってみようか?」
「行きたい! けど……えっと」
いっても良い? とばかりに、上目遣いに俺を見る。そんなソフィアのお願いを聞かないなんて選択肢はありえないので「こっちは大丈夫だから行っておいで」と応える。
「えへへ、ありがとう、リオンお兄ちゃん。大好きっ! アリスお姉ちゃんっ」
「うん。それじゃリオン、行ってくるねっ!」
アリスとソフィアが仲良く屋台の方へと向かう。それを見送っていると、「あの二人が婚約者とか、爆発すれば良いのに」とか、物騒な声が聞こえてきた。
「セルジオにはそういう相手はいないのか?」
「しがない交易商は、そういう相手を作る暇がないんです。と言うか、あれだけの美少女、ちょっとお目にかかったことがないですね」
「女の子は顔だけじゃないと思うぞ?」
「……傾国級の美少女を何人も連れてるリオンさんが言いますか?」
「ふふん、アリスやソフィアは内面もとびっきり可愛いんだぞ?」
「爆発してください」
酷い言われようだ――なんて、俺がセルジオの立場なら、この世界を呪うかもだけどな。
「まあ内面を重視という点においては同意しますよ。僕としても、可能なら同じ道を歩める相手と結ばれたいですしね」
「なるほど……」
それは少し分かる。というか、同じ道を歩める相手か。アカネと気が合いそうだけど……彼女はトレバーとどうなってるんだろうか?
まあ……よけいなお節介だな。
「ここまで送ってくれてありがとな。これは約束の報酬だ」
俺は少し多めの報酬を押しつける。ぶっちゃけると、口止め料が含まれている。
それが分かっているのだろう。セルジオはこんなことして貰わなくても、言いふらしたりはしませんよと苦笑いを浮かべた。
「――ま、くれるというのならもらっておきますが」
「そうしてくれ」
足湯イヌミミメイドカフェの野望が潰えたからな。この国で使い切らなきゃいけない金貨が、まったくといって良いほど減っていないのだ。
「ところで、セルジオはこれからどうするつもりなんだ?」
「そうですねぇ……色々とやることもあるので、数日は滞在すると思います。でも、それがどうかしたんですか?」
「いや、帰りもタイミングが合えばって思ったんだけど……難しそうだな」
こっちの用事はたぶん数日やそこらでは終わらないからな。
「そういえば……リオンさんは結局、帝都になにをしに来たんですか?」
「あぁ、それな。実はこの国と互いの利益になる取引がしたくてな。そういった内容を話し合える相手を探しに来たんだ」
穏健派を探しているという含みを持って話す。旅をしたのは三日足らずだけど、この程度なら話しても良いだろうと思う程度には信用している。
という訳で、誰か心当たりはないかと聞いてみた。
「この国と取引、ですか。今のところ、お役には立てそうにありませんね。ただ……そうですね。なにか分かったら連絡しましょうか?」
「良いのか?」
「ええまあ、モノのついでみたいなものですから。宿はどうするおつもりですか?」
「いや、まだ決めてないんだけど。お奨めとかはあるか?」
「そうですね……この通りをまっすぐ行ったところにある、子鹿亭がお奨めですよ」
「そうか。ならそこに宿を取ることにするよ。だからなにか分かれば知らせてくれ」
「分かりました。それではまた――近いうちに」
セルジオはクルリと身を翻して立ち去っていく。その後ろ姿をしばし見送り、俺はみんなと合流。セルジオが教えてくれた宿へと向かうことにした。
次話は20日に投稿予定です。






