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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第六章 海の向こうの大陸で――

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エピソード 2ー4 むちゃくちゃモフモフした

 ザッカニア帝国領にある港町ヴェーク。

 宿を取ってそれぞれの部屋で休憩した後、全員が俺達の部屋に集まっていた。イヌミミ幼女から事情を聞くためである。

 俺は取り敢えず――と、あらためてイヌミミ幼女を観察する。

 人間と同じ成長速度かは分からないけど、見た目年齢は十歳くらい。さっきまで薄汚れていたんだけど、ミリィ母さんが湯浴みをさせたらしく、見違えるほどに綺麗になっている。

 そんな幼女が着ているのはソフィアの比較的シンプルな白いワンピースだ。

 銀髪の髪に透けるような白い肌。そしてつぶらなブラウンの瞳。それだけでも可愛いのに、耳はモフモフな三角形のイヌミミで、スカートの下からはモフモフな尻尾がはえている。

 なんというか、今すぐモフモフしたい。したいが……取り敢えずは自重しよう。まずは優しく接して油断させ……コホン。警戒心を奪って……いや、ええっと。

 と、とにかく存分にモフるための下準備だ!


「えっと……ボクを助けてくれてありがとう」

「たまたまだから気にしなくて良いよ。という訳で、まずは自己紹介だな。俺がリオン。ええっと……ただの旅人だ」

「……ただの? でも、この借りた服、なんだか信じられないくらい着心地が良いよ? みんなの着てる服も、なんだかすっごく高価そうだけど」

 すっごい不思議そうな顔をされた。

 しまったなぁ。人前でローブを脱ぐのは予定外だったから……この国の服を買っておくべきだったか? いやでも、俺はともかくみんなの可愛い服が地味になるのは……ぐぬぬ。

 ま、まあ、見られてしまったモノは仕方がない。


「俺達はリゼルヘイムから渡ってきたんだ」

「……リオン」

 アリスに呆れ顔で見られた。何故と思ったのは一瞬。そう言えば、イヌミミ族はリゼルヘイムから追い出されたんだったと思いだして焦ったんだけど――

「へぇ、そうなんだねっ!」

 イヌミミ幼女は気にしていないご様子。イヌミミ族が大陸を追われたのはすっごく昔だから、まだ幼い子は、リゼルヘイムに対する忌避感がなかったりするのかな?

 判らないけど……取り敢えずは自己紹介を優先しよう。と言うことで、俺は他のみんなも紹介。最後にイヌミミ幼女の名前を聞いた。


「ボクはシロだよ」

「へぇ、可愛らしい名前だな」

「えへへ、ありがとう~」

 おぉう。嬉しそうにピコピコ動く耳が凄く可愛いぞ。今すぐモフモフしたい。モフモフしたいぞぉ~と手を伸ばしたら、アリスにペチンとはたき落とされた。

「事情を聞くのが先でしょ、もうちょっとおあずけだよ」

「わふぅ……」

 俺は泣く泣く頷き、自分の手を引き戻した。

「……なんだか、リオンお兄ちゃんまでイヌミミ族みたいになってるよ?」

「リオンは昔からイヌとか好きだったからねぇ」

 ソフィアの呟きにアリスが答える。ちなみに、昔というのは前世のことだ。この世界じゃ普通のワンコとか見かけたことないからな、

 取り敢えず、仕方ないから早く事情聴取を終わらせようと、俺は咳払いを一つ。


「それでシロちゃんは、奴隷商に捕まってたんだよな? 一体なにがあったんだ?」

「それは……ボクが悪いの。みんなにはダメって言われてたのに、森の外れまで遊びに行ったから、そこで人間に捕まっちゃったの」

 その話を聞いた俺達は最初、その奴隷商が非合法の活動をしているのだと思った。だけど、詳しい話を聞くうちに、それが間違いだと知らされる。

 この国では、イヌミミ族に人権が適用されていないのだ。だから、イヌミミ族を攫って売るのは、動物を捕まえて販売するのと同じ感覚。犯罪でもなんでもないと言うことらしい。


「……どうしてそんなことになってるんだ? この国の人間とイヌミミ族は、共存するためにリゼルヘイムから海を渡って来たんだろ?」

「人間は、イヌミミ族が裏切ったから自業自得だって言ってるよ」

「……言ってるってことは、イヌミミ族にとってはそうじゃないのか?」

「ボクのおばあちゃんは、人間に騙されたんだって言ってる。人間に奴隷のように扱われたから、抵抗して戦ったって」

「それで裏切り者扱いか……」

 俺は事実なのかとみんなを見る。だけど、みんなもそれは初耳だったようで、分からないと言った反応が返ってくる。

 こんなことになると分かっていたら調べておいたんだけどな。同盟に関係ありそうなことしか調べなかったのが失敗だった。

 ソフィアだけは頷いてるから、シロちゃんがそう信じてるのは事実っぽいけど……真実はどうなんだろうな。そう考えてエルザに視線を向ける。


「エルザ、今から頼めるか?」

「酒場で、少し情報を集めてきます」

「ついでに、あれこれ(、、、、)聞き込みをしておいてくれ」

あれこれ(、、、、)、ですね。どの辺りまで情報を公開してよろしいですか?」

「穏健派の人物に会いたがっている程度なら構わない。理由は……貿易を考えているとか、適当にでっち上げてくれ」

「かしこまりました」

 エルザが部屋を退出。それを見届け、俺は再びシロちゃんへと視線を戻した。


「奴隷商に捕まってた理由は判った。けど、どうやって逃げ出したんだ?」

「それは……捕まっていたお姉ちゃんが逃がしてくれたの。人間のお姉ちゃんだったんだけど、シロの怪我を治してくれた凄く優しいお姉ちゃんなの」

「治してって……もしかして白魔術師か?」

「そう言ってたよ。それで……あの、お願いがあるんだけど」

「お願い?」

「うん。その……助けてもらった上に、凄く勝手なお願いなんだけど、その、出来れば……」

 シロちゃんがなにやら言いよどむ。その態度を見て、俺はなんとなくその続きを察した。


「もしかして、そのお姉ちゃんを助けて欲しいとか?」

「……うん。ダメ、かな?」

「そうだなぁ。そのお姉ちゃんが、どうして奴隷になったか知ってるか?」

「ええっと……ボクを逃がしてくれたときに、お姉ちゃんも一緒に逃げようって言ったの。でもお姉ちゃんは、自分は売られた身だから逃げる訳にはいかないって」

「ふむぅ」

 非合法に誘拐されたとかなら助けられるんだけど……話を聞いた限りじゃ、合法的に売られてきたみたいだな。そうなると、正義の名の下に助け出すという手は使えない。

 もちろん、普通に買い取れば助けることにはなるんだけど、白魔術師の女性となれば相当な金額がついているはずだし、買い手が既に決まっている可能性もある。

 金貨のつまった袋でぶん殴る的な交渉手段もなくはないけど、あまり目立ちたくはない。


「ダメ、かな?」

 くううぅ………シュンと項垂れるイヌミミは卑怯だぞ。そんなの見せられて、ダメとか言える訳ないじゃないか!

「分かった。アカネ――俺の頼りになる仲間に頼んでおくよ」

「ホント!?」

 イヌミミが元気になる。それと同時に、パタパタと揺れるのはふさふさの尻尾。この組み合わせはマジで卑怯だと思う。可愛いは正義って言葉を本当の意味で理解した気がする。

 でもまぁ……俺にとっても悪い話じゃない。白魔術師は欲しいと思ってたからな。

 という訳で、あとで手紙を送るようにミリィ母さんにお願いしつつ、ぱたぱた嬉しそうなシロちゃんの尻尾を目で追っていたんだけど、不意にそれがシュンと項垂れた。


「……今度はどうしたんだ?」

「えっと……お兄さんに助けられてばっかりなのに、なにもお礼が出来ないから」

「あぁ。それは気にしなくて良いよ。あとでたっぷりとモフらせてもらうから」

 本当は、足湯イヌミミメイドカフェの店員になって欲しかったんだけど、イヌミミ族の扱いから考えて不可能だろう。という訳で、満足するまでモフって我慢する予定だ。


「……モフらせて?」

「いやなんでもない。それより、シロちゃんはこれからどうするつもりだ?」

「ええっと……ボクは出来れば里に帰りたいんだけど……?」

「そうだよなぁ。ちなみに、里はどの辺にあるんだ?」

「森の奥だよ」

「森の奥……」

 さすがにそれだけじゃ分からないので、もう少しだけ詳しく聞く。

 その情報と、リゼルヘイムで仕入れていたおおざっぱな地図と照らし合わせて考えると、だいたいの位置が把握できた。


「たぶん、北西にある森だな。それなら送って上げるよ」

「良いの!?」

「良いよ。どうせ通り道だからな」

 俺達の目的は、帝都にいるはずの穏健派と接触すること。でもってその帝都は、その森より西の方にあるので、ちょっと寄り道ですむ位置関係なのだ。


「問題は、シロちゃんを無事に街から連れ出す方法だけど……なあアリス。シロちゃんの所有権って、いまどうなってると思う?」

「どうって……奴隷商にあるかどうかってコト?」

「この国のルール的にな。このままシロちゃんを逃がして大丈夫かな?」

 俺の言葉を聞いたシロちゃんが、ビクリと身を震わせる。

「ああっと、脅かしてごめん。心配しなくても大丈夫だよ。ただ法的に問題があるのなら、問題ない方法を取ろうと思っただけだから」

 例えば、シロちゃんを連れているのを見られて、俺達が犯罪者扱いされるのは困る。なので、もし問題があるのなら、問題のない手段で解決しようと思ったのだ。

 だけど、アリスは「大丈夫じゃないかなぁ」と呟いた。


「言い方は悪いけど、イヌミミ族に人としての権利はないんだよね?」

「……そうみたいだな」

 腹立たしい考え方だけど、捕まえて奴隷にしても良いというのはそう言う意味だろう。

「獣と同じに考えるのなら、奴隷商が獲物をうっかり逃がしただけでしょ? まだ紋様魔術も刻まれていないし、私達が他の場所で捕獲したと考えれば問題ないと思うよ」

「なるほど……」

 たしかに鹿や猪みたいな獲物だと考えれば、そいつは俺達がうっかり逃がした獲物だからこっちによこせ――なんて通じないな。

 もちろん、見つからないに越したことはないけど、もし見つかっても大丈夫だろう。相手がアレな場合は難癖をつけられるかもしれないけど……と、俺はこの場にいるメンバーを見た。

 ……難癖ならどうとでもなるな。


「それじゃあ明日、出来るだけ見つからないように、シロちゃんを連れて街を出発しようか。みんなもそれで良いか?」

「良いと思うよ。ただ、馬車をチャーターする必要があるね」

 アリスがそんな風に言った。

「そうだなぁ」

 乗合馬車の場合、ずっとシロちゃんを隠す必要があるし、そもそも寄り道をすることが出来なくなる。口が堅くて、出来ればイヌミミ族に偏見のない御者を雇うべきだろう。

「ミリィ母さん、明日の朝一でお願いしても良いかな」

「ええ、分かったわ。それじゃ今のうちに、宿屋の女将さんに話を聞いておくわね」

「ありがと、お願いするよ」

 と言うことで、俺はミリィ母さんを見送った。


「さて……」

 俺とアリスとソフィア。そしてシロちゃんだけになった宿の一室。俺はあらためてシロちゃんを眺めた。

 銀色の髪に、ブラウンの瞳。まだ子供体型でぺったんこだが、シスターズにも負けないほどに愛らしい面立ち。将来は相当な美人さんになるだろう。

 そんな幼女の耳には、モフモフなイヌミミ! そして、おしりにはモフモフな尻尾!

 もうモフらずにはいられないっ!


「――シロちゃんっ!」

「はっ、はい? なんですか?」

 ビクリと身を震わせる。俺はそんなシロちゃんに詰め寄り、両肩をがしっと掴んだ。

「そのイヌミミと尻尾、モフモフさせてくれ!」

「……ふえ? モフモフ?」

「そうそう。モフモフと触らせてくれ!」

「……ええっと、その……触るだけ、だよね?」

「うむうむ。モフモフするだけ」

「触るだけなら、その……良い、よ?」

「マジで!?」

「お兄さんには、その……助けてもらったから。でも、乱暴にはしないで、ね?」

 可愛い。恥ずかしそうなイヌミミ幼女が凄まじく可愛い! 俺はもう我慢出来ないとばかりに、自分の膝をぽんぽんと叩いた。


「ここに座ってくれ!」

「え? えっと……これで、良いの?」

 シロちゃんが背中を向け、俺の膝の上に座る。いわゆるお膝抱っこというやつである。そして、そんな俺の目の前には愛らしい耳と尻尾!

 それではさっそく――と、イヌミミに手を伸ばした途中で手を止めた。


「一応確認しておくけど、耳や尻尾をモフモフされた場合、その相手の義妹にならなきゃ行けない――なんて掟はないよな?」

「ふえ? 親しい人にしか触らせないけど……そんな掟はないよ?」

「そかそか。ではさっそく――」

 俺はイヌミミを指で摘んだ。銀色の毛で覆われた、なんとも言えない触感。なんというか、凄くモフモフです。

「――んっ、お兄さん。くすぐったい――よっ」

「くすぐったいだけか?」

「……ひぅ。え、えっと……くすぐったいけど、毛繕いされてるみたいで、少し気持ちいい、ひゃっ、かも。……んくっ、やっぱり、くすぐったいよぉ」

 俺の指の動きに合わせ、シロちゃんがぴくぴくと身を震わせる。考えてみれば、耳を撫でまわしてる訳だし、くすぐったくて当然だな。

 とは言え、身もだえはしても逃げようとはしない。むしろもっと撫でて欲しいとばかりに背中を預けてきた。

 俺はその期待に応えるべく、更に両耳をもっとモフモフする。


「わふぅ。おにぃさん、くすぐったいよぉ」

 少し甘えるような声。俺はよしよしと頭を撫でつつ、反対の手でイヌミミをモフモフし続ける。俺の手の動きに合わせて身をよじる。そんなシロちゃんが可愛くて仕方がない。

 だが、モフモフモフと俺が調子に乗ってシロちゃんのイヌミミを撫でまわしていると、おもむろにアリスに手を掴まれた。

「リオン、ダメだよ」

 あの温厚なアリスが少し眉を吊り上げている。それを見た俺は急速に頭が冷えていく。

 俺はワンコを可愛がってる感覚でモフモフしていたけど、冷静に考えるとシロちゃんはまだ幼いとはいえ女の子。好き勝って撫でまわすのはさすがにまずかった気がする。


「……すまん、自重するよ」

「うん、そうして。次は私の番なんだから」

「おう。……おう?」

「うわああああ、ホントにモフモフだよ!」

「わふううううううっ!?」

 どういう意味だという暇もなく、アリスがシロちゃんに抱きつき、そのイヌミミを撫でまわし始める。それに驚いたシロちゃんが、俺の膝の上でびくりと跳ねた。

 そして――


「アリスお姉ちゃんズルイっ! ソフィアもモフモフする!」

「ふええぇ!? ま、ままっ待ってください。そんなにいっぺんに触られたら、ボク――ふみゃぅっ!? おかひく、おかしくなっちゃうからぁっ!」

 ソフィアもシロちゃんの頭に抱きつき、イヌミミに頬ずりを始めた。

「ふわぁぁぁ、本当にモフモフだよぉ」

「わふぅ、そ、そんなっ、左右の耳を別々になんて、ひゃあん。ダ、ダメらって、言ってるのにぃ。――んくっ」

 二人に両耳をモフられて、シロちゃんは俺の膝の上でビクビクと身を震わせる。シロちゃんの透けるような白い肌が、ピンク色に染まっている。なんと言うか、背徳感のある光景。

 だけど、俺はそれよりも――と、シロちゃんのお尻に目を向けた。ワンピースのスカートを押し上げ、モフモフの尻尾がピンと立っている。

 なんというか、銀色の毛並みが綺麗で、凄くモフモフしがいがありそうだ。なので俺はその誘惑に逆らわず、ふわふわの尻尾を優しくモフモフし始めた。

「ひゃん、そんな、尻尾までっ。もっ、もう、らめええええぇぇぇえっ!」

 このあと()、むちゃくちゃモフモフした。

 

 

 こっそりエイプリルフールのショートが活動報告に上がってます。

 よろしければご覧ください。

 

 次話は10日を予定しています。

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