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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第六章 海の向こうの大陸で――

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エピソード 1ー9 モフモフ

 リゼルヘイムの西にあるスフィール領。その最西端にある港町から微かに見える、海の向こうの大陸。そこにザッカニア帝国は存在している。

 なので、俺達はスフィール領の端にある港町を訪れていた。

 メンバーは予定通り俺とアリスとソフィア、それにエルザとミリィ母さん。あとは船の手配をするために、アカネが同行してくれている。

 取り敢えず向かうのは、アカネが購入したという船が停泊している港である。


「港町と言ってもあまり活気はないんだな」

 俺は港へと続く道を歩きながら呟く。たしかに港はあるが、穏やかな田舎町といった雰囲気。いわゆる港町――交易が盛んな港といった雰囲気ではない。

「漁がほとんどで、船による交易はほとんどおこなわれてないんよ。船で運べるモノなんてたかがしれてるし、途中で沈没するリスクも決して低くはないからね」

 俺の内心の疑問にアカネが答える。

 言われてみれば、港に停泊している帆船はどれも小さい。晴れの日は微かに陸が見える距離とは言え、外洋の荒波で転覆する可能性はあるだろう。


「でも、最近は時々交易がおこなわれてるんだよな?」

「それはミューレで作られた商品の価値のおかげやね。例えばアリスブランドの洋服。今は供給も増えてきて、金貨数枚もあれば買えるレベルになってきてる。せやけど、ザッカニアに持って行けば、何倍もの値段で売れるからね」

「なるほど……」

 リゼルヘイムでも最初は、金貨数百枚なんて値がついていた。破格の値段で売れるとなれば、危険を冒して売ろうとする人間がいてもおかしくはないだろう。

 放っておくと、どんどん貿易摩擦が悪化しそうな気がする。


「ちなみに、ザッカニア帝国でこの国の言葉は通じるのか?」

 もし無理なら通訳が必要だけどとアカネを見る。

「あぁそれなら心配あらへんよ。ザッカニア帝国のご先祖様は、リゼルヘイムの民らしいからな。言葉は共通なんよ」

「そう、なのか?」

 あの国の先祖はうちの民――なんて言葉は当てにならない気がする。


「あ、それなら私も聞いたことあるよ」

 不意に声を上げたのは、反対側を歩いていたアリスだ。

「アリスが聞いたことあるって言うのは、エルフの伝承かなにかか?」

「うん。リゼルヘイムが建国される前、この大陸にはイヌミミ族が住んでいたんだよ」

「……イヌミミ族?」

「うんうん、イヌミミ族。基本的には人間と同じ姿だけど、イヌみたいな耳と、モフモフの尻尾のある種族だね」

「なにそれモフりたい!」

「そうだね。リオンみたいな考えの人間ばっかりなら問題なかったんだけどねぇ~」

 アリスがため息まじりに呟く。それを聞いた俺は、今現在この大陸にイヌミミ族なる種族が存在していないことを思いだした。


「……まさか、滅ぼしたのか?」

「ううん。排斥しようとする人間と、共存しようとする人間に別れて対立したの。でもって、共存しようとする側の人間は、イヌミミ族と共に海を渡った。それが今から500年くらい前」

「500年くらい前? リゼルヘイムが建国されたのって400年くらい前だったよな?」

「そうだよ。リゼルヘイムはイヌミミ族を排斥した者達の子孫だよ」

 ……なんて、なんて愚かなことをしたんだ。もしイヌミミ族が今もリゼルヘイムにいたら、足湯イヌミミメイドカフェが作れたのに……

「……許すまじご先祖様」

「うぅん。人種差別は許せないけど……リオンはなんだか違う意味で怒ってる気がするのは気のせいかな?」

「なんだか良く判らないけど……リオンお兄ちゃんの頭の中はも‘モフりたい’って言葉で一杯だよ?」

 恩恵で俺の心を読んだのだろう。アリスの問いかけにソフィアが答える。いつもなら、人の隠された欲望をさらけ出すのは止めてくれって言うところだけど――


「イヌミミ族をモフりたい」

 今回は隠すことなく欲望を垂れ流す。

 いやだって、モフモフの耳と尻尾だよ? アリスもまぁエルフ耳だけど……モフモフではない。そもそもアリスはエルフって言うより、前世の俺の妹って感じだからな。

「と言うことで、イヌミミ族モフりたい! ザッカニアの港町にある一等地を買い取って、足湯イヌミミメイドカフェを作ろう!」

「ええっと……リオン? 私達はザッカニアに和平の使者としていくんだよ、分かってる?」

「分かってる。足湯イヌミミメイドカフェを作るついでに、和平を結べば良いんだろ?」

「いやまぁ……それでも良いけどね? でも、港町で温泉なんて出るのかな?」

「――っ!?」

 そう言えば、隣国の地形を調べてなかった。水平線の向こうに大陸が見えるってことは、平地ばっかりってことはないと思うんだけど……


「アカネ、ザッカニアの港町にも温泉はあるよな? あると言ってくれ」

「……たぶんないんと違うか?」

「嘘、だろ……」

「いやだってなぁ……温泉なんてそう滅多にあるモノやないし」

「た、たしかに……」

 今のところ、自然に湧いた温泉にはお目にかかってない。山の奥なんかに入ればあるかもしれないけど……って、うちにはアリスがいるじゃないか。


「……アリスぅ」

「そんな縋るような目で見られても。さすがに源泉がありそうな場所じゃないと。そもそも、他の国であまり好きかっては出来ないしね」

「……しょぼん」

「リオン、なんだかキャラが崩壊してるよ?」

 酷い言われようである。まぁ……自覚はなきにしもあらずだけどさ。しょうがないじゃん、イヌミミ族とか、すっごく気になるんだから。

「ん~そんなに足湯イヌミミメイドカフェが作りたかったら、ミューレの街でイヌミミ族を雇ってみたら?」

「……え? そんなこと可能なのか? リゼルヘイムの民は、イヌミミ族を排除したんだろ?」

「と言っても、500年くらい前のことだし。それに……」

 アリスはそこで一度言葉を切り、俺達以外に話を聞いていないことを確認。「この世界には歴史を記録するような資料はほとんど存在しないからね」と呟いた。

 ようするに、口伝だけで500年も語り継がれないと言いたいのだろう。俺はそれをたしかめるためにソフィアへと視線を向けた。


「ソフィアは、イヌミミ族って聞いてどう思ってるんだ?」

「ん~ソフィアは今初めて知ったから。リオンお兄ちゃんが凄く興味津々みたいだし、シスターズ候補が増やせそうかなって感じだよ?」

「……シスターズ候補的な意味であれこれ言ってる訳じゃないぞ?」

 いやまぁ、可愛いイヌミミ美少女とか、側にいたらいつでもモフれて良い感じだけどさ。


「じゃあアカネは?」

「うちは、にーさんの話を聞いて、お金になりそうやなぁって」

「ふむふむ」

 いかにも商人的な考えである。けど、差別しないって意味で悪くない。

「それじゃ、ミリィ母さんは?」

「私はそう言った差別意識はないわね。でも……そうね。イヌミミ族が野蛮な種族だという昔話は聞いたことがあるわ。リオンには教えなかったけどね」

 差別を伝えるための昔話、か。そういうお話を親から聞かされても影響されず、子には伝えない。さすが俺の母さんである。


「みんなに聞いた感じだと、思ったよりもイヌミミ族に対する差別は少ないっぽいな。これなら、イヌミミ族を足湯メイドカフェにスカウトしても大丈夫かな」

 みんなの話を聞いて、俺はそんな結論にいたる。だけど、そこに今まで黙って護衛をしていたエルザが否を唱えた。

「恐れながら、その考えは少々楽観的すぎると思います」

「……ふむ、エルザはイヌミミ族に嫌悪感があるのか?」

「そういう訳ではありませんが……イヌミミ族を大陸から追い出したリゼルヘイムの民を、彼等は快く思っていないでしょう。それにイヌミミ族は身体能力が優れていると聞きます」

「敵意を抱かれると厄介だって言いたいのか?」

「それもあります。ですが問題は、それ故に民衆は恐れるだろうと言うことです」

「……なるほど」


 自分達を恨んでいるかもしれないイヌミミ族。戦闘能力の高い彼等が、リゼルヘイムの地へ舞い戻る。それに恐怖を抱く人間は……いるだろうなぁ。

 でも……俺の目的は足湯イヌミミメイドカフェ。モフモフした可愛い女の子を数人連れ帰るだけなら……いやしかし、その場合は家族も同行させる必要があるか?

 そうなると……うぅむ。ダメか? ダメなのか? 俺は足湯イヌミミメイドカフェを作りたいだけなのに、過去のしがらみにとらわれなきゃいけないというのか?


「……あ、あの、リオン様? 私は警備上の観点から危険性を訴えただけで、どうしてもと仰るのなら、その上で安全を守るのが私どもの仕事です。イヌミミ族を連れ帰るなと言っている訳ではないですよ……?」

 あ、あれ? なんかすっごく気づかうような目で見られてしまった。

「心配するな。ちょっと実現すれば良いなぁって思っただけだから、危険を冒してまで実行するつもりはないよ。そんなの、ミューレの民はもちろん、イヌミミ族にとっても幸せな選択じゃないだろうしな。だから大丈夫、俺は大丈夫だ――っ」

「そ、そうですか。それでしたら良いんですが……」

「うむ」

 仕方がないから、取り敢えず今は足湯イヌミミメイドカフェは諦めよう。でもいつか、ザッカニアの温泉地を買い取って、イヌミミ族が経営する足湯イヌミミメイドカフェを……っ。


「にーさん、にーさん。妄想に浸ってるところ悪いんやけど、あっちに見えるのが、うちの購入した帆船やよ」

「え、帆船による移動式足湯イヌミミメイドカフェ? それはさすがに、温泉を維持するのが大変なんじゃないか?」

「なんでやねんっ!」

 ――突っ込まれた!? しかも、頭をはたかれるというおまけ付きである。

 俺、伯爵家の当主なのに……いや、その当主が突っ込まれるほどぼけてたのが悪いな。ちょっとしっかりしよう。イヌミミ族のことはしばらく封印だ。

 という訳で、俺は自分の頬をぱんぱんと叩く。そうしてあらためて、アカネの指し示した帆船へと視線を向ける。

 サイズは……全長二十メートルたらずだろうか? 二十人くらいは乗れそうな帆船で、獅子をモチーフとした紋章――リゼルヘイムの旗がはためいている。

 俺が想像してたよりもかなり大きい船だ。とは言え、外洋を渡ると考えると、決して大きくはないけどさ。


「しかし、よくこんな船を用意出来たな。船の話をしてからまだ一ヶ月も経ってないだろ?」

「商人か初動で後れを取る訳にはいかへんからね。ま、タイミング良く、船が借金の形に売りに出されてたちゅーのが理由やけどね」

「なるほどね。それで、この船を使わせてもらって構わないのか?」

「もちろんや。ただ……買い取ったことから分かると思うけど、この船にはにーさんの技術が使われてない旧式の船なんよ。せやから、万一という可能性は否定出来へんけど……」

「それなら大丈夫だ。俺とアリスがいるからな」

 もし船体に穴が――なんて緊急事態が起きたとしても、流れ込んでくる海水を氷らせてしまえば良い。むしろ、氷山をつくって避難するという手段もある。

 最悪の事態にはならないだろう。


「……にーさんがそう言うなら大丈夫なんやろうね。そうしたらクルーも揃ってるし、積み荷も万全。お望みなら今すぐにでも出港できるよ」

「なにからなにまで悪いな。それで、見返りになにをすれば良いんだ?」

「ん~恩を売るだけでも十分やけど……そうやねぇ。正式に交易が始まるようになったら、うちに仕切らせてくれへんか?」

「ふむ……まあ構わないよ。ただし、独占はなしだからな?」

 アカネ商会はミューレの街に本店を置く巨大な商会になりつつある。今のところは他の商会とも上手くやってるみたいだけど……あまり勝ちすぎると他と軋轢を生む。

 それを心配したんだけど……アカネにはお見通しだったのだろう。赤い瞳を細めて笑った。


「にーさんの方針は知ってるから、それを台無しにするつもりはあらへんよ。そもそも無理をせんでも、繁栄が確定してるような状況やからね。わざわざ敵を作る必要自体があらへんね」

「そっか。それを聞いて安心した」

 なんてな。確認をしたけど、アカネが俺の意思を理解してくれているのは知っている。アカネの商会がミューレの街で大きくなったのも、その辺りの立ち回りが上手いからだ。

 他の商会の者達は、自分の商会を大きくするために他を蹴落として、自分達が利益を得ることを優先している者が多くて扱いづらかったのだ。

 もちろん、商人として他者を出し抜こうとするのが間違ってるとは言わない。俺も互いに競争することは必要だと考える側の人間だ。

 だけど、だからこそ、どこかの商会が一人勝ちをするのを俺は望まない。その辺、アカネはバランス良く立ち回ってくれるので、非常に重宝している。


「それで、出港はいつにするんや?」

「ああっと……そうだな。天気も問題なさそうだし、今から出港で良いかな?」

 俺は同行者全員に視線を向ける。もとよりそのつもりだったようで、全員が問題なく同意してくれた。

「よし、それじゃ船に乗り込んで、準備ができ次第出港だ!」

 目指すは海の向こう。ザッカニア帝国。足湯イヌミミメイドカフェのために――じゃなくて、攫われた生徒やエルフの奪還と、この国の平和のために!


 

 リゼルヘイムの建国を400年前に変更、統一いたしました。

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