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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第六章 海の向こうの大陸で――

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エピソード 1ー4 護るために

 リーベルが精霊魔術を俺達に向かって放つ。それはアリスにとって信じられない行動だったのだろう。飛来する風を纏った刃に対して反応できていない。

 それに気づいた俺は、アリスを抱き寄せると同時に精霊魔術を行使。寸前のところで、リーベルの放った魔術を防御した。

 なんとか間に合ったとホッと一息――ついたのも束の間、俺は言いようのない寒気を覚えた。俺の腕の中、アリスが底冷えのするような声でなにかを呟いたからだ。


「ア、アリス?」

「……どういう、つもり……なのかな?」

 アリスは俺の胸をそっと押しやるように離れ、リーベルへと視線を向けた。そんな彼女の放つ本物の殺気に、リーベルは一歩後ずさった。

「お、お前が聞き分けのないことを言うからだろう!」

「私は、事情を、聞いて、いるんだよ」

「事情が分からないなら黙っていろ!」

「……そう。話し合う気がないんだ。だったら、仕方ないよね。森が吹き飛ぶかも知れないけど、話を聞いてくれないんだから、仕方ないよね」

 アリスは静かに物騒なことを宣言。周囲の魔力素子(マナ)を取り込み、魔力を生成し始める。

 生み出された純度の高い魔力は、光の粒子として可視化されることがある。そんな光の粒子が、アリスを包み込むように浮かんでいる。それはリズに匹敵する魔力量。

 リズの場合はその魔力の大半を、三日という驚異的な持続時間のために消費される。それを通常の精霊魔術で消費するなんて、どれ程の規模になるか想像も出来ない。


「落ち着けアリス! 相手は同胞だろ!?」

「……種族なんて関係ないよ。重要なのは、その人が良い人か悪い人か。そして、いきなり攻撃魔術を使うのは悪いエルフだよ。それにたとえどんな理由があったとしても、私の家族に弓を引くなんて許せない!」

 ……やばい、これはやばい。

 なにがやばいって、アリスの纏う雰囲気が闇落ちしたソフィアとそっくりなのだ。近接オンリーのソフィアでもやばいのに、アリスが本気で暴れたらどんな事態になるか分からない。


「――お、お前はエルフの娘だろう!」

 慌てたリーベルが声を荒らげる。その声が少し引きつっているのは、アリスの纏う魔力量が尋常じゃないレベルに達しているからだろう。

「……言ったよね、関係ないって。ここにいるみんなは、私の家族なんだよ。その家族を傷つけようとするのなら、それが誰であっても容赦はしないよ。敵意がないというのなら、今すぐに膝を屈しなさい。そうしないというのなら……」

 アリスがゆっくりと右腕を振り上げた。その右手の先に魔力が集まっていく。俺は慌てて、その右手にしがみついた。


「アリス、それ以上はダメだ!」

「大丈夫だよ、リオン。反撃なんてさせない。一撃で無力化するから」

「いやいやいや、そう言う問題じゃなくて!」

「心配しなくても、目的は無力化だから殺したりはしないよ?」

「……ホ、ホントか?」

「彼等だって精霊魔術が使えるんだから、死ぬ気で防御すれば死なないはずだよ」

 ――なんかむちゃくちゃ言ってますけど!?


「アリス、冗談を言ってる場合じゃないぞ。本気でやばいって」

「私も冗談なんて言ってるつもりはないよ」

「いや、だからそれが……」

「――あのね、リオン。理由は判らないけど、彼等は本気だよ。手加減なんてしてたら……」

 アリスは言葉を濁す。だけど、俺はその言葉の先を理解した。アリスが一瞬だけ、背後にある馬車に意識を向けたからだ。

 つまり、アリスはこう言いたかったのだ。手加減なんてしたら、傷つくのは馬車に乗っているみんなかも知れないよ――と。

 思い浮かんだのは、アヤシ村での惨劇。ここで判断を誤れば、悲劇が繰り返されるかも知れない。それだけは、絶対に避けなくちゃいけない。


 だけど、だけど、だ。相手は弓だけではなく、精霊魔術も使うエルフの集団。

 そんな連中を傷つけずに無力化するなんて魔術は存在しない。降伏をしてくれないのなら、アリスの言うように相手の防御できるギリギリの威力でねじ伏せるしかない。

 そうしたら、エルフと人間のあいだに争いが起きるかも知れない。

 どうするのが正解なのかと迷っていると、アリスの纏う魔力量から来るプレッシャーに堪えかねたのか、エルフの一人が意味不明な叫び声と共に矢を放った。

 それは、俺達を狙ったと言うよりも、恐怖に駆られて矢を離してしまったと言うような攻撃で、見当違いの場所へと突き刺さった。

 だけどそれは、張り詰めていた空気を弾けさせるには十分な切っ掛けだ。

 アリスが殺気を膨らませ、それに怯えたエルフ達が次々に矢を放つ。当然、アリスはそれを迎撃しようと待機させていた精霊魔術を――


「止めなさい!」


 ――放つことは出来なかった。

 発動を止めた訳ではない。少なくともアリスは、間違いなく精霊魔術を行使していた。だけど、その命令を受けたはずの精霊達が、魔術を発動させなかったのだ。

 ただ幸いなことに、俺達に向かっていた矢は全て、周囲を吹き抜けた風が払いのけた。

 今のは……まさか、リズのときと同じ現象か? いや、それよりも今の声の主は――と、視線を向けると、俺達の真正面。真っ直ぐにこちらに向かってくるエルフの少女がいた。

 ……いや、アリスのお姉さんのような見た目の彼女は……

「アリスのお母さん!」

「お久しぶりね、リオンくん。色々と話したいことがあるのだけど、まずはこの状況をなんとかしましょう」

「――そうだ、まずは降伏して跪け――ぐはっ!?」

 アリスママが腕を振るった瞬間、遠く離れた位置に立つリーベルが殴られたようにのけぞった。いや、実際精霊魔術でぶん殴られたんだと思うけど。


「跪くのは貴方の方です。まずは話をすると言いましたよね?」

「話し合いなど無駄だ!」

「それを決めるのは貴方ではないでしょう? それに先ほどのアリスの攻撃、放たれていたら全員無事では済みませんでしたよ? 貴方がしたことは、彼等ばかりか同胞をも危険にさらしていると、なぜ分からないんですか?」

「い、いやしかし、既に孫娘が、だな……」

「貴方の心中は理解していますが、彼等が犯人と決まった訳ではないでしょう。それにもし彼等が犯人なら、報復に貴方の大事な孫娘が殺されるかもしれませんよ?」

「ぐぐぐ……」

 孫娘……か。どうやら、かなり厄介な事態が起きてるみたいだな。色々と聞きたいことが出来たけど、今は口を挟まない方が良いだろう。そう思って二人のやりとりを見守る。

 その後も、リーベルは反論していたが、ことごとくアリスママに論破される。そうしてついに黙り込んだリーベルを見て、アリスママはため息をついた。


「族長として貴方に自宅謹慎を命じます。少し頭を冷やしなさい。――それと貴方達も下がりなさい。そして彼を見張って、私の別命があるまで家から出さないように」

「「「――はっ!」」」

 アリスママの命令で、俺達を取り囲んでいたエルフは一斉に武器を下ろし、リーベルを連行して下がっていった。


「ごめんなさい、脅かしてしまったわね」

 他のエルフが立ち去るのを見届け、アリスママが俺達の方へと歩み寄ってきた。だけど、彼女の行く手を阻むようにアリスが立ちはだかる。

「……アリス、そんなに怖い顔をしてどうしたの?」

「どうしたのはこっちのセリフだよ。呼び出しておいて襲うなんて、一体どういうつもり?」

「色々と事情があるのだけど……リーベルのしたことについては釈明のしようがないわ。本当にごめんなさい」

 アリスママが深々と頭を下げる。事情は分からないけど……アリスママについてはちゃんと話し合うつもりがありそうだ。


「まずは顔をあげて下さい」

 俺は事情を聞くべく、アリスの横まで進み出る。アリスがなにか言いたげな顔で俺を見たけれど、ここは俺に任せてくれと視線で返しておいた。

「取り敢えず……彼の行動は独断専行で、あなたにとって予想外だったという訳ですね?」

「ええ。そうよ。私がリオンくんを呼んだのは、あくまで話し合いが目的。人間と争うのは、私の望むところじゃないわ」

「……それだとまるで、他のみんなは人間と争いたがっているように聞こえますが?」

「そうね。なんとなく予想がついてるかもしれないけど、彼等があんな暴挙に出たのはそれなりに理由があってのことよ。その辺も含めて説明するから、まずは私の家に場所を移しても良いかしら?」

「……分かりました」

「あら、ずいぶんと素直だけど……私のことを信じてくれるのかしら?」

「あなたはアリスのお母さんですしね。それに……俺達を捕まえるつもりなら、そんな回りくどい手を使う必要、ないでしょ?」

 さっき、全員の精霊魔術をかき消した力量は異常だ。

 最初に来たときは凄いとしか分からなかったけど、彼女の実力は間違いなくアリスの上をいっている。俺達がいまだ無事なのが、アリスママに敵意のない証拠だろう。

 ――とまぁ、そんな訳で、俺達はアリスの実家へと向かった。


 

 次話は25日を予定しています。

 それと二月は28日までなので、例外として25日の次は1日、その次は5日に投稿いたします。

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