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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第六章 海の向こうの大陸で――

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エピソード 1ー3 エルフの里で再び

 エルフの里へと続く道すがら、俺達は馬車に揺られていた。

 メンバーは予定どおり、俺とアリス、それにソフィアとクレアねぇ。あとはミリィ母さんに、エルザを初めとした護衛が三人だ。

 ちなみにミューレの街を出発して四日。既にエルフの里がある森にさしかかっている。

 前にアリスと訪れたときは七日くらいかかったのに、今回四日に短縮されたのは、街道が整備されたから――ではない。


 エルフの里はミューレの街から東南東方面。基本的には山や森ばかりの地域で、主要な街や領地へ繋がっていない。そのため、街道の整備がなされていないのだ。

 馬車の性能が上がっているというのはあるけど、日数が短縮されている主な理由は、単純に真っ直ぐ目的地へと向かっているからだ。

 あの頃は歩きと馬車を使い分けて、かなりの時間をロスしていたからな。

 逆に言えば、街道を整備したら日程を更に短縮出来る余地はあるんだけど……現状、エルフはあまり人間と係わろうとしてないので、街道の整備は悩みどころだ。


「ねぇねぇ弟くん、弟くん」

 窓の外を眺めていると、隣に座っていたクレアねぇが話し掛けてきた。ぴったりとくっついてくるので、緩やかなウェーブのかかった銀髪が俺の身体に触れてくすぐったい。

「どうかしたのか?」

「弟くんは、エルフの里に行ったことがあるのよね?」

「ああ。七年前に一度だけな」

 ソフィアのお父さんに屋敷を襲撃されたのが原因なので、微妙に表現をぼかしておく。もうお互い気にしていないことだけど、一応な。

「エルフの里ってやっぱり、森の中にひっそり隠れているのよね?」

「奥地にあるのは事実だけど、隠れてる訳ではなかったかなぁ……」

 俺はかつての光景を思いだす。里があるのは森の奥だけど、森と一体化している訳ではない。森に空き地を作り、そこに村を設置したようなイメージだった。

 それを説明すると、クレアねぇはそうなんだぁと考え込んでしまった。頬に人差し指を添え、あれこれと考えるクレアねぇは可愛らしくみえるけど……


「今度はなにをたくらんでるんだ?」

「たくらむなんて酷いわね。ただエルフとは、ほとんど交流がないでしょ?」

「まあ、治外法権みたいな感じだからな」

 エルフはリゼルヘイムが建国される遥か前からこの地に住んでいる。だからリゼルヘイムの領地に住みながらも、リゼルヘイムの民ではないのだ。

「でも、せっかく同じ土地に住んでいるんだから仲良くしたいじゃない。だからこれを切っ掛けに、仲良く出来ないかなって考えてるのよ」

「なるほど……」

 その気持ちは共感できる。エルフの里はアリスの故郷で、族長はアリスのお母さんだ。だから、互いの暮らしが良くなるように手を取り合いたいという思いは俺にもある。

 と言うか、俺がそう思っているからこその提案なのかもな。

「そうだな。相手が望むかは分からないけど、なにか提案くらいはしても良いかもな。植林について相談するつもりだったし、その取引材料にすれば良いんじゃないかな?」

 エルフの子供をミューレ学園に向かい入れる。もしくは、卒業生をエルフの里に派遣する。

 前世の物語に出てくるようなエルフのイメージだと、拒絶されそうな気がするけど……族長がアリスママだからな。受け入れられる可能性はありそうだ。

「そうね、その方向で考えてみましょうか」

「うん。それが良いと思う。……と言うか、アリスはさっきからなにをやってるんだ?」

 向かいの席。俺達の話を聞いていたアリスが、しきりに自分を指差して自己主張していた。

「エルフ、エルフ。エルフの知識が欲しいのなら、ここにハイエルフがいるよ?」

「アリスは森を守護するより、破壊する方が得意だからダメだ」

「えぇっ!? 私ってそういう評価なの?」

「胸に手を当てて考えてみろ」

 山賊に恐怖を与えるためだけに森を伐採し、森を駆け抜けるためだけに木々をなぎ払う。そんなエルフがいてたまるかと突っ込みたい。

 ……いや、遺憾ながら目の前にいる訳だが。

「もっとも、アリスじゃダメな理由はそれじゃないけどな」

「うん? どういうこと?」

「俺が欲しいのは知識じゃなくて経験だってこと」

 俺達には前世の知識があるけど、それはあくまで知識だけ。森を長年管理するなんて経験はない。だから目当てなのは、エルフの長年培ってきた経験。

 エルフの里で十数年しか生活してないアリスじゃ、そこらの人間と変わらない。


「うぅん。そう言うことなら仕方ないかぁ……」

「なんでそんなに残念そうなんだ?」

「だって私、最近リオンの役に立ってないでしょ? だから、たまには良いところを見せたいなぁって思ったんだよぉ」

「…………………………ええっと、なんだって?」

「だから、最近はあんまり活躍出来てないなぁって」

「……誰が?」

「だから、私が、活躍、出来てないなぁって」

「そ、そうかなぁ……」

 もはや、アリスの名がこの世界から忘れられることはありえない。その背景に知識チートがあるのだとしても、アリス個人の活躍による部分も大きい。

 それなのに活躍していないとか、活躍の意味を調べ直したくなるレベルだ。


「それにね。婚約のときも、リオンの不安をあおるような真似ばっかりしちゃったし」

「それはもう気にしなくて良いって言っただろ?」

 アリスは――と言うか、シスターズ全員だけど、俺に対して嘘や隠し事をしたことを引きずっているらしい。俺のための嘘だったんだから、気にしなくて良いって言ってるんだけどな。

 それでも嘘をついて傷つけたことは変わらない――とか言ってさ。あれから約二ヶ月経つし、そろそろ気にしすぎだと思う。

 まあでも、このタイミングでそんなことを言い出した理由はなんとなく察した。だから俺はアリスに向かって、少しだけ意地の悪い笑みを浮かべる。

「そんなに心配しなくても、大丈夫だよ。アリスのお母さんにはちゃんと、アリスには世話になってる言うからさ」

「べ、べべつに、そんな心配をしてる訳じゃないよ!?」

「くくっ、耳まで真っ赤になったぞ」

「ふえぇ……」

 赤くなった耳を慌てて両手で隠すアリス。可愛すぎかよっ、とか言って、からかいたいところだけど、今回ばっかりはからかう気にはなれない。

「恥ずかしがることないだろ。俺達には、それだけの理由があるんだからさ」

 俺とアリスは前世で、両親を幼くして失っている。だから生まれ変わったこの世界で、両親を大切にするのは自然なことだと思う。

 だから、俺がミリィ母さんを気づかうのも当然なのだ。


「リオンお兄ちゃんは、いくらなんでも過剰だと思うよ?」

「――ソフィアに突っ込まれた!?」

 そこまでマザコンなつもりはないんだけどな。このあいだ、ミリィ母さんに言いよる男の身辺調査をアカネに頼んだのがいけなかったのだろうか?

 それとも、ミューレの街でそれとなく護衛をつけてることを言っているのか?

「……どっちもじゃないかなぁ」

「そ、そうか……と言うかソフィア? 人の心は可能な限り読まないようにしたんじゃなかったのか?」

「そうなんだけど……ずっと一緒にいるせいか、リオンお兄ちゃんの思考は無意識に読んじゃうんだよね。他の人は意識的に切り替えられてるんだけどね」

「マジっすか」

 まあ……別に知られて困るような秘密はない。と言うか、既に全部知られてるし、困らないと言えば困らないけど、出来れば勘弁して欲しい。

「出来るだけ気を付けるよぉ」

 うん、気は付けても、結果は出せそうにないですね。……別に良いけど。


 そんな感じで雑談をかわしながら馬車に揺られることしばし。森の入り口へとさしかかり、あぜ道を進んでいたときのことだ。不意に馬がいななきをあげ、馬車がピタリと止まった。

「……どうしたんだ? まだ目的地まではもう少しあるはずだぞ?」

 もちろん、エルフの里まで馬車の進めるような道がある訳じゃない。けど、そういう細道まではもう少しあるはずだ。そう思ってドアを開けようとする。

「――開けてはいけません!」

 俺の気配を察したのか、馬で随伴していたエルザが鋭い警告を発する。……って、どういうことだ? そう思った瞬間、アリスが扉を開けて馬車から飛び出した。


「弓を下げなさい! 私はアリスティア。エルフの森の族長――フィリスティアの娘よ!」

 地面に降り立ったアリスが高らかに叫ぶ。

 弓を下ろしなさいってことは……と、周囲を見回すと、木の上などに弓を構えたエルフの姿がちらほらと見える。どうやら包囲されているらしい。

 しかも、アリスが名乗ったにもかかわらず、武器を下ろすようなそぶりはない。それが意味することまでは分からないけど……ここは呼び出しを受けた俺も顔を見せるべきだろう。


「みんなは馬車の中にいてくれ」

「ソフィアもいくよ」

「ダメだ。ソフィアは馬車で待機しててくれ」

 立ち上がろうとしたソフィアを押し返して座らせる。

「でも、エルフの人達、凄く怒ってる感じがする。このままじゃホントに危ないよ」

「そうか……ならなおさらソフィアは外に出ちゃダメだ」

 相手は矢を番えたエルフ。精霊魔術だって使えるはずだし、それらを防ぐ手立てがないソフィアが外に出るのは危険すぎる。


「とにかく、ソフィアは馬車の中にいてくれ。――クレアねぇ、ソフィアが飛び出さないように、見ててやってくれ」

 俺は隣のクレアねぇへと視線を向ける。クレアねぇは俺を心配してくれているのだろう。凄く不安げな表情を浮かべている。

「そんな顔するなよ。大丈夫だから」

「……ホントに、ホントに大丈夫なの?」

「なんか誤解があるみたいだけど、問答無用で攻撃してくるそぶりはないからな。話せば分かってくれるよ」

 俺はソフィアとクレアねぇ、二人の頭をそれぞれ撫でつけ、馬車からひらりと飛び降りた。


「……リオン。どうして?」

「いくら相手がアリスの身内でも、弓を向けられてる状態で一人に出来る訳ないだろ? と言うか、どうなってるんだ?」

「分からないけど……気配察知の恩恵にも直前まで引っかからなかったし、冗談って訳じゃなさそうだよ。完全に警戒されてるみたい」

「……ソフィアも、みんなが怒ってるって言ってたな」

 無断で立ち入ったのならともかく、俺達は族長に呼び出されたのだ。それなのに包囲するなんて……どういうつもりだ?


「俺はリオン・グランシェス。エルフの族長の要請に応じてやってきた。武器を下ろしてくれないか?」

「黙れ、人間よ。今すぐ武装解除して、我々の前に膝をつけ」

 俺に答える声。その声の主を探すと、初老にさしかかった見た目のエルフが立っていた。そして、それを見たアリスが眉をひそめる。

「……リーベルさん。あなたがこんなことをするなんて、一体どういうつもりですか?」

「ふん、お前こそどうして人間なんぞと一緒にいる。まさか、人間に荷担しているのか?」

「荷担もなにも、彼等は私の大切な家族です」

「馬鹿を言うなっ! 人間などという野蛮な人種を家族などと、気でも狂ったのか!?」

「それはこっちのセリフです。私達はお母さん――族長に呼び出されたんですよ? それを包囲して弓矢で脅すなんてどういうつもりですか!?」

「黙れ!」

「いいえ、黙りません。野蛮なのは貴方達の方でしょ!」

「ええいっ、わしの言うことが聞けぬのか!」

 リーベルと呼ばれた初老のエルフは激高し、それと同時に無詠唱で精霊魔術を起動。俺達に向けて右手を振るった。

 


次話は20日に投稿予定です。

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