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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第一章 自重しない異世界姉妹

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エピソード 3ー1 父の想い

 アリスを離れへと送り届けた俺は、そのまま本宅へと忍び込んだ。ブレイクが直ぐに動く可能性がある以上、時間を空ける訳にはいかないからだ。


 そんな訳で、人目を避けてたどり着いた書斎の前。部屋に父が居るのを確認してから、扉の中へと滑り込んだ。

「……リオン? なにをしに来たんだ」

 ノックもせずに現れたからだろう。父は警戒するような素振りを見せる。

「父上、突然の訪問、申し訳ありません。少しお話がしたいだけなので、出来れば少しお時間を頂けないでしょうか?」

「……話だと? それは、連絡も無く忍び込んでまで話すような内容なのか?」

「実は先ほど――」

 俺はさっきの出来事を包み隠さず父に打ち明ける。それを聞いた父はため息をついた。


「なるほど、急ぎである事情は判った。だがお前は、わしにどうして欲しいのだ? まさか、わしの口からブレイクに釘を刺して欲しいという訳でもあるまい?」

「ええ、もちろんです。そんなことをしても、俺の立場が悪くなるだけでしょうから」

「そうだな。ブレイクの奴は間違いなく事実無根だと訴え、キャロラインはその言葉を信じるだろう。それを判っていながらわしのところに来た、その理由はなんだ?」

「俺は……俺の大切なモノを護る為にここに来ました」

「大切なモノ? それは話に出てきたアリスという娘のことか?」

「彼女もその一人です」


 最初は紗弥との約束を守る為に、自分は幸せにならなくちゃいけない――と、ただそれだけを考えて生きていた。

 だけどこの世界に転生して八年、随分と大切なモノが増えてしまった。その大切なモノを失えば、俺は幸せになんてなれない。


「……ようするに護る為の力が欲しいと? お前を跡継ぎにしろとでも言うつもりか?」

「いいえ、その逆です」

「……どういう意味だ?」

「キャロラインさんが俺を警戒しているのは、兄の地位を脅かすかも知れないからでしょう? 俺はグランシェス家の地位に興味が無いと、そう言いに来たんです」

「つまり、後を継がないと明言する代わりに、ある程度の自由を保障して欲しいと?」

「ええ。それと、アリスの身の安全も保証して下さい。それが護られるのなら、俺の方は書面にしたって構いません」


 本当はミリィも復帰させて欲しいし、クレアねぇの政略結婚もなんとかして欲しい。でも欲張ると、キャロラインさんは聞き入れてくれないだろう。

 だから今は、本当に切羽詰まっている最低限だけを護る。


「……ふむ。まぁそれくらいなら可能だろう。しかし意外だな。お前はもう少し野心的な性格だと思っていたぞ」

「幸せな人生を送るのに、過分な地位は必要ありませんから。ただ、大切な人達と一緒に居られれば充分です。…………本当は、そこに父上達が加わってくれれば言う事はないんですけどね」

 ぽつりと付け加える。その瞬間、父の顔が驚きに染まった。


「お前は……わしを恨んでいないのか?」

「恨んでない――とは言えません。でも、なんだかんだ言って家族ですから」

「家族だから、許すと?」

「出来れば判り合いたいとは思ってますよ。それにキャロラインさんには同情する部分もありますから」

「ふっ、言ってくれるではないか」

「父上の主義にまで口を出すつもりはありませんけどね。それと兄上は……さすがにアリスに対する仕打ちは許せませんけど、それでも出来れば争いたくはないですね」

「お前は……懐が深いな。流石はミリィが育てただけの事はある」

 感慨深そうに呟く。父の姿が何処か寂しげに見えた。


「……一つだけ、聞いてもよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「父上は、ミリィをどう思っていたんですか?」

 俺が尋ねた瞬間、父は目を見開いた。

「お前は、ミリィが母親だと知っていたのか? ……いや、長い間二人でいたのだ。聞かされていて当然か?」

「いいえ、本人からは最後まで聞かされませんでした。俺が知ったのはミリィが解雇された後です」

「そう、か……そう言えば、あいつは律儀な性格だったな」

 昔を懐かしんでいるのだろう? 父は思いをはせるように窓の外へと視線を向けた。


「……ミリィをどう思っていたか、と言う質問だったな」

「ええ。父上はミリィを……」

「むろん、愛していたさ。いや、今でも愛している」

 父の言葉に俺は少し驚く。さっきの様子から、憎からず思っていたとは予想していたけど、そこまでストレートな答えが返ってくるとは予想してなかった。

「……だったらどうして。ミリィが故郷に帰されるのを止めなかったのは何故です?」

「それは……キャロに対して罪悪感があったからだ」

「そう、ですか……」

 父の正妻はキャロラインさんであり、ミリィはあくまで妾でしかない。だからキャロラインさんに罪悪感を抱いたからと言われてしまえばなにも言えない。


「……わしとキャロは幼馴染みでな。昔からずっと仲が良かった。そんな縁もあって、わしらは結婚することになったんだ」

「そうだったんですか。それじゃ二人は好きあって結ばれたんですね」

「……いや、わしらは互いを兄妹の様に思ってはいても、恋愛対象とは見ていなかった。しかも、キャロには愛すべき相手がいたのだ。だがお前も知っての通り、貴族の子供に相手を選ぶ権利はないのが普通だ」

「……政略結婚」

「その通りだ。少しでも仲の良い相手をとの親心だったのかも知れぬが……互いに望まぬ婚姻だったのは間違いない。だが、だからといって断れるはずもなく、わしらは支え合って生きていくことを誓った。事実、わしとキャロは実際に支え合って生きてきた」

「父上がミリィと出会うまでは――ですね」

「そうだ。キャロに愛すべき男と別れさせておきながら、わしはミリィに惹かれてしまった。わしは結局、キャロを愛することが出来なかったのだ」

「そう、ですか。では、ミリィを遠ざけたのは……」

「ミリィを側に置いておきたいという思いは今でもある。だが、愛せなかったとは言え、キャロが大切な存在であることに変わりはない。だからこれ以上、キャロを傷つけるようなマネはしたくない。判ってくれとは言わんが、な」

「そうですか……」


 ……結局、みんな貴族の決まりに翻弄された被害者なんだな。

 今はまだ無理かも知れないけど……いつかは父やキャロラインさん。それにブレイクとも解りあえたら良いなって思う。

 ……いや、ブレイクに関しては、あのまま解りあうのは無理だけどな。見捨てるんじゃなくて、あの性根をたたき直すのが家族としての役割な気がしないでもない。


「わしからも一つ聞いて良いだろうか?」

「……なんですか?」

「ミリィは、わしを恨んでいただろうか?」

「俺はミリィが自分の母親だって知りませんでした。でも一度だって、ミリィから父の悪口を聞いたことはありませんよ」

「そう、か……」

 その時に父が抱いたのは、罪悪感か後悔か。それとも安堵だったのだろうか? その顔に浮かんだ表情は複雑で、俺には読み取ることが出来なかった。

 

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