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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第五章 想いを伝えるために

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エピソード 4ー2 根回し

 王城に入るためには関係者の協力だ――ってな訳で、俺はドジっ娘がお仕事をしている現場を訪ねた。

 到着した馬車に向かって一心不乱に精霊魔術を――なんて現場を想像したのだけど、リズは待機部屋の足湯に浸かりながら、チョコレートパフェを幸せそうに食していた。

 そのかたわらには、メイド服を着たマリーが付き添っている。

 監視役を兼ねて俺の専属だった頃は無口だったけど……リズといるときのマリーは結構楽しそうだ。中々良い組み合わせなのかもしれない。

「リズ様、紅茶のお代わりはいかがですか?」

「もちろん、頂きますわ。……はふぅ、幸せですわぁ~」

 言葉どおり幸せそうなオーラを醸し出している。仕事中だと聞いていたのだけど……


「もしかして暇なのか?」

「ふえ? ……リ、リオンお兄さ――まっ!?」

 驚いたリズが急に立ち上がろうとして、机に太ももをぶつけて悶絶する。

「……………だ、大丈夫か?」

「な、なんのことですか? わたくしは太ももをテーブルにぶつけたりなんて、~~~っ、してません、ですわよ!?」

「……そか」

 いや、もうなにも言うまい。取り敢えず、悶絶するリズの側にあるパフェが心配だと思っていたら、マリーが無言で避難させていた。


「そ、それで、お兄様はどうされたんですか?」

「リズに話があってきたんだけど……今は大丈夫なのか?」

「ええ。今は休憩中ですわよ。わたくしの精霊魔術は連続して使えないので」

「あぁ……」

 そういえば、半刻に一度くらいしか使えないって言ってたな。今は倍くらい使えるようになってるはずだけど……どっちにしても思ったよりノンビリした感じだ。

 アカネからどれだけの報酬をもらってるのかは知らないけど……四半刻に一回、積み荷の山に冷却系の精霊魔術を使うだけの簡単なお仕事です、見たいな感じなのかな。


「それで、わたくしになにか用事なのですか?」

「あぁそうだった。実はリズにお願いがあってさ」

「リオンお兄様がわたくしにお願い、ですか? あ、よろしければ足湯にどうぞ」

「それじゃ……お言葉に甘えて」

 俺はリズの向かいの席に。素足を晒して、そっと足湯へとつける。リズにあわせて調整されているのか、屋敷のより少しお湯の温度が高い気がする。

「ふふっ、リオンお兄様と混浴ですわね」

 リズのお茶目に、ミシリと言うバックコーラスが入る。見れば、マリーが木製のトレイを無言で握りしめていた。

 この人……まだ俺に対しては風当たりが強いのな。なんて、俺のやってることを考えたら、これが普通の反応かもしれないけどさ。

 それはともかく――と俺は咳払いを一つ。リズにクレアねぇがお見合いをしに王都に行ってしまったことを話した。


「…………リオンお兄様はなにを言ってるんですか? クレアお姉様に限って、そんなことあるはずないじゃないですか」

「ノエル姫殿下の仲介で、クレアねぇが受けたって話なんだ」

「……ますます信じられませんわ」

「それは……ノエル姫殿下が、そんなことをするはずがないって意味か?」

「ええ。ちょっと変わった趣味はお持ちですけどね。ノエルお姉様は同じ女性として、クレアお姉様を心から敬愛してますから。強引にお見合をさせるなんて、ありえませんわ」

「うぅん。俺はノエル姫殿下と会ったことがないからなんとも言えないけど、クレアねぇが王都に向かったのは事実なんだ」

「それはそうですが……」

 少し困ったような表情。少なくともリズにとってはありえない事態なのだろう。俺はノエル姫殿下を知らないからなんともいえないけど……うぅん。


「だとしたら、俺達の知らない事情があるのかもしれない」

「わたくしたちの知らない事情、ですの?」

「例えば、ノエル姫殿下の背後に誰かいる、とか」

「背後に、ですか? でも、ノエルお姉様に命令出来る人なんて……お父様かお母様くらいしかいませんわよ?」

「まあ根拠はない、あくまで可能性の話だよ」

 可能性で言えば、ノエル姫殿下のはかりごとである可能性の方が高いはずだ。だからまぁ、今のはリズに対する方便だ。

 実際のところ、誰がマスターマインド――つまりは黒幕だろうと、俺のやることは変わらない。クレアねぇを連れ帰るだけだからな。


「ともかく、事情は話した通りだ。それでクレアねぇを迎えに行くのに、穏便に王城に入りたい。だから、リズの力を貸して欲しいんだ」

 普段ならアルベルト殿下に会いに来ました――とかで入城出来るはずだ。

 けど、ノエル姫殿下が邪魔をするつもりなら、俺が入城出来ないように手を回されている可能性は高い。だから、王女であるリズの同行が必要なのだ。


「事情は分かりました」

「じゃあ、着いてきてくれるか?」

「いえ……わたくしとしても協力はしたいのですが、まずはアカネさんに許可を頂きませんと。今のわたくしは、アカネさんに雇われている身ですから」

「――話は聞かせてもらったわ」

 バーンと待合室の扉が開き、アカネが姿を現した。


「さぁ、にーさん、うちに言いたいことがあるやろ? 良いから言ってみ?」

「ふむ。じゃあお言葉に甘えて……アカネ、盗み聞きは良くないぞ?」

「――ちょっ!? 固いことは言いっこなしやろ。人がせっかくタイミングを計って入ってきたのに台無しやん」

「タイミングまで計ってたのかよ。尚更アウトやん」

 ……おっと、アカネのなまりが移ってしまった。

「まーたしかにその通りやけど、なんやにーさん。今日はちょっと冷たないか?」

「いやぁ……これから頼み事をするわけだし。弱みは握っておいた方が良いかなぁって」

「弱みは握られたけど、友好度は下がったで?」

 紅い瞳を怪しく光らせたアカネに、にやりと笑われてしまった。どうやらアカネの方が一枚上手らしい。俺は降参とばかりに両手を挙げる。


「しょうがない。正攻法で頼むよ。リズを十日ほど貸して欲しいんだけど……どうしたら貸してくれるかな?」

「そうやねぇ。リズちゃんを必要とせぇへん流通はまだ完成してないから、リズちゃんがおらへんあいだの損害をグランシェス家が補填してくれるならかまへんよ」

 それを聞いて安堵する。

 今ではかなり大きくなったアカネの商会。それの十日分の利益と言えばかなりの金額だけど、リズを雇っている以上は当然と言えば当然の主張だ。

 だから俺は二つ返事で了承しようとする。だけどそれより一瞬だけ早く、アカネは『と言いたいところやけど』と続けた。


「うちが出す条件を二つ飲んでくれるのなら、損害の補填は必要あらへんよ?」

「ふむ……その条件って言うのは?」

「一つ目は、今日一杯は通常どおりに精霊魔術を行使する言うことやね」

 クレアねぇを連れ戻しに行くのなら、それなりの準備が必要だ。どのみち出発は明日を予定しているので、なんの問題もない。一つ目の条件は飲めると答えておく。


「そしたら、二つ目のお願いや。実はリゼルヘイムにレールを敷く許可が下りへんみたいでね。可能なら、許可を取ってきて欲しいんよ」

「……ええっと。それは言われるまでもないんだけど……?」

 アカネ商会の協力を得ているとは言え、レールを敷くのはあくまでうちの担当だ。アカネにせっつかれることはあっても、わざわざ頼まれることではない。


「そうか。なら条件は以上や。リズちゃんを、十日ほど好きにしてええよ」

「それは助かるけど……え? 条件って、それだけなのか?」

 クレアねぇのお見合いを断る以上、レールの設置は許可が取れない可能性もある。けどアカネが言ったのは、‘可能なら’だ。

 もちろん、出来れば許可を取るつもりだけど、もし取れなくても問題がないと言うこと。そもそもそれはうちの問題だから、交換条件になっていない。

 なのにアカネは、その通りだと答えた。アカネ的に考えて、損益の補填をして貰った方が断然お得だろう。それなのに、こんな条件を出してくるなんて……


「もしかして、損得抜きで、俺に協力してくれるつもりなのか?」

「ハズレや。うちは商人やからね。損得抜きで行動したりせぇへんよ」

「だったら――」

「にーさん達との付き合いは、金貨には変えられへん価値がある、言うことやね」

 俺の言葉を遮り、アカネがにやりと言い放った。

 付き合いという意味でなら、お金で取引してくれるだけで十分だ。それなに、わざわざここまでする。……格好、つけすぎである。


「分かった。そう言うことなら、さっきの二つを条件にリズを借りるよ。それから……さっきは悪かった、ごめん」

 アカネには情で訴えるのではなく、損得で交渉するべきだと思ってしまった。けど、アカネは俺のために無理を通してくれた。俺はアカネのことを見誤っていたらしい。

「さっきも言った通り、貸しを作るのが結果的に有益やと思っただけやから、気にせんといて。と言うか、報酬の二重取り(、、、、、、、)はうちの主義やないしね」

「……ん、どういう意味だ?」

 アカネが気になることを呟いたので聞き返す。けれどアカネは「なんでもあらへんよ」と誤魔化してしまった。


「いやいや、そんなので誤魔化されないからな? 二重取りってどういう意味だ?」

「それは……つまりやな。リズちゃんを貸すのは、にーさんだけやのうて、ねーさんに対する貸しにもなるやろ? その上、お金までもらったら報酬の二重取りになるって意味やよ」

「ふむ……」

 なんとなく引っかかるけど、これ以上問い詰めてもアカネはボロを出さないだろう。なので俺は、そっかと頷いておいた。


 なんにしても、これで王城へ入るための鍵が手に入った。

 そして、今のグランシェス家の力があれば、王家にだって対抗できる。たとえ相手が誰だろうと、お見合いを破談にするのは難しくない。

 クレアねぇだって、俺が説得すれば分かってくれるだろう。

 王城に入る段取りがついた時点で、問題は解決したと言っても過言じゃない。アルベルト殿下を初めとした多くの味方がいる以上、もはや問題は起きない――と、俺は安堵した。

 その考えが既に間違っているなんて、想像もしないで。

 

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