エピソード 3ー5 アヤシ村
異世界姉妹、12月28日、本日発売です!
――翌朝。俺達はカイルさん達に見送られ、レジック村を出発した。そうして向かうのは、街道沿いのどこかでおこなわれている、レール設置の作業現場。
という訳で、俺達は街道をミューレの街方向に戻っていく。そうして一刻ほど過ぎた頃、レール設置の作業を進めるカリーナ達を見つけた。
俺はみんなに少し待っててくれといって馬車を降り、カリーナの元へと向かう。カリーナは相変わらず、タンクトップに短パン姿で現場指揮をしていた。
「――カリーナ」
「誰だい、あたいを呼ぶのは――って、リオン様じゃないか。こんなところまで来て、なにか用事なのかい?」
「少し聞き込みにな。なんでも、レールを盗まれたって?」
「そうなんだよっ。せっかくあたい達が精魂込めて敷いたレールだって言うのに、許せないだろ! もしかして、犯人を捕まえに来てくれたのかい?」
「そのつもりだよ。それで、犯人を見たりはしてないか?」
「いや、それが……既に敷き終わった場所のレールを、夜のうちに盗まれた見たいでね。ここにレールを届けてくれた連中に言われて気付いたんだよ。役に立てなくてすまないね」
「いや、気にしないでくれ」
その辺の報告は既にクレアねぇやアカネから受けている。今のは単なる確認だ。だから俺は、本命の質問をする。
「レールの件と関係あるか判らないんだけど、実は交易馬車も行方不明になってるんだ。情報によると、この道を通ったはずなんだけど……見かけてないか?」
「馬車、ねぇ……あたい達は作業に集中してるから、向こうから声をかけてきた場合なら覚えてるけど……どんな奴だい?」
「馬車はアカネ商会の特別製で、御者をしてた商人は――」
俺はアカネから聞いた、最近行方不明になった馬車や商人の特徴を伝える。
「ん~アカネ商会の馬車なら毎日見てるけど、その御者が乗っていた馬車が通ったかどうかは分からないねぇ。誰か、見た記憶のある奴はいるかい?」
カリーナが他の作業員に聞いてくれるけれど、望んだ情報は得られなかった。
もしかしたらって思ったんだけど……ダメか。こうなったら宿場町をしらみつぶしで聞き込みをするか、もしくは商隊に偽装して囮になるか……
「――リオン、有益な情報は聞けそう?」
いつの間にかアリスが隣にやって来た。俺達のやりとりから芳しくないと察し、話を聞くために馬車から降りてきたのだろう。
「盗賊の目撃情報はなくて、行方不明になった馬車がここを通ったかも不明だ」
「そっか……それじゃあ、宿場町の評判については聞いた?」
「……聞いてないけど?」
なんで――とアリスを見ると、なぜか呆れるような目で見られた。
「カイルさんが、なんか評判の悪い宿場町があるって言ってたでしょ」
「あぁ、そういやそうだったな」
「――評判の悪い宿場町の噂なら、あたいも聞いたことがあるよ」
俺達のやりとりを聞いていたカリーナが割って入ってくる。
「その話、詳しい話を聞かせてくれるか?」
「ああ、構わないよ。たしか……うちらに声をかけてきた商隊のおっちゃんが、それはもう態度が悪かったって愚痴ってたよ。少し前までそんなことなかったのに――ってさ」
「ふむふむ。カイルさんが言ってたのもその村っぽいな。村の名前は分かるか?」
「名前? 名前は……うぅん、あたいが話してたときは言ってなかったと思うよ。誰か、聞いたやつはいるかい?」
カリーナが再び周りの連中に問いかけてくれるけど、やはりみんなは首を横に振った。
これはダメかなと思ったんだけど、少し離れた位置で作業していた青年が「俺も似たような話を聞いたが、その親父はアヤシ村とか言ってたぜ」と口にした。
「――アヤシ村だって!?」
なにそのいかにも怪しげな名前は――なんて俺が思うのと同時、カリーナが声を荒げた。
「カリーナはアヤシ村を知ってるのか?」
「知ってるもなにも、その村はあたいの故郷だよ。……って、おいおい。それじゃあの商隊のおっちゃんが悪口を言ってたのは、あたいの故郷の話だって言うのかい?」
「ええっと……まあそうなる、かな?」
それ以外は考えられないのだけど、カリーナの故郷と聞いて言葉を濁す。
「冗談じゃないよ。村のみんなは旅人をもてなすのに誇りを持ているんだ。評判が悪いなんて、なにかの間違いだよ!」
「その言葉を疑う訳じゃないけど……商隊の人が言ってたのは事実なんだろ? 代替わりしたとか、方針が変わったとかじゃないのか?」
「そんなのありえないよ。あたいがミューレ学園に通いたいって言ったときも、みんなが協力してくれた。村のみんなは本当に良いやつばっかりなんだ」
「そうか……」
少なくとも、カリーナの言葉に嘘はないだろう。だけど、商人が嘘を吐く理由もない。
「リオン様、お願いだよ。アヤシ村の様子を見てきてくれないか?」
「様子を、か?」
「本当はあたいが行きたいけど……この仕事をほっぽり出すことは出来ない。職人としてもそうだけど、この仕事を受けたのは、アヤシ村のみんなに恩返しをしたかったからなんだ」
「あぁ……鉄道馬車の開通が、アヤシ村の発展に繋がるからか」
「そうだよ。だからあたいは、この仕事を必ず成功させなくちゃいけない」
「だから、代わりに俺に見てきて欲しいって?」
「勝手なお願いなのは分かってる。だけど、どうかお願いだよ」
カリーナは深々と頭を下げる。それだけ、故郷のことを大切に思っているのだろう。
俺はそんなカリーナの頼みを聞いてあげたいと思った。
それに、今のところ盗賊を探す当てもない。宿場町で聞き込みをするのもありだろう。そう思って「引き受けるよ」と答えた。
「え? ほ、本当に見てきてくれるのかい?」
「その代わりと言っちゃなんだけど、旅人から盗賊の噂を集めておいてくれないか?」
「そのくらいなら喜んで。それじゃ申し訳ないけど、よろしく頼んだよ」
そんな訳で、俺達はアヤシ村の様子を見に行くことに。相変わらず元気なカリーナ達に見送られ、俺達は再び馬車の旅を再開する。
馬車の心地よい振動に揺られていると、ソフィアが寄り掛かってきた。
「ねぇねぇリオンお兄ちゃん、アヤシ村まではどのくらいかかるの?」
「ええっと……簡易地図を見る限りだと、一刻くらいじゃないかな」
アヤシ村があるのは、ミューレの街とリゼルヘイムの中間地点より少し手前くらい。ぎりぎりグランシェス領に所属する村である。
ちなみに、俺の答えがあやふやなのは、地図があやふやだからだ。測量は後回しにしている技術なので、この世界の地図は正確性に欠けているのだ。街道沿いにある村だから良いけど、そうじゃなかったら探すのが大変なところだった。
「……少し急いだ方が良いかもしれないね」
「ん? なにかあるのか?」
口調から不穏な空気を感じ取って視線を向ける。ソフィアは俺に乗り掛かるように身を乗り出し、窓から空を見上げていた。
「空がどうか……うぐっ」
いつの間にやら、雨雲が出てきている。せっかく旅立つときは晴れてたのに……また雨が続いたりするんだろうか? 馬車には屋根があるけど、気分が滅入るから止めて欲しい。なんて思いながら、少しだけ馬車を急がせることにした。
そうして一刻足らず、アヤシ村とおぼしき村が見えてくる。
「ねぇねぇリオンお兄ちゃん、あれがアヤシ村?」
「たぶんな。でも評判が悪いって言ってた割りには……出迎えっぽいのがいるな」
俺は窓から村の入り口の方を見る。そこには、出迎えとおぼしき村人が二人、俺達が到着するのを待っていた。
俺は御者に声をかけて、村人の前で止まってもらう。そうして開け放った窓から顔を出し、村人へと声をかける。
「すまない、ここはアヤシ村であっているか?」
「ええ、ここは仰る通りアヤシ村でございやす。それで、貴方様は? その馬車の紋章はグランシェス伯爵家のモノに見えるんですが?」
「ああ。俺はグランシェス家の当主。リオン・グランシェスだ。最近付近を騒がせてる事件の調査に立ち寄った」
俺がそう言った瞬間、村人二人が顔を見合わせる。
「……どうかしたのか?」
「あぁいえ、御当主様がこんな村にお越しになるとは思ってもなかったので、すいやせん。村長のところにご案内させて頂ければよろしいですか?」
「そうだな、それで頼む」
「かしこまりやした。あっしが先行して案内しますのでついてきてくだせぇ」
言うが早いか、村人の一人が馬車を先導しようと、小走りに走り始める。その後に続くように、馬車も出発したのだけど――ソフィアに袖を強く引かれた。
「……ソフィア?」
どうしたのかと振り返ると、ソフィアは今まで見たこともないような険しい表情を浮かべていた。そうして呟くのは、
「いまのおじさん、人を殺してる。それもたくさん。馬車を襲ったのは……あの人達だよ」
――致命的な一言だった。
そんな訳で、異世界姉妹が本日発売となりました。
……いや、アリスやソフィアやクレアねぇは売ってないですよ? むしろ売ってたら緋色が買います。
あれこれご挨拶なんかは活動報告にあげると思うので、ここでは少しだけ。
異世界姉妹はいろいろな方のおかげで出版することが出来ました。なろうで押し上げてくださったみなさんがいなければ、異世界姉妹が出版されることはなかったと思います。
ありがとうございます。これからも楽しんで頂けたら幸いです。
次話は三十一日、今年の最後に投稿いたします。
なお新年は一日に、お正月のショートをあげようかなと思ってます。そっちはたぶん活動報告にあげると思います。なにかシチュエーションとかリクエストがあれば、書くかも……?(すみません、お約束は出来ません
それでは大晦日に。






