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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第五章 想いを伝えるために

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エピソード 3ー4 リアナ達の想い

 その日の夜、レジック村では宴が催されていた。

 名目は、俺達に対する感謝の気持ちを――と言う話だけど……

「うははははっ、宴だ、宴! 皆の者、飲むが良い!」

 豪快に騒いでいるカイルさんを見るぶんに……俺の訪問を口実に、騒ぎたかっただけなんじゃなかろうか? なんというか、凄いはしゃぎっぷりである。

 ちなみに、アリスとソフィアの二人は、今日は疲れたから早く寝るとか言って、早々に避難してしまった。裏切り者め。


「お代わりはいかがですか?」

 不意にとっくりが差し出される。いつの間にか俺の向かいに、三十代後半くらいの女性が座っていた。

「――いりませんか?」

「……なら、少しだけ」

 手元にあったおちょこについでもらう。そのお酒はいわゆる日本酒。アリスが色々と研究して広めたモノのようだ。

 ちなみに俺はまだ十六歳だけど、この世界の成人は十二歳。成人すればお酒は飲んでも良いことになっているのだ。

 そもそも前世の身体とは成長速度が違うからな。十六になった今なら、健康的な面でも問題はないだろう。


「うちの主人が、申し訳ありません」

「……主人? あぁ、もしかしてカイルさんの奥さんかな?」

「ええ。それに、娘がいつもお世話になっています、リオン様。貴方がどれだけうちの娘に親切にしてくれているかは、リアナ本人から聞きました。ありがとうございます」

「リアナはいつも頑張ってくれてるから。正当な対価を渡してるだけだよ」

「本当にありがとうございます。そして主人のこと、重ねて謝罪いたします」

「いや、別に気にしてないけど……なにか理由があるのか?」

「それは……」

 奥さんがなにやら言いよどむ。それを見てやはりなにかあるのだと確信した。

「良ければ話してくれ。領民の不安を取り除くのも、俺の仕事のうちだから」

 俺はそう提案すると、奥さんは少し迷うような仕草を見せた。けれど最終的には、俺の言葉を信じることにしたのだろう。実はと口を開く。


「大したことではないのですが……宿場町として廃れるとの知らせを受けて以来、村の者が不安がっていまして。主人が何度も大丈夫だと皆を説得していたんですが……それでだいぶストレスを溜めていたようなんです」

「……なるほどね」

 考えてみたら、カイルさんはミューレの町に来たことがあるから、俺の人柄もある程度は知ってるけど、他の人間はそうじゃない。自分達の将来について、先ほどカイルさんが抱いていた以上の不安を抱えていても無理はないだろう。

 ちゃんと安心してもらえるように、他の村にも説明係を送った方がよさそうだ。なんて考えていたのだけど、黙り込んだのは怒ったからだと思ったのだろう。奥さんが不安げに続ける。


「あ、あの。もちろん、リオン様を疑っていた訳ではありません。ただ、分からないことも多くて、今後どうなるんだろうと、その……」

「心配しなくても大丈夫だ。と言うか、不安がらせて申し訳ない」

 俺は奥さんに向かって軽く頭を下げた。

「や、止めてください。リオン様が謝るようなことではありません」

「いや、さっきも言ったけど、みんなの不安を取り除くのも俺の仕事だ。だからいまここで、約束する。グランシェス領に住む民は誰一人、不幸になんてさせない。グランシェス伯爵の名に懸けて、みんなを幸せにしてみせるよ」


 ――気が付けば、宴会場が静まりかえっていた。皆の視線が俺に集まっている。

 僅かな沈黙。

「リオン様に、かんぱーいっ!」

 誰かがそんな声を上げる。それに続いて、歓声が上がった。どうやら、途中から話を聞かれていたらしい。狙った訳じゃないので、ちょっと恥ずかしい。


「……ありがとうございます。本当に、娘が言っていた通りの方なんですね」

「リアナがなんて言ってたのか、少し気になるな」

「ふふっ、それは良ければ娘本人から聞いて下さい」

「そうだな。そうするよ」

 なんて、聞いたら真っ赤になって慌てるのは目に見えているから聞かないけどな。


「――リオン様、飲んでいますか!?」

「お、おう。飲んでますよ?」

「ではもっと飲んで下さい! 俺は、俺達はリオン様のお言葉に感動しました!」

 突然割って入ってきたのはカイルさんと、その後ろに連なる村の住民達。

 どうやら、断る訳にはいかないらしい。明日大丈夫かな……なんて思いつつ、少しだけと言っておちょこを差し出した。



 周囲が酔いつぶれて屍累々となり始めた頃、俺は宴会場を抜け出した。

 俺が酔いつぶれていないのはお酒に強い――訳ではなく、このままじゃまずいと思い、途中からお酒に含まれるアルコールを精霊魔術で飛ばして飲んでいたからだ。

 さすがに酔いつぶれて醜態をさらす訳にはいかないからな。


 そんな訳でやって来たのは家の裏手。そこで酔いを醒まそうと、俺は獣よけの柵に身を預けて空を見上げる。そうしてぼーっとしていると、人の気配が近づいてきた。

 一瞬だけ警戒心を抱くけど、視界に写ったのは青みがかった髪。リアナだと気付いて緊張を解いた。

「リアナも逃げてきたのか?」

「ええっと……まあ、そんな感じです」

「そっか。こんなところでよければ、隣が空いてるぞ」

「じゃあ……お言葉に甘えますね」

 微笑みを一つ、リアナが俺の隣りに並ぶ。それから俺をマネするように空を見上げ始めた。


「……ねぇ、リオン様。明日からどうするつもりですか?」

「うん? あぁ調査の件な。取り敢えずは……そうだな。付近の村で聞き込みかな」

「この付近で馬車が行方不明になってるんですよね? どうやって調べたんですか?」

「どうやって……って?」

 質問の意味が分からなくて首をかしげる。

「乗務員ごと行方不明なんですよね? 聞き込む相手がいなくないですか?」

「あぁ……それな。行方不明になった馬車は中継点で馬を交換はしてるんだけど、宿場町に立ち寄った形跡がないんだ」

「なるほど。それでそのあいだで行方不明になったと分かったんですね」

「そういうこと」

 そしてそれが、ここからリゼルヘイム方向に少し向かった周辺になる。


「でも、村を襲ってるならともかく、街道に出没してるんですよね? 村で聞き込みをしても無駄じゃないですか?」

「そうなんだけど、他に宛てがある訳でもないからな。もう少し、場所を絞り込めれば良いんだけど……」

「ええっと……レールの設置作業をしてる人達に聞くのはどうですか? 街道で野営地を設置しながら、リゼルヘイムの方へと進んでいるんですよね?」

「あぁそういえば……レールも盗まれたんだったな。今どの辺だろ」

「この付近にはまだレールが敷かれていなかったと思います」

「そうすると……もう少し手前か?」


 多くの作業員を雇い、魔術師も同行させている。レールは現在、かなりのハイペースで設置している。とは言え、ミューレの街からレールを敷き始めてまだ二ヶ月足らず。

 さすがにこのあたりには届いていないらしい。けど、街道でずっと作業をしている彼等なら、なにか情報を掴んでいるかもしれない。聞いてみる価値はあるだろう。


「ありがとう、リアナ。明日は一度戻って、作業員に話を聞いてみよう」

「はい、お役に立てて嬉しいです」

 言葉どおり嬉しそうなリアナ。こっちが感謝しなきゃいけないのに、そんな風に喜ばれるとなんかむず痒い。俺はそんな内心を誤魔化すように話を変えることにした。


「……そういや、家族との再会は楽しめたか?」

「はい。妹に羨ましいって言われちゃいました。そんなに素敵な環境なら、私が行きたかったよーって」

「ははっ、リアナがどんな風に話したのか気になるな。ミューレでの生活は楽しいことばっかりじゃなかっただろ?」

 小さい頃からみっちり教育を受け、早いうちから教師として働き始めた。遊びたい盛りの子供としては、必ずしも幸せな生活とは言えないはずだ。


「ミューレの街ほど幸せな環境なんて、他にありませんよ?」

「そうか?」

「そうですよ。生徒の中には貴族の子供もいらっしゃいますが、実家より寮の方が環境が良いって言ってますよ?」

 ……そういや、グランシェス旧お屋敷より、学生寮の方がずっと環境がよかったもんな。伯爵家のお屋敷でもそうなんだから、子爵とか男爵の子供ならそう思っても無理はないか。


「まあ……その妹が望むなら、将来ミューレ学園に入学させてあげたらどうだ?」

「……良いんですか?」

「別に断る理由はないな。なんなら学費も免除して良いけど……」

「いえ、そこまで甘える訳にはいきません」

「そういうと思った」

 俺が支払ったら、卒業したらうちで働く流れになるだろうし、将来を自由に選ぶという意味では、リアナが支払った方が良いだろう。

 それにリアナなら、妹の学費くらい余裕で支払える。なんと言っても、ミューレ学園の教師という重要な人材だからな。働きに見合った報酬を得ているはずだ。


「……リオン様に支払ってもらったら、ライバルが増えるじゃないですか」

 リアナがぽつりと呟いた。その声は小さくて、俺の耳には届かない――なんてことはなく、ばっちりと聞こえた。

「……一応言っておくが、俺はシスターズに加えるために、妹を入学させろって言ってる訳じゃないからな?」

「分かってますよ。けど、リオン様はそうやって善意の無意識で、女の子の心を奪っていくんです。酷いです」

「いや、そんな断言されても……」

 今日はやけに絡んでくる。なんて思っていたら、

「私の心も、そうやって奪われたんだから間違いないです」

 リアナは決定的なセリフを口にした。


「……リアナ、もしかして酔ってるのか?」

「酔ってないですよ。さっきからずっと、普通に会話してたじゃないですか。と言うか、一世一代の告白なのに、そうやって逃げないで下さい」

 バレたか、とはさすがに口にしない。けど、逃げようとしたのも事実だ。出来れば、傷つけるような言葉は告げたくなかったから。

 けど……これ以上誤魔化すのは、逆に傷つける結果になるかもしれない。


「俺は……本当はたった一人だけを選ぶつもりだったんだ。付き合うって言うのは、大切な人を選んで、その人だけを見ることだと思ってるから」

 おもむろに口を開く。そんな俺の言葉を聞きながら、リアナはなにも言わない。だから俺は、静かな口調で話を続ける。


「結果的には、俺は一人を選ぶことが出来なかった。アリスとソフィアを選び、そうしてもう一人加えることになるかもしれない。けど、それは……リアナじゃない」

 だから、リアナが想いを寄せてくれていたとしても、その気持ちには答えられない――と、俺は自分の思いを口にした。たとえそれでリアナを傷つけるとしても、ケジメとして言わなきゃいけないことだと思ったから。

 だけど、それでも、自分を慕ってくれているリアナを傷つけるのは辛い。

 そう思って、リアナの顔を盗み見る。――が、リアナは少しも揺らいでいない。アメジストのような瞳は強い意志を秘め、真っ直ぐに俺を見据えていた。


「リオン様がアリスさんやソフィアちゃん。それにクレア様を特別に思っていることは知っています。だけど……だけどね、リオン様。リオン様は、恋人が出来たら、他の女友達との縁を切るタイプなんですか?」

「……え? いや……そんなことはないけど」

 えっと……どういう意味だ?

 いや、今の言葉の意味自体は分かる。けどこの状況で、そんな質問を口にする。リアナの言う心を奪われたというのは……恩人として慕っているという意味なのか?

 もしかしなくても、すっごい恥ずかしい勘違いをしてた……?


「ええっと……すまん、リアナ。俺が誤解してたみたいだ」

「いえ、分かってくれれば良いんです。私は別にリオン様と結婚したいなんて思ってません。私はただ――リオン様のお妾さんになりたいだけですから」

「そっか。それなら…………うん? お妾さん?」

「はい。お妾さん、です。あの三人に割っては入れないのは分かっていますから。私としては寵愛を少しでも受けられれば十分なんです」

 なんか……想像以上に直球だな。そして、なんだかいつかのクレアねぇと重なる。

 ここまで慕われて悪い気はしない。むしろ嬉しいとすら思う。

 けど、俺はアリスとソフィアとクレアねぇを選んだ。その意思を曲げるつもりはない。それをうやむやにして、リアナ達を中途半端に期待させるのは望まない。


「……リアナ。気持ちは嬉しいけど、俺はハーレムを作るつもりはないよ」

 再び、傷つける覚悟を持って、そのことを口にする。

 だけどと言うべきか、それでもと言うべきか、リアナは俺から目をそらさなかった。

「私は、それでも構いません」

「……それは、嘘だろ?」

 決して報われぬ恋なんて、苦しいだけだろう。

 希望もないのに待ち続ける。少なくとも俺なら耐えられない。

「嘘なんかじゃありません。もちろんリオン様に好きになってもらえれば嬉しいですけど……今の私はリオン様のために頑張れるのが嬉しいんです。だから、良いんです」

「それは……」

 好きな人のために役に立つ、それだけで良い――と、リアナは言っているのだ。そんな風に言われたら、傷つくだけだからやめておけなんて言えなくなってしまう。


「ちなみに、シスターズの総意ですよ?」

「………………シスターズって?」

「アリスさんとソフィアちゃん、それにクレア様を抜いた全員です。いつか機会があれば、私達の気持ちをリオン様に伝えようって、話し合いで決めてたんです」

「………マジでか?」

「はい、マジです」

 マジなのかぁ。……いや、シスターズの面々が、特にリアナやティナなんかは、とっくに子供がいてもおかしくない年齢で、むちゃくちゃモテるのにいつまで経っても結婚しないから、なんとなくは察してたけど……そこまでの覚悟だったとは。


「そこまで慕って貰うような心当たり……ないんだけどな?」

「リオン様になくても、私達にはあるんですよ」

「……例えば?」

「私を……私達を救っておいて、心当たりがないって言っちゃうような優しいところです」

 ……ホントに評価が高い。リアナは絶対俺を買いかぶりすぎだと思う。

 想いに答えて欲しいと言われたら、それは無理だと答えるつもりだった。けど、ただ慕っていると、俺のために頑張りたいと、そう言われてダメだなんて……言えるはずがない。


「分かった。リアナ達の望みは、あくまで俺に仕えること。そう言うのなら、俺はもうなにも言わない。これまでどおり俺に仕えてくれ」

「はい、喜んで!」

 ……とは言ったものの、俺を慕っているが故に、見返りも求めずに頑張ってくれている。それを知ってなお、ただ働いてもらうだけ――なんて、俺に出来るんだろうか?

 な~んか、いつものごとく、泥沼にはまってる気がするなぁ。


 

 活動報告とツイッターで報告しましたが、なにやらとらのあなの特典が、ソフィアのイラストカードと記載されています。(24日くらいに更新されました)

 非常に申し訳ないのですが、このあたりについて緋色は聞かされていません。なので恐縮ですが、目的の特典を確実に入手したい場合はお店で確認頂きますよう、お願い申し上げます。


 次話は本来なら29日予定ですが、発売日にあわせて28日に更新いたします。なお年末年始はちょっと未定です。

 と言うか、早売りとかだと今日あたりからお店にならんだりするんですかね。ドキドキします。

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