エピソード 3ー3 困ったときのアリスチートPart2
そんな訳で、みんなでぞろぞろとやってきたのは植林予定地。そこは森の外れにある、赤茶色の土が露出した草原だった。
森のそばで植林を始め、やがては森を伐採しつつ、そちらにも植林していく計画だ。
予定している立地条件を満たしている場所だけど……と、しゃがみ込んで、露出している赤茶色の小石を一つ摘んでみる。他の石に叩き付けると、それは簡単に砕けた。
「この赤茶色の土って、もしかして?」
「たぶん、ボーキサイトだね」
横で覗き込んでいたアリスが答えた。
「ボーキサイトってことは、アルミニウムが作れる……のか?」
「原料ではあるけどね。ボーキサイトって取りやすいけど、精製するのが凄く難しいんだよ」
「それは……鉄よりも?」
「鉄よりも、だよ。前世の世界だと、十九世紀くらいまで加工出来なかったんじゃないかな。たしか登場初期は、金よりも高価だったはずだよ」
「マジか……」
金より高価って相当だよな。でも考えてみれば、軽くて錆びにくい金属だから、加工が難しければ高くてもしょうがないか。
「……なんとか加工出来ないかな?」
「なんとなくは精製方法も知ってるし、絶対に無理とは言わないよ。ただ、最終的には電気分解させる必要があるはずなんだよね。つまり……」
「電気が必要なのか。それは……魔術でなんとかならないかな?」
「黒魔術にしても精霊魔術にしても、持続時間が皆無だからねぇ。リズちゃんならなんとかなると思うけど……」
「あんまり拘束しまくるのもなぁ。かといって、発電機を作る訳にはいかないし……」
アルミニウムは特性の違う金属というだけだから、精製さえ出来るのなら使ってもそこまで困ったことにはならないと思う。けど……発電機はさすがにオーパーツ過ぎる。
ミューレの街で作って、各地に売るという手もあるけど……それをしたらうちが儲かりすぎて困る気がする。
ボーキサイトと聞いた瞬間、アルミニウムで船を! とか思ったけど、なんか厄介な資源を見つけてしまった気がする。どうしたモノか……
「二人とも、そんなに唸ってどうかしたんですか?」
リアナが隣にしゃがみ込み、俺のマネをするように石を持ち上げる。そして、石をよく見ようとしたのか、自分の目先に――
「あ、気を付けろよ。その粉はなにげに毒だから」
「ふえぇっ!?」
リアナが驚いたように石を捨てて――逃げるのかと思ったら、俺が手に持ってる石を取り上げて、遠くに放り投げた。
「リオン様、それにアリスさんも立って下さいっ。ソフィアちゃん、それにお父さんも。すぐにこの場を離れて!」
慌てるリアナと、戸惑うカイルさん。ちなみアリスやソフィアは慌てていない。アリスは事情を理解していて、ソフィアは俺の心を読んでいるからだろう。
「中々に迅速な判断だな。教師をしてると、そう言う気配りとかが身につくのか?」
「なに暢気に言ってるんですか!」
「いや、脅かしたようで悪い。そこまで危険じゃないから大丈夫だぞ」
「そう、なんですか?」
「ああ。この粉を吸い続けると危ないけどな。ここで毎日作業を続けたりしなきゃ平気だよ」
俺の記憶が正しければ、吸い込み続けて肺に蓄積すると。だいたいは四年くらいで死亡するはずだ。でも逆に言えば、一日くらいで死に至るようなものでもない。
「リオン様、それはつまり、この場は植林に適していないという意味でしょうか?」
話を聞いていたカイルさんが訪ね来る。
「そうだな。この場に植林するのは良くないと思う」
「そう、ですか……」
宿場町として立ちゆかなくなり、植林をおこなうことでうちから報酬が出るという話だった。それがなくなるかもと思って不安なんだろう。その表情は暗い。
……うぅむ。しかたない、か。
「心配せずとも、仕事はなくならないよ。むしろ、多くなったくらいだ」
「……どういう意味でしょう?」
「この赤茶色の小石は、鉱石の一種なんだ」
「鉱石? 地表に露出しているこれが、ですか?」
「ああ。ボーキサイトと言って、安易に採取出来る代わりに、精製が非常に難しい――と言うか、現状では不可能な鉱石だ」
「……不可能? では何故、リオン様はそのことをご存じなんですか?」
「それは……ハイエルフである彼女が持つ知識だからだ」
俺のセリフを聞いたアリスが、瞳を偽装する髪飾りを取り払う。そうしてあらわになったオッドアイを見て、カイルさんは感嘆の声を上げる。
「ハイエルフ……アリスティア様の噂は聞いていましたが、本当だったんですね」
「そういうことだ」
あまりおおっぴらにする話ではないんだけど……今の反応で分かる通り、アリスの正体は知られつつある。そうでなくてもアリスブランドの創設者という理由で重要人扱いだから、無理に隠す理由がなくなってきた。
という訳で、アリスのおかげという方向で誤魔化しておく。
「話を戻すぞ。このボーキサイトは貴重な資源なんだけど、十年前くらいの鉄鉱石と同じく、現時点では意味のない資源でもあるんだ。だから普通なら放置なんだけど……」
鉄鉱石は一気に需要が加速して、供給不足に陥っている。その反省を生かして、今のうちに採掘を始めても問題はないだろう。幸いなことに資金はあまってるからな。
「取り敢えず、どのくらい埋蔵量があるか調査してみよう。それで、量が多いのなら、この村に採掘場を作ることにしよう」
「……よろしいのですか?」
「――リオン様、もしかして私に気を使っていませんか?」
普通なら放置だと言ったからだろう。カイルさんは困惑した様子で、リアナに至っては不安そうに尋ねきた。
「リアナに気を使ってないって言えば嘘になるけど、それがメインの理由じゃないから心配するな。それより俺としては、この話を受けるかどうか、カイルさんによく考えて欲しい」
「どういうことでしょう? 私としては渡りに船と言うほかにない状況なのですが?」
「いや、さっきも言ったけど、ボーキサイトの粉塵を吸うのは危険なんだ。もちろん可能な限りの対策はするけど……早死にする人が出てくるかもしれない」
考えられる対策は、防塵マスクを作ること。けど、あのフィルターは単に布を重ねれば良いってモノじゃないはずだ。
空気を通し、けれど塵だけを確実に遮断する。そう言った素材が必要なのだ。
「――って、なんだよ?」
横にいたアリスにツンツンと突かれて視線を向ける。
「今、防塵マスクの作り方を考えてたでしょ?」
「そうだけど……アリスには心当たりがあるのか?」
「大丈夫。既に似たようなものを開発済みだから」
桜色の髪を自慢げに揺らす。そんなアリスが指差すのは……自らの豊かな胸。最近また少し大きくなった気がする。
「……ええっと?」
「一応言っておくけど、私が差してるのは服だからね?」
「服? それが……あぁっ、そうか!」
アリスブランドの最高級品は、紋様魔術が刻まれている。そしてその効果に、一定値を超える紫外線のカットと、気温の調整がある。
つまりは――
「アリスなら、防塵の効果がある紋様魔術を作れるってことだな?」
「たぶん可能だと思うよ。考え得る欠点は、魔力素子変換器不全の人がいた場合、紋様魔術が発動していないのに気付かない可能性があることくらいかな」
「その辺は対策も織り込んでおこう」
その程度の問題であれば、小さな光を発する紋様魔術などを併用して、紋様魔術が起動しているかどうか確認出来るようにすればなんとかなるだろう。
「防塵の紋様魔術はアリスに作ってもらうとして……それまで作業はストップだな」
俺がそんな結論を口にすると、カイルさんが難しそうな表情を浮かべた。そんな彼の心境を察して、俺は大丈夫ですよと続ける。
「もちろん、そのあいだも生活出来るだけの支援は約束する。その代わり、なにか仕事を頼むかもしれないけどな」
この付近にあるボーキサイトの埋蔵量が豊富なら、本格的に採掘する設備がいる。取り扱いに注意がいる鉱物だし、保存場所の建設も必要になるだろう。
専門作業はともかくとして、材木の伐採や運搬作業員は必要になるはずだ。植林がしばらくストップしても、お仕事に困ることはないだろう。
――とまぁそう言った話をすると、カイルさんはようやく安堵のため息をついた。
「なにはともあれ、まずは調査だな。そのために必要な作業員とかを後日派遣するよ。それまでは、英気を養っててくれ」
「なにからなにまでありがとうございます。……それで、リオン様。ささやかながら、歓待の宴を準備しております。よろしければお受け頂けませんでしょうか?」
「そう、だな……」
今すぐ出発しても、盗賊達が出没しているであろう地域の宿場町までいくのは難しい。
それに、リアナとカイルさんが話す時間を取ってあげるって約束したからな。と言うことで、今日はこの村に一泊。明日の朝出発することにした。
このサブタイトル、前も使った気がします。
(サブタイトルに)困ったときのアリスチートって感じですかね(ぉぃ
ところで、おかげさまでSS特典のある通販サイトは売り切れつつあるっぽいです。(また特典付きが入荷するかどうかは不明です)
異世界姉妹自体が売りきれとか夢みたいな話はないと思いますが、一部店舗の購入特典であるショート『アリスの手記』が欲しいという方は、予約して頂いた方が良いかもしれません。
その方が、緋色的にも嬉しいです(本音
ちなみに、緋色は購入特典が欲しかったので予約しました。某オンラインショップの特典付き異世界姉妹の在庫にとどめを刺したのは緋色です(ぉぃ
違うんです。見本誌はもらったけど、購入特典はもらえなかったんです。自分の本の購入特典SSとか欲しいじゃないですかっ! ……ごめんなさい。
*特典付き店舗については、活動報告の方をご覧ください。
次話は26日を予定しています。






