俺の異世界姉妹が自重しないショート 『クレアの備忘録』
俺の異世界姉妹が自重しない! 一巻、無事に情報公開の許可を頂きました。
という訳で、今回はみなさんへの感謝の気持ちを込めて書いた、ショートショートです。
なお、クレア視点で、一章の頃のお話となっております。
あたしが七歳になってから二ヶ月ほど過ぎた夏のある日。部屋であたしがお勉強をしていると、お母様が珍しく訪ねてきた。
そして――
「……お母様、いまなんと言ったんですか?」
なんの前置きもなく告げられた言葉に、あたしは頭が真っ白になった。聞き間違いであることを願うけど、お母様は無情にも同じ言葉を繰り返す。
「お見合の相手が決まりました」――と。
「……待って、待って下さい! あたしはまだ七歳なんですよ?」
成人として扱われ、結婚が出来るようになるのは十二歳。貴族社会において、十二歳になると同時に政略結婚をさせられるのは良くあることだ。
だから、あたしだっていつかはそんな日が来るんだろうって理解はしていた。だけど、あたしはまだ七歳。いきなりそんなことを言われても、覚悟なんて出来ていない。
そんな風にごねてみても、お母様は聞き入れてくれなかった。
「ぎりぎりになってから慌てる訳にはいかないでしょう? 結婚は十二歳からでも、婚約はもう出来るのだから、今から相手を探した方が貴方のためなのよ」
「ですが、お母様!」
思わず声を荒げる。そんなあたしを見て、お母様は哀れむような表情を浮かべた。
「……クレア。貴方の気持ちが分からないとは言いません。でも、これは既に決まったことなんです。受け入れなさい」
「お母様……」
「とにかく、日程は追ってミシェルに伝えておきます」
お母様は伝えるべきことを伝えると、そのまま部屋を退出してしまった。そうして、あたしは独り、自分の部屋に取り残されてしまう。
貴族の娘として生まれた以上、政略結婚は仕方のないことなのかもしれない。少なくともあたしは、そんな風に聞かされて育ってきた。
だけど、やっぱり、急にそんな風に言われても受け入れられなくて……あたしは思わず泣いてしまいそうになる。そのとき、不意に扉がノックされた。
「……誰?」
「ミシェルです、クレアお嬢様。失礼いたします」
まだ許可を出してもいないと言うのに、ミシェルは部屋に入ってくる。
どうしてと思ったのは一瞬。
「様子を見てくるように言付かったのですが、なにかあったのですか?」
その言葉で全てを理解する。お母様があたしを気づかってミシェルを呼んだのだ。
それが嬉しくないと言えば嘘になる。お母様なりにあたしを気づかってくれているんだって分かるから。だけど……あたしはミシェルに泣いているところなんて見せたくない。
「……なんでもないわ」
「そうは見えません。なにかあるのなら、私に話して下さい」
ミシェルがあたしに触れようとする。そんなことをされたら、あたしは間違いなく泣いてしまう。だから、あたしはその手を振り払った。
「……クレア様?」
「なんでもないから放っておいて!」
柄にもなく声を荒げ、あたしはその場から逃げ出した。
「はぁ……はぁ――あうっ」
屋敷を飛びだし、中庭の向こうへと逃げ込む。
そうして全力で走り続けたあたしは疲労で足を取られて転んでしまった。慌てて起き上がろうとしたけど、体が言うことを聞いてくれない。
あたしは思わず泣き出してしまった。
どこかが痛かったわけじゃない。あたしは結局のところかごの鳥で、一人では屋敷の外に出ることすらままならない。それを理解してしまったからだ。
どれくらい泣いていただろう?
「どうして泣いてるの?」
「――だれっ!?」
不意に響いた男の子の声を聞き、あたしは反射的に顔を跳ね上げた。そうして視界飛び込んできたのは――女の子と見まごうほどに可愛らしい男の子。
あたしは一瞬、お見合の相手なのかしら? なんて思った。もしこんな優しそうな男の子がお見合の相手なら――とも期待する。
だけどそれはありえない。お母様は日程は追って伝えると言っていたから。
「……貴方は誰? どうしてこんなところにいるの?」
あたしは不審に思って尋ねる。そうして交わしたやりとりはとても不思議なモノだった。
あたしより小さな男の子なのに、あたしが知らないことを一杯知っていて、ちょっぴりイジワルだけど凄く優しい。本当に不思議な男の子。あたしはすぐにその男の子に興味を抱いた。
だけど――
「俺はリオンって言うんだ」
男の子から名前を聞き出したあたしは言いようのない衝撃を受けた。その名前はお母様から散々聞かされて知っている。あたしとは母が違う弟。
野蛮で性格の悪い子供だから、決して仲良くしてはいけないと聞かされていた。だからあたしは思わず、「貴方とは仲良くしちゃいけないって言われてるの」と口にしてしまう。
でも本当は、聞かされていた印象と全然違うし、優しくもしてくれたから。あたしは貴方と仲良くなりたい――って、そう続けるつもりだった。
だけど――遠くからあたしを探すミシェルの声が響き、
「それじゃ俺はもう行くよ」
弟くんは見つかるのが嫌だったのか、逃げるように立ち去ってしまった。
「――クレアお嬢様、探しましたよ。って、そのハンカチはどうしたんですか?」
「……さっき転んじゃったから、手当てしてもらったの」
「手当って……ただ布を巻けば良いというモノじゃないんですよ?」
「うん。放っておいたら雑菌が入って炎症がどうのって言ってたわね。でも、綺麗な水で洗い流せば大丈夫とも言ってたわ」
「……雑菌に炎症、ですか?」
「やっぱりミシェルも知らないのね?」
あたしの育ての親のような存在で、教育係でもあるミシェル。今まで聞いたことがなかったからもしかしてと思っていたけど、やっぱり普通の人は知らない話らしい。
あたしはますます弟くんに興味を抱く。
「お嬢様に手当をしたというのは一体どなたなんですか?」
「……ねぇミシェル? 貴方はあたしの味方よね?」
ミシェルの問いには答えず、こちらから質問を重ねた。
弟くんは自分のことを秘密にして欲しいと言った。その理由には心当たりがある。ミシェルが弟くんのコトを黙っておいてくれるか、たしかめる必要があった。
果たして、ミシェルは「もちろんです」と頷いてくれた。
「それじゃ、今から言うことは誰にも言わないと約束して」
「分かりました。決して口外はいたしません」
「約束よ。あたしの足を手当てしてくれたのは弟くんなの」
「……弟くん? それは――まさかっ!」
「そう。お父様がメイドに産ませた子供よ」
「その方と係わってはいけません、クレアお嬢様! もしキャロライン奥様に知られたら大変なことに――」
あたしは横に首を振ることで、ミシェルの言葉を遮った。
「分かってるわ、ミシェル。でもね、あたしはその上で言ってるの。あたしは遠くない未来、政治の道具として、望まぬ結婚をさせられるわ」
「お嬢様、もしかして……」
「お母様にお見合の話をされたわ。もちろん、仕方のないことだって分かってるわよ? でもね。だからこそ、それまでは出来ることをしたいのよ」
どこかの家に嫁げば、今まで以上に自由を奪われるのは分かりきっている。だから、あたしの最初で最後のお願いだから協力してとミシェルに懇願する。
「お嬢様は……リオン様に恋をなされたのですか?」
「恋って……ミシェルはなにを言ってるのよ? 相手はあたしの弟くん。半分とは言え、血の繋がった相手なのよ?」
「あら、お嬢様は知らないんですか? 最近は姉弟で結婚するのが流行りなんですよ」
「え、嘘でしょ?」
「いいえ、本当ですよ。だからなんの問題もありません」
「そう、なんだ……」
姉弟でも恋愛対象になり得る。そう聞かされた瞬間、胸がとくんと高鳴るのを感じた。
ちなみにそんな事実はなく、あたしに一度くらいは恋を体験させてあげようと考えたミシェルの出任せだったのだけど……あたしがそれを知るのは心から弟くんに恋をした後だった。
以上、クレア視点のショートでした。
なお、宣伝用に書いたソフィア視点のショートも読むことが出来ます。ショートを読む方法と書籍化情報については、活動報告に書いてありますので、そちらをご覧ください。
表紙とラフも載ってますよ!
本編の次話は予定どおり17日となっております。






