エピソード 2ー8 転換期
俺達はトレバーの案内で採掘場へ。ギリアムと合流し、俺とアリスとソフィア、それにトレバーとギリアムの五人で坑道の中へ。
坑道が問題なく掘れていて、崩落の危険がないか。そしてトロッコのレールがちゃんと敷けているかを確認していく。
「うん。空気もちゃんと流れてるし、落盤とかも……大丈夫そうだな。アリスはどう思う?」
「そうだねぇ……今のところは大丈夫だよ」
「そっか」
落盤の予兆などは、目に見えるモノばかりじゃない。けど、アリスは精霊魔術で温泉すら掘り当てるぶっ壊れ性能だからな。こういう時は非常に頼りになる。
「でも、今後も絶対に安全というレベルには程遠いね」
「ふむ。やっぱりいきなりという訳にはいかないか……」
俺達が持つのは、にわか知識のみ。経験による裏付けがなければ、万が一を消し去ることは出来ないと言うこと。
やっぱり、安全を確保するまでは、重犯罪人とかに働いてもらうしかないんだろうか? うぅん、悩ましいなぁ。そもそも犯罪奴隷が少なくなってるって言うのが話の発端だし。
はてさてどうしたモノか……と、今は考えてもらちが明きそうにない。取り敢えずは出来ることから終わらせていこう。
「落盤対策は引き続き考えるとして、後はトロッコのレールだけど……って、おぉい。聞いてるのか?」
トレバーが上の空なのに気付いて尋ねる。
「え? すまない師匠。なにか言ったか?」
「いや、さっきから視察内容についてコメントしてたんだけど」
「お、おぉ、そうだったのか、すまない」
「別に良いけど……どうかしたのか? 調子が悪いのなら、無理しなくて良いぞ?」
メイソンさんにはトレバーが必要だ――なんて言ったけど、実際にはギリアムなんかも同行しているので、不調なら無理に連れ回す必要はない。
「心配掛けてすまない。ただ少し、父の言葉が気になってな」
「……ん? なにか言われたのか?」
「ああ。屋敷を出るときに、お前の働きを見させてもらう――ってさ。そんなことを言われたのは初めてだから、少し驚いたんだ」
なるほどね――と、俺はアリスやソフィアと顔を見合わせる。どうやら、アリスの犠牲は無駄ではなかったらしい。
メイソンさん、最初にあったときは嫌な貴族の典型なのかなとか思ったけど、意外に融通が利くようだ。アリスが数百歳だと思っているのも、理由の一つだろうけどな。
取りあえず、メイソンさんとのやりとりを話して、トレバーに恩を売るつもりはない。と言うか、可愛い女の子ならともかく、トレバーに感謝されてもしょうがないしな。
「なんて表面上は考えてるけど、本当は対等な友人でいたいからって理由なんだよね」
「……そうやって人の内心を暴くの止めてくれませんかねぇ」
コッソリ耳打ちしてくるソフィアに、思わずため息をつく。トレバーに俺の心の内が知られることはないと思うけど、恥ずかしいから勘弁して欲しい。
「師匠、なんの話をしてるんだ?」
「いやなんでもない。それより、なにか知りたいこととかはないか?」
「俺は特にないけど……ギリアムはなにかあるか?」
少し考えた後、トレバーはギリアムに尋ねた。
「ではトロッコについて聞かせてくれ。このレールの上を走らせるというアイディアは画期的だ! 今はこのように小さなモノだが、大型化が可能になれば、その恩恵は計り知れん」
「あぁ……実は、うちでは既に、大型化したレールを設置中だよ」
「なんと。いや、しかし、どうやって動かすのだ?」
「鉄道馬車――つまり、馬車をレールの上に載っけるんだ」
「おぉぉ、その手があったか!」
凄い興奮のしようである。坑道の中でこんなに大声を出して、崩落は大丈夫だろうか? まあ、アリスがいるから大丈夫か。
「出来れば、その鉄道馬車とやらの技術は、わしにも教えて欲しいところじゃが……さすがに、そういう訳にはいかんだろうな」
「いや、構わないよ。テストが終わったら技術の提供はするつもりだからさ」
「おお、本当か!? さすがはリオンじゃな!」
ばしばしと背中を叩かれるけど、悪い気はしない。ごつくて精悍な見た目だけど、かなり人懐っこい性格のようだ。気付けばすっかり意気投合してしまった。
「それで、本当にもう問題はないか? 今度はいつ視察に来るか分からないから、なにかあれば今のうちに聞いてくれよ?」
「そうだな……ああ。そう言えば一つだけ。洞窟の中では平衡感覚が乱れるようでな。レールを敷く際に、水平を取るのに苦労しているのだ。なにか良い案はないか?」
「あぁ……水平器がないんだっけ」
「水平器……とはなんだ?」
「水平器は文字通り水平を図るための道具だよ。いくつか簡単に作る方法があるけど……そうだな。後で作り方をメモして渡すよ」
「おぉ、それは助かる。それがあるなら、色々な分野で役に立ちそうだ」
「立ちそうじゃなくて、間違いなくたつぞ」
なにしろ、前世の世界で実証されているからな――とは声に出さずに笑う。
「くくっ、言うではないか。さすがはグランシェス家の当主と言ったところか。まったく、どこからそれだけの知識が出てくるのやら……」
そう言ってギリアムさんが見たのはアリスの横顔だった。
それがどういう意味かを考え――すぐに理解した。グランシェス家が技術革命を起こした秘密の一つとして、エルフの持つ古代技術が関わっているという偽情報がある。
クレインさんにはバレてたけど、ギリアムさんはそれを信じているのだろう。
別に誤解されたままでも困らない。……いや、俺が表舞台に立つためには否定しておいた方が良いのか? なんて思っていると、俺達の視線に気付いたアリスが小首をかしげる。
「……どうかしたの?」
「いやなに、どうやってそのような知識を身につけたのかと思ってな。やはり、嬢ちゃんが関わっておるのか?」
おぉう。さすがギリアムさん、直球ど真ん中で切り込んだな。
「ん~そうだねぇ。小さい頃に私が教えたこともあるけど……基本的にはリオン自身の知識だよ。私は、どっちかって言うと手伝っただけかな」
「ほう、そうなのか?」
「うん。リオンは本当に優秀だよ。技術革命に、内政のあれこれ。一般ではクレアが全て仕切ってることになってるけど、その中心にいるのは間違いなくリオンだよ」
なにこのべた褒め。怖いんですけど――っ!?
……って、そうか。俺が表舞台に立つって言ったから、俺の評判が広まるように持ち上げてくれてるのか、納得した。そして、お世辞だと分かってちょっと寂しい。
――なにはともあれ、そんな感じで二度目の視察はつつがなく終わり、グランシェス領へと帰還する運びとなった。
鉄道馬車のレール設置作業も順調だし、俺の知名度は少しずつ広がっている。今すぐは無理だけど、鉄道馬車が全国に設置される頃には、お飾り当主なんて言われなくなるだろう。
そうしたら、その時こそクレアねぇに告白しよう。今までずっと待たせてしまった分、想いを込めて。クレアねぇに姉としてではなく、一人の女性として愛している、と。
「――って、リオンお兄ちゃんは思ってるみたい」
「だーかーらー、人の心を無闇に読むのは止めろ――っ!」
ミューレの街へ向かう馬車の中、俺の悲鳴がこだまする。
「えー別に良いじゃない。どうせリオンお兄ちゃん、ソフィア達に隠したりしないでしょ?」
「隠すつもりはないけどな。不意打ちで知られるのは恥ずかしいんだよ」
俺にだって、心の準備というモノは必要なのだ。……ここまで来て、クレアねぇに告白するのに、アリスやソフィアに気を使ったりはしないけどさ。純粋に恥ずかしい。
なんてことを考えながら、俺は馬車の窓から見える外の景色を眺める。空からは秋雨がシトシトと降り続いていた。ソフィアに内心を暴露された俺の心境を物語っているかのようだ。
「なにをしんみりしてるのさ」
「そうだよ、リオンお兄ちゃん。クレアお姉ちゃんのために、これからも頑張るんでしょ?」
「その気力を奪った二人に言われたくないぞ」
少し拗ねた口調で言い返す。けど、二人は笑わなかった。それどころか、二人は何処か嬉しそうな表情を浮かべている。
「私達は、リオンがクレアに想いを伝える決意をしてくれて嬉しいんだよ?」
「そう、なのか?」
アリスの言葉に問い返すと、アリスとソフィアの二人がこくこくと頷いた。どうやらアリスだけではなく、ソフィアもそんな風に思ってくれているらしい。
けど……
「二人はどうしてハーレムに対して寛容なんだ?」
以前から幾度となく問いかけていた質問をもう一度投げかける。
少なくとも俺は、好きな女の子が他の男となんて絶対に嫌だ。だから自分がされて嫌な思いを、好きな相手にさせる訳にはいかない。
そう思っているんだけど……何故か逆に推奨される始末。
自分がされて嫌なことは自分もしない。その考え方が間違ってるとは思わないけど……自分がされて嫌なことを相手が望んでいて、自分がされて嬉しいことを相手に嫌がられたら……どうするべきなんだろうなぁ。
――なんて、今更だけどな。それが正しいかどうかはともかく、答えは出ている。
とは言え、みんなの考え方が気になるのも事実。俺はどうしてだと重ねて問いかけた。
「そう、だねぇ……。リオンが伯爵だから世継ぎの問題とか、政略結婚に対する牽制とか、その方が面白そうだからとか、色々あるよ」
アリスが答えた。それは以前から聞いていたのと代わり映えのない答え。……一つだけおかしなのがあるけどな。それはともかく、アリスの言葉はそこで終わらなかった。
「――でもね。クレアについてはまったく別の理由だよ。私やソフィアちゃんが、クレアとリオンに結ばれて欲しいと思ってるのは、クレアが私達を繋いでくれたから、だよ」
「……繋いだ?」
「クレアがいなければ、私は他の誰かに買われていた。クレアの提案がなければ、ソフィアちゃんは義妹にはならなかった。クレアがいなければ……今の私達は存在していない」
「……なるほど」
正確に言えば、俺達の誰か一人が欠けていても、今の俺達は存在していない。そういう意味では、アリスの理論は間違っている。
けど……俺達を繋いでくれたという意味では、その通りかもしれない。俺自身、あの日クレアねぇと出会わなければ、いまとはまったく違う人生を送っていたはずだからな。
「ようするに、俺達は全員がクレアねぇを大好きってことだな」
「そういうこと。だからリオン。クレアにとびっきり素敵な告白をしてあげてね」
「素敵な……まあ頑張るよ」
「頑張るだけじゃダメだよ、リオンお兄ちゃん。ソフィアの時と同じくらい素敵な告白じゃないと、絶対にダメだからね?」
「お、おう」
アリスとソフィアに詰め寄られ、俺はちょっとたじたじである。なんだか、微妙にハードルを上げられた気がするし。
けど、それはある意味で望むところだ。告白だけならいつでも出来た。けど、今まで遅らせてきたのは、誰にも文句を言われないような結ばれ方をするため、だからな。
「そんでもって、私達全員をお嫁さんにしてね!」
「お、おう?」
お、お嫁さんかぁ。この世界、ハーレムというか重婚が認められているというか、禁止されていないので可能だけど、色々倫理的な問題が……って、今更だな。前世の妹に、義理の妹に、実の姉が相手な時点で、倫理もなにもあったものじゃない。
レールの設置作業も順調だ。屋敷に到着したら、クレアねぇへの告白を計画をしよう。そしてそれが終わったら、正式にみんなと――なんて思っていたのだけど……
「お帰り、弟くん」
到着した屋敷の前、雨の下で傘を差したクレアねぇが出迎えてくれた。
「ただいま、クレアねぇ。屋敷の外まで来て出迎えなんて、なにかあったのか?」
「実は、このあいだ言ってた盗賊が動いてるみたいなのよ」
「……なにか被害が出たのか?」
「ええ。行方不明の交易馬車が更に数台。それに――設置したレールが盗まれたわ」
次回は3ー1で十七日投稿予定ですが、明日『十五日の夕方』にショートショートを挟む予定です。ソフィアかクレア、それぞれの視点で描く短編ですが……おそらくクレアの方をアップします。
アップしなかった方も、ツイッターから見れるようにする予定です。そのあたり詳細は明日活動報告にて明記させて頂きます。
そして――
明日の更新にあわせて、活動報告にて異世界姉妹の表紙とラフをいくつか公開させて頂きます!
各詳細につきましては明日の活動報告にいたしますので、いましばらくお待ちください。






