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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第一章 自重しない異世界姉妹

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エピソード 2ー6 婚約者とのご対面

 スフィール家の中庭。俺とソフィアはテーブルを挟んで席に座っていた。

 暖かなそよ風が気持ちよくて、中庭でお茶会をするには最高の季節だと思うんだけど……ソフィアはさっきから口を利いてくれない。

 レジスに頼んで少し強引に連れ出して貰ったから、警戒されてるんだろう。


 ちなみに、気になっていたソフィアの容姿だけど――想像以上に可愛かった。

 金色に輝くゆるふわのセミロングに深く紅い瞳。小さい頃に天使のようだと評されていたのも納得の美少女だ。

 ただ、七歳という割りには少し大人びて見える。やっぱりこの世界の子供は、俺も含めて成長が早いと考えて間違いないだろう。


「お嬢様、せっかくリオン様が遠路からお越しになったのですから、何かお聞きしてみてはいかがですか?」

 ソフィア付きのメイドが話を振ってみるけれど、ソフィアに反応はない。そんな訳で、メイドさんはすっかり恐縮していた。

「すみません、リオン様。お嬢様はなにぶん人見知りなものですから」

「気にしてないから平気だよ」

 俺は不安げなメイドを安心させて、ソフィアへと視線を向ける。


「初めまして。俺はリオンって言うんだ。ねぇソフィア、良かったらキミの名前を教えてくれないかな?」

 目線を合わせてそんな風に問いかけると、ソフィアは不思議そうに俺の顔を見た。名前を知っているのに、どうして名前を聞くのかと疑問を抱いたのだろう。

 だけど、警戒心を抱いているソフィアは疑問を口に出来ない。

 だから、

「キミの口から聞きたいなって思ったんだ」

 植え付けた疑問に優しく答え、悪い人じゃないよと印象づける。ソフィアは一瞬驚いたような素振りを見せ、続いて微かに笑みを浮かべた。

「……ソフィアは、ソフィアだよ」

 ちょろい……って、小さな子の思考を誘導するとか、凄く非道な気がするなぁ。いやいや、誘導したのは事実だけど、俺がそれを悪用しなければ良いだけだ。

 ちゃんと誠意を持って、ソフィアと話してみよう。


「それじゃ、ソフィア。あま~いお菓子は好きかな?」

 誠意と言いつつ、甘いお菓子で釣ろうとする非道の図。……言い訳は出来ないなぁ。

「……甘いもの?」

「そうだよ、凄く甘くて美味しいお菓子」

 俺は近くで控えていたレジスに合図を送る。一呼吸置いて、机の上に紅茶とカスタードプディングが並べられた。

「……なんだか、不思議なお菓子だね」

「プリンって言うんだ。甘くて美味しいから、良かったら食べてみてよ」

「それじゃ、えっと……いただきます」

 ソフィアは恐る恐るといった感じで一口。その表情が驚きに染まった。

「ふわぁ……なにこれ、凄く甘くて美味しいよ?」

「良かった。気に入ってくれたみたいで嬉しいよ」

 さすがクレアねぇをも虜にした魔性のスィーツ。人見知りの激しいお姫様にも有効だったみたいだな。わざわざ作った甲斐があった。

「……こんなの、ソフィアは今まで食べたことない。これ、リオンさんが作ったの?」

「うん。さっき厨房を借りて作ったんだけど……良く判ったな」

「だって、そう言う感じがしたから」

「そう、なんだ……?」

 そういう感じって、どういう感じだ? もしかして匂いが染みこんでるとか? 否定は出来ないけど……野外のテーブルに向かい合わせで座ってて判るものなのか?


「――実は、ソフィアお嬢様は、感情を読み取る恩恵をお持ちなんです」

 戸惑っていると、レジスが注釈を入れてくれた。

 恩恵って確か、生まれ持った特殊な才能……だったよな。感情を読み取る恩恵って、相手の考えてる内容が判るってことか?

 もしかして、俺がなにを考えているか筒抜けなのか――と、驚いてソフィアの顔を見る。その瞬間、ソフィアと目が合った。

「なんとなくだけど、リオンさんがなにを考えてるか判るよ」

 マジか……ってつまり、さっきちょろいと考えてたのもバレてる? ……いやでも、そうすると警戒心を解いてくれた理由が説明出来ない。


 ……そういや、さっきレジスは感情を読み取れるって言ったな。

 と言うことは、だ。

 ソフィアと話す為に小細工をして罪悪感を抱いた。でも、純粋に話したいが為で騙すつもりはない――と、そんな風に考えた俺の感情が漠然と伝わる。

 その結果、ソフィアは俺が悪意を抱いてないと判断した――と、そんなところかな?

 ……なるほどね。物凄い能力ではあるけど、詳細まで判る訳じゃないっぽいし、こっちが悪意を持たなければ恐れる必要もなさそうだ。


「……リオンさんは、ソフィアが怖くないの? 不気味がったりしないの?」

「驚きはしたけどな。不気味がったりはしないよ」

「そう、なんだ……」

 不思議そうにしながらも、ソフィアに俺の言葉を疑う気配はない。恩恵の力で、俺の言葉に嘘がないと判るんだろうな。

「人と話すのが苦手だって聞いたけど、その恩恵が理由なのか?」

「……うん。ソフィアの恩恵を知った人は、大抵ソフィアを怖がるから」

「なるほどねぇ……」

 欲にまみれた大人はその能力を恐れ、無邪気な子供は未知の力を恐れる。

 ソフィアは貴族の――それも伯爵家の娘だからな。その立場を利用しようと近づいた大人がたくさん居たんだろう。そりゃ人間不信になっても仕方ないと言うモノだ。

 俺達と同じような苦労を背負う、紗弥と同じような雰囲気を纏う女の子。俺はなんだか無性に、ソフィアを護ってあげたくなった。


「恩恵を知って怖がる人なんて気にしなければ良いよ」

「……え?」

「ソフィアの恩恵を知っても怖がらない人だっているだろ? だったら、ソフィアを怖がる人なんて気にしないで、怖がらない人とだけ仲良くすれば良いんじゃないか?」

 もちろん、それは極論だ。ソフィアの恩恵を恐れる人の中にも善人はいるはずだし、後から変わる人だっていると思う。

 でも、そう言うのを考えるのは、もう少し大きくなってからでも良いと思う。


「……リオンさんは不思議だね」

「そうか?」

「うん。そんな風に言われたの初めてだよ。他の人はみんな、もっと仲良くする努力をしろって言うもん。それに、リオンさんの心は凄く暖かい感じがする」

「暖かいかぁ。ソフィアが妹に似てて、放っておけないって思ったからかもな」

「リオンさん、妹がいるの?」

 うくっ。油断してうっかり口を滑らした。

 って、俺が焦ってるの、ソフィアには丸わかりなんだよな。大丈夫かな……って、焦ってるのが判ったからって、俺に前世の記憶があるって結論にはならないか。


「妹がいたらソフィアみたいな感じかなって思ってたんだ」

「そう……なの?」

 疑問に思ってるんだろうな。ソフィアは俺の顔を覗き込んでくる。けど、俺に隠したいことはあっても、やましいことはないので、その視線を普通に受け止める。


「リオンさんはやっぱり不思議だね。……ねぇ、リオンさん。これからは、リオンお兄ちゃんって呼んでも良い?」

「え、良いけど……俺が妹みたいだって言ったからか?」

「なのかな? リオンさんを見てたら、なんとなく、そんな風に呼びたくなったの」

「……ソフィアがそう呼びたいのなら好きにして良いよ」

「うん! ありがとう、リオンお兄ちゃん!」


 そんな訳で、俺はソフィアと打ち解けるのに成功。あれこれと互いの話をしながら、お茶会を楽しんだ。

 改めて言うまでもない事だけど、俺の家庭内事情はかなり酷い。

 なのでお互いの話をする場合、普通ならあれこれ返答に窮するところなんだけど……ソフィアは相手の感情が判るからだろう。俺が少しでも話しづらいと思った話題は避けてくれるので、非常に話しやすかった。


「それじゃリオンお兄ちゃんは、そのクレアさんと仲が良いんだね」

「そうだなぁ。クレアねぇは掛け替えのない家族だよ」

「良いなぁ。リオンお兄ちゃんが羨ましいよ」

「ソフィアにもお兄さんが居たよな?」

「お兄ちゃんはいるけど、お姉ちゃんはいないから。それに、エリックお兄ちゃんは騎士団に入団してて、時々しか帰ってこないの」

「へぇ、騎士団に入団って事は、騎士を目指してるんだ?」

「そうだよぉ。エリックお兄ちゃんは凄く才能があるって、レジスが言ってた」

「……レジスが?」

 何故執事がと思ったら、以前はスフィール騎士団の団長を務めていたらしい。


「どうりで体格が良いと思ったよ」

「そう言うリオン様もかなり鍛えているご様子ですが」

「剣術はかじった程度だけどな」

 アリスは体術こそ心得があったモノの、剣術には手を付けていなかった。

 なので練習相手にはなって貰ってるけど、剣術と言うより二人で棒をぶつけ合うチャンバラごっこのような有様だったりする。


「ソフィアも剣術を習ってるんだよ?」

「へぇ、そうなんだ?」

 幼いソフィアが一生懸命剣を振り回す様子を想像して微笑ましく感じる。


 ――と、その時。屋敷の方からメイドが俺の元へと歩み寄ってきた。そして彼女は俺の側で耳打ちをする。

「リオン様。お帰りの準備が出来たようです」

「そっか、ありがとう。挨拶を済ませたら行くと伝えてくれ」

 言づてを頼んでメイドを見送る。するとソフィアが泣きそうな顔で俺を見ていた。

「……リオンお兄ちゃん、もう帰っちゃうの?」

「うん、ごめんな。そろそろここを出ないと、今日中に帰れないんだ」

「だったら今日は泊まって、明日帰ろうよぉ」

「それは……」

 俺は妾の子供で、あまり自由を許されていない。俺が一泊を望んだとしても、護衛の人達は許してくれないだろう。


「……ごめんなさい」

 唐突にソフィアが悲しげに呟いた。俺の感情を読んでしまったのだろう。

「俺の方こそごめん。泊まって欲しいって言われたのは嫌じゃないんだ。ただ、俺はどうしても今日中に帰らないといけないから」

「そう、なんだ……それじゃリオンお兄ちゃん、また遊びに来てくれる?」

「それはもちろん、約束する。また必ず遊びに来るよ」

「……判った。それじゃ待ってるからね、約束だよ?」

 こうして、俺はソフィアとの顔合わせを無事に終え、グランシェス領へと帰還した。

 だけど――


「リオン様! アリスさんがっ。アリスさんが連れ去られてしまいました!」

 離れに戻った俺を迎えたのは、マリーの切羽詰まったセリフだった。

 

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