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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第五章 想いを伝えるために

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エピソード 2ー2 困ったときのアリスチート

 鉄道馬車を造るにあたり、まずは馬車の改造とレールの製作を急ピッチで行った。そうして完成したレールは、さっそくリゼルヘイムへと続く街道に平行して敷く予定である。

 正直に言って、鉄道馬車でどれくらい効率アップできるかは分かっていない。

 だけど、ミューレの街からリゼルヘイムまで推定300km、馬車で二日ギリギリの距離なので、速度を上げても二日という時間は変わらない。移動速度を上げる必要性は少ない。

 なので、リゼルヘイムでは速度ではなく積載量のアップが目的。それなら、どの程度効率アップするかが完成後まで分からなくても問題ない。

 そして、どの程度速度が上がるかテストすることも出来る。実験データを取る場所的にも、リゼルヘイムとミューレをつなぐ街道は都合が良い。


 ――そんな訳で、鉄道馬車の計画を立ててから一ヶ月ほど経ったある日の朝。俺はレール設置の指揮をするため、ミューレの街外れへと向かった。

 そうして現地にたどり着くと、既にレール設置の作業員となる数十人が集合していた。彼らの一人が俺の姿に気付くと、声を掛け合って俺の前へと整列する。

「待たせたようだな。話は聞いていると思うが、俺が全体の指揮を取るリオン・グランシェスだ。みんな、よろしく頼む」

 みんなの顔を一通り眺め、軽く頭を下げる。体育会系のノリな返事が返ってくることを予想したんだけど、彼らは「よろしくお願いします」と頭を下げた。


「あ~、みんな。そんなに堅苦しく考えないで良いぞ。俺が伯爵だなんて思う必要はないから、普通に振る舞ってくれ」

 俺がそう言ってみるが、さすがにはい分かりましたとはいかないようでみんなは無言。

 だけど、

「……本当に、良いのかい?」

 やがて女性の声が届いた。その方向へ視線を向けると、茶髪の女性が立っていた。

 俺より少し年上くらいだろうか? 健康そうな小麦色の肌。タンクトップに短パンと言う服装で、手にはスパナのような工具を装備。

 技術屋なのか、お色気担当なのか、良く判らない恰好の姉ちゃんだ。

「キミは?」

「あたいはカリーナ。こいつらの代表だよ」

 代表と名乗った彼女は、彼らの中ではかなり若い部類だ。そんな彼女が代表だと聞いて少し意外だったんだけど「あたいはミューレ学園の卒業生なんだよ」と聞いて納得した。


「つまりはカリーナ、キミが現場監督って訳だな?」

「そんなところだね。それよりリオン様。普段どおり振る舞っても良いって言うのは、ホントなのかい?」

「ああ。二言はないよ。気を使う必要はないし、聞きたいことがあれば遠慮なく聞いてくれ」

「さすが、噂どおりだね。話が早くて助かるじゃないか」

 初対面のはずなんだけど、俺のことを知ってそうな口ぶりだな。ミューレ学園の卒業生って話だし、そっち経由かな? なんて思っていたら、どこからともなく舌打ちが一つ。内容までは聞き取れなかったけど、ぼそっとした声が聞こえた。

 小さな声で詳細は聞き取れなかったけど……たぶん、お飾り当主とでもいったのだろう。


「いましゃべった奴、名乗りでなっ!」

 カリーナが声を荒げる。僅かな沈黙、他の男達に視線を向けられ、若い兄ちゃんが不承不承といった感じでカリーナの前に立った。

「あんたはたしか……よその領地から流れてきたんだったね」

「んだよ。それがなんだって言うんだ? あんたらは実力が重要だって言ってただろ」

「文句はないさ。ただ、それなら知らなくても無理はないと思ってね。良いか、耳をかっぽじって良く聞きな。この街の技術の大半は、ここにいるリオン様が提案したモノだ」

「――なっ!? う、嘘だろ?」

 信じられないと他の仲間を見る。半数ほどは驚いているけど、残りの半数ほどは頷いている。それで事実だと思い知ったのだろう。男は呆然と俺を見た。


「……あんたが、あの建築技術を提供したって言うのか?」

「家の建築技術なら、一応は俺かな。ただ、大半を俺が提案したって言うのは、カリーナの買いかぶりだ。多く見積もっても半分には届かない」

 服飾はアリス、料理はアリスが教えて、ソフィアが新作を開発している。他の技術は俺とアリスが半々くらい。その半分だって、俺はおおざっぱな知識だけ。

 完成させたのは、各種技術屋達だからな。

 だけど、彼には十分だったようで「知らなかったとは言え、生意気言ってすみませんでしたーっ!」と、頭を下げた。こっちは体育会系である。


「すまないね、リオン様。これは事前に教えておかなかった、あたいの責任だ」

「いや、気にしてないから大丈夫だ」

 放っておくと大事になりそうな雰囲気を感じて遮る。そしてカリーナがなにかを言うより先に話を続けた。


「俺がお飾り当主とか噂されてるのは知ってるから、侮られるのは覚悟の上だ。それに今回は、その噂を払拭するために俺が指揮するんだ。だから、分かってくれたのなら十分だ。それでも悪いと思うのなら……働きで返してくれ」

「分かったよ。リオン様がそこまで言ってくれるなら、あたいも仕事で満足させてみせる」

「ああ、そうしてくれ。……と言うわけだから、あんたも気にする必要はないぞ」

 後半は、先ほどの男に向かって言い放つ。

「すまねぇ。俺もこの借りは働きで返させてもらう」


 ――とまぁ、そんな感じで彼らはあっさりと纏まってくれた。

 しかし、こんな簡単に理解を得られるなら、別に俺が主導で事業をおこなうまでもなかったんじゃないだろうか?

 ……いや、ここはグランシェス領だし、ミューレ学園の卒業生もいる。他の地域ではこうはいかないだろう。焦らず、油断せず、少しずつ実績を積み重ねていかないとな。

 なんてことを考えながら、彼らと共にレールを敷き始めることにした。


「まずは……街道に沿って平行に、三十センチほど掘り下げるか」

「レールを敷くために整地をするんだね。そう言うことなら、あたい達に任せてくれよ」

「いや、その必要はないよ」

 ――と、俺は魔力素子(マナ)を魔力へと変換、それと引き替えに精霊達にお願いをする。直後、俺の立っている位置から前方へ、ズドンと十数メートルが整地された。

「……は? え、ちょ、ちょっと待ってくれよ。今のは、その、なにをしたんだい?」

 しまった、どん引きされている。最近これくらい普通になりつつあったから意識してなかったけど、普通に考えれば異常だよなぁ。

「今のは……その、そう! アリスチートというヤツだ!」

「あぁ、今のがアリスチートなんだね、噂には聞いていたけど初めて見たよ!」

 うぅむ。納得されてしまった。後でアリスに怒られそうだ。とはいえ、アリスがいなければ、俺もこんな精霊魔術は使えなかった。なのでまぁ……間違ってはいないだろう。


「それじゃ、掘った溝に小石を敷き詰めてくれ」

「ああ。今度こそ、うちらに任せてもらうよ。みんな、聞いたね!」

「「「おうっ!」」」

 皆が一斉に用意していた小石をレール設置予定地に敷き始める。これはバラスト――ようするに馬車の衝撃を吸収する役割と、水はけを良くする役割がある。

 俺はみんなと一緒になって、小石を敷き詰めるのを手伝っていく。


「敷き詰め終わったら、次は枕木だ! レールが地面にめり込むのを防いだり、衝撃を吸収する役割があるから、下に隙間がないように注意してくれ!」

「「「お、おうっ!」」」

 小石を敷き終え、今度は枕木を設置する。俺も一緒になって手伝った。

 ちなみに枕木には、いま言った役割の他にも、レールの幅を固定するなどの役割もある。

 そんな枕木は、樫の木を使っている。身近にあって丈夫なのが選出理由だ。そして出来るだけ腐食しないようにするため、表面は火で炙ってある。

 本当はコールタールを蒸留して得られる液体を塗ると良いらしいんだけどな。原材料である石炭にはまだ着手していないので、今回は保留とした。

 魔術で補えるのを理由に、燃料などは後回しにしていた弊害と言えるかもしれない。なので、その辺は今後の課題だな。

 それはともかく――


「よーし、枕木を敷き終わったら、その上にレールを敷くぞ!」

「「「……お、おう」」」

 レール幅は普及している馬車に併せた。本当は出来るだけ広めにして、将来蒸気機関車を走らせられるようにとも考えたんだけど……これは別の理由から断念した。

 列車のレールは短くとも、一本が二十五メートルで、その重さは1500kgにも及ぶ。

 制作も輸送も、現状では不可能なのだ。なので、一本の長さを五メートル。一メートル単位の重さを半分とし、重さをおよそ150kgにまで抑えた。

 電車よりもずっと軽くて小さい馬車なら大丈夫だと思うけど、列車の走行に耐えられるレベルではないと判断したのだ。


 ちなみに、レールが短すぎると曲げるのが難しくなるんだけど、重さを半分――つまりは補足しているので、たぶんなんとかなるだろう。

 幸いにして、ミューレからリゼルヘイムの街道はほぼ一直線だしな。


 そんな訳で、短くて軽いレールなんだけど、それでも運搬が大変には変わりがない。

 けど……レールを運ぶのは、レールの敷き終わった先まで。つまりトロッコ的ななにかで運ぶことが出来るので、なんとかなるだろう。

 そんな風に考えならが、みんなと協力してレールを運ぶ。


「よし、レールを並べたら、幅に気を付けて枕木に固定だ」

「「「……お、う」」」

「そんでもって、最後は馬が歩きやすいように、バラストと枕木が隠れるように細かい砂利を敷き、その上に土を被せるぞ! ……って、みんなどうしたんだ?」

 気付けば、大半の作業員が息も絶え絶えになっている。そんな中、カリーナがなぜか、俺に呆れるような眼差しを向けていた。

「リオン様って、見かけによらずタフなんだね?」

「ん? あぁ……そうかもな」

 小さい頃は良くアリスとトレーニングをしていたし、今でも空いている時間には剣術や運動をするようにしている。エルザなんかには敵わないかも知れないけど、その辺の相手よりは体力があるつもりだ。


 ……というか、いつの間にか太陽の位置が結構変わっている。見た感じ、一刻くらいだろう。慣れない作業で、動き回っていたみんながバテても無理はない。

 しかし……一刻か。

 時間はあくまで日時計的な目測なので、正確な時間は不明だけど……いまのが二時間として、一連の作業で敷いたレールが縦に十二本。六十メートルなので、この調子だとリゼルヘイムまで敷き終わるのに……三年半ほどかかる計算だ。

 さすがに、クレアねぇをそんなには待たせられない。


 もっとも、慣れない作業で確認しながらだし、いまはまだ流れ作業になっていない。皆が作業に慣れて分担出来るようになれば、作業効率は上がる。それに手順を教えてしまえば、俺が介入する必要もなくなる。その上で作業員を増やせば、ペースは更に上がる。

 三年半も待たせることにはならないだろう。

 だから、いまは焦ってもしょうがない。みんなには、手順を確認する時間も必要だろう。と言うことで、俺はみんなに休憩を取らせることにした。

 そんでもって俺は、精霊魔術で整地を続けることにする。そうしてひたすら整地を続けていると、どこからともなくクレアねぇの声が聞こえてきた。


 

 2016/11/26

 リゼルヘイムまでの距離を400kmから300kmに変更しました。

 それに伴い、従来の馬車の移動速度は一日に80kmから60kmに変更。

 各種内政チート込みの移動距離は200>150kmに変更しました。


 次話は29日を予定しています

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