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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第五章 想いを伝えるために

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エピソード 1ー2 恋愛遺伝子

PC復旧……というか買い換えました。

今までは自作(といっても組んだだけ)を使っていたんですが、時期的にやばすぎて自分で修理する余裕がなかったです><

まだサルベージしたデータが散らばっていたりと作業が残っているんですが、とりあえず小説を書く環境は復旧しました。更新が滞らなくてよかったです。

今後ともよろしくお願いします!

 リズに前世の記憶について打ち明けた翌日。俺は執務室を訪れていた。リズの年越しコンサートの件や、仕事の報告などなど、クレアねぇに報告するためである。

 クレアねぇはシステムデスクの向こう側、革張りの椅子に腰掛けていた。銀色よりのプラチナブロンドが、窓辺から差し込む日の光を浴びて煌めいている。

 俺はそんなクレアねぇの視線の先。来客用のソファに腰掛けて雑務の報告を続ける。


「とまぁそんな訳で――」

「ええ、あたし達の婚約はいつにしましょうか?」

「……全然全くそんな話はしてなかったはずだけど?」

 ちゃんと俺の話を聞いていたのかとジロリ。クレアねぇは冗談よと笑った。

「弟くんの話はちゃんと聞いているわ。それで、先日の講習会はどうだったの?」

「なんとかなったけど……そろそろお役ご免かもなぁ」

 俺がミューレ学園の先生を対象におこなっている講習のことだ。

 最初は間違いなく、先生達にあれこれ教える講習会だったんだけどな。最近は先生達も知識が豊富になってきて、俺じゃ明確な答えを出せないような質問も増えてきている。

「複式簿記だっけ? あれは画期的だってティナが騒いでたわよ?」

「……正直、俺はさわりしか教えてなんだけどな」


 もっと良い帳簿のつけ方はないかと相談されたので、複式簿記というモノがあるらしい。俺はよく知らないけど――と、いくつかやりとりをした結果。

『へぇぇぇ、取引を二つの側面から記録するんですね。それなら、目に見える収支だけじゃなくて、全体的な資産が把握出来ますね、凄いです!」

 と感心されたのだけど……正直に言うと、俺は良く判ってない。

 いや、だってさ? 俺はもともと、紗弥に幸せな人生を送ったよって嘘を吐くために、あれこれ知識を集めまわっただけ。領地を経営するために知識を集めた訳じゃない。

 さすがに簿記の書き方が必要になるなんて予想外だ。


「あの説明で分かるティナは凄すぎだと思うぞ」

「あの子も少し頑張り過ぎなのよね。放っておいたら、あたしの仕事を全部代わりに片付けちゃう勢いなのよ」

「それは……クレアねぇが無理をしすぎだからじゃないか? ティナが心配してたぞ? なんでもかんでも、一人でやろうとするってから心配だって」

「あはは。つい、ね」

「笑い事じゃないぞ。病気とかになるのだけは止めてくれよ」

 俺やアリスの前世の両親は病気で亡くなっている。だから、少しきつめの口調になってしまったんだけど……クレアねぇは何処か嬉しそうに気を付けるわと微笑んだ。

 心配されて嬉しいってところなんだろうけど、ホントに分かってるのかちょっと心配だ。なんて考えながら、俺は講習会の報告を進める。

 そうしてほどなく、話が終わった頃を見計らうように扉がノックされた。そうして部屋に入ってきたのは、トレイにお茶菓子をのせたティナだ。

 ちょうどよかったので一息つくことにする。


「クレア様、新作のクッキーです。良かったら食べてみてください。リオン様もどうぞ」

 ティナはクレアねぇのいるシステムデスクの前と、俺の目前にあるテーブルにそれぞれクッキーと紅茶を並べていく。

「あら、ティナ。正直に、弟くんのために焼いてきたって言って良いのよ?」

「ちちちっ違いますよ! 私がクッキーを焼いてるのはいつものことじゃないですか!」

「そうね。でもそれは、弟くんが来たときに備えてるんでしょ?」

「~~~~っ」

 真っ赤になるティナが可愛い――が、こんな状況でそんな風に言われると反応に困る。取り敢えず俺は気付いてないフリをして、机の上に置かれたクッキーに手を伸ばした。

「……お。このクッキーは美味しいな。前よりも腕を上げたんじゃないか?」

「あ、ありがとうございます。それじゃ私は席を外すので、ごゆっくり」

 言うが早いか、ティナはそそくさと退出していった。それを見届けたクレアねぇはなにやらあきれ顔を浮かべている。

 なんとなく言いたいことは分かるけど……やぶ蛇になりそうなので触れないでおこう。


「それよりクレアねぇ、実は相談があるんだけど」

「だと思った」

「……だと思ったって?」

「だって、弟くんが執務室に来る時って、大抵なんかの用事がある時じゃない。入って来るなり『教えて、クレアねぇ!』とか言っちゃってさ」

 ……そういえばそんなこともしたなぁ。

 言われてみれば、ここに来るときはいつもなんらかの問題を持ち込んでる気がする。

「ごめんな。もしかして気を悪くしたか?」

 普段はほったらかしのくせに、困ったときだけ頼りにするなんて最低――とか言われるかもと思ったんだけど、クレアねぇは気にしてないわよと穏やかに微笑んだ。


「そんなことを言い出したら、あたしだって弟くんに世話になりっぱなしじゃない。気にしなくて良いから、用件を言いなさいよ」

「クレアねぇがそう言ってくれるなら、お言葉に甘えようかな。実は――」

 俺は前置きを一つ。リゼルヘイムの年明けにあるお祭りで、リズ達がライブをやりたがっていることを伝えた。


「あぁ輸送の件ね? そうね……前もって日程を教えてくれれば大丈夫だと思うわ。あたしからアカネに言っておこうか?」

「……そこまでしてもらうと悪い気がするんだけど」

「あたしが良いって言ってるのよ。あたしとしては、弟くんに頼られて嬉しいし、ね?」

「うぅん。クレアねぇがそう言うのなら……」

 あんまり甘えすぎると、ダメ男になりそうだけど、俺はミューレの街の物流を把握していない。俺がアカネに頼みに言ったら二度手間になるだろう。

 と言うことで、今回はとことん甘えることにした。


「その代わりと言ったらなんだけど、あたしからも一つ相談を良いかしら?」

「ん? もちろん構わないけど……どんな?」

「とある領地で鉄鉱山が見つかったそうなのよ」

「へぇ、それは良かったじゃないか」

 いままでは製鉄技術がなくて、鉄鉱石は見向きもされず放置されていた。そこに急に製鉄技術が広まったので、鉄鉱石が不足しているのだ。


「それが……どうも地盤が脆いそうでね。少し掘っただけで、崩落を起こしたみたいなのよ。それで、なんとかならないかって相談されたんだけど……どうかしら?」

「なんとかって言われても……いままではどうしてたんだ?」

「どうって……犯罪奴隷にツルハシを持たせて、そこを掘り進みなさい――みたいな?」

「うわぁ……」

 思わず頭を抱えた。

 そっかぁ……ミューレの街に住んでると忘れがちだけど、元々は中世初期くらい。平民は石を積み上げたような家に住む時代だもんな。


「いままでは犯罪奴隷には事欠かなかったから良かったんだけどね。最近は治安が良くなってきてるから、奴隷が不足してるのよ」

「なるほど……」

 この国では重犯罪人を死刑にする代わりに、契約で縛って死ぬまでこき使っている。

 いままでは飢饉などもあって治安が悪化。犯罪奴隷があふれてたから使いつぶしていたけど、最近は国が豊かになって、犯罪者も減ってきたということだろう。

 というか、だ。いくら重犯罪人でも、消耗品のような使い方は抵抗がある。そう思っていたのが顔に出てしまったのだろう。クレアねぇは「大丈夫よ」と口を開いた。

「弟くんの気持ちは理解してるつもりよ。隣国から犯罪奴隷を輸入する案もあったんだけどね。そう言うのって、弟くんが嫌がりそうだから却下したわ」

「それは……たしかに嫌だな」

 隣国って言うのは、海の向こうに微かに見える大陸にある国のことだ。船が発達してないから、そこまで交流があるわけじゃないんだけどな。

 逆に言うと、まったく交流がないわけでもない。俺たちが内政チートで生み出した商品は高級品として扱われるから、隣国の商品を安く手に入れることができる。倫理を無視すれば、奴隷を安く大量に購入することもできるだろう。

 ……俺は嫌だけどな。


「そんな訳で、安全性を高める方向でなんとかしたいのよ」

「ふむ……つまり、安全に坑道を掘れるようにすれば良いんだな?」

「ええ。なにか良いアイディアがあるのならお願い。お礼にお姉ちゃんが、な~んでも、言うことを聞いてあげるから」

「分かった。なら……対策をレポートにでもすれば良いか?」

「さらっと無視したわね……別に良いけど。……そうねぇ。レポートでも良いけど、出来れば視察に行ってくれないかしら?」

「視察……?」


 頼まれた瞬間、俺は少し意外に思った。

 クレインさんの時やアルベルト殿下の時など、誰かを護るために、俺が自ら動くことはあるけど、基本的には目立たないようにしている。

 それは、クレアねぇの願いが、自分の力でなにかを為し遂げることだったから。

 表舞台に立つのはクレアねぇの仕事。俺はいつも裏から支援するだけなので、よその領地に視察を頼まれるなんて思ってなかったのだ。


「ダメ、かしら?」

「別に構わないけど……鉱山は何処にあるんだ?」

「レリック家の領地よ」

「……レリック家?」

 たしか子爵家だったはずだ。最近は他の貴族のことも勉強してるから、名前くらいは知ってるけど……クレアねぇはなにやら悪戯っぽい笑みを浮かべている。

 なので、そのレリック家がどうかしたのかと聞いたら、なにやら呆れられた。


「レリック子爵家って言ったら、トレバーの実家じゃない」

「あぁ……あいつ、子爵家の息子だったんだ」

「そうよ、子爵家の次男坊よ。と言うか、どうして知らないのよ。友達だったんでしょ?」

「いやまぁそうなんだけど……あいつは結局、最後までただのトレバーだって言い張ってたからさ。俺も家のこととか聞かなかったんだよな」

 ちなみに、俺も貴族――それもグランシェス家の当主ってバレた訳だけど、最後まで普通のクラスメイト……いや、友人として接していた。


「そうか、トレバーの実家かぁ。リズの件で世話になったし、恩返しにはちょうど良いな」

「でしょ? そう思って、弟くんに話を持ってきたのよ。せっかくだから、ソフィアちゃんでも連れて、遊びに行ってくると良いわ」

「……ソフィアを? でもソフィアは、エリーゼさんのところに通い詰めだろ?」

「今日中に帰ってくるって連絡があったから、今頃はもう屋敷にいるんじゃないかしら?」

「……なるほど。偶然にしては出来すぎだと思ったけど、そういうことか。ってか、せっかくだからって、もしかして……?」

 俺がソフィアに告白したのを知っているのかという意味を込めて顔色をうかがうと、クスクスと笑われてしまった。


「ソフィアちゃんが最近ずっとつけてる髪飾り、弟くんがプレゼントしたのよね?」

「そっか。それで――」

 推測されたんだなと続けようとしたのだけど、

「あの髪飾り、アカネ経由でアリスブランドに特注で作ってもらったのよね。ソフィアちゃん、愛されてるわね」

「……なんでそんなことまで知ってるんだよ。アカネには口止めをしたはずだぞ」

 そりゃ、クレアねぇにバレても困ることじゃないけどな。だからって、アカネが口止めした内容を軽々しくしゃべるとは思えない。

「ふふん。あたしはミューレの街で起きたことなら大抵把握してるのよ?」

「こえぇよ」

 なにが怖いって、そんな有り得ないと否定出来ないところが怖い。思い返せば、俺たちが洋服店で話していた内容まで、クレアねぇに把握されてたことがあったからな。


「グランプ領にある大聖堂で髪飾りをプレゼントして、そのあとに告白したのよね」

「だから、なんで知ってるんだよ……まさか、ヴェスタの街にまで密偵を放ってるんじゃないだろうな?」

「密偵は放ってるけど、いまのはただの予想よ?」

「……予測が正確すぎるだろ。と言うか、放ってるのかよ」

「各種情報を集めてるだけで、みんなやってることよ?」

「まぁ、そうなんだろうけどさ……」

 いやまぁ、別に密偵はどうでも良い。

 それより問題は、ソフィアとの関係をクレアねぇに知られてしまったことだ。いずれは話すつもりだったけど……こんな形で知られるのは予想外だ。

 一番最初に告白されたにもかかわらず、いまだに返事をしていないから気まずい。


「あのさ、クレアねぇ」

「大丈夫、分かってるわ」

「……ホントに?」

「ええ。弟くんは、あたしのことも大好きなんでしょ?」

「そんなことは言ってないぞ!?」

「でも、思ってはいるのよね?」

「ぐぅ……」

 確かに、思ってはいる。今の俺は、クレアねぇに惹かれてるってハッキリと言える。

 だけど、クレアねぇは血の繋がった姉弟なのだ。

 子供が病弱になる可能性だってある。前世で両親を失ったときのような悲しみを、子供を失うという形で繰り返すかも知れない。

 好きだから付き合う――なんて簡単にはいかない。

 そんな風に迷っているから、いまはそんなことを聞かれても困る――なんて思っていたら、向かいの席に座っていたクレアねぇが立ち上がった。

 そして何処か悪戯っぽい微笑みを浮かべて机を迂回。俺が座るソファへと腰を下ろす。


「……なぜに隣に座った?」

「それはもちろん――こうするためよ」

 ポンと両肩を押される。反射的に抵抗した俺は前のめりに。

 ――直後、俺の両肩にあった腕がすりりと伸び、俺の首へ絡みついてくる。あっと思った時には、クレアねぇの胸の中に抱きしめられていた。

「……クレアねぇ、胸があたってるぞ?」

「あたってる? 失礼ねぇ、そんなに小さくないでしょ」

 いやまぁ……確かに豊かな胸に包まれてるけど、そう言う問題じゃないと思う。

 アリスで免疫が出来てるから、そんな慌てふためいたりはしないけど……甘い匂いに柔らかい感触。さすがに長時間は冷静じゃいられないから勘弁して欲しい。


「ねぇ、弟くん。あたしは弟くんの匂いが好きよ?」

 その言葉を証明するように、クレアねぇは俺の後頭部に顔を押しつけて息を吸い込んだ。なんかむちゃくちゃ恥ずかしいから止めて欲しい。

 そう思っているのに、クレアねぇは「弟くんは?」と追撃を仕掛けて来やがった、

「弟くんは、あたしの匂い、嫌い?」

「いや、それは……」

「嫌い、なの?」

「いやまぁ、嫌いじゃないよ。クレアねぇは良い匂いがするから」

「ふふっ、良かったぁ」

 クレアねぇは凄く嬉しそうな声を零すと、俺の束縛を解き放った。俺は少し戸惑いながらも頭を起こし、クレアねぇの顔を見る。


「なんだよ。なにが良かったんだ?」

「あのね、アリスが言ってたの。人はHLA遺伝子の相性を嗅覚で判断するから、良い匂いに感じる相手とは相性が良いって」

「あぁ、恋愛遺伝子のことか」

 たしか……免疫を司る遺伝子のことだったはずだ。

 様々な病気に対して抵抗を持つ子供が生まれるように、自分とは異なる遺伝子情報を持つ相手に惹かれると言われている。なので、恋愛遺伝子と呼ばれているのだ。

 ちなみに、家族の体臭なんかを臭く感じるのは、自分と似た免疫情報を持っているからだという説があるんだけど……そう言えば、俺はクレアねぇの体臭が嫌いじゃない。

 むしろ、抱きしめられる度に、良い匂いがするって思ってた記憶がある。


「つまり、俺とクレアねぇの遺伝子による相性が良いって言いたいのか?」

「そうよ、相性ばっちりよ」

「いやいや、俺達は姉弟なんだぞ?」

「アリスが言うにはね。両親から半分ずつ遺伝子を引き継ぐから、組み合わせによっては子供同士の相性も最高になる可能性はあるそうよ?」

「なるほど……」

 優勢とか劣勢とかあるから確率は低いはずだけど……俺達は腹違いの姉弟だからな。十分にあり得る可能性だろう。

 つまり、その理屈が正しければ……子供が病弱になる可能性は低い。俺とクレアねぇが結ばれるのに、医学的な問題はない――かもしれない。


「だから、ね。弟くんの欲望のままに、お姉ちゃんを襲えば良いと思うわ」

「いやいやいや、襲わないからな!?」

「……そう、なの?」

「いや、そんな心底不思議そうにされても。俺はそんな節操なしじゃないぞ」

「でも、お姉ちゃんに興味はあるわよね?」

「ないとは言わないけど、いきなり襲ってどうするんだ。そう言うのは告白してからだろ」

「そうね。それじゃ期待して待ってるわね」

「おう。…………………おう?」

 なにを、とは聞けなかった。聞いたら、告白に決まってるじゃないって答えが返ってくるのは分かりきっているからだ。なんか微妙に誘導された気がする。


「大丈夫よ。急かしたりなんてしないから」

「……クレアねぇ?」

「言ったでしょ、弟くんの気持ちは判ってるって。あたしは信じて待ってるから、いつか弟くんに覚悟が出来たら、その時はあたしを迎えに来て」

「……クレアねぇ。迎えに行くもなにも、同じ屋敷に住んでるんだけど?」

「こーら、そう言う問題じゃないでしょ?」

 ――頬をつねられた。

 でも……そうだな。いつまでもクレアねぇを待たせる訳にはいかない。もう少し気持ちが整理出来たら、その時はちゃんと段取りを経て、クレアねぇに想いを伝えよう。

 だから、それまでもう少しだけ待っててくれな――と、俺は心の中で呟いた。

 

 

 次話は8日を予定しています。

 ちなみにこっそーりですが、ハロウィンは活動報告に続編がアップしてあります。

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