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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第四章 過去の想い

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エピローグ 空の色

 ある晴れた日の昼下がり。俺はスフィール家のテラスから空を見上げていた。

 雲一つなく、澄んだ青い空。風は穏やかで、夏の日差しが降り注いでいる。本来なら凄く気持ちの良い天気なんだろうけど……正直、今は空気を読めと言いたくなる。


 結果から言えば、エリーゼさんは一命は取り留めた。致死量の十倍にも及ぶ砒素を飲まされて生き延びた。それはまさに奇跡――と言うわけではない。

 調合室でセスが隠し持っていた砒素を押収したんだけど、かなりの混ざりモノが確認された。と言うより、砒素が一割ほど混ざっているというレベルの代物だった。

 ようするにエリーゼさんが飲まされた砒素は致死量ギリギリ。放っておけば、確実に死に至るであろう分量ではあるが、処置を施せば助かる分量でもあった。

 だからこそ、俺達の処置で一命を取り留めたのだ。

 ――だけど、さすがに後遺症もなしという訳にはいかなかった。エリーゼさんはいま、薬物中毒の症状を引き起こして苦しんでいる。


「こんなところでなにをしてるの? エリックさんと話し合いをしてたんじゃないの?」

 アリスの声。視線を空から落として横を見る。アリスはちょうど、俺と並んでテラスの柵へと身を預けるところだった。

「話し合いは終わったよ。今はただ……なんとなく空を見上げてただけだよ」

「そっか……結果はどうなったの? 薬師の処遇を決めてきたんでしょ?」

「セスは自室に監禁してあるよ。ただ本人にその気があるのなら、今後もスフィール家で働いてもらうことになってる」

「……正気なの?」

「もちろんクスリを作らせたりはしない。ただ、その技術を後世に伝えるために働いてもらうってことだよ」

「薬師なら他にもいるでしょ? いくら事情があったとはいえ、彼はソフィアちゃんのお母さんを毒殺しようとしたんだよ?」

「そのソフィアが許しちゃったんだよ。『お母さんを殺そうとしたのは許せない。だけど、貴方が受けた悲しみは識ってる(、、、、)。だから生きて罪を償って』だって」

 早い話が、恩恵でセスの悲しみを体感して、同情してしまったのだ――と、そんな風に思っていたのだけど、アリスがクスクスと笑った。


「……なんだよ?」

「だんだん似てくるなって思って」

「似てくるって……どういう意味だ?」

「気付いてないの? ソフィアちゃんの許し方、リオンにそっくりだよ」

「そう、かな……?」

 言われてみれば、そんな気がしないでもないな。……そっか、俺と似てるのか。うん、なんというか、悪い気はしない。


「リオン、顔が緩んでるよ?」

「良いだろ別に。好きな子が俺の影響を受けてるって聞かされて、嬉しいんだからさ」

「ふぅん……? そう言えば……男の人ってさ。女に飽きたら、次は少女を自分好みに育てようとするらしいよ?」

 悪戯っぽい眼差し。

 その言葉の意味を考え――俺はにやりと笑みをこぼす。

「なるほど。アリスは自分が飽きられたんじゃないかと心配なんだな?」

「――なっ!? ち、ちちちっ、違うよっ!?」

 からかわれたから、反撃しただけだったんだけど……もしかして図星だったのだろうか? ちょっと狼狽えすぎだと思う。


「安心しろ。俺はアリスもソフィアも、二人とも大切に思ってる」

「……なんか、何気に酷いセリフだよね。この先、リオンが悪い男にならないか、ちょっと心配だよ」

「アリスがそれを言うのか?」


 たしかに俺は二股をかけていると言っても過言じゃない。そしてそのうち、三股もかけるかも知れない。いや、その可能性は高いだろう。

 だけど……俺はたった一人だけを見るつもりだった。

 アリスもソフィアもクレアねぇも大切だけど、あえてそこから一人――アリスだけを選んで、特別扱いするつもりだった。その垣根を取り払ったのはアリス自身だ。

 他の誰に不誠実だって言われてもしょうがないけど、アリスにだけはそんな風に言われたくない。……なんて、アリスの言いたいことも判るけどな。

 そして、アリス自身もそれを理解しているのだろう。

「……もぅ、イジワルだなぁ」

 何処か拗ねた口調で呟いて、俺の肩に頭をコツンとぶつけてくる。この世界で再会した頃はアリスの方がずっと大きかったんだけど……いつのまにか逆転しちゃったな。


「……それで、そのソフィアちゃんは?」

「エリーゼさんの側にいるよ」

「会話は出来てるの?」

「うなされてる時間の方が長いみたいだけど、時々は話してるみたいだぞ。さっき様子を見に行ったら、ちゃんとお母さんと和解出来たって言ってた」

「そっか……ソフィアちゃん、大丈夫かな?」

「大丈夫だよ。いまは辛いこともあるかもしれないけど、エリーゼさんの症状は、時間と共に回復するはずだからな」

「……その根拠は?」

「そんなモノはない。ただ、ソフィアが信じてるからな。俺もそう信じるだけだ」

 俺がそんな風に答えると、アリスは少し呆れたような表情を浮かべる。

「もしかしたら、エリーゼさんはあのままかもしれないんだよ? うぅん。それどころか、酷くなっていくかもしれない。分かってるの?」

「ああ。分かってるよ」

 元気になってくれればなんの問題もない。

 だけど、いつまで経っても良くならない――どころか、日に日に弱っていく人を間近で見るのは凄く、凄く辛い。俺やアリスはそれを、前世で嫌と言うほど思い知らされた。

 だけど、それでも――


「大丈夫だよ」

「……その根拠は?」

「俺達が大丈夫だっただろ?」

 その一言で前世の話だと理解したのだろう。アリスは小さなため息をついた。

「私が平気だったのは、裕弥兄さんがいてくれたからだよ?」

「俺が平気だったのだって、紗弥がいてくれたからだよ。そして、いまのソフィアには俺達がいるだろ?」

「そっか……そうだね」

 エリーゼさんは必ず治る。そう信じた結果、いつかソフィアは悲しみに囚われるかもしれない。その時は俺達がなんとかすれば良い。それが家族だって思うから。


「それに、そこまで心配しなくても大丈夫だと思う。症状が思わしくないと言っても、ほとんど自然な状況で、だからな」

「そう、だね。そうかもしれないね」

 前世の世界においては、体の機能が一部停止したとしても、それらを人工的に補うことが可能だった。例えその機能が、自然に治癒しない部分だったとしても、だ。

 だけどこの世界は違う。処置と言っても、せいぜいがニンニクの摂取や、滋養強壮のクスリを飲ます程度。この世界における危険な状態と言うのは、前世の世界であれば確実に助かるレベルでしかない。世界樹の葉もあるし、回復する可能性は高いはずだ。


「それにどんな状態であれ、親が生きているって言うのは嬉しいモノだと思う。正直に言うと、俺はちょっとソフィアが羨ましいよ」

 俺は父さんの想いを知ることが出来なかったから――と、声には出さずに呟く。

「そういえば……言ってたね。恩恵で心を読まないと、俺みたいに後悔するって」

「俺は……父さんと解り合えなかったからな」

「もしかして、お墓参り直後に様子がおかしかったのはそれが原因?」

「あぁ……うん。いまとなってはもう知るすべもない話だからさ。アリスには心配かけたくなくて黙ってたんだ」

「そっかぁ。エリーゼさんのことが原因じゃないなら、どうしてって思ってたけど、それで今も元気がないんだね。言ってくれれば、すぐに解決してたのに」

「………………はぃ?」

 意味が判らなかった。

 だって、父が残したのは、お前は自慢の息子だという一言だけ。あの状況を考えたら、それが本心かどうかなんて分からない。

 なのに、アリスは「ロバートさんは、リオンを大切に思ってたよ」と言い切った。


「……なにを、なにを根拠にそんなことが言えるんだ?」

「私は気配察知の恩恵を持ってるからね。時々だけど、離れの様子をうかがいに来る男の人がいることは知ってたの」

「それが……父だって言うのか?」

「最初は誰か分からなかったけど、お屋敷でロバートさんを見たときにすぐに分かったよ。リオンを陰から見守っていたのはこの人だって」

 欠けていたピースがかちりとはまり、俺の中で様々な疑問が解けていく。

 幼少期、数年ぶりに再会したとき、父が俺を一目で分かったのも、インフルエンザの件で信じてくれたのも、そのあとにお咎めがなかったのも、全部――

 全部、俺を大切に想い、ずっと……見守ってくれていたから。


「……そっか。父さんは……俺のことをちゃんと、見てくれてたんだ」

 もう、知ることはないと思っていた父の想いを知った。その事実を胸に、俺はテラスに寄り掛かって空を見上げる。

 そこには雲一つない――爽快な青空が広がっていた。

 

 

 四章はこれにて閉幕です。

 真のロリ論争や依頼人の正体。事件の真相やその解決方法などなど。四章はヒロイン達のチートを使いつつも、伏線を張ってそれなりに説得力のある展開を目指したんですが、いかがだったでしょう?

 感想や評価などなど、頂けると嬉しいです。


 次話のキャラ纏めは30日を予定しています。

 五章は例によってタイトルが未定なんですが、クレアと内政が主軸のお話。リオンの行動によって引き起こされたあれこれなんかも係わってきます。

 という訳で、今後ともお付き合い頂ければ幸いです。


 それと書籍化の件ですが、ちゃくちゃくと進んでいます。

 緋色としては「ふあああああああああ、ソフィア可愛いんじゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁああぁっ!」とか叫びたくてしょうがないんですが、告知はもう少しだけおあずけ見たいです。

 なのでまだ叫びません。さっきのは比喩なので、叫んだ訳じゃありません。よってセーフです。


 それでは、また次回。

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