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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第四章 過去の想い

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エピソード 4ー7 恩恵の使い道

 拘束したセスを連れ、俺達は急いでエリーゼさんの部屋へ向かった。そうしてたどり着いた部屋の前、メイドがおろおろとしている。

 そのメイドは、俺達の存在に気付いて駆けよってきた。

「エリック様、大変です。エリーゼ様の容態が悪化しました!」

「分かっている。それで、いまはどうなっている?」

「いまはアリス様が容態を確認して下さっています」

「分かった。お前はなにかあったときのために部屋の前で待機していろ」

 エリックさんはメイドに指示を出して部屋の中へ。俺たちもその後に続く。

 そうして部屋の中に入ると、アリスが慌ただしくエリーゼさんに処置を施していた。そのエリーゼさんは意識が混濁しているのか、苦悶の表情でうなされている。

 そしてそんな二人を、ソフィアが不安そうに見つめていた。


「――ソフィア」

「リオンお兄ちゃん!」

 俺に気付いたソフィアが飛びついてくる。

「リオンお兄ちゃん! お母さんがっ、お母さんが大変なの! アリスお姉ちゃんが言うには、強い毒を飲まされてるって!」

「セスから聞いたよ。それで……容態はどうなんだ?」

「それは……」

 ソフィアは縋るようにアリスを見る。俺も釣られてアリスへと視線を向けた。


「アリス、容態は?」

「意識が混濁して、痙攣が始まってる。なにを飲ませたのか聞き出して!」

 それだけ切羽詰まっているのだろう。アリスは桜色の髪を振り乱して端的に叫ぶ。俺はすぐさま、エルザが拘束しているセスに視線を向けた。

「エリーゼさんに飲ませたのはなんの毒だ?」

「……私が素直に教えるとお思いですか?」

「――ソフィア」

 ソフィアは俺にしがみついたままだ。そんな状況のソフィアに恩恵を使ってもらうのは忍びない。それ以前、いまのソフィアには恩恵が使えないかもしれない。

 そんな風に心配したのだけど、ソフィアはセスの思い浮かべた薬物を即座に説明してくれた。それを一言で纏めると、セスが使用したのは鉱山で産出された金属のような毒物。

 そこから俺が連想出来た薬物は一つだけ。

「……アリス、使われた毒はたぶん……砒素だ。エリーゼさんは急性砒素中毒だ」

「――砒素って、嘘でしょ!? キレート剤なんて作れないよ!?」

 キレート剤がなんなのかは知らないけど、中毒に対するクスリなんだろうと解釈する。そしてその反応から、相当危険な状態であることも、だ。


「他に対処はないのか? 例えば白魔術とか」

「抵抗力を上げるという意味では有効だと思う。けど、白魔術師なんてレアな術者、今すぐ連れてくるなんて無理だよ」

「――だったら、胃を洗浄するとか」

「胃の中のモノは吐かせて、今は水を飲ませているけど……意識が混濁してて上手く飲んでくれないの。他に思いつく対策と言えば、輸液だけど……」

「……輸液? 輸血じゃなくてか?」

「うん。私も詳しいことは知らないけど、水と電解質を補うんだって。間に合わせとしては、生理食塩水が使えるみたいだけど……」

「それは……さすがに無理だな」

 にわか知識で踏み込んだ治療をおこなうのは怖すぎる。

 そもそも、点滴などをおこなうのに必要な道具なんて作っていない。アリスならあるいは――とも思うけど、少なくとも今すぐは絶対に用意出来ない。


「無駄ですよ。エリーゼ様に飲ませたのは数グラムに及ぶ砒素ですから。今更なんの毒か分かっても手遅れです!」

 セスが勝ち誇ったように宣言する。それに対して、俺やアリスはなにも言い返すことが出来なかった。

 セスの言う重さは、アリスが作ったメートル原器を基準に、1リットルの冷たい真水の重さを測定。そこから算出した1グラムが基準になっている。

 だから地球の基準と比べて、多少の誤差はあるかもしれない。

 だけど――俺の記憶が正しければ、砒素の致死量は数百ミリグラム。エリーゼさんはおよそ十倍の毒を飲まされた計算になる。それが事実なら、助かるはずがない。


「……ソフィア、ごめん。エリーゼさんを……助けられないかもしれない。だからっ、だから……エリーゼさんに、恩恵を使うんだ」

 考えた末に俺が提案したのは次善策。エリーゼさんが死んでも、ソフィアが出来るだけ後悔を残さないための判断だった。

 出来ることなら、エリーゼさんを救ってあげたい。

 けど、それは無理だから。せめてソフィアが俺と同じ後悔をしないように、最期にエリーゼさんの本心を知るべきだ、と。

 今できる最善を、例えソフィアに恨まれたとしても――と、伝える。だけど、ソフィアは怒るでも、悲しむでもなく、ただ静かに首を横に振った。


「ソフィアは、お母さんの気持ちを覗き見はしないって決めてるの。仲直りして、そしてお母さんの口から直接聞きたいから」

「……ソフィア。恩恵を使わず、本人から聞きたいって考えは立派だと思う。けど、いま知らなきゃ、俺みたいに後悔するぞ?」

「後悔なんてしないよ。ソフィアは、リオンお兄ちゃんたちを信じてるもん」

「……え?」

「さっき、リオンお兄ちゃんは助けられないかも知れないって言ったよね。でもそれって、まだ可能性があるって意味だよね?」

「それは……」


 俺はあらためてエリーゼさんを見る。

 意識は混濁していて、痙攣が始まっている。けど、飲まされた量を考えれば、それだけで済んでいるのが不思議なくらいだ。

 まだ死んではいないだけで、いつ死んでもおかしくはない。そこに希望なんて残っていない。そのはずなのに、ソフィアの心は折れていなかった。

「ソフィアはみんなを信じてる。リオンお兄ちゃんに、アリスお姉ちゃん。そしてクレアお姉ちゃん。みんなならきっと、お母さんを救ってくれるって信じてる」

 向けられるのは、何処までも純粋な信頼。ソフィアはきっと、全てを理解した上で信じてくれている。

 もしエリーゼさんを救えなくても、ソフィアは俺を責めたりはしないだろう。

 けど、そのときはきっと、ソフィアは自分を責める。他に出来ることがあったはずなのにって、俺と同じように後悔する。

 それが分かっていて、俺に任せろなんて言えるはず……ない。


「――弟くん、世界樹の葉よ!」

 自分の無力さに打ちひしがれる俺に向かってクレアねぇが叫んだ。

「クスリについて調べていたときに文献で見たの。世界樹の葉を正しく煎じれば、生命力を高めるクスリを作れるって」

「生命力を高めるクスリ……?」

 エリーゼさんは中毒だから、まずは毒素を可能な限り取り除く必要がある。けど、最終的には体力勝負になる。生命力を高めるなら、一定の効果は望めるはずだ。


「今すぐに作れるのか?」

「……分からないわ。薬師なら知っているかもしれないけど、あたしが見たのは、そういうクスリが存在するって言う記述だけだったから」

 それを聞いて、俺は自然とセスに視線を向ける。それに気付いたセスは、あざ笑うような笑みを浮かべた。

「私がお教えするとお思いですか?」

「……いや、思ってないよ」

 それは俺の本心だ。セスが助けてくれるとは思ってない。だから俺がセスを見たのは、知っているかどうかを知りたかっただけ。

 そしていまの反応。恐らくセスは知っているのだろう。だとしたら――と、俺はソフィアに視線を向けた。


「――うん、ソフィアに任せて!」

 言うが早いか、ソフィアは拘束されているセスの前に立った。

「無駄ですよ、ソフィアお嬢様。貴方の恩恵で読み取れるのは、相手が思い浮かべていることだけ。先ほどは不覚を取りましたが、今度はそうはいきませんぞ」

「……お母さんから聞いてないんだね」

 そんな風に呟いたソフィアは、普段の無邪気な姿からは想像出来ないような、無色で冷たい笑みを浮かべた。

「なんのことです?」

「ソフィアは恩恵の持つ真の力をずっと秘密にしてたの。相手に触れるだけで、相手の記憶を好きに読み取れるなんて知られたら、もっと怖がられると思っていたから」

「相手の記憶を好きに読み取れる? まさか、そのような恩恵、あるはずが……っ」

 セスがとっさに逃げようとする。だけどソフィアはそんなセスの腕を――掴んだ。


「貴方の記憶、見せてもらうよ――っ」


 静寂は一瞬。

 恩恵を全力で使って、セスの様々な記憶を瞬時に読み取ったのだろう。ソフィアはきゅっと唇を噛んで――ふらりと上半身をかしがせた。


「――ソフィア、大丈夫か?」

 俺は慌ててソフィアの肩を掴んで、その深紅の瞳を覗き込む。その瞳から止めどなく涙があふれるのを見て、俺は息を呑んだ。

 俺の心を最初に読んだときは、俺の記憶に引っぱられて正気を失った。だからもしかしたらと心配したんだけど……ソフィアはこぼれる涙を拭い、大丈夫だよと答えてくれた。


「心配かけてごめん。クスリの作り方は理解したから、今すぐに作ってくるよ。だから、リオンお兄ちゃん。それまでお母さんをお願いね!」

 俺の返事なんて聞くまでもないと言わんばかりに、ソフィアは部屋を飛び出していった。今すぐクスリを作るつもりなんだろう。


「……そうだ、ニンニクだよ」

 ソフィアを見届けたあと、アリスがぽつりと呟く。

「ニンニクがどうかしたのか?」

「ニンニクの成分には、砒素の排出を促す効果があるって聞いたことがあるよ。どの程度有効かは分からないけど、試してみる価値はあると思う」

「あぁ……そういえば」

 砒素は自然界に多く存在するため、鉱山なんかを掘ると地下水に溶け出すことがある。

 そうして砒素に汚染された井戸水を飲み続けると慢性的な砒素中毒になるのだけど……それがニンニクで緩和されるという話だ。

 それを理解するのと同時、俺はミシェルへと視線を向けた。

「――ミシェル、すり下ろしたニンニクをもらってきてくれ。大至急だ!」

「かしこまりました!」

 ミシェルが身を翻して廊下へと飛び出していく。


 吸収された砒素を取り除くニンニクと、砒素に抵抗するためのクスリ。それらの効果はきっとある。だけど――と、俺はエリーゼさんに視線を向ける。

 彼女の容態はあまり思わしくない――どころか、少しずつ悪化しているようにも見える。胃の中のモノを吐かせただけでは不完全。今も毒が吸収されているのだろう。

 本来であれば胃の洗浄をおこなうべきだけど……エリーゼさんは意識が混濁していて、水を飲ますこともままならない。普通にやっていたら間に合わないだろう。

 だとしたら――とアリスをちらり。俺は一つの無茶を思いついた。

 

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