表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第四章 過去の想い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

122/242

エピソード 4ー3 エリーゼの本心

 数時間後。俺達は何事もなく、スフィール家に到着した。

 ちなみにメンバーは俺とアリスとソフィア。それにエルザとミリィ母さんの五人。クレアねぇは仕事があるからとグランシェス家に残っている。

 俺も遊んでる訳じゃないけど、クレアねぇに任せっぱなしでさすがに申し訳ない。

 エリーゼさんの件が片付いたら、クレアねぇを少し休ませてあげよう。なんてことを考えていたら、エリックさんがエントランスまで走って迎えに来た。


「リオンくん、母のクスリを作る材料が揃ったと聞いたが、事実なのか?」

「ええ。事実ですよ。――ミリィ」

 メイドとして随伴しているミリィ母さんに指示を出す。ミリィ母さんは直ぐにかしこまりましたと、三つの素材を取り出して見せた。

「それぞれ、リュクスガルベアのキモ、地竜の爪、世界樹の葉でございます」

「おぉ……凄い。さすがだな、リオンくん。この国で最大の権力を持つと言われるだけのことはある」

「いえ、運が良かっただけです」

 ……と言うか、最大の権力という噂は初耳だぞ。さすがに、この国の最大の権力者は国王だと思う。……たぶん。


「それにしても……結構な量だな?」

「ええ。どれくらい必要か分からなかったので。キモと爪はあるだけ持ってきました。世界樹の葉は一束だけですけど……足りますよね?」

「恐らく十分だろう。さっそく薬師に渡しに行っても良いだろうか?」

「ええ。もちろんです。俺も話を伺いたいので同行してもよろしいですか?」

「あぁもちろんだ」

「ありがとうございます。……二人はどうする?」

 後半はアリスとソフィアに向かって訪ねる。


「ソフィアはお母さんに会いに行ってきても良いかな?」

「俺は大丈夫だけど……」

 エリーゼさんの容態が悪化したとしか聞いていないからな。ソフィアは実の娘だし、面会謝絶なんてことはないはずだけど……どうなんですかとエリックさんを見る。

「容態は思わしくないが、面会出来ないほどではない。眠っているかもしれないから、使用人に確認させよう」

「――と言うことらしいぞ」

「それじゃ、ソフィアはお母さんのところへ行ってみるよ。だから、セスさんにはよろしく言っておいてくれるかな?」

「ん、分かった。なら……アリスは?」

「私は……そうだね。ソフィアちゃんについていくよ」

「そうだな。そうしてくれ」

 と言う訳で、ソフィアとアリスは離れの方へ。俺はエリックさんと一緒に、スフィール家お抱えの薬師の元へと向かうことにした。


 そうしてやって来たのは屋敷にある、重鎮が住む区画だった。と言っても、なにか大きな違いがあるわけでもなく、絨毯のしかれた廊下が続いている。

「そう言えば、薬師はスフィール家に古くから仕えているんでしたっけ?」

「ああ。セスというのだが、薬師として代々家に仕える家系の生まれでな。俺やソフィアも子供の頃はよくお世話になったモノだ」

「……お世話に、ですか?」

 エリックさんは知らないけど、ソフィアは出会った頃から健康体だ。薬師にお世話になると言われてもピンと来ない。

「……良く稽古をつけてもらっていたからな」

「あぁ……」

 誰にとか、なにをとか、言葉を濁した時点で色々と察した。

 恐らくは剣の稽古で傷だらけになって、治療をして貰っていたと言うこと。そしてその相手はたぶん、元騎士隊長の執事――ソフィアが殺したレジスだろう。

 それを雑談として話すには重すぎる。なので話を逸らすことにした。


「ちなみに、小さい頃によくお世話になってたと言うことは、ソフィアはその薬師に懐いていたんですか?」

「ん? あぁそれはもちろんだ。さっきも言ったが、彼は代々うちに仕えてくれている家系の生まれでな。ソフィアも彼のことは信頼していると思う」

「へぇ……ソフィアが」

 スフィール家にいた頃のソフィアは、恩恵の力をもてあましていたが故に、結構心を閉ざしてた。そんなソフィアが信頼する相手は珍しい。

 薬師ってどんな人だろうって思ってたけど……どうやら良い人っぽいな。


「そういう人には、これからも仕えてもらいたいですね」

「全くだ。とは言え……それも彼の代で終わるかもしれないが」

「……なにかあったんですか?」

「セスの息子はスフィール家に仕える騎士になったのだ」

「あぁなるほど。今度は騎士として代々仕えてもらうんですね」

 必ずしも親の後を継ぐ必要がある訳じゃないし、同じように仕えてくれるのなら、悪くはない話だろう。そう思ったのだけど、エリックさんは静かに首を横に振った。

「盗賊を討伐する任務のさなかに死んでしまったんだ」

「そう、ですか……すみません、よけいなことを言いました」

「いや、構わないさ……と、ついた。この部屋だ」

 言うが早いか、エリックさんは扉をノックする。ほどなく「どなたですか」と扉が開き、初老の男が姿を現した。


「エリック様、どうかなさいましたか?」

「ああ、朗報を届けに来たんだ。だがその前に彼を紹介しよう。グランシェス家当主であるリオンくんだ」

「リオン・グランシェスだ」

 名乗ると同時に軽く会釈をする。だけどセスはそれに答えず、眼を見開いていた。

 なにを驚いているのか知らないけど、どうしたモノか。そう思っているとエリックさんが咳払いを一つ。セスはハッと我に返った。


「し、失礼いたしました。お初にお目にかかります。スフィール家で薬師を務めるセスと申します。それで……今日はどのようなご用でしょう?」

「エリーゼさんの病を治すのに必要なクスリの材料を全て揃えた。だから貴方にクスリを作ってもらいたいんだ」

「ほ、本当にあの材料を揃えたというのですか!?」

「ああ。ここにある」

 ミリィ母さんに頼み、クスリの材料全てを提示して見せる。するとセスはありえないモノを見たとばかりに、わなわなと身を震わせた。


「こ、これは……本物なのですか?」

「――セスよ。グランシェス伯爵を疑うなど失礼であろう」

「し、失礼しました!」

 セスがとっさに頭を下げる。それを見て俺は苦笑いを浮かべた。

「別に構わないよ。信じられない気持ちも判るからな。でも間違いなく、リュクスガルベアのキモに、地竜の爪。そして世界樹の葉だ」

「ま、まさか本当に集めるとは……」

 セスはふらりと上半身をかしがせた。それをエリックさんが慌てて支える。


「――大丈夫か?」

「あ、あぁ……申し訳ありません。まさか、これだけの素材を全て集められるとは思っていなかったので、驚いてしまいました」

「ははっ、セスが驚くのも無理はない。比較的入手が容易なキモが、一番入手が困難だったなどと言う非常識っぷりだからな」

 薬を造る目処がついて気が緩んだのだろう。エリックさんは微かに笑った。

「……世界樹の葉ではなく、ですか?」

「世界樹の葉が一番簡単だったそうだ。正直、なんの冗談かと思ったぞ。さすがはグランシェス伯爵、常人とは常識が異なっているようだ」

 酷い言いようである――と思ったのだけど、そう思ったのは俺だけのようで、セスはなるほどと納得している。


「――コホン。それで、セスと言ったか。クスリはどれくらいで完成するんだ?」

 俺は話を戻すべく咳払いを一つ、セスに尋ねる。それで我に返ったのか、彼は慌てて佇まいをただした。

「し、失礼しました。クスリは……そうですな。一週間……いえ、三日あれば完成するでしょう」

「三日か……結構かかるんだな」

「キモは乾燥させる必要がありますからな」

「なるほど……そう言うことなら仕方ないな。エリーゼさんの容態が気がかりだから、出来るだけ急いでくれ」

「かしこまりました」



 クスリの制作依頼をした後、俺はソフィアの様子をうかがうべく、エリックさんと別れて離れへと向かったのだけど――

「どうして? どうして会いに来ちゃダメなんて言うの?」

「何度も言っているでしょう。貴方と話すことはないと」

 廊下を歩いていると、エリーゼさんの部屋から言い争うような声が聞こえてきた。ソフィアとエリーゼさんが口論をしてるみたいだ。

 止めた方が良さそうだけど、話の流れが判らないことにはそれも難しい。取り敢えずは会話を聞きつつ、タイミングを計ることにした。


「お母さんのわからず屋!」

「分からず屋で結構です。とにかく帰りなさい。何度も言っていますが、貴方はもうスフィール家の人間ではないのですから」

「……酷いよ。ソフィアはお母さんと仲直りしたいだけなのに……」

「酷いのは貴方です。以前にも言ったでしょう? 大切な者を殺された恨みは、そう簡単には消えないと」

「お母さんのバカ――っ!」

 部屋からソフィアが飛び出して来たかと思えば、そのまま廊下の向こうへと走り去って行った。そしてほどなく、部屋の中からアリスが退室してくる。


「あ、リオン。来てたんだ?」

「ついさっきな。それより、ソフィアは大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ、あの二人は。と言うか、ソフィアちゃんが恩恵を使えば直ぐに解決すると思うんだけどね。どうして使わないんだろ?」

「あぁ、それな……」

 俺はアリスに、ソフィアが恩恵を使えないと嘘を吐いたこと。そしてだまし討ちにならないように、実際に恩恵を使っていないことを話した。


「そっかぁ……そんなことがあったんだね」

「ああ、そう言う訳だから――頼んで良いか?」

「もちろんそのつもりだよ。ソフィアちゃんとお話をしてくるね」

 アリスは言うが早いか、廊下をノンビリと歩き始めた。

 そんな調子で大丈夫なのかって思ったけど、よく考えたらアリスには気配察知の恩恵がある。屋敷の何処にソフィアがいるのか把握しているんだろう。

 始めてこの屋敷に来たときは、クレアねぇを探すのに苦労したのに。恩恵も普通にレベルアップしてるんだな、

 なんてことを考えながら、俺はアリスの背中を見送った。そうして深呼吸を一つ、俺は部屋の扉をノックする。


「……どちら様ですか?」

「リオンです」

「……今度は貴方ですか」

「入っても構いませんか?」

「……好きになさい」

 渋々といった感じの了承。だけど遠慮して帰る訳にはいかないので、俺は失礼しますと部屋の中に。俺の姿を見ると、エリーゼさんがこれ見よがしにため息をついた。

 けど、それよりも、エリーゼさんの顔色が悪いのが気に掛かる。前回来たときよりも、確実に悪化しているようだ。

「おつかれのところをすみません。でも、どうしても、ソフィアがいない時に聞きたいことがあったので」

「貴方と意見が合うのは気に入りませんが、私も同じ考えです」

「そうですか。では、そちらからお先にどうぞ」

 なんとなく想像はついているので順番を譲る。


「では単刀直入に聞きましょう。貴方は私のしたことを許すつもりなのですか?」

「まさか。許せるはずありませんよ」

 エリーゼさんの問いに即答する。けどそれはエリーゼさんに取っても予想通りの答えだったのだろ。彼女は驚く風もなく続ける。

「では何故、ソフィアをここに連れてきたのです」

「ソフィアから聞いたでしょう? ソフィアが貴方との和解を願ったからです」

「ですが、貴方は私を恨んでいるのでしょ? なら当然、私とソフィアが仲良くするのは面白くないはずです。それなのに、どうしてあの子の我が儘を許すのです。どうでも良いからと、好きにさせているのですか?」

「なるほど、それがソフィアを追い返した理由、ですね?」

 エリーゼさんは、俺が渋々ソフィアの我が儘を許していると思っている。そして、ソフィアがそんな我が儘を続ければ、俺が愛想を尽かすのではと心配しているのだ。


「先に私に質問させてくれるのではありませんでしたか?」

「……そうでしたね。なら質問に答えますけど、それは杞憂ですよ」

「何故です?」

「貴方のしでかしたことは許せませんけど、ソフィアには幸せになって欲しいですから」

「だから、ソフィアと仲良くしても構わないと?」

「ええ。ソフィアは貴方との和解を望んでます。だから俺のことなんて気にしないで、仲良くしてやってください」

「……貴方は、懐が深いのですね。あの時、貴方の才能に気付いていればと、悔やまずにはいられません」

 俺はエリーゼさんの呟きに、無言をもって答えた。その通りだと思ったからではなく、俺にも非があることを自覚しているからだ。

 俺は単に前世の知識を持っているだけ。本当に才能があれば、悲劇を事前に回避することが出来たはずだからな。


「私の話は終わりです。それで、貴方の話とはなんですか?」

「二つほどあります。と言っても、一つ目は報告ですけどね」

「……報告? 貴方が、私にですか?」

「ソフィアと正式に付き合うことになりました。と言っても、恋人は既に二人目なんですが、お許し頂けますか?」

「……久しぶりに、貴方に対して殺意が湧きました。他に言いようがないのですか?」

「言いつくろっても、二人目なのは事実ですから。そして、三人目が増える可能性が高いです。とは言え、軽い気持ちではありません。だからこその報告です」

「……その言葉に偽りはありませんね?」

「ええ。グランシェス家の名誉に懸けて」

 アリス辺りなら、そんなモノに誓われてもとか言いそうだけどな。エリーゼさんにはこれが一番だろうと思って、家の名を引き合いに出す。

 そして、もちろんその気持ちに嘘偽りはない。


「……もとより、私にあの子の母親としての資格はありません。あの子が受け入れたのなら、それで問題はないでしょう。ただし……あの子を泣かせるようなことをしたら、貴方のことを死んでも呪いますから」

「そんな気はないから大丈夫ですけど、それをソフィアに言ってあげるつもりはありませんか? ソフィアはきっと喜びますよ?」

「それが二つ目のお話ですか?」

「ええ。さっきも言いましたけど、俺はソフィアと貴方の和解を望んでいます。俺のことは気にしなくて良いですから、ソフィアと仲直りしませんか?」

「申し出はありがたく受けます。ですが、それは出来ません」

「……ソフィアを恨んでいるんですか?」

 ソフィアはカルロスやレジスを殺し、エリーゼさんをも殺そうとした。それが原因かと思ったんだけど、エリーゼさんは静かに首を横に振った。


「恨んでいないと言えば嘘になりますが……それでも、あの子は私の大切な娘ですから」

「だったら、どうしてです。俺は気にしないって言ってるんですよ?」

「私の容態を聞いているのでしょう? 私はもうあまり生きられません。ここで和解しても、あの子が悲しむだけでしょう」

「長くない命って……クスリの話を聞いていないんですか?」

「……クスリ? そう言えば、ソフィアがその様なことを言っていましたね。ですが、私の病には特効薬がありません。セスから聞いていませんか?」

「……セスから?」

 どういうことだ? クスリの材料が集まらないと思って、ぬか喜びさせないように黙ってたとかかな?

 俺だったら、可能性が低くても教えるけど……セスは、クスリが集まらないと思ってたみたいだし、その気持ちは判らなくもない。

 と言う訳で、俺は特効薬が存在することをエリーゼさんに話した。


「その様なクスリが……本当に存在するのですか?」

「ええ。ソフィアが頑張って集めたんですよ」

「あの子が私のためにそんなことを?」

「ええ。だから貴方は助かります。ソフィアと和解してください」

「それは……」

 エリーゼさんはなおも躊躇う素振りを見せる。


「なにをそんなに迷っているんですか?」

「……私は多くの罪を犯してきました。そんな私が、本当にソフィアと和解しても良いのでしょうか?」

「それは……貴方やソフィアが決めることだと思います」

 あの襲撃事件で死んだ人達の気持ちを考えれば、貴方は十分に苦しんだんだから、これからは幸せになるべきだ――なんて、とてもじゃないけど言えない。

 けど、少なくともソフィアはそれを望んでいる。それは紛れもない真実だから。


「そう、ですね。ありがとう、リオンさん。少し考えさせてください」

「ええ、好きなだけ考えれば良いですよ。そうしてゆっくり時間をかけて、ソフィアと仲直りすれば良いと思います」

 だって、エリーゼさんの病はもうすぐ治る。ソフィアと話す時間なんていくらでもあるんですから――と言い残し、俺は離れを後にした。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新作】(タイトルクリックで作品ページに飛びます)
三度目の人質皇女はうつむかない。敵国王子と紡ぐ、愛と反逆のレコンキスタ

klp6jzq5g74k5ceb3da3aycplvoe_14ct_15o_dw

2018年 7月、8月の緋色の雨の新刊三冊です。
画像をクリックで、緋色の雨のツイッター、該当のツイートに飛びます。
新着情報を呟いたりもします。よろしければ、リツイートやフォローをしていただけると嬉しいです。

異世界姉妹のスピンオフ(書籍化)
無知で無力な村娘は、転生領主のもとで成り上がる

書籍『俺の異世界姉妹が自重しない!』の公式ページ
1~3巻好評発売中!
画像をクリックorタップで飛びます。
l7knhvs32ege41jw3gv0l9nudqel_9gi_lo_9g_3

以下、投稿作品など。タイトルをクリックorタップで飛びます。

無自覚で最強の吸血姫が、人里に紛れ込んだ結果――

ヤンデレ女神の箱庭 ~この異世界で“も”、ヤンデレに死ぬほど愛される~
精霊のパラドックス 完結

青い鳥症候群 完結

ファンアート 活動報告

小説家になろう 勝手にランキング
こちらも、気が向いたらで良いのでクリックorタップをお願いします。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ