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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第四章 過去の想い

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エピソード 4ー1 情けは人のためならず

 冷静に考えてみれば、十分にあり得る事態ではあった。もう少し余裕があれば、気付く機会はあったんだろうけど……と、なぜか不敵に笑っている少女を見上げる。

「ふふっ、頼りになるお姉ちゃん、さんじょーよ?」

 メリッサたちにリュクスガルベアの生け捕りを依頼した人物。クレアねぇは長いプラチナブロンドを指で払い、悪戯っぽい笑みを浮かべる。それを見た俺は一気に脱力した。


「……なんでクレアねぇがここに?」

「もちろん、あたしがリュクスガルベアの生け捕りを頼んだ依頼者だからよ?」

「いやそれは判ってるけど、なんでクレアねぇが依頼人なんだよ?」

「エリーゼさんの病状が悪化したから、こっちでもなんとかしてみるってちゃんと手紙に書いてあったはずよ?」

 ……そう言えば書いてあったな。

 と言うか、クレインさんは気付いたうえで黙ってたのだろう。今にして思えば、俯いて震えてたのって、恐怖じゃなくて笑いを我慢してたんだ。

 まったく。この国を影で支配する者なんて言うからどんな人物かと思えば……クレアねぇとか、むちゃくちゃ納得だよ!


「依頼者がクレアねぇだって言うのは分かったけど、なんで生け捕りだったんだ?」

「あら、生け捕りじゃなきゃキモが腐るじゃない」

「おぉう……」

 俺やアリスなら精霊魔術で氷らせてって言うのが可能だけど……言われてみれば、普通は腐るな。全然気付かなかった。


「――ちょ、ちょっと待ってくれ。二人は知り合いなのか!?」

 俺達のやりとりに驚いていたマックスが会話に割り込んでくる。

「知り合いというか……彼はあたしの弟くんよ?」

「……弟くん? それって、まさか――っ」

 マックスとメリッサの視線が俺に集中する。

「そう言えば名乗ってなかったな。実は俺、グランシェス家の伯爵をやってるんだ。改めて、よろしくな?」

「「ええええええええええええええええええぇえっ!?」」

 マックスとメリッサがそれぞれ驚きの声を上げる。


「そ、それじゃ、貴方が父さんを、村の住民を救ってくれた恩人なの!?」

「まあ成り行きだけどな」

 ギャレットという名前だけじゃ思い出せなかったけど、話を聞いて思いだした。俺達が捕まえた山賊のリーダーがたしかそんな名前だったはずだ。

 つまり、メリッサは山賊を纏めていた親分(村長)の娘と言うこと。


「リオくん――いえ、リオン様。ありがとうございます。貴方は私達の恩人です。それなのに私達は、貴方の頼みを断って……申し訳ありませんでした!」

 メリッサが謝罪、それに続いてマックスも頭を下げる。

「いや、それは気にしてないよ」

「そうはいきません。知らなかったとは言え、恩人の貴方を試すようなマネをしてしまって、本当にお詫びのしようもありません」

「いやいや、ホントに気にしてないから。そもそも、悪いのは二人じゃなくて――」


「――クレアねぇだから」

「――弟くんだから」


 俺のセリフに被せるようにクレアねぇが言い放った。俺は思わずクレアねぇを見る。

「……なんで俺なんだよ?」

「だって、あたしはちゃんとこっちでもなんとかするって連絡を入れたし、グランシェス家の名前で依頼を出していたのよ? なのに、どうして弟くんは偽名を使ってるのよ?」

「え、だってそれは……目立ちたくなかったし」

 俺が答えた瞬間、クレアねぇはプラチナブロンドを掻き上げて大きなため息をついた。

「あのねぇ弟くん。気持ちは判るけど、ソフィアちゃんのためでしょ? 権力を有効活用しないでどうするのよ?」

「そ、それは、そう、なんだけど……パトリックが妨害してくる可能性もあったし」

「その程度、はねのけられるでしょ。弟くんが名乗ってさえいれば、こんなにややこしいことにはならなかったのよ? だから、今回は弟くんが悪い」

「ぐぅ……」

 正論すぎてぐうの音しか出ない。


「――と、とにかく、メリッサさんとマックスさんは悪くないってことだ」

 旗色が悪いので結論だけを口にして、原因を全力で誤魔化しにかかる。けどそれはバレバレだったようで、クレアねぇにはクスクスと笑われてしまう。

「……まあ、弟くんの言う通りよ。だから二人は気にしなくて良いわ。それより、取引を予定通り進めても良いかしら?」

 そっぽを向いた俺の代わりにクレアねぇが問いかける。

「もちろん大丈夫です。リュクスガルベアは町外れにあるギルドの建物で預かってもらっているので、直ぐにでも引き渡しが可能です」

「ギルドに確認済みだから、引き渡しはあとで結構よ。まずは報酬を渡しておくわね」

 そう言ってクレアねぇが、机の上に積んだのは金貨が――十枚。それをメリッサさんに手渡そうとする。寸前――俺はちょっと待ってくれと割って入った。


「……弟くん? どうかしたの?」

「その金貨十枚って、リュクスガルベアを生け捕りにした報酬だよな?」

「えぇ、そうよ。急ぎだから割高に設定したけど、なにか問題でもあったかしら?」

「設定した金額には問題ないよ。ただ――」

 俺はマックスとメリッサが、恩返しするのが目的だからと、金貨千枚でも譲ってくれなかったことを伝える。

「……金貨千枚って。それで断る方も凄いけど、とんでもない値段を提示したものね」

「そうか? 制服も似たような値段だったじゃないか」

「あれは、制服が異常だったって言ってるでしょうに。まぁ……言いたいことは判ったけど、どうするつもり?」

「そんなの、決まってるだろ」

 俺は笑って、再びメリッサとマックスの二人に向き直る。


「俺はさ。金貨千枚を提示して断られたとき、ハッキリ言ってショックだったんだ」

「え、あの……すみません」

 俺の言葉を聞いた瞬間、反射的にメリッサが謝罪を口にした。

「いや、怒ってる訳じゃないよ。あのときはショックだったけど、同時に感心もしてたんだ。だって恩人のために、金貨千枚を手に入れるチャンスを手放したんだからな」

 金貨千枚。二人で山分けにしたとしても、一生遊んで暮らせる金額だ。それを蹴って、恩返しを優先した。そしてその対象が俺だった。

 俺はその事実に感動すら覚えている。

 だから――


「リュクスガルベアの報酬で野暮は言わない。まずは約束通り金貨十枚を支払おう」

 俺はリオでもリオンでもなく、グランシェス伯爵として彼らと向き合った。

「それで十分です。私達は、貴方に恩を返したかっただけですから」

「俺の話はまだ終わってないぞ。二人は金貨千枚の報酬を蹴ってまで、グランシェス家への恩返しを優先してくれた。そのおかげで俺はソフィアを――家族を泣かさずにすむ。お前たちは俺の恩人だ」

「い、いえ、さっきも言いましたが、私達は貴方に恩返しをしただけですから」

「だとしても、お前たちが恩人であることに変わりはない。だから家族を救ってもらった礼に、俺がお前たちの願いを叶えよう」

「え、それは……」

 どういうことなのかと、二人が俺を見る。

 けれど一呼吸置いて、ある可能性に行き着いたのだろう。二人の瞳にもしかしてと期待するような色が浮かんだ。


「お前たちにも家族を返そう。ギャレットを初めとした全員を犯罪奴隷から解放する」

「父さんを、返して……頂けるのですか?」

 メリッサは目を見開いた。散り散りになった家族を買い戻すのが夢だと言っていたからな。口には出さなかったけど、本当はずっと願っていたのだろう。

「二言はない。ただし、グランシェス伯爵として受けた恩はそれで返したモノとする。そのあとは知らん。衣食住の用意はお前たちでなんとかしろ」

「それはもちろん、解放して頂けるだけで十分です。ありがとうございます!」

 メリッサが喜びのあまり、ぽろぽろと涙を流し始める。そしてその気持ちはマックスも同じだったのだろう。彼はひとしずくだけ涙をこぼした。


 ――だけど、横にいるクレアねぇがクスクスと笑っている。個室とは言え店内のざわめきは響いているので、マックスたちには聞こえないとは思うんだけど……

「クレアねぇ、いくらなんでも笑いすぎだ」

 俺は小声で苦情を入れた。

「だって、そのあとは知らん。お前たちでなんとかしろって。ふふっ」

「……それがなんだって言うんだよ? 実際、それ以上はなにもしないからな?」

「そうね。グランシェス伯爵としてはなにもしないのよね?」

「……別に、嘘は吐いてないだろ」

 グランシェス伯爵としては、犯罪奴隷を十数人に恩赦を与えるだけで十分に恩返しをしたと言えるだろう。だから、それ以上はなにもしない。

 だけど……リオとしても色々とお世話になったからな。そのお礼に、全員が住めるくらい大きな屋敷や働き口をプレゼントするくらいは……まあ常識の範疇だろう。たぶん。


「ふふっ。相変わらず甘いわね」

「……ダメか?」

 いくらリオとしての恩返しだと言い張っても、分かる人には分かってしまうだろう。グランシェス伯爵としての体裁が保てないと言われれば、反論の余地はない。

 そんな風に心配したのだけど、クレアねぇはそんな俺の不安を溶かすように、翡翠の瞳を柔らかく細めた。

「良いんじゃないかしら? だれかれ構わずって訳じゃないしね。少なくともあたしは、弟くんのそう言う優しいところが好きよ?」

「あ、ありがと」

 俺は恥ずかしくなってそっぽを向いた。クレアねぇのこういうストレートな愛情表現はいつになっても慣れない。

「ふふっ、弟くんってば、照れちゃって可愛いなぁ」

「むぅ……」

 悔しいなぁ。クレアねぇに子供扱いされることがますます増えてきた気がする。前世の人生を入れたら、俺の方が断然年上なんだぞ。

 ――って、今はそんなことを言ってる場合じゃないなと咳払いを一つ。俺はマックスたちと取引を再開した。

 

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