エピソード 3ー2 ガイドを求めて
「すみません、リオさん」
ガイドを連れてくると意気込んでいたサラちゃんが沈んだ様子で現れ、他には誰も伴っていない。つまりは、そう言うことなのだろう。
「ガイドは見つからなかったのか」
「実は……ダニエルさんが聞きつけたみたいで、リオさん達のAランクは嘘っぱちだって言いふらしてるんです」
誰だっけと思ったのは一瞬、最初にギルドを訪れた時、俺達に絡んできた柄の悪そうな冒険者のことを思いだした。
「それで、ガイドを名乗り出ていた人はみんな辞退してしまって」
「そう、か……」
本当にろくなことをしないな――って言いたいけど、俺達に実力が伴っていないのが事実なら、森で全滅するのがオチだからなぁ。
それを事前に阻止するのが悪とは言えない。俺達にとって迷惑なのも事実だけど。
こうなったら、自分がリオンだと名乗って――も、相手がミューレ学園の生徒でもなければ、別に強さの証明にならないか。
だとしたらいっそ、ダニエルに戦いを挑んで実力を証明するか?
……そうだな。成り行きで大人しくしていたけど、特に実力を隠したい理由が在る訳じゃないし、それが手っ取り早い気がする。
またアリスに王道イベントだよとか言われそうだけど……
「サラちゃん、そのダニエルは何処にいるんだ?」
「ダニエルさんなら、噂を広めた後どこかへ行ってしまいました」
「むむむ……」
こうなったら、ギルドにいる連中……は、そんなに強い人がいないんだっけ。
マックスとメリッサももう出かけた後だし……と言うか、自分の実力を証明するのに、関係ない人に喧嘩売るのはあれだな。
あ~もう、こんなことなら、初めてギルドに来たときにアリスの言う王道イベントをこなしておけば良かった。
「リオさん。実は私に一人心当たりがあるんです」
「心当たり?」
「ええ。以前は森の集落で生活をしていた女の子です。森には精通してますし、ガイドとしての実力も保証しますよ」
「その子には、俺達の噂が流れてないってことか?」
「いえ、噂は流れてる可能性があります。けど彼女は借金を抱えていて、しかも可愛がっている弟がいるので、前金を多く提示すれば絶対に断らないはずです」
「……それ、その子は死ぬ覚悟じゃないか……?」
私は帰ってこれないかもしれないけど、弟くんはこのお金で生きていくのよ――みたいなドラマが思い浮かぶ。……まぁ、身請けとかで似たような話は時々あるけど。
「確かに本人は死を覚悟するかもしれませんけどね」
そこで言葉を切ったサラちゃんは周囲を見回し、小声で「リオン様なら絶対に死なせないでしょ?」と付け加えた。
「そうだね。リオンなら、リュクスガルベアなんて敵じゃないよ」
「そうそう、リオンお兄ちゃんは、凄く頼りになるんだから」
誇らしげに答えたのは、精霊魔術のエキスパートであるアリスと、近接戦闘のエキスパートであるソフィア。キミらの方が俺より強いだろうに。
まあ実際、強くなった熊レベルなら、俺でもなんとかなると思うけどな。
「と言う訳で、ぜひその子を雇ってあげてください。リオさんは助かるし、その子も大金が入って大助かり。良いことずくめでしょ?」
「その子に実力があって、ガイドを引き受けてくれるって言うなら問題ないよ。でも、必要以上の金額を払って、その子を助けるとかはしないからな?」
「ええ。それで十分ですよ。さっきは死ぬ覚悟を――とか言いましたけど、その子は同じ村の出身で、私にとっては妹みたいな子なんです。だから、私の保証付きだって言えば、きっと納得してくれると思います」
「………え、妹分? と言うことは……十歳前後なのか?」
クレアねぇやソフィアだって、十歳の頃は十分にしっかりしてたから、幼すぎるのを理由に能力がないなんて思わないけど……体力的に大丈夫なのかと不安になる。
だけど、サラちゃんはそんな俺の問いに、クスリと笑って言い放った。
「私の一つ下だから、リオさんの一つ上。今年で十七歳ですよ」
「……………………………は? ちょ、ちょっと待って。サラちゃんの一つ下が十七歳って、サラちゃんは十八歳ってこと!?」
信じられないと問いかける。サラちゃんは斜に構えて人差し指を唇に押し当て「幼女カフェで働けなくなるから秘密ですよ?」と、悪戯っぽい微笑みを浮かべた。
……マジかよ。どう見ても十二、三歳だぞ。
二十代、三十代での五歳ならともかく、十代でそれだけ若く見えるのは凄まじい。ソフィアもかなり幼く見えるタイプだけど、サラちゃん……いや、サラさんはそれ以上だ。
「ちなみに、ソフィアは一目見たときから気が付いていたよ?」
「え、ホントに?」
「うんうん。だからサラさんって言ってたでしょ?」
「そう言えば……」
郷土料理の店をサラさんから聞いたとか言ってたな。なんで分かったんだろう……って思ったけど、よく考えたらソフィアも他の娘と比べて幼く見える。
同類だから分かった……のか?
もしかして、アリスも気付いていたのかと思って視線を向ける。けれど、アリスは首を横に振った。その代わり……
「ねぇリオン。サラちゃんが学園じゃなくて冒険者ギルドに配属されたのって……それが理由じゃない?」
「……………………あぁ、なるほど」
見た目がロリでも、年齢が十八歳のサラさんはクレインさんの対象外。つまりクレインさんは生粋のロリコンで、合法ロリには興味がないと。
謎は解けたけど……すっごいどうでも良い。
「それで、その子は何処に行けば会えるんだ?」
「その子がいるのは――」
サラさんが口にしたのは、聞き覚えのある名前だった。
――やって来たのは、昼にも来たばかりの郷土料理のお店の前。サラさんが推薦してくれたのは、このお店の看板娘。レミーだったのだ。
そんな訳で俺達は店に入ろうとする。だけどその出入り口からダニエルが姿を現した。
「……やっぱりここに来たか。先回りして正解だったな」
「お前は……もしかして、レミーに俺のことを話したのか?」
「お前がどうなろうと知ったこっちゃないがな。金持ちの勝手な都合に振り回されて、誰かが死ぬのは許せねぇんだよ」
「そう、か……」
俺を嫌ってるのも事実なんだろうけど、ガイドを心配しているのも事実なんだろう。彫りの深い顔には哀愁が浮かんでいる。
もしかしたら、このおっさんもどっかの村の生き残りなのかもしれない。もしそうなら、富裕層を嫌うのもリックと同種の理由だろう。
……まあ、今の俺には関係のない話だし、詮索してる場合じゃない。ギルドでなら実力を見せる相手になってもらったところだけど……ここじゃ意味がない。
そう思って、話を打ち切って店に入ろうとする。だけどすれ違いざま、ダニエルに引き留められた。
「おい、まだレミーにちょっかいをかけようって言うのか? もし強引に連れていくつもりなら、こっちにも考えがあるぞ?」
「心配しなくても、普通に依頼をするだけだ。例え断られても、強引に連れていくつもりはないから安心しろ」
ダニエルの顔を真っ直ぐに見据えて答える。
「……ふん。良いだろう。だが、もしその約束を違えたら覚悟しておけ」
「ああ、覚えておくよ」
ダニエルは俺の返事を聞くと、踵を返して立ち去っていった。それを見届け、さぁレミーをガイドに雇うぞと意気込んで店の中に、
「――姉ちゃんは連れて行かせないからな!」
入った瞬間、待ち構えていたリックが殴りかかってきた。
……またかよ。
 
この話を書いていた頃、ちょうど感想でロリババアの話が出てて、その思いつきでサラは合法ロリになりました。と言う訳で、感想なんかでの話題も時々取り入れさせて頂いてます。
必ず反映できるわけではありませんが、なにかあればお気軽に。
まあ……今から書く分に反映したとしても、アップされるのは来年ですが(ぉぃ
 






