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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第四章 過去の想い

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エピソード 3ー1 競合する依頼

 世界樹は校舎裏に植えられており、地竜の爪はクレインさんが所有している。なので一番の不安は、突然変異でしか生まれないリュクスガルベアが存在しない可能性だった。

 だから目撃された以上、最大の問題はクリアされたと言えるはずだ。それなのに、アリスはキモが手に入らないかもしれないという。

 理由が気になったのだけど、時間がないので説明はギルドへ向かいながらとのこと。なので俺達は会計を終えて大急ぎでギルドへ向かうことにした。


「それで、なにをそんなに急いでるんだ? リュクスガルベアが発見されたって言っても、まだ狩られた訳じゃないんだろ?」

 小走りにギルドへと向かう道中。俺はアリスに問いかけた。

「狩られてからじゃ遅いかもしれないの」

「それは……まさか?」

「そうだよ。私達の他にもリュクスガルベアの依頼を出してる人がいるみたいなの。それも討伐じゃなくて、生け捕りでね」

「生け捕り……」

 なるほど、アリスが慌てる訳だ。

 毛皮を買い取るなどの依頼なら、キモを譲って貰うことは可能だし、例え同じキモを欲してるのだとしても、必要な分だけ譲って貰えば問題はない。

 けど、競合相手の依頼は生け捕り。なんらかの理由で生かしておくつもりなら、キモは手に入らない。


「ねぇアリスお姉ちゃん。冒険者の人達は、どっちの依頼を受けるつもりなの? ソフィア達の依頼は受けてくれないの?」

「ごめん、ソフィアちゃん。私も詳しい話は分からないの。ただ、あんまり旗色は良くないみたいなんだよね」

「そう、なんだ……」

 隣を走っていたソフィアが不安げな表情を浮かべる。だから俺は走りながら、ソフィアの肩をポンと叩いた。

「心配するな。相手方の条件が良ければ、こっちの条件を良くすれば良いだけだろ。とにかく、急いで冒険者ギルドに向かおう」


 そうしてやって来た冒険者ギルド。受付で手持ちぶさたにしていたサラちゃんを見つけ、俺達は三人揃って駆けよった。

「あっ、リオさん。伝言は聞いてくれましたか? 森でリュクスガルベアが目撃されたそうですよ」

「うん。そのことでちょっと聞かせて欲しいんだ。なんか、俺達の依頼と競合してるって聞いたんだけど、本当なのか?」

「ええっと……そう、らしいです」

「……らしい?」

 ギルドの受付嬢らしからぬ返答に首をかしげる。


「そういった依頼があるのは確認しているんですが、ギルドを通した依頼じゃないみたいで、詳細は掴めていないんです」

「それは……ええっと、非合法ってことなのか?」

「いえ、別にギルドを通す決まりはありませんから、違法性はありません。ただ、うちが把握出来ていないと言うだけの話ですから」

「そっかぁ……」

 まあ考えてみれば当然か。ギルドが出来たのは最近で、それまではギルドを通さないのが普通だったからな。


「ちなみに、その依頼を受けたのは何グループくらいなんだ?」

「私が聞いているのは二グループです」

「なら、他の冒険者が狩った場合は、キモを売りに来てくれそうな感じか?」

「そう、ですね。もし狩ることが出来れば、ですが」

「……どういう意味だ?」

 サラちゃんのセリフに含みがあるのを感じて追求する


「ガルベアを狩れるような冒険者は多くないんです。ましてやその上位種となれば、狩れそうなのは冒険者ランクBのメンバーが在籍してる二グループだけ。その二グループが、生け捕りの依頼を受けているようなので……」

「なるほど。二グループ‘だけ’じゃなくて、二グループ‘とも’生け捕りの依頼を受けてるってことか。そうなると……このままだと絶対にキモは手に入らない?」

「報酬に釣られたCランクのメンバーが手を組んで、狩りに向かうところもあるようですが、あまり期待は出来ないと思います」

「そう、か……」

 まいったな。生け捕りの依頼を受けてる冒険者と交渉したいところだけど……誰が引き受けているのかはおろか、依頼人も、依頼内容も不明だもんなぁ。

 はてさて、どうしたものか……

「あの、リオさん? もし必要なら、依頼を受けた冒険者に取り次ぎましょうか?」

「え、それは助かるけど……良いのか?」

「はい。本人達に確認してからですが、たぶん大丈夫だと思いますよ。確認してくるので、ちょっとだけ待ってて下さいね」

 そう言ってサラちゃんはパタパタと走り去って行き――数分とせず戻ってきた。


「――お待たせしました。今は食事中ですが、それが終わったら森に出かけるそうです。なので、食事中のあいだで良ければ、話を聞いてくれるそうです」

「分かった。それで十分だよ」

「それじゃこっちです。お席まで案内しますね」

 そんな訳で、連れられてきたのは幼女カフェの片隅。四人がけの丸テーブルを陣取って食事をするのは、見覚えのある二人だった。

 名前は確か……マックスとメリッサ。絡まれていた俺達を助けてくれた冒険者だ。


「あら、誰かと思えば貴方たちは、このあいだの……」

「俺はリオと言います。それから、こっちはソフィアとアリスです。先日は助けて頂きありがとうございました」

 俺はぺこりと頭を下げる。それと同時、アリスとソフィアも一緒に頭を下げた。

「リオくんに、ソフィアちゃん。それにアリスさんね。私はメリッサ。でもって、こっちは私の相方のマックスよ」

「メリッサさんにマックスさんですね。食事中に申し訳ありません。少し尋ねたいことがあるんですが、構いませんか?」

「構わないわよ。その堅苦しい口調を止めてくれるのならね。じゃないと、肩が凝ってしょうがないわ」

「うぅん。じゃあ……そうさせてもらうよ」

 迷ったのは一瞬。俺も堅苦しいのは嫌いなのでお言葉に甘えることにする。

 そして甘えついでに、俺は二人の座っているテーブルに。席が足りないので、アリスとソフィアには隣の席に座ってもらう。


「うんうん。素直な子は好きよ。それで、私達に話ってなにかしら? なんか、リュクスガルベアの依頼についてだって聞いたけど」

「俺達はリュクスガルベアのキモを求めているんだ。それで、あんた達の受けている依頼が、リュクスガルベアの生け捕りだって聞いたからさ」

「あぁ、キモの依頼を出してたのは貴方たちだったのね。それじゃ用件は、生け捕りをされたら困るって話かしら?」

 少し意地の悪い問いかけ。だけど、ここで取り繕っても無駄だろうと思って「端的に言えばその通りだよ」と頷いた。


「ふぅん? それで、どうするつもりなのかしら?」

「出来れば、依頼人の名前を教えて貰えれば助かるんだけど……」

「それは無理ね。少なくとも、私達が勝手に話せる内容じゃないわね」

「パトリック・ロードウェルという名前に聞き覚えは?」

「……さぁ、聞いたことのない名前ね」

 パトリックの妨害という可能性を考慮して聞いてみたのだけど……ポーカーフェースで分からないな。まあ……さすがにないと思うんだけどな。

 取り敢えず、あまり探りを入れて心証を悪くするのもまずい。ってな訳で、俺は本題を開始する。


「なら、うちの依頼を受けてくれないか? 報酬は弾ませてもらうぞ?」

「うぅん……私達は依頼人と契約してる訳じゃないからね。別に貴方たちの依頼を受けることに問題はないわ」

「じゃあ……?」

 受けてくれるのかと視線で問いかけたのだけど、メリッサさんは首を横に振った。

「悪いけど、お断りするわ。私達が依頼を受けたのは、報酬が目当てじゃないから」

「……報酬が目当てじゃない?」

「言い過ぎたわね。報酬も期待してないって言えば嘘になるわ。お金がなくちゃ生きていけないし、私達は散り散りになった家族を買い戻すって夢もあるから」

 身請けでもされたんだろうか? なんて思ったけど、興味本位で立ち入る話じゃないと思って聞き流す。


「いつもなら割の良い仕事を選ぶところなんだけど……今回は特別なのよ」

「それは、報酬以外に受けようと思った理由があるってことだよな?」

「そう言うこと。依頼人が私達の父親を救ってくれた恩人なのよ。だから私達は、その人の依頼を果たしたいと思ってるって訳」

「なるほど……」

 これまた厄介な――と、俺は密かにため息をつく。お金で解決出来るのなら、そうするつもりだったんだけど……これは厳しそうかなぁ。

 なんて考えているうちに、二人は昼食を食べ終えてしまった。

「さて、話はこれまでね」

 メリッサさんはそう言って、話は終わりだと立ち上がる。けれど、マックスさんは立ち上がらずに俺を見た。


「一応忠告しておくが、このままだとキモは手に入らないと思うぞ?」

「そう、らしいな。サラちゃんにもそう言われたよ」

「ふむ。なら諦めるのか?」

「いいや。他人があてに出来ないのなら、自分達でなんとかするつもりだよ」

「……へぇ? まさか、自分達でリュクスガルベアを狩ろうって言うのか?」

「おかしいか?」

「……いや。サラがAランクにしようとしてた話は聞いているからな。だとしたら、あんたは俺達より強いってことだ」

「彼女の評価を信じるのか?」

「まぁ、な。あんたは細身だが良く鍛えている。見かけどおりじゃないことくらいは分かるさ。だから森にいくって言うなら止めないが……ガイドは連れて行った方が良い」

「……ガイド? それなら――」

 うちには森に住んでたエルフがいるんだけどとアリスを見る。

「そのエルフがガルベアの生息地を理解しているのなら必要はないな。だが、見たところよそから来たんだろう? なら、ガイドは連れていた方が良い」

 ……なるほどね。東に広がる森は深く広大らしいからな。土地勘もない状態で一体のリュクスガルベアを闇雲に探してたら、何週間かかってもおかしくはない、か。


「ちなみに、ガイドは何処で雇えるんだ?」

「詳しくはサラに聞け。俺達も、そこまでお人好しじゃないぞ」

「おっと、そうだよな。申し訳ない」

 俺達が狩りに行くなら、この二人にとっては商売敵だもんな。逆に、ここまで親切にして貰って、なんだか申し訳ない。

「色々ありがとう。助かったよ」

「いや、気にするな。それじゃあな」

 今度こそマックスは立ち上がり、メリッサと一緒に立ち去っていった。それを見送り、俺達は再び受付へと舞い戻った。



「お帰りなさい、リオさん。交渉はどうでしたか?」

「残念ながら上手くいかなかった。このままじゃ、キモは手に入らなさそうだ。だから、自分達で狩りに行くことにしたよ」

「――そうですかっ! やっぱり、この街でも伝説を作るんですね!」

「いやいや、そんなモノは作らないぞ?」

 だからアリス「やったね。王道イベントだよ」とか呟くのは止めろ。

 ソフィアが不安がってるのに、可哀想だろ……と思ったけど、ソフィアも「リオンお兄ちゃんの伝説……えへへ」とか呟いている。

 そりゃ、俺だってこの競争に負けるつもりはないけど……俺達は狩りの専門家でもなんでもない。期待しすぎじゃないですかね。


「それじゃ早速、冒険者として登録いたしますね」

「いやだから、伝説を作る訳じゃないし、自分達でリュクスガルベアを狩りに行くだけだから、冒険者に登録するつもりはないって」

 別にギルドを通さなくても良いんだろと、急いでるのを理由に断ろうとする。だけどサラちゃんはふざけてる風ではなく、真面目な口調で登録するべきですと繰り返した。


「リオさん達の実力は知ってます。でも東に広がる森は広大なんです。リュクスガルベアを探すとなれば、ガイドは必須ですよ」

「ああ、ガイドの話は聞いたけど……冒険者に登録するのと関係あるのか?」

「普通のガイドに戦闘力はありませんから。まともなガイドなら、実力の伴わない人に雇われてはくれないと思います」

「あぁ、そう言うことね」

 ガルベア――つまり普通より凶暴な熊が生息する森みたいだからな。案内しました、皆殺しになりましたじゃシャレにならない。冒険者ランクなどで実力を保証しないと、ガイドは引き受けてくれないと言う意味だろう。


「なら悪いけど、冒険者登録をしてくれるか?」

「分かりました。ではリオというお名前で、ランクはAランクで登録しますね」

「……前も思ったんだけど、勝手にそんなことして良いのか?」

「本来は実績で決めるモノですから、勝手に決めることは出来ません。でも、リオさんは確実にAランクの基準を満たしていますから問題ありませんよ」

「……その基準ってなんなんだ?」

 俺が問いかけると、サラちゃんは周囲をキョロキョロ。カウンターから身を乗り出し、囁くように話し掛けてきた。


「ギルドの方針を決めたのはグランシェス家なんですよ? ご存じないんですか?」

「いや、それは知ってるけど……」

 なにしろギルド設立を提案したのは俺とアリス。そこにクレアねぇが加わって、細かいルールを設定した。ギルドのルールは俺達が作ったと言って差し支えないだろう。

 けど、ランクに関しては、強さに応じてとしか決めていないはずだ。

「ランク分けをする際、目安を設定したんです。そしてAランクの目安は、リオン・グランシェス様に匹敵するくらいの実力を持っていること、です」

「…………………はい?」

「ですから、リオン様に匹敵する強さの方ならAランクという基準なんです」

「……なるほど」


 森での襲撃事件で正体がばれてから卒業までの半年と少し。戦闘訓練が授業に含まれたりと、実力を見せるような出来事がいくつかあったからな。

 俺がどれくらいの実力かは知られててもおかしくないんだけど……まさか冒険者ランクの基準にされてるとは思わなかったぞ。

 どうりで、いきなりAランクだとか言われる訳だ。

「実際は様々な能力を加味して考えることになっていますけどね」

「冒険者の強さは戦闘力だけじゃないってことか。ちなみに、後ろの二人の場合はどうなるんだ?」

 俺は背後に控えているアリスとソフィアを指し示す。

「ええっと……Aランク以上は、規定されていないんですが……」

 つまりランク外、と。まあ想像はしてたけど、やっぱり俺より高評価なのな。


「それでは、ただちに発行手続きに入りますね。それと、大急ぎでガイドを募集しておきます。緊急と言うことで、少し金額が高くなりますけど、構いませんよね?」

「ああ。もちろんだ。お金は気にしなくて良いから、出来るだけ早くしてくれ」

「分かりました。三十分もかからずガイドが殺到するくらいの金額にしておきます。早速、手続きを開始しますね」

 サラちゃんは言うが早いか、テキパキと同時に処理をしていく。そして俺の冒険者としての身分証はつつがなく発行された。


 ――だけど、幼女カフェの個室で待つこと小一時間。俺達の現れたのは、申し訳なさげに下を向く、サラちゃん一人だけだった。

 

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