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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第四章 過去の想い

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エピソード 2ー3 聖地

 病に冒されたエリーゼさんを救うために必要な素材は三つ。そのうち、地竜の爪と世界樹の葉は所在が分かっている。

 なので優先して取りかからなきゃいけないのは、リュクスガルベアの捜索。

 ――という訳で、視察を兼ねて冒険者ギルドに顔を出すことに。ギルドは町外れにあるそうなので、俺達三人は徒歩で向かうことにした。


 クレインさんの住むヴェスタの街は数年前と比べてかなり発展している。その街並みはミューレの街と比べても遜色がない。

 とは言え、それは区画整理の終わった部分だけ。メインストリートを外れると、石を積み上げた建築物などなど、この世界本来の建築技術による建物が並んでいる。


「ねぇリオンお兄ちゃん。ありがとね」

 ギルドへと続く旧市街を歩いていると、ソフィアが俺の腕に抱きついてきた。俺を見上げる深紅の瞳が、嬉しそうに細められている。

「急にお礼なんて、どうしたんだ?」

「お薬を作る材料集めのことだよ。リオンお兄ちゃんは、お母さんのために。ソフィアのために頑張ってくれてるでしょ。だから、ありがとね」

「なんだ、そのことか。気にする必要なんてないぞ」

「うん。だから、ごめんなさいじゃないよ?」

「……そっか。そう言えばそうだな。それじゃ……どういたしまして、だ」

 数年前、グランシェス家にパトリックが押しかけてきた時は、『ソフィアのせいで迷惑掛けてごめんね』だった。

 だけど今、ソフィアは頑張ってくれてありがとうって言った。それがなんだかソフィアとの距離がつまってるような気がして嬉しくなる。


「……リオンお兄ちゃん?」

「なんでもないよ。あと、心読むのもダメだからな?」

 先手を打って恩恵を封じる。ソフィアは少し不満気に頬を膨らませた。だけどそれはほんの一瞬だけ。「リオンお兄ちゃんがそう言うのなら」と微笑んだ。

「随分とあっさり引き下がるんだな?」

「恩恵は意識して使わなくても、相手の感情は勝手に読めちゃうから。お兄ちゃんの優しい気持ちに触れたら、わざわざ心を読まなくても大丈夫だって判るもの」

「そ、そっか……」

 面と向かって言われるとちょっと恥ずかしい。と言うか、ソフィアはまだまだ子供だって思ってたけど、大人びた表情もするようになってきたんだなぁ。


「ねぇリオンお兄ちゃん、冒険者ギルドって、素材集めの依頼とかも出来るんだよね? それじゃ、リュクスガルベアのキモも手に入れて貰えるかなぁ?」

「大丈夫だと思うよ。もちろん、直ぐにって訳にはいかないと思うけどな」

 とは言ったモノの、不安要素はいくつもあるんだけど……ソフィアを不安がらせたくないから口には出さない。感情で、なんとなく判っちゃうかもだけどな。


「――ところで、アリスはさっきからどうしたんだ?」

 俺は話を変えようと、ソフィアの向こう側を歩いていたアリスに問いかける。

「え?」

「いや、え? じゃなくて。なんかやたらと浮かれてないか?」

 足取りが軽いというか、なにやらさっきから鼻歌が聞こえている。

「だって冒険者ギルドだよ、冒険者ギルド。冒険者ギルドと言えば、先輩の冒険者に絡まれたりとか、ランクが一気に上がったりとか、お約束が一杯じゃない!」

「……なにを浮かれてるかと思えば。俺達は冒険者になるんじゃなくて、依頼と視察に行くんだぞ? そんなお約束が起こる訳ないだろ」

 俺がそう言った瞬間、アリスは整った顔を絶望に歪めた。なにやらエルフ耳が、がっかりしたように垂れ下がっている。

 なんだろうな、この過剰反応は。他人視点で見たら面白いかもしれないけど、絡まれる当事者としては、めんどくさいだけだろうに。


「ね、ねぇリオン? ついでに冒険者に登録したりしない?」

「どれだけ絡まれたいんだよ?」

「だって、女の子にとって憧れのイベントだよ?」

「……はぁ?」

 まるで意味が判らない。

 先輩冒険者に絡まれて、アリスが精霊魔術で蹂躙する。ストレスは発散出来るかもしれないけど……それの何処に女の子の憧れ要素があるんだ?


「例えば――可愛い女の子を二人も侍らせて生意気なんだよ! なんて感じで絡まれるでしょ? そうしたらリオンは、かよわい私やソフィアちゃんのために戦うじゃない?」

「……かよわいか?」

「――かよわいよ?」

 笑顔で聞き返されてしまった。クリスタルガラスのように透明な微笑みによるプレッシャーが凄いんだけど……かよわいかなぁ。

 そもそも精霊魔術のエキスパートと、恩恵を使った近接戦闘のエキスパートだし、可愛くても、かよわくはないと思うなぁ。


 とまぁ、そんなやりとりをしているうちに冒険者ギルドの前についた。

 ギルドの施設は最近建てられたのだろう。石造りの古い区画の中に、一件だけ異質な建物がたたずんでいる。

 俺達はまずギルドの建物の中に。大きなフロアの入り口で周囲を見回す。ギルドが結成されてから間もないはずだけど、フロアはかなりの人で賑わっていた。

 ただ、冒険者風の人々だけじゃなくて、何故か普通の町人っぽい人も多い。


「いや~、今日も受付のサラちゃんは可愛かったなぁ」

「俺、もうロリコンで良いかも」

「おいおい。気持ちは判るが、幼女は観賞するだけでノータッチだぞ? ダニエルみたいに言いよったりして迷惑を掛けるなよ?」

「分かってるって。俺をダニエルと一緒にするなって」

 俺達の横を通り過ぎた冒険者風の男達の会話が聞こえてくる。なんか会話の内容がおかしい気がするけど……取り敢えずはスルーだ。

 まずは受付に向かおう。いや、サラちゃんという幼女が気になるわけじゃなく、一般的な行動を考えた結果だ。

 と言う訳で、店の奥のカウンターに行く。誰もいないなと思ったら、奥の部屋から十二、三くらいの少女がパタパタと走ってきた。

「お待たせしましたっ。冒険者ギルド――ヴェスタ本店へようこそ。お客様は初めてのご来店ですかあああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 受付の幼女は俺を指差して大声を上げる。ざわめいていたフロアが静まりかえり、皆の視線が一斉に俺達に集まった。


「あ、あっ、貴方はもしや」

「しーっ! しーっ!」

 理由は不明だけど、リオンだとバレている。それに気付いた俺は、慌てて黙っていてくれとジェスチャーを送る。

「……し、失礼致しました。ええっと……お名前はリオさんでよろしいでしょうか?」

 ん? リオって偽名を知ってるってコトは、俺が学生をしてた時の生徒か? あぁ、そう言えばクレインさんのところから来た生徒の一人がこんな子だったな。

 確か名前は……あぁそうだ。

「サラちゃん?」

「はい。名前を覚えて頂けてるなんて光栄ですっ!」

 たまたまと言うか、さっき通りすがりの冒険者が名前を出してたから思いだしたんだけど……まあ喜んでるみたいなので黙っておこう。


「それでリオさん、本日は冒険者ギルドにどういったご用でしょう?」

「ああ、実は――」

 リュクスガルベアのキモが欲しいから依頼したいと続けようとしたんだけど、なにやらハイテンションのサラちゃんは、俺のセリフに被せるように口を開いた。

「――すみません。確認するまでもありませんね。今度は冒険者として無双なさるんですね。それではまず、ギルドメンバーになるための規約なんかを説明させて頂きますね」

「いや、ちょっと待ってくれ。そんな説明が欲しいんじゃなくて」

「あっ、ごめんなさい! リオさんに規約の説明なんて要りませんよね。それでは登録に移りますが、最初は見習いのEランクからとなります」

「いやいや、だから、俺はそもそも――」

「――あっ、判りました。見習い期間もスキップしておきますね。それじゃ、現在の最高ランクであるAランクでよろしいでしょうか?」

 だあああああ、この子、人の話をまったく聞かないタイプだっ! 早く誤解を解かないと、めんどくさいことに――


「おいおい、サラよぉ。こんなひよわそうなガキがAランクとか、冗談は程々にしろよ」

 遅かったぁぁぁあぁっ!

 面倒なことになったとため息を一つ。「お約束イベント来たよーっ!」とか喜んでいるアリスの脇腹をつねっておく。

 そうして仕方なく背後を振り返ると、柄の悪そうな中年のおっさんがたたずんでいた。


「おい、そこのガキ。何処の金持ちのぼんぼんか知らんが、冒険者ランクって言うのは、実力で手に入れるモノだ。金で買う物じゃねぇぜ」

「思いっ切り誤解なんだけど」

 一応弁解を試みる。だけどおっさんは鼻で笑うことで答えた。

「口ではなんとでも言えるわな。だがな。冒険者ランクは、依頼をする側の目安なんだ。不正をしてランクを手に入れても、依頼者とお前、お互いが不幸になるだけだぜ」

 あ、れ……この人。見た目はいかにも柄の悪そうなおっさんなのに、なんだかまともなことを言ってるぞ?

 もしかした柄が悪いのは見た目だけで、中身はまともな冒険者――


「だからサラ、お前もいくら貰ったか知らんが不正なんてしてるんじゃねぇよ」

「失礼ですね。不正なんてしてませんよっ」

「はっ、良く言うぜ。お前がこのガキをAランクにしようとしてたのは事実だろうが。ギルマスにバラされたくなったら今夜は俺と付き合いな」


 ――ゲスなロリコンだったああああああぁぁぁぁあぁっ!?

 なんなの? なんでこんなにロリコンが多いんだよ。グランプ侯爵領はロリコンの聖地かなんかなのか?

 なんて考えてる間にも、二人の言い争いは続いている。


「いい加減にしてください。リオさんはちゃんとAランクにふさわしい実力の持ち主なんですから!」

「ほう? だったら、このガキがBランクの俺に負けるはずがないよな?」

「当然です。リオさんなら、ダニエルさんなんてぎったんぎったんにしてくれるに決まってます!」

 ヒートアップするサラちゃん。それを見て、ダニエルと呼ばれたおっさんがにやりと嫌らしい笑みを浮かべる。


「言ったな? なら、このガキが俺と勝負して負けたら、俺と一晩付き合って貰うぜ?」

「ちょっとっ、どうして私がそんな賭けをしなくちゃいけないんですか!?」

「はっ、なんだ? このガキが勝てないって思ってるのか? やっぱり不正をしてるんじゃねぇか?」

「そんな訳ありません。良いでしょう! その勝負受けます! その代わり貴方が負けたら、今後一切に私に言いよらないで下さいよ!」

 ……なんか、勝手に話が進んでるんだけど。と言うか、思いっ切りダニエルさんとやらに乗せられてるっぽいけど、この子は大丈夫なんだろうか?


「あのさ、サラちゃん? 俺がここに来たのは目的があるからで、問題を起こすつもりはないんだけど?」

「大丈夫、リオさんは絡まれた側の被害者です。ダニエルさんがどんな目に遭おうと、リオさんには非がないとギルドが保証します。やっちゃってください!」

「非がないと保証するなら止めろよ!?」

「実はダニエルさんのセクハラには困ってたんです。なので、この機会を上手く利用しようと思いまして。てへっ」

「しかも意外としたたかだ!?」


 ……むぅ。幼女にセクハラするロリコンとか、クレインさんにちくれば、一発で闇に葬れそうな気がするんだけど……この場を乗り切らないことには意味がないからなぁ。

 参ったなぁ。これから冒険者に依頼する身としては、よけいなところで問題を起こしたくないんだけど……ギルドが止めてくれないなら、自分でなんとかするしかないか?

 そんな風に諦め掛けたその時――

「そこまでだっ」

「貴方達、いい加減にしなさい!」

 俺を救うお約束っぽい声が聞こえた。そしてそれと同時、アリスのがっかりするようなため息が聞こえたのは……気のせいにしておこう。

 

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