転入生
投稿時間とかは決めてません。一日一本は出せるかな?まったりいきます。
2年E組……東側校舎の3階、正面玄関からもっとも遠い場所。
教壇から見て、一番後方の窓際。一生席替えなど起きるなと呪いに近い願をかけているお気に入りの場所。
その席に腰かけて私は朝のホームルームを受けている。
朝の出来事、夢かうつつかまぼろしか――なにかの宣伝に使えそうな文言が、浮かんで消えて……また、浮かんで……。
私は立ったまま寝ていたのかもしれないし、そもそも、教室にいる事そのものが、夢なのかもしれない。
ためしに頬を思いきりつねる――痛い……まぁ、当然か。
「みなさんにお報せがあります」
望月巌先生。あだ名はバーコード。
今年50歳になる、勤勉そうな雰囲気のおじさまが、私のクラスの担任だ。
「今日は、このクラスに転入生が来ます。みなさん、仲良くするように」
先生はそう仰られると、メガネをくいと左手で持ち上げる。話すときのいつもの癖だ。
「佐藤君入りなさい」
先生が、教室の引き戸に向かって声をかける。それを合図に戸が横に開かれた。
「あっ!」
思わず叫んで立ち上がってしまった私に、周囲の視線が集まってくる。
「相合谷君、知り合いかね?」
「いえ……」
私はそう言って、再び席に腰かける。
見間違いようもない、あの顔。朝の出来事が、頭の中で3周り半した所で、佐藤と呼ばれたあいつが口を開いた。
「三輪健二です。読書と釣りが趣味です」
「自己紹介にあった通り、転入生の三輪君だ」
ん?佐藤君って言ったよね。私の耳が節穴なのか、周りがどうにかしたのか。
「三輪君の席は……一番後ろの窓際になる」
「はい、先生」
クラスの人間の好奇な視線に晒されながら、佐藤もとい三輪君がこっちに歩いてくる。
それにしても、一番後ろの窓際って……なんて、ラッキーな男。出来れば変わってほしい……って。
一番後ろの窓際って……私が座ってるここじゃないか!
あわてて後ろを振り向いて、私はありえないものを目にした。
――机が、椅子が床から生えた――
いやいや、そんなバカな。ひとりでボケてツッ込んでたら、いつの間にか佐藤もどきが傍まで来てた。
「やぁ、朝いらいだね相合谷さん」
「で、今度はなんの冗談よ、佐藤もどき君」
「君は。また怒ってるのかい?」
なんだ、その困ったような顔は。
「で、あなたの名前は佐藤なの?三輪なの?どっち?」
「今朝の賭けの事おぼえてる?」
こいつ……名乗る気ないな。
「……おぼえてる」
「そう……それはよかった」
なにがいいんだか。わたしのヤキモキした気持などお構いなく、時間は無情に過ぎていく。
「学校を案内してよ」
「いやよ」
お昼を告げるチャイムと同時に、佐藤目科三輪もどきが、いきなりそう告げてきた。
「即答だね。そんなにも、僕の事が気に入らない?」
「気に入らないというか、意味が分かんない」
「そう……」
三輪もどきはそう言うと、ゆっくり席を立ち教壇へと歩いていく。
「やがて、黒板の前まで行くとチョークで黒板に字を書いた。
――三輪 健二――
黒板に真っ直ぐ縦書きすると、それを背中で覆い隠してしまう。
「じゃあ、僕と賭けをしよう」
また、この展開か。その手には乗るか。
――なになに、なにしてるの?
クラスメイトが集まってくる。
「いやよ、賭けはしないわ」
「君が勝ったら、僕は名乗る。僕が勝てば、君は僕を案内しなければならない」
こいつ……わたしの話しを聞いてないな。
「僕の名前は『三輪 健二』かどうか?」
「賭けはしない!あなたの名前が、なんだろうがわたしには関係ない」
教室から出よう。なんで私がこんなやつの相手をしなきゃならないんだ。
「ねぇ、相合谷君て、相合谷さんと知り合いっぽいけど、親戚か何かなの?」
教室の戸に手を掛けてた私の耳に、聞き捨てならぬ言葉がはいってきた。
「なっ……」
驚いて振り返った私の目に飛び込んだのは、先ほど佐藤三輪もどきが書いた黒板の字だった。
――相合谷 敦司――
よりにもよって……こいつは……。
クラスメイトが不思議そうに顔を傾げる中で、相合谷 敦司は不敵な笑みを浮かべるのだった。
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
学生時代なんて、20年も昔の事なので、結構いい加減に書いてます。
なので、きつい批判はご容赦ください。